とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第15話 四面楚歌

 

「まさかこんな思わぬところでナーヴギアとSAOの設計図とプログラミングデータが手に入るなんて…!運命としか思えません!今日ばっかりはこの運命の出会いをくれた神様仏様に感謝しかありません!」

 

 

先ほどヒースクリフと名乗る研究者風の男から、自らが欲しくてやまなかったナーヴギアとSAOのデータが入ったUSBを手渡された初春飾利。自身の有り余るほどの幸運に驚いたのか、彼女の胸の内の高揚感はまだ収まりそうにはない

 

 

「こうしちゃいられません!さっさとこのパフェを食べて支部に戻ってこのUSBの中身のデータを確認して解析作業に移らないと…!」

 

「失礼、お嬢さん」

 

 

不意に横からそんな事を言われた。知らない人にこのファミレスで声をかけられるのは今日だけでもう2度目だ。パフェを食べる手を止めてそちらを見ると、何だかガラの悪そうな少年がそこに立っていた

 

 

「はぁ。どちら様ですか?」

 

「垣根帝督。人を捜しているんだけど」

 

 

垣根と名乗る少年は、ワインレッドに似た色のいかにもホスト風の服の内ポケットから1枚の写真を取り出し初春の前に差し出す

 

 

「このおっさんがどこへ行ったか、知らないかな?」

 

 

そう言われて初春は差し出された写真をじっと見る。すると、その写真には先ほどまで自分と話していたある男性の顔が写っていた

 

 

(・・・!!ヒースクリフさん…!!)

 

「どうかな?どこへ行ったか分かるかな?」

 

「・・・・・」

 

 

初春飾利は垣根とヒースクリフの写った写真を何度か交互に見比べ、それから首を横に振ってこう言った

 

 

「いいえ。残念ですけど、見ていないですね」

 

「・・・そうか」

 

「どうしても見つけられないなら、警備員の詰め所に届け出を出した方がいいと思いますけど」

 

「そうだね、だけどもう少し自分で探してみるよ。ありがとう」

 

 

にっこりと笑いながら垣根は言って写真を胸ポケットに戻し、そこから立ち去った。それを見ると初春は一度手を離したスプーンを持ち直してパフェをすくうと口に運びかけたが

 

 

「ああそうだ、お嬢さん。1ついい忘れた事があるんだけど」

 

「・・・?なんですか?」

 

「テメエが『茅場』と何かを話してた事は知ってんだよ、クソボケ」

 

(えっ!?茅場っt…!?)

 

ゴンッ!!!

 

「ヅッ!?!?」

 

 

初春のこめかみの辺りに衝撃が走る。それが殴られた為に受けた衝撃だと気づくいた時には既に椅子から転げ落ちていた。それに続くようにテーブルや他の椅子も倒れてしまう。まだかなり残っていたパフェも雑に地面にぶちまけられた。ファミレスの店員や他の客の悲鳴が聞こえる。何が起きたか判断は追いついていないが初春は起き上がろうとする。

 

 

「ッ!くっ…!」

 

「おっと」

 

「ぁぐ!?」

 

 

しかし、起き上がろうとする初春をもう一度仰向けに倒し足で踏みつけ、床へと押し付ける

 

 

「だから俺はこう尋ねたんだぜ?『このおっさんを知りませんか?』じゃなく『このおっさんがどこへ行ったか分かりませんか?』ってな」

 

ゴキゴキッ!!

 

「うぎっ!?ぅああああああああああぁぁぁ!?!?」

 

 

初春の肩に乗っている垣根の足に体重がかけられ、鈍い感触と共に骨と骨とが擦れ合い激痛が初春を襲った。骨が関節から外されたのだ。あまりの痛みにのたうち回りたくなる初春だが、垣根がそれを上から押さえつけている為、ただただ痛みに絶叫することしか出来ない

 

 

「実を言うとな、目的は茅場晶彦じゃねぇんだ。ヤツだけが持っているナーヴギアとSAOに関するデータが欲しいだけなんだ。お嬢さんなら今俺が何のことについて言ってるかの意味が分かるだろ?」

 

(や、やっぱり間違いない…茅場晶彦って…つまり、私が話していた人は「ヒースクリフ」なんて名前の人じゃない…どこかで見たことがある顔だと思ったら、昔の頃に尊敬して調べていた写真の中のあの人じゃない…本物の茅場晶彦だったんだ…!)

 

 

初春の心の中では先ほどまで話していた男に関しての全ての伏線が回収され1つの解が導き出されていた。しかし、それは今まさに目の前に迫るピンチを打開するための解にはなり得ない

 

 

「俺は確かに外道のクソ野郎だが、それでも極力一般人を巻き込むつもりはねぇんだ。だから協力さえしてくれりゃ、暴力を振るおうとは思わない」

 

「・・・ッ!」

 

 

垣根は少し前のめりになり初春に顔を近づけて話し続ける。初春はその垣根の顔を涙を堪えながら真っ直ぐ睨みつけ、逸らそうとはしない

 

 

「・・・ただな、俺は自分の敵には容赦をしない。何も知らずに茅場晶彦からあのUSBを渡されたってんならともかく、テメエはそのUSBの中身を知った上で持ってんだから話は別だ。頼むぜーお嬢さん。そいつを素直に渡してくれ。この俺にお前を殺させるんじゃねえ」

 

ガリガリガリッ!!!

