とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第12話 疑惑

 

「さて、じゃあ私たちも一旦準備しに街に戻りましょ?回復アイテムとか道具屋で可能な限り買っとかないと、流石にザコと違ってボスモンスターは何が起こるか分からないわ」

 

「あ、ちょっと待ってくれ美琴。実はちょっとこの後…」

 

「よう、さっきぶりだな」

 

「お、わざわざ来てくれたのかエギル、悪いな」

 

「なに、気にすることはない」

 

 

上条当麻の言葉を遮り彼に話しかけるのは、先ほどのキバオウの一件で彼らの仲裁…もとい上条の暴走を止めたエギルであった

 

 

「あ、そうだ。俺がまだ名乗ってなかったな。俺の名前は上やん。そんでこっちがパーティーメンバーの美琴だ」

 

「あっ、えっと…ど、どうも…」

 

「あっはっは、そんなにかしこまらなくてもいいさ。どうせこれから一緒に戦うんだ。仲良くしようぜ」

 

「おう!改めてよろしくなエギル!」

 

 

そう言って上条とエギルは熱い握手を交わした

 

 

「おう!それはそうと、さっきはすごかったな。それにお前のおかげで助かった。実を言うと、俺もあの時発言しようとは思ったんだが、どうやら俺よりもパンチが効いた言葉だったようだ。お前の演説には俺も心を打たれたよ。改めて礼を言わせてくれ」

 

「よ、よしてくれよ…そんなつもりで言ったんじゃないんだ…それにアレは何つーかいつものクセみたいなもんでさ…」

 

「そう言えばさっきも言ってたが、最後は決まってぶん殴るって…お前一体リアルではどんだけクレイジーな生活送ってたんだ?」

 

「ん〜っと…まぁ、そういうことが起こる街に住んでたんだよ」

 

「ああ〜っ…スマン!リアルへの詮索はマナー違反だな。許してくれ」

 

「いやいや、大丈夫だ。そんなことは気にしない」

 

「そうか…ありがとな。じゃあ、俺はもうそろそろ行かせてもらう。パーティメンバーを待たせてるんだ。また後で会おうぜ。上やん、お嬢さん」

 

「おう!またなー!」

 

 

そう言うとエギルは2人に背を向けてパーティメンバーの方へと歩き出す

 

 

「さて、俺たちも一旦街に戻るとするか」

 

「そうね、時間もないしそろそろ…」

 

「ちょっと待ってんかーー!!?」

 

 

そう言ってその場を離れようとする2人を止める男が1人。先ほどβテスターに関して上条と一悶着起こした彼、その名はキバオウである

 

 

「あ?あー誰かと思ったらお前か…え〜っと、名前が思い出せない…ちょっと待ってくれ…え〜っと…」

 

「アンタ仮にも自分があんだけ説教した相手なんだから覚えといてあげなさいよ。マキバオーよ」

 

「キバオウや!誰が馬か!」

 

「ああ、そっかキバオウだったな。なんか用か?」

 

「ああ、すまん。話の前にあんはんの名前を聞いてもええか?」

 

「ああ、俺は上やんだ」

 

「上やんはん…さっきはスマンかったな、あんはんの言葉のおかげで自分が間違ってたことを自覚できたわ、ホンマにスマンかった!」

 

「あーいや、分かってくれたならいいんだ。俺たちはもう同じ敵と戦う仲間なんだ、仲良くしようぜ。ああ、紹介しとくよ、こっちは美琴。2人で同じパーティー組んでんだ」

 

「おお、ミコトさんか。さっきはスマンかったな、口論ん時に引き合いに出したりして。ちなみに俺はディアベルはんと同じパーティーに参加しとるんや、よろしくや」

 

「はいはいよろしくね、マキバオーさん」

 

「だからキバオウや!ええ加減覚とかんかい!」

 

「で、なんだが上やんはん…一つワイのお願いを聞いてくれへんか?」

 

「お願い?なんだ?言ってみてくれ、俺にできることなら何でもするぜ!」

 

「じゃあ上やんはん!ワイを一発殴ってくれ!」

 

