ROSE・TWINS   作:水川雛乃

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はじめまして、水川雛乃です。

親世代が好きすぎてついつい書いちゃいました・・・
捏造ばっかりです。
親世代の小説出ないかなってずっと言ってる。

ハーメルンに投稿するのは初めてなので、至らないところなど多々あると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ。


菫と百合と衝羽根朝顔
砂色のお城


「リリー!ダメ、ダメって言ってるでしょ!」

 

ブロンドの髪の女の子が金切り声をあげた。

そんなことはお構いなしに、深みのある赤毛の少女は笑い声をあげて、ブランコが一番高いところに到達した瞬間に手を離し、宙を舞った。

そして軽やかに着地し、その緑色の瞳を姉のペチュニアの方へ向けて、再びからころと笑った。

 

「リリー!」

 

ズズっ、とサンダルの踵でブランコを止めてから、ペチュニアは妹の元へ駆け寄る。

 

「そんなことしちゃダメって、ママが言ってたわ!」

 

腰に手を当て、妹のリリーを叱るペチュニア。

しかし、叱られた当の本人は悪びれた様子もなく、楽しげに砂場で遊んでいたもう1人の少女に視線を移した。

 

「どうして?私は何も悪いことはしてないわ。ねぇ、ヴィオ?貴女だって出来るものね!」

 

ヴィオと呼ばれた砂場で城を作っていた少女は、ゆっくりとリリーに顔を向けた。

その顔は、リリーと瓜二つだった。

深いたっぷりとした赤毛。アーモンド型の緑色の瞳。桜色の唇に、少し低めの鼻。

顔で違うのは、眉くらいのもの。リリーの方が吊り気味で、凛とした雰囲気を醸し出している。

 

彼女らは──リリーとヴィオは、双子の姉妹だった。

ヴィオ──ヴァイオレットは、おっとりとした口調でしゃべりだした。

 

「そうねぇ、リリー。確かにそれは悪いことではないし、私だってきっと出来るわ」

 

その言葉に、ペチュニアが羨望と嫌悪がない混ぜになった顔をした。しかし、彼女はすぐその顔をうまく隠した──だから、二人の姉妹が気付くことはなかった。

ヴィオはでもね、と首を振る。

 

「私はママに約束したの。私は約束を守る女の子だから、もうそれをすることはないのよ、リリー」

 

その言葉に、リリーは大げさにため息をついた。

 

「あら、つまらないわ。私たち、本当に双子なのかしら?」

「違いないわ!私が約束に敏感なことと、貴女が高いところが苦手なこと以外は、こんなに似ているんですもの。ねえ、チュニー?」

「全くよ。あなたたち、大人が見たら絶対に見分けがつかないわ。絶対によ!」

 

そう言いながら、ペチュニアはまたしてもやられた、と思っていた。

──今度こそリリーにこの不思議なことをやめさせようと思ったのに。ヴィオにはぐらかされてしまったわ。

ペチュニアがじっとりとした視線を真ん中の妹に送れば、ふんわりとした微笑みを返していた。

気が付いているのかいないのか・・・どちらにせよ、憎めない子だ。

ペチュニアは諦めたように微笑むと、ぱんと手を打った。

 

「そろそろママがケーキを焼いてくれる時間よ、帰りましょ!」

「あら!もうそんな時間?今日は何のケーキかしら!」

 

瞳を輝かせるリリーを見て、ヴァイオレットがクスクス笑う。

 

「いちごのタルトって言ってたわ、楽しみね!でも──悪いんだけど、この砂のお城を完成させてから帰ってもいいかしら?もうそろそろ出来るのよ」

 

その言葉に、今度はヴァイオレット以外の姉妹がクスクス笑いをする番だった。

 

「あら、ようやく完成なの?今日で一週間でしょ?」

「今回はとっても時間がかかったのね、その分超大作だわ」

「もう、からかわないで──私史上最高の城ができるんだから!」

「はいはい、わかったわ。じゃあ、私たちは先に戻ってママのお手伝いをしておくわね。行きましょ、リリー!」

「ええ。ヴィオ!早く戻ってきてね!」

「もちろんよ。」

 

二人の足音が遠ざかってゆく。

その場に立って手を振っていたヴァイオレットは、しゃがみこんで一大傑作である城に手を加え始めた──と、思ったのだが。

 

「もう出てきても大丈夫よ、木陰で窮屈な思いをしている男の子」

「!」

 

バレていたか。

 

彼──セブルス・スネイプは、大きくため息をついて木の陰から太陽の下へ出た。

太陽の光が眩しい。

目を細めつつ、彼はリリーとそっくりの少女の正面に立つ。

しかしヴァイオレットは、リリーとは違う方法で笑った。

音を立てて、スミレが咲き出す様を連想させる、笑顔。

 

「さて、貴方はだあれ?もしかして、リリーに恋焦がれる子かしら?」

「なっ・・・どうして、それを!」

「あら、質問してみただけなのよ?冷静そうな顔をして、随分引っかかりやすいのね」

「・・・・・・」

 

黙り込んだセブルスの前で、可愛らしいその笑顔が、いたずらっぽく歪んだ。

なぜだか、花びらが綻び出す表情より、その顔の方が似合っていると感じた。

 

「・・・なぜ、僕を待っていたんだ?」

「お城を完成させたかったのは本当。」ヴァイオレットはスコップを手に取った。「ただ、リリーに物言いたげな視線を送っている人に気がついたから、姉である私が事前調査しようと思ったの」

「過干渉すぎると妹に愛想を尽かされるぞ」

「心配するのも姉の務めよ?」

 

エヴァンス姉妹といた時とは別人のような混ぜっかえし方だ。もしかして、いつもおっとりとしていて慌てることなどないようなヴァイオレットも、初めて話す相手には緊張するのだろうか?それとも──これが本当のヴァイオレットなのだろうか?

 

考えこむセブルスから視線を逸らして、それで、とヴィオは言葉を続けた。

 

「貴方は誰かしら?そしてリリーに何を言おうとしていたの?」

「僕は・・・セブルス」

「ファミリーネームは?」

「・・・・・・スネイプ。セブルス・スネイプだ。」

 

くそ、これじゃ尋問だ。

 

スネイプ、という名前にヴァイオレットは眉をぴくりと動かした。

ああ、と声を漏らす。

 

「スピナーズ・エンドに住んでる子ね。」

「だからどうした?」

「噛みつかないでよ──私は住んでる場所だけで差別なんかしないわ!」

「どうだかな・・・」

「疑い深い人ねえ。」

 

大袈裟にため息をついたヴァイオレットは、立派な砂の城を更に豪華なものへと改良してゆく。

器用だ。古ぼけたスコップと指先だけで、どうしてそんなに美しい城が作れるのだろう。セブルスもわりと手先が器用な方だが、ここまではなかなか出来ないと思う。比喩ではなく、ヴィオが魔法を使っているように見えた。

 

──そう、魔法を。

リリーそっくりな彼女を、セブルスは真正面から睨みつけた。ヴァイオレットが俯いていたので、旋毛しか見ることは叶わなかったが。

 

「君は何者だ?・・・魔女なのか?」

 

素早く顔をあげたヴァイオレットと目があった。その緑の瞳は、動揺に揺れていた。

彼女はそれを繕うように、また砂をいじりだす。

 

「・・・それがリリーに言いたい事かしら。なら、やