「おーーーい美琴ーー!」
「遅い!アンタ一体どこで油売ってたのよ!」
ここは第1層の市街地『トールバーナ』。上条当麻と御坂美琴はお互いの狩りを終え、指定した場所に集まっていた。ちなみに、上条が美琴を呼ぶ時はユーザーネーム通りに下の名前ということで美琴は恥ずかしがりながらも渋々承諾した
「いやぁすまんすまん、最後の方になって急にモンスターがポップするようになってな、ついつい時間を無視しちまった」
「へぇ〜〜?そこまで言ってこの美琴様を待たせたんだから、私を満足させるようなレベルまで到達したんでしょうね?」
「ふっふっふ、何を隠そう!今の上条さんはレベル13でございますのことよ!?どうだ!今朝より2つもレベルアップしたんだぞ!」
「残念、私はそのまた2つ上のレベル15。やっぱりアンタと狩りに行かなくて正解だったわ。モンスターも続々とポップしてくれるから効率よくレベルも上がったわ」
「なにぃ!?とほほ…そこまで断言されると上条さん的にも流石にくるものが…」
「まぁいいわ、どっかのご飯屋に入って夕飯にしましょ」
「そうだな、俺もちっとばかし腹が減ったよ」
そして2人は夕食を求めて市街地を歩き出した
「はぁ〜、相っ変わらず味気ないご飯ね〜、白米が恋しいわ…」
「へっ、お前はそもそもの育ちがお嬢様だからな。少しぐらいは節制を覚えた方が将来役立つってーの」
「そういうアンタはどうなのよ?こんな味気ない定食で寂しくないわけ?」
「なーにを言ってやがりますか、一汁一菜にご飯がついてるだけで上条さんは幸せですよ〜。なんたって普段は家に家計と飯をひたすら貪る暴食…シスター…さん…が…」
「………ッ」
やはり現実世界も上条当麻がSAOに囚われたことにありったけの悲しみの感情が溢れたように、上条もまた、ふとしたことで現実世界のことを思い出して情に脆くなってしまう。それは1ヶ月経った今でもこれから先でも変わらないのだろう
「・・・ちょっと、勝手に自分で話し広げといて自分で勝手に落ち込まないでくれる?」
「・・・え?あ、悪い悪い!今さら美琴にこんなこと言っても始まんねーよな!っしゃ!早く飯食って体力つけねーとな!」
「・・・別に気にしてないわよ」
「モグモグ…え?」
「そりゃ私だって、現実のことを忘れた訳じゃない。むしろ忘れられる訳ないじゃない。戻れるなら今すぐにでも戻ってやりたいわ。ふとした事で脳裏をよぎるのはいつだって現実世界のこと。全く嫌になるわ…アンタがこっちに来てなけりゃ、私は心ごととっくにへし折れてたかもね…」
「・・・そんなのは俺だって同じだ。俺だって散々恋い焦がれてるんだ、帰りたい場所があるんだ。だから絶対に戻る。どれだけの時間がかかってもだ。美琴、俺たちは必ず2人で一緒にあの世界に帰るぞ」
「ふぇ!?う、うん…ありがと///」
(ふ、ふふ、2人で一緒にって!!コイツはまた無自覚でこういうことをサラッと…!///)
「・・・いやぁ〜!でも正直なとこ美琴があん時俺を探してくれてなかったら俺としても大分ヤバかったぜ〜!なんせ右も左も分かんなかったし、ソードスキルもお前に教わるまでなーんも分からなかったからな!」
「それ笑い事じゃないわよ本当に。まだ私がいたからいいものの、アンタそれがなきゃ多分今ごろとっくにHP0になって死んでるわよ?」
「でも、それにしても意外だったよ。まさか美琴がゲームにここまで精通してるなんて思わなかったからな」
「別に?ただいきなりこのゲーム始めたアンタと違って、予約抽選に当たった時からネットで事前に情報は集めてたし、取扱説明書だってちゃんと読んでたからよ。アンタの残念な頭脳と私の頭脳を比べないでくれる?」
「ぐふっ、ちゅ、中学生にそこまで言われる日が来るとは…」
「それに、私は元々ゲームが好きな方なのよ?」
「え、そうだったのか?」
「そうよ、私が超電磁砲ぶっ放す時に使ってるコインは通い詰めのゲームセンターのコインだし。まぁゲーセンのゲームと違って、VRMMOどころかオンラインゲームはこれが初めてだけどね…」
「超電磁砲か…なんかそんな響きを聞くのも懐かしいな!そういやぁ、現実世界から数えても美琴の電撃は最近全然見てねーな!早いとこ現実に戻ってお前のビリビリを受け止めてやらねーとな!」
「ッ!!?」
「?おい美琴?なんか顔怖えーぞ?何かあったのか?」
「・・・何でもないわよ。そんなの気のせいでしょ」
「そ、そうか、ならいいんだが…」
「お食事中失礼するヨ、お二人さン」
「うわっ!?ちょっとアルゴ!ビックリさせないでよ!」
食事中の2人に突如として声をかける、美琴より一回り背の低い彼女は、このSAOの世界において個人で情報屋を営む「鼠のアルゴ」である
「元気してたかいみこっちゃん?まぁこのシャレにならないデスゲームの中でも彼氏と2人でイチャつける程度には元気ってとこかナ?」
「だからいつも言ってんでしょ!こ、コイツは私の彼氏なんかじゃない!だ、大体私がこんなやつのことなんかす、すす、好きになんてなるわけないじゃない!///」
「どうどう、落ち着け美琴。お前はアルゴに会うといっつもそれだ、それじゃ話が進まないだろ」
「そうだゾ、みこっちゃん」
「こ、このガキ…!」
「で、アルゴ。お前が来たってことはまた何か情報なんだろ?今回はどんな情報なんだ?」
「攻略情報」
「「!!!!!」」
「ってことはつまり…?」
「ああ…アインクラッド第1層のボス部屋が見つかっタ。明日、攻略会議が行われル」
「マジかよ…場所は?」
「『トールバーナ』」
「トールバーナか…ってそれここじゃねぇか!でもありがとよ。おかげで助かったぜ」
「500コル」
「いや金取んのかよ!?クソッ!言葉1つで500コルも儲かるなんて良い商売してやがるぜ!」
「いいわよ、別にアンタが払わなくても。私の方がモンスター狩って稼いでんだから。はい、アルゴ」
「まいド。ついでにこの最新版のガイドブックも渡しておくゾ。安心しろ、これは無料ダ。元々は道具屋でβテスター達と一緒に無料配布していた物だからナ。βテスターが知る役立つ情報や明日のボス攻略会議に必要なボスモンスターとその取り巻きモンスターの情報なんかも載ってル」
「お!アレ新しいの出てたのか!へへっ、サンキュ!」
「へぇ、いい仕事すんじゃない。ありがたく読ませてもらうわ」
「それと…2人にも参考までに現在の死亡者数を教えておくヨ」
「「ッ!?」」
「およそ2000人。まぁこれは金が取れるような情報じゃないネ。じゃ、また良い情報が入った伝えにくるヨ」
そう言い残すとアルゴは自分のフードを深く被り直し店を出て行った
「現在の…死亡者数2000人…か…」
「・・・その、結構…多くない?」
「多いと取るか少ないと取るかなんてのはその人次第だ。でも多かろうと少なかろうと、死んだ人の無念を晴らす為にも、俺らはこのゲームを最後まで攻略して、生きて帰らなきゃいけないんだ…」
「・・・それもそうね。さて、これ食べ終わったら早いとこ宿屋に戻るわよ、グズグズしてられないわ。攻略会議は明日、その為の用意もあるし、それに加えてアンタもこの本にちゃんと目を通しておきなさい」
「ああ、やってやろうぜ美琴」
そう語り合いながらアインクラッド第一層ボスを目前にした決戦前夜は、まるでいつもと何変わらぬように明けていった