タイトル通り。

ドロドロの修羅場に向かっていくお話。




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英雄は、人知れず姿を消す。女は、男と交わる。

「ねえ、こっちを見てよ。」

 

暗い部屋の中、俺が寝ている近くに

もたれかかってくる彼女たち。

 

息が触れるほど近くにいるので、

そのぬくもりを肌から感じる。

 

男女が裸になってすることと言えば

一つだけだ。

 

 

ギッ、ギッ、と音を立てて

女たちが動く。

 

 

俺は死んだように動かない。

 

薬が効いているからか、

体が全く動かせないのだ。

 

 

「私っ・・・幸せっ・・・♡♡」

 

 

恍惚とした笑みを浮かべる彼女たち。

 

女としての悦びに満ち溢れた

その顔を見ているだけで、なぜか

背中が寒くなる。

 

 

全ては、1か月前にさかのぼる。

 

 

 

 

提督となり、艦娘と一緒に日々、戦い続けている

私たち。

 

そして、その日は唐突にやってきた。

 

「・・・・わかりました。」

 

電話で最後の通話を行う。

 

先日、大本営まで出頭し、

受けた最後の命令。

 

 

深海棲艦を倒し、

世に平和をもたらした男として、

活躍した。

 

だが、過ぎた知名度と、

力を持つ人間は危険視され、

排除されていく。

 

 

俺が大本営から実質的に

クビを言い渡されたのも

これが理由だろう。

 

 

だが、俺は後悔していない。

 

深海棲艦たちを倒す前より

もっと複雑な世の中に、

何よりも、自分自身にとって

生きにくくはなったが。

 

 

後悔はしていない。

 

 

執務室に鍵をかけて、

鞄を右手で持ち、鎮守府を

後にする。

 

艦娘たちは全員別の鎮守府に

行き、残った俺が最後で、

この鎮守府は解体だ。

 

今日で脱ぐことになる軍服を

身にまといながら、

俺は鎮守府を後にする。

 

 

ここから、すべておかしくなった。

 

 

 

鎮守府が解体されてから数日後。

 

金はあるが、就職先が見つからない俺は、

とりあえず必要な資材をたんまりと買い、

山で自給自足の生活をすることに。

 

 

とはいっても、誰もいないレベルの

小さな無人島だが。

 

ここには、俺を攻撃してくる

世間の人間はいないから気が楽だ。

 

深海棲艦より、ああいう手合いの方が

相手をしていてよっぽど厄介に感じる。

 

 

水を引き、持ち込んだ食糧を食べながら

作った小屋の中で横になって寝る。

 

 

目を閉じると、今でも戦場の

轟音が鼓膜をやぶかんばかりに

聞こえてくるような気がする。

 

 

あいつらは元気だろうか。

 

吹雪。

加賀。

赤城。

大和。

 

そして、他の皆。

 

俺は、彼女たちに惚れてはいたが、

その気持ちを伝えることはできない。

 

俺は知っている。

 

自分は、誰かに好きになってもらえるような

人間ではないと。

 

だから、自分の気持ちを無視して

艦娘たちに接していった。

 

 

女は男とは別の意味で強い。

 

きっと、今頃はもっとかっこいい提督の

元で活躍していることだろう。

 

人間は見た目で100%判断されるのだ。

 

 

そんなことを考えながら、ふっ、と自嘲し、

自分のバカな考えを頭から追い払って、

布団にくるまって眠る。

 

 

明日から本格的に自給自足の生活が始まる。

 

 

俺は、一人で生きる。

 

 

しかし、その試みも、

たったの一日で崩れることになるとは思わなかった。

 

 

 

体を誰かに揺らされる感覚で目を覚ます。

 

目を開ければ、そこには、

俺が良く知る者たちがじっと俺の顔を

見下ろしている。

 

 

白い人間離れした肌に、赤く光る

怪物のような瞳。

 

深海棲艦。

 

なぜここに。

 

立ち上がろうとすると、

腹を足で踏みつけられ、

地面に押さえつけられる。

 

 

「寝て居ろ。直ぐに終わる。」

 

俺を殺しに来たのか。

 

 

そう考え、身を強張らせていると、

顔を両手で掴まれる。

 

ヲ級が目をじっと合わせてくる。

 

 

恐怖で目をつむると、

次の瞬間に、唇に柔らかな

感触が伝わる。

 

・・・・???

