「いい?作戦を再確認しとくわよ?私たちの役目は、ボスの取り巻きの相手をすること。モンスターの攻撃が来たらある程度攻撃して頃合いを見て『パリング』で弾いて隙を作る。そしたら『スイッチ』して2人で入れ替わりで戦う。今までも何回かこのコンビネーションで戦ったことあるから問題は特にないわよね?」
「おう、任せとけ」
上条当麻と御坂美琴は今、アインクラッド第1層のボス攻略会議を経て、ボス部屋を目指して攻略会議の面々とダンジョンを進んでいた
「しかし、情報だけじゃ実感湧かないんだがやっぱ強いのかね?ボスってもんは」
「さぁ?私も戦うのは初めてだし、そもそもβテスターじゃなきゃ戦ったことなんてないわよ」
「まぁ、それもこの中にβテスターがいたらの話だけどな…」
「正直なところ、私としては何人かはいてほしいところだけどね。戦力になるのは確かだし、戦況によっては苦戦しないとも限らないわ。ひょっとしたらこの中から死者が出るかもしれないし…」
「死なせねぇ」
「・・・え?」
「この中の誰も死なせやしねぇ。仲間は絶対に守り抜く。もちろんお前だって守り抜いてみせる、必ずだ」
「うぇぇぇ!?あ、ありがと///」
(ほ、本当にコイツは無自覚でこういうことを平気で…!)
「おっと、そろそろ目的地に着いたみたいだぜ」
かくして一行は塔のダンジョンの1番上にあるボスの部屋にたどり着き、全員を先導して来たディアベルが後ろに振り向きみんなに向けて言った
「みんな、聞いてくれ、ここまで来たら俺から言えることは1つだ!勝とうぜ!」
その言葉に全員が頷き、各々の装備した武器を構える
「行くぞ…」
ギギィ…バン!!
その言葉を言い終えると同時に、ディアベルが重く厚いボス部屋の扉を開け放つ、そしてゆっくりと前進し全員が部屋の中に入る。すると部屋が急に明るくなり、目の前に巨大な斧と盾を持つ大きな赤い牛のようなボスが現れ、取り巻きの小さなハンマーを持ち、西洋風の鎧を着た取り巻きモンスターが出現する
「グオオオオオォォォ!!!」
「キキイッ!!」
「攻撃!開始ィィィィ!!!」
「うおおおおおおぉぉぉ!!!」
ボスの咆哮と迫ってくる取り巻きモンスターに負けじと、ディアベルが隊を鼓舞するかけ声を出し、それに答えるように全員がモンスターに立ち向かっていく
「おりゃっ!」「せやっ!」
「キキイッ!」
「喰らえっ!」「死ねっ!」
「グオオッ!」
事前に立てた作戦通りにパーティーで分かれて戦闘を行い、取り巻きと戦う者も、ボスに立ち向かう者も必死になって戦っていた。もちろん、上条当麻と御坂美琴の2人も…
「キイッ!!」
「だぁっ!美琴ッ!!スイッチ!!」
「任せなさい!『スター・スプラッシュ』!!」
「ギギィィィィッ!!」
(ッ!?本気の美琴ってこんなに強かったのか!?もはや早すぎてレイピアの剣先が見えない!!)