 

「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

既に外された骨を無理矢理動かされ、筆舌に尽くしがたい痛みがまたも初春を襲う。堪えていた涙はついに瞳から溢れて出してしまっていた。

 

 

「そのポケットに入っているUSBを渡せ」

 

涙で視界が滲む中、垣根の声が耳に入ってくる

 

「それだけ渡してくれりゃいいんだ、それでテメエを解放してやる」

 

 

単純な交換条件である。USBを渡せば自分はこの痛みから解放される。このUSBは自分にとって今何よりも大切な物であると分かっているのに、「痛みから解放される」という誘惑に惑わされていく。そして、結論を出した初春の唇がゆっくり動く。涙をボロボロと零しながら、その言葉を紡ぎ出す。黙っていることなど出来なかった。自分の無様さに歯噛みしながら、初春は垣根に向けて告げる

 

 

「・・・なに…?」

 

 

垣根の眉がその言葉を理解出来ないと言っているかのように動かされる。初春は震える唇で、また言う

 

 

「聞こえ、なかったんですか…?ならもう一度言ってあげます…」

 

 

ありったけの力を、感情を込めて言い放つ

 

 

「死んでも…渡しませんっ!!」

 

「・・・ほぉ?」

 

「このUSBは希望なんです!世界中の人々を救う為の…私の大切な友達を救う為の希望なんです!私だけこんな痛みに負けるわけには…いかないんです!みんな戦ってるんです…御坂さんも…白井さんも…佐天さんも…みんな戦ってるんです!私だって戦えます!だからこのUSBは絶対にあなたなんかには渡しません!!」

 

 

そう言い放った後、初春は垣根を睨みつける。絶対に負けまいと。死んでもお前が望んでいる物は渡すまいと。その眼力で、垣根に訴える

 

 

「・・・良いだろう」

 

 

そう言って垣根は彼女の肩から足を退ける。しかし、その足は地面にはつけない。初春の顔の上に一度持って行き、そこから上へ振り上げる

 

 

「俺は一般人には手を出さないが、自分の敵には容赦はしないと言ったはずだぜ。それを理解した上で渡さねえって判断したなら、それはもう仕方ねぇ。だから試してやるよ」

 

 

垣根は振り上げていた足に力を込める。まるで空き缶でも踏み潰すかのように

 

 

「死んだテメエが、本当にソイツを渡さねえのかをな」

 

「ッ!!!」

 

 

ブォンッ!!!という風圧に初春は垣根を睨みつけていた目を思わず瞑ってしまう。もう自分の身を守ることも出来なかったのだ。しかし、垣根の足が彼女の頭部を捉えることはなかった

 

 

バッゴォォォォォォン!!!!

 

「・・・ガッ!?」

 

 

もはや目では追えないほどのスピードで垣根の後頭部をファミレスのレジが襲う。レジに入っていた硬貨は音を立てて散らばり、紙幣は羽のように宙をひらひらと舞う。垣根は怒りの表情を浮かべ、振り降ろしかけた足を地に戻し、レジの飛んできた方向へ振り向く。それと同じくして、垣根の先にいる誰かを初春も視認する。そして初春は初めて目にする。学園都市最強のレベル5の姿を

 

 

「・・・ったく、シケた遊びでハシャいでんじゃねェよ。三下」

 

「痛ってえな第1位…」

 

「・・・第…1位……」

 

 

初春はまだ何が起こったのかの全貌が掴めておらず混濁している。そして垣根の言葉に耳を疑う。噂程度にしか聞かなかった学園都市の第1位が今、自分の目の前にいるのかと、本当にこの人が本物の第1位なのか、そしてこれは本当に現実なのか…と

 

 

「結標、暴れンのにこの花女が邪魔だ。飛ばせ」

 

「・・・えっ?」

 

 

第1位と呼ばれていた男が何かを話したと思ったら初春の身体はファミレスから消えてなくなっていた

 

 

「あぁ?今結標って言ったのか?オイオイ、あの露出狂まで来てんのかよ。にしては姿が見えねえなぁ…こんなんと遊ぶぐらいだったら多少の露出癖は大目に見っから俺と遊ぼうぜ〜?」

 

「安心しなァ、テメエの遊び相手は俺がちゃあんとやってやンよ」

 

「あぁ?遊んで欲しいのはテメエの方だろ白うさぎ」

 

「死ぬまで言ってろ永遠の2番手が」

 

「・・・テメエ殺す」

 

「出来もしねえ事口走ってンじゃねェぞ三下」

 

 

学園都市の第1位と第2位。一方通行と垣根帝督がここに激突した

 


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