 

目を開けると、ヲ級が私と

キスをしているのが見える。

 

 

あまりの事態に頭の中が真っ白になり、

硬直する。

 

舌をねじこまれ、肺の中の

息を全て吸い込まれる。

 

じゅぞぞぞ、という音をたて、

ようやく、口と口が離れた。

 

 

顔を桜色に染めているヲ級。

 

「やはり・・・・・。思っていた通り・・・ダ・・・♡」

 

手袋をつけたままの右手を私の頬に当て、

うっとりとした顔になっている。

 

「戦場で見かけたとき、ずっと考えていタ。」

 

港湾棲姫が大きな胸を揺らしながら言う。

 

「我々、深海棲艦にはオスの艦がいない。」

 

「だから、もし、私たちにそんなつがいがいたら・・・ト。」

 

「子を作ろウ。」

 

「殺し合いをもって、お互いのことを知り尽くしている

お前とならバ、我々はちぎってもイイ。」

 

「鎮守府にいるときは手出しができなかったガ、

お前がこうして一人になって、絶好のチャンスはめぐってきタ。」

 

「なあに、すべてすぐに終わル。」

 

「それも、とびっきり気持ちがよくて・・・ナ。」

 

 

 

やってしまった。

 

してしまった。

 

裸になって、俺の周りを取り囲みながら

寝ている彼女たち。

 

白い肌に、白くてべたついている

液体が付いており、あたりからは

むわあ、っとした性臭が漂っている。

 

 

童貞で、女経験がない俺が、

一晩で何十人も女を抱くことになるとは・・・。

 

こんな姿を艦娘たちに見られたら、

一体、どんな風に思われるのか。

 

頭を両手で抑え、ぶるぶると震える。

 

弓で射られるか。

爆撃されるか。

雷撃されるか。

 

それとも・・・・。

 

すると、起きていたヲ級が

俺の胸元にしなだれかかってきた。

 

「何を考えていたノ?」

 

まさか、艦娘たちのこととは言えずに

口を紡ぐ。

 

 

だが、深海棲艦たちも女だったようで、

すぐに見破られる。

 

 

「・・・・あの女たちのこト?」

 

息が止まりそうになり、ごまかすために

そっぽを向く。

 

 

「あなたは、私たちと交わっタ。

私たちと同じ、家族ダ。」

 

背中から抱き着いてくる。

 

「だから、私たちを・・・・私だけを見テ。」

 

耳に聞こえてくるささやき。

 

それは、迷子で泣きわめいているような

子供が出す声に似ていた。

 

 

 

「はあ?深海棲艦を見たって?」

 

つっけんどんにそういう私。

 

食堂で漣と一緒にご飯を食べていたら

急にそんなことを言い出してきたのだ。

 

 

「そうだよ。終戦してから、深海棲艦たちは

姿を消したはずなのにねー。」

 

あの終戦の日。深海棲艦たちは消えた。

 

人類にとって、あれだけの恐怖を与えていた

存在が、あっという間に消えたのだ。

 

今まで奴らと戦っていた私には

にわかに信じられないことだった。

 

箸でおかずを指して、口の中に運ぶ。

 

「あんたも知っているでしょ?

奴らはもう、いないはずだって。」

 

「まあ、そうだけどさー。」

 

肘をテーブルについて、

ふーっと息を吐く彼女。

 

 

鎮守府が解体されてからというもの、

私たちはそれぞれ別の提督たちの

もとに配属されることになった。

 

 

・・・・・・あのバカは元気だろうか。

 

そんな風に考えていた私を、

ニヤニヤと笑みを浮かべながら

見てくる。

 

「・・・・・なによ。」

 

「いんやー。別にー?」

 

うざい。

 

何がどうとは言わないけど。

 

すると、食堂でつけられていた

テレビの映像が切り替わる。

 

どうやら、誰もいないはずの無人島に

深海棲艦を見たという噂話の様だ。

 

テレビの方を指さし、

あーっ、と声をあげる漣。

 

 

「これ!これだよぼのたん!」

「ぼのたん言うな!!・・・・ん?」

 

 

気のせいだろうか。

一瞬、見覚えのある顔が、ほんのわずかに

見えたような気がした。

 

しかし、自分の知っている男が

あんなところにいるわけもない。

 

 

・・・・・だって、私にとって、唯一であり、

特別である男なのだから。

 

何をトチ狂ったのか、

大本営はあいつをクビにしてしまった。

 

皆で、大本営を襲撃しようとしたが、

あと一歩のところで思いとどまり、

退職金をもらって、金をふんだくって

からやめることにしたのだ。

 

退役までもう少し。

 

そうしたらお金も入ってくるので、

あいつの元に行くつもりだ。

 

浮いた話の一つもないあいつのことを

思って、私が行ってあげるだけだ。

 

他の娘達からは男として見られていないだろうし・・・・。

 

だから、別に好きだとか、愛しているとか、

そういったことは・・・・。

 

しかし、私は気が付かなった。

 

 

食堂にいた、何人かの艦娘たちは

テレビの方を凝視して、目を離していなかったことに。

 

 

この映像が、後に起こる、大惨事の幕開けだとは

誰もこの時点では気が付かなかった。








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