上条が敵の攻撃を剣で弾いて隙を作る「パリング」を決めると、その隙を逃さず美琴が前列の仲間と入れ替わる「スイッチ」で敵の前に割り込み自慢のソードスキルを発動し、モンスターのHPを削り切る。たちまちモンスターは光のオブジェクトとなり四散して消える
「よっしゃ!討伐完了!」
「まだまだ行くわよ!他のパーティーの援護!」
「あいよ!」
「おいっ!ボスが来るぞっ!全員気をつけろ!」
「「!!?」」
2人がボスと戦うパーティーの声かけに反応して振り向くと、ボスの最後の段のHPゲージが赤ゾーンまで到達していた
「ガアアアアア!!グオオッ!!」
するとボスは今まで装備していた斧とバックラーを投げ捨てた
「どうやら情報通りみたいやなディアベルはん!」
「みんな下がれっ!俺が出る!」
「おーー!!行っけーー!ディアベルー!!」
(・・・えっ!?ここはパーティーで取り囲んで止めをさすのがセオリーのはずじゃ・・・)
武器を入れ替えようとするボスの前にディアベルが1人で躍り出る。そのセオリーにそぐわない行動に美琴を含め何人かは疑問を抱くが、誰もその行動を止めず、上条に至ってはディアベルを応援している
「行くぞっ!!!」
ディアベルの構えた剣がソードスキルの力を得て眩しく輝いた
「グオオオオオォォッッッ!!!」
しかし、ここでボスモンスターは周囲が予想だにしない行動を見せた
(あれ?あれただの刀じゃねーか?曲刀に持ち替えるんじゃねーのか?)
(タ、タルワールじゃない!あれは…『刀(ノダチ)』!!事前の情報と違う!)
(な、何ッ!?タルワールじゃないだと!?βテスト時の行動と違うッ!クソッ!!)
「グオオオオオォォォッッッ!!!」
「ぐわああああっっっ!!」
ディアベルがボスの予想外の行動に困惑している隙を突くかのようにボスが持ち替えたノダチでディアベルの身体を切り裂く。その一撃によりディアベルの身体に切り込みが入り、まるで血のように切り込まれた傷が赤く染まる
「ディッ、ディアベル!!大丈夫か!?」
負傷したディアベルの所へと上条当麻が駆け出す
「あ、ちょ、ちょっとアンタ!!あーもうしょうがないわね!みんな一旦退いてガードを固めるのよ!ボスの行動は事前の情報と違う!ガードしながら攻撃パターンを探るのよ!」
「りょ、了解した!」
「みんな!ミコトはんの言う通り一旦退いてガードを固めるんや!」
美琴の指示にエギルやキバオウが反応し全員に伝達する。みなその指示に従い一旦ボスモンスターから距離を取る
「大丈夫かディアベル!?待ってろ今回復アイテムをっ…!!」
バシッ!!
「えっ?」
「ダメだ、上やん君。僕にはそれを受け取る資格はない」
上条が回復アイテムを差し出すもディアベルがそれを手で制し受け取ることを拒む
「どっ!どうしてだ!?このままじゃお前死んじまうんだぞ!?」
「いいんだ…みんなを騙して少し欲を出しすぎてしまった…きっとそのバチが当たったのさ…」
「よ、欲を出しすぎた…?バチが当たった…?な、何言ってんだよお前…」
「上やん君…良いことを教えておくよ…βテスターからのアドバイスさ、きっとこの先でも役に立つはずさ…」
「なっ!?アンタβテスターだったのか!?」
「ははっ、まぁね…実はボスに止めをさしたプレイヤーには、金や経験値やドロップアイテムとは別に『ラストアタックボーナス』という報酬が入るんだ…僕はβテスターだったから元から知っていたんだがね…」
「だ、だからお前はあの時、パーティーで攻めずに1人で特攻して…」
「そういうことさ、仲間には話しておいても良かったんだが…どうしても言い出せなくてね…最後はやはり自分の欲が勝ってしまった…その結果がこれだ…βテスターは所詮この世界じゃみんなの嫌われものだ…こんなんじゃみんなに合わせる顔がない…」
「ディ、ディアベル…」
「上やん、君はここにいる誰よりも意志の強い人間だ…正直なところ、異議を唱えたキバオウに堂々と自分の言葉を叩きつけた君を心の底からカッコいいと思ってしまった…その意志があれば、きっとこの世界でも強く生きていける…頼む、このゲームを…必ずクリアしてくれ…みんなのために…!」
ガシャアアアァァァン!!
その言葉を最後にディアベルのHPゲージは0になり、上条当麻の腕の中でいくつもの光の散りとなって消えた
「嘘…だろ……」
「ディ、ディアベルはんが…死んだ…?」