とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第20話 真実と選択

 

「…命より大事な!ぴぎゃ!?」

 

「よっ!っと…」

 

 

突然の座標移動にまたも尻餅をつく初春。彼女とは対照的に、同じく結標の座標移動で移動させられた土御門はスマートに両足で着地する

 

 

「あいたたた…」

 

「なんだ結標のやつ、わざわざ俺たちの車に飛ばしたのか」

 

 

2人が結標によって移動させられた場所は、彼女なりに気を使ったのか彼女と土御門と他2人によって構成される「グループ」が使っていた運び屋の車だった

 

 

「・・・さて、初春飾利」

 

「!!!だ、ダメです!このデータは絶対に誰にも渡しません!」

 

 

土御門が話題を切り出す前に、彼が何を言い出すのか察知した初春は彼が求めるデータのUSBを渡すまいとUSBを入れているポケットを両手で塞ぐ

 

 

「なに、わざわざ渡してくれる必要はない」

 

「・・・えっ?」

 

 

土御門の予想外の返答に初春は思わず素っ頓狂な声を出す

 

 

「さっきは回収すると結標には言ってたが、あれは嘘だ」

 

「な、なんだ…そうだったんですね…」

 

 

彼の言葉にほっと一息ついて胸を撫で下ろす初春

 

 

「だが、ここから先は2人だけの密会だ」

 

「・・・えっ?」

 

 

急に土御門の纏う空気の質が変わる。そして初春はまるで万華鏡のように移り変わる彼の巧みな言葉使いについて行けず、その言葉の真意を読み取ることが出来なかった

 

 

「結標とは顔見知りだったようだが、俺とはまだ初対面だろ?まずは自己紹介をしておこう初春。俺の名は土御門元春。暗部組織『グループ』の正規構成員だ」

 

「・・・『グループ』?」

 

「まぁ、お前が所属している風紀委員会を縮小化しまくった組織とでも思っておいてくれ」

 

「・・・その土御門さんが私に一体なんの用ですか?もう私が持っているデータに用はないんですよね?」

 

土御門の纏う空気に合わせ初春も真剣な面持ちになって土御門に接する

 

「いーや?渡さなくていいとは言ったが『用がない』とは言ってない」

 

「えっ?」

 

「俺が用があるのはお前が持つデータはもちろん、その他にもう1つある」

 

「・・・そのもう1つはなんですか?」

 

「・・・お前の身体さ」

 

「!?い、いや…!」

 

 

土御門の解答の意味を瞬時に理解すると、初春は自分の身体を守るため身体の前で腕を交錯させそれぞれの腕とは反対の腕を掴み、自分の身を守る姿勢を取り車の壁の方へ後ずさる

 

 

「へっへっへ、大人しくしてもらおうか…」

 

「い、いや…!やめて…下さい…」

 

「ガオオオオオオオオーー!!」

 

「きゃああああああああああああああああああああ!!!」

 

「ま、冗談はこの辺にしといて」

 

「・・・へ?」

 

「さっきの結標の話を聞いてなかったのか?生憎、俺は自分の妹以外の身体には興味がなくてにゃ〜。お前に襲いかかろうなんて思ってもないにゃ」

 

「ひ、ひどいです!セクハラ!痴漢!外道!強姦魔!変態!風紀委員として身柄を拘束します!!」

 

「変態で結構、自覚はある。って言うか今身柄を拘束されてるのはどっちかって言うとお前の方だ」

 

「そ、そうですよ!私の身体に興味がないなら私の身体に用があるって何なんですか!?」

 

「俺たちグループは、お前のその情報処理技術を借りたい」

 

「・・・情報処理技術?」

 

「ああ、運のないことにウチの組織に正規構成員は4人もいるのにそういう技術を持ってる人間がいなくてな。データを入手してもそれを扱う技術がないならもはやそれはただの数字とプログラムの羅列でしかない」

 

「まぁ、それはそうですが…」

 

「そこで、お前の力を貸して欲しい。という話に至るわけだ。分かってもらえたかな?」

 

「力を貸すとは言っても、私は具体的に何をすればいいんですか?」

 

「そのUSBのデータを使って、ある人間をSAOの世界に飛ばして欲しい」

 

「!?しょ、正気ですか!?今となってはSAOはHPがゼロになれば現実でも死亡確定のデスゲームですよ!?もう被害者も2000人を超えています!そんなの危険すぎます!」

 

「だが、お前はどの道その危険なデータを解析しようとしていたんだろ?御坂美琴を救う為に」

 

「そ、それはそうですが…」

 

「なら、話は簡単だ。交換条件さ」

 

「交換条件?」

 

「そのある人間をSAOの世界に飛ばせば御坂美琴を生きて現実世界に連れ戻せる確率が跳ね上がる」

 

「えっ!?」

 

「絶対とは言い切れないがな、だが絶対を言い切れないのはお前の解析作業も同じさ。お前もあのファミレスで知っただろうが、そのデータはあの茅場晶彦の生涯を懸けた最高傑作であり、全プログラム史上最高の鉄壁だ。プロが寝ずに解析作業を行ったとしても、おそらく最低でも2、3年はかかる。まあ悪魔でも予想だがな」

 

