とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

2 / 75
アインクラッド編
序章 始まり


時は10月の始まり頃、学園都市の街には少しずつではあるが、冬の訪れを感じさせるような寒気を伴った風が吹き始め、その街で日々を過ごす学生を装す服は寒さから身を守る為のものへと変わっていく

 

 

しかし、多くの人間は知らない・・・

 

 

この薄汚れた街の寒気から身を守るなことなど

 

 

不可能であるということを・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その日の放課後、上条当麻は自身の通う学校の教室の窓からぼんやりと秋空を眺めていた

 

 

「あ〜…飛行船はいいよな〜ただ風に流されてるだけでその日が終わるんだもんな〜…」

 

 

この少年、ここ最近、というかほぼ毎日のように厄介事に巻き込まれている、もしくは厄介事に自ら首を突っ込んでばかりである

 

それもそのはず、彼の右手には「幻想殺し」という摩訶不思議な力が宿っている。この右手に触れた「異能の力」は立ち所に打ち消されてしまう、という代物だ

 

そんな右手を持つ代償としてか、彼の身には数え切れないほどの不幸が襲いかかってくる。彼の部屋に居候している、その頭脳に10万3000冊の魔導書を記憶している少女「禁書目録」の推測によれば、上条当麻は幻想殺しのせいで自分の運気を打ち消してしまっているらしく、彼を不幸にする一因を作ってしまっているとのことだ

 

そんな右手を持って生まれてきてしまったがゆえ、上条当麻は連日のように不幸に見舞われ、魔術結社と戦うこともしばしば、もはや魔術結社の方から幻想殺しが目当てで上条当麻自身が狙われる事さえある。上条当麻が望んで手にした力でない以上、もはや不幸にもほどがあるという話だ

 

 

「こちとら一日を乗り切れるかどうかも分からぬ極限の生活。今日も今日とて家計はギリギリ。ウチの暴食シスターのせいもあって、ここ最近毎日のように宣伝されてる喉から手が出るほど欲しい新型ゲームも上条さんにとっては夢のまた夢ような話。って訳ですよ、土御門さん」

 

 

そう、上条当麻が先程から眺めている窓から見える飛行船の液晶画面に写っているのは、本日付けを持って発売とされた新型ゲーム機、「ナーヴギア」とその新型ゲーム機のソフトウェア、世界初のVRMMORPG「ソードアート・オンライン」通称「SAO」である

 

 

「まぁ〜学園都市もついにやってくれちまったもんだぜぃ、人間の脳の五感を全てコントロール下に置く『フルダイブシステム』を完成させ、仮想空間を作り出すなんてまさに科学!文明の力を物語るゲームぜよ〜」

 

「せやかて、今日発売されとる初回製作分のナーヴギアもSAOも全世界で限定1万本ポッキリや!今日ゲームを手にしてプレイ出来る人は、ホンマにラッキーな人ってわけやな〜」

 

「俺ならまず!仮想空間で想いのままの妹を作り出して!気ままに妹ハーレムライフを過ごすぜよ〜!」

 

「何言うてはるの土御門くん!妹だけなんてけったいなこと言わず!ありとあらゆる女の子に囲まれながらモテモテの女の子パラダイスを過ごさな損やで〜!!」

 

「お前ら少しは欲望隠せよ…ま、どうせ上条さんにはそんな新型ゲームを手に出来る幸運なんて、欠片ほども回ってございませんのことよ〜…」

 

「ふっふっふ、なら今日は少し運試ししてみようぜよ〜?」

 

「あぁ?運試しぃ?」

 

「ん、なんや土御門くんその紙は?」

 

 

「運試し」と言う土御門の手には、赤い色をした三枚の紙が握られ、彼の手に揺られている

 

 

「これは!我らが第七学区のセブンスミストの大抽選会の福引き券ぜよ!一等はなんと!ナーヴギアとSAOをセットにしてプレゼントって話ぜよー!」

 

「な、なんやてーーーーーー!?」

 

「なにっ!?そ、それ一回やらしてくれるのか土御門!?」

 

「おおっ!?不幸に自覚がある上やんにしては随分ノリノリじゃないかにゃ〜?」

 

「あったり前だ!外れのティッシュだってウチの家計には欠かせない非常に有力な資源なんだ!喜んで行かせてもらうぜ!!」

 

「・・・なんか聞いてるこっちまで悲しくなってくるぜよ」

 

「ほな!早いとこセブンスミストに行きましょか〜!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして第七学区にある大型ショッピングモール「セブンスミスト」に到着したデルタフォース一行は、抽選会の会場へと向かおうとしていた

 

「で、土御門、抽選会場はどこなんだ?」

 

「もうちょい先ぜよ、この先のイベントホールで抽選会が行われてるぜよ」

 

「おおっと!?もしやあの行列は!?ナーヴギアとSAOの先行予約に成功した人の行列やでー!」

 

「へぇ〜、こんなにいんのか、ここの人はいいよな〜、俺らとは違って、今日から遊べるの確定なんだしよ〜」

 

 

やはりこの日に限っては長蛇の列を作り出すのも激ウマのラーメン店や一日限定10食の海鮮丼などではなく、新発売のゲームである。そんな行列を横目に過ぎ去ろうとする一行に行列の中から声をかける少女が1人

 

 

「あ!ちょっとアンタ!!」

 

「んぁ?俺?あー、なんだ御坂か…」

 

「なんだとは何よ!失礼しちゃうわね!」

 

 

学園都市内有数の超お嬢様学校「常盤台中学」の制服に身を包むこの少女「御坂美琴」は学園都市に7人しかいないレベル5の中の第3位にして「超電磁砲」の異名と電気系統最高位の超能力を持つ少女である

 

 

「んで?こんなとこにいるなんて珍しいわね?あんたもこのゲーム買いに来たの?」

 

「違う!俺は福引きでティッシュを貰いに来たんだ!」

 

「福引きで最初っからティッシュ当てにいくってそれどうなのよ…」

 

「お前の方こそ、その列に並ぶってことはゲーム買いに来たんだろ?いいよな〜お嬢様は。ゲームを買うお小遣いもポンポン出て来て」

 

「なっ!?ふざけた事言ってんじゃないわよアンタ!このゲームはお金だけじゃ買えないんだからね!先に抽選に応募した世界中の何億人という人の中から抽選で選ばれた人だけが!自分の住んでる近くのショップに取り寄せて初めて買えるんだから!」

 

「あーあー、どいつもこいつも口を開けば抽選だ抽選だって、不幸な上条さんの耳には痛いばかりですよ」

 

「上やーん!そんなとこで女の子ナンパしてるんやったら、上やんの分の抽選も僕が引いでまうで〜?」

 

「ナンパなんかしてねぇよ!ってか本当に引くなよ!?俺のティッシュ!」

 

「本当に目当てはティッシュ以外にないのかぜよ……」

 

「そんじゃ俺のツレが呼んでるから行くわ。じゃな!御坂!」

 

「あ、ちょっと!…せっかく会えたんだし、行列も長いんだからもう少し話に付き合いなさいよ…あのバカ…///」

 

 

そう彼を罵倒する彼女の頬は、秋にしては暖かすぎるこの部屋の空調のせいなのか、はたまた彼への想いの表れなのか、ほんのりと赤く染まっていた

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。