「え?ええっ!?殴ってくれ!?」

 

「そや!ワイの根性はひん曲がっとる!男として鍛え直す為にもここでワイを1発殴ってくれ!そうすればワイの中でもちゃんとアンタを対等な仲間になれて命懸けで守ることが出来るんや!今のままじゃ罪悪感で仲間を名乗りきれん!頼んます!」

 

「い、いや…でもなぁ…」

 

「いいじゃない、殴ってあげれば。そういう性癖の持ち主なんでしょ?」

 

「ちゃうわ!ワイはドMとちゃうわ!で、どやろか上やんはん?やってくれまっか?」

 

「…分かった、そこまで言うなら思いっきり行くぞ!!」

 

「ホンマか!?おおきに!」

 

「あーあー、男って本当にバカね。手に負えないわ」

 

「っしゃあ!来い!」

 

 

そう言うとキバオウは歯を食いしばり頬を上条の前に突き出す

 

 

「いいぜ…お前がそこまでβテスターが許せねぇってんなら…」

 

 

上条は自身の右手で握り拳を作り地面に踏み込み、最高の一撃を叩き込む構えを作る

 

 

「まずは!その惨めな『幻想』をぶち殺す!!」

 

バキイイイイィィィ!!!

 

 

上条の右拳が完璧にキバオウの顔面を捉えたその瞬間、上条は妙な違和感を拳に覚えた。そう、まるで上条当麻の右手が「何かに反応した」ように…

 

 

「どわああああああっ!!!!」

 

「……えっ?」

 

 

キバオウは上条の拳により、ゆうに2、3メートルは宙を泳ぎ吹っ飛ぶ。しかしここは安全圏内であるためHPは減らないが、上条は自身の感覚で分かっていた。自分の右手がキバオウに当たった瞬間、右手に宿る幻想殺しが何かを壊したことを

 

 

(俺の幻想殺しが反応した…?でも一体何に対して?異能の力がキバオウに働いてんのか?それともキバオウ自身が異能の存在なのか?)

 

「っっか〜〜〜!!!効いたで上やんはん!確かに痛みはあらへんが、あんはんの意思がしっかり乗っかった意味のある拳やったわ!しっかしあんはん腕力高いなぁ〜、まさかここまで吹っ飛ぶとは思わへんかったわ。こりゃその腕力で繰り出される剣技があればボス戦も楽勝やな!」

 

(・・・おろ?ここ安全圏内なのにHPが今ので減っとるがな…バグか何かか?…まぁええか、生きとるし)

 

「あ、ああ…」

 

「ほな!世話かけたな!ワイはこれでおさらばするわ!おおきに!ボス戦でもよろしく頼んますわ!」

 

「お、おう…またな…」

 

 

そう言うとキバオウは2人にひとまずの別れを告げ走り去って行った

 

 

(…気のせいなのか?なんだかんだでこの世界で右手を使ったのは初めてだったが…せめてここの世界で定義されてる「異能の力」が何か分かれば…)

 

「・・・ねぇ、ちょっとアンタ。ひょっとして今のって…」

 

「えっ!?な、なんのことだ!?」

 

「………まぁいいわ、それよりアンタのせいで時間を使い過ぎたわ。とっとと街に戻って買い出しに行くわよ」

 

「あ、ああ!そうだな!悪かった!行こう!」

 

(・・・さっきのアイツがキバオウさんを殴った後の反応は一体何?それに「この安全圏内でHPが減った?」…もしかして、私にも現実の能力があったように、アイツにはアイツの右手が残ってるってこと?まだまだ分からないことだらけね…でも、それにしてもやっぱりお互いの能力は隠しておくべきよ…いずれ私達自身の身を滅ぼすことになる。それだけは全ての真相が分かった時にアイツにも伝えないと…)

 

 

こうして上条の幻想殺しが一体何に発動したのか、それとも発動していないのかすらも何も分からないまま彼らは歩き出す。美琴は真相を知りたい意欲と彼を心配する気持ちを胸の内に秘めるが、その真相の解を見出し、心の曇りが晴れる日を知る者はまだいない…

 


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