「・・・政府の人たちだって解析作業に当たってるはずです。その人達と作業を共有しあえば解析作業に必要な時間はぐっと短縮出来ます。その為にARGUSの本社からナーヴギアとSAOとこのUSBに入ってる物と同じデータを政府の人達だって回収したんですから」

 

「統括理事会は解析作業なんて行ってないさ」

 

「えっ!?」

 

「そもそも、このSAO事件を仕向けたのは政府の人間達だ。調べてたならどこかで気づいただろう?徹底した情報操作、ナーヴギアとSAOを開発したARGUSでさえも解析作業に当たることも出来ない。はたから見ればもはや謎でしかない。調べていればバカでも気づく、もしくは途中で引っかかって疑問を抱く」

 

「・・・・・」

 

自分でもそれを薄々勘づいていた為か、初春は土御門の意見に反対しようとしても反対しきれなかった

 

「つまり、今この世界で統括理事会以外でそのデータを持ってる人間はお前だけ、解析作業を始めようなんて考えてる人間に関してはもはや正真正銘、世界でお前たった1人だ。それでも解析作業を完璧にこなして御坂美琴を救えると言い切れるか?」

 

「・・・なら私は両方ともやります」

 

「・・・両方?」

 

「あなたの言うある人をSAOの世界に送れば御坂さんを救える可能性が上がるんですよね?ならその人をSAOの世界に送ってから私は自分で解析作業を行います」

 

「残念だがそれは出来ない」

 

「!? ど、どうして!?」

 

「そのデータを使えば確かにSAOの世界に誰か1人だけを送ることが出来る。だが、その世界に飛ばすというプログラムの『実行』を一度でも行えば、そのUSBのデータは全て完全に消去される。そういう風にプログラムされているからだ」

 

「じゃ、じゃあ予めそのデータのコピーを取っておくとか!」

 

「それも出来ん。データは元々複製が出来ないようにロックがかかっている。そのコピー不可のロックを解除すればそれが引き金になってUSBのデータも全て消える」

 

「そ、そんな…」

 

「要するに俺が言う誰かを送るという選択をすればお前は解析作業を行うことは出来ない」

 

「だが、もし仮にお前が自分で解析作業を行うという選択をすれば、ソイツはSAOの世界に行って御坂美琴の手助けは出来ん。お前は御坂美琴が生きている間にSAOの解析作業を1人でやり終えられるかどうかという大博打を打つことになる」

 

「・・・・・」

 

「まぁ、どちらを選択しても絶対ではないがな。だがどちらの選択の方が御坂美琴を救えるかの確率が高いかも分からん」

 

「・・・・・」

 

「だが、お前が解析作業を行うと選択したとしても、それを俺たちが手伝うことはない。お前が持っているデータを狙うヤツらが居たとしても、俺達はお前の身の安全を保証はしない」

 

「・・・・・」

 

「それと同様に、SAOにある人間を送る選択をしたなら、お前と俺たちの関係はそれっきりだ。俺たちがそれ以降お前に関わることはないし、その後またお前が茅場晶彦を血眼で探し回って新しいデータをもらって解析作業を行うにしても、もう俺たちは知らん」

 

「・・・・・」

 

「さぁ、全てを聞いた上でお前はどちらを選ぶ?初春飾利」

 

「・・・1つだけ聞かせて下さい」

 

「なんだ?」

 

「サングラスを取って私の目を見て下さい」

 

「・・・ほぉ?」

 

土御門はその初春の言葉に従いサングラスを外し、初春の目を真っ直ぐと見る

 

「私の目を見て下さい」

 

「・・・これでいいか?」

 

「・・・今の話に、何1つとして嘘はついていませんか?偽りの事実はありませんか?」

 

「・・・ああ、ついていない」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 

数秒の沈黙…しかし、2人にとっては何分に感じただろうか、それとも何時間に感じただろうか。それだけの意味のある数秒の沈黙だった。その間2人は互いの視線から目を逸らすことは一度としてなかった

 

 

「・・・ありがとうございました。どうやら嘘はついてないみたいですね」

 

「・・・信じるのか?こんな会って間もない男の突拍子のない話を」

 

「私の目には、あなたが嘘をついているようには見えませんでした。これでも風紀委員として、人をある程度判断できるほどの目は持ち合わせているつもりですよ?」

 

「木山春生の時は彼女の事を信じ切っていた気がするが?」

 

「き、木山先生は方法はともかく良い人でした!それに関してはギリギリセーフです!っていうか何でそれ知ってるんですか!?」

 

「ま、お前がそれでいいならいいが」

 

 

そう言いつつ土御門は自身のトレードマークの1つであるサングラスをかけ直す

 

 

「で、どうする?悪いがあまり選択に時間はやれんぞ?」

 

「・・・なら…」

 

「?」

 

「それなら…その人に会わせてもらっても良いですか?そのSAOに送りたいと言っている人に…」

 

「・・・それがなければ選択は出来んか?」

 

「はい」

 

 

土御門から全ての真実を聞いた上で、嘘はないと信じた上で初春は1つの選択を下す。だがそれは土御門から出された2つの選択肢にはなかった、初春が自ら新たに導いた選択だ

 

 

「いいだろう、そういう事ならついて来い。一先ずは歓迎しよう。俺達の『グループ』にな」

 

「分かりました、行きましょう」

 

そう言って2人は車を降りて歩き出した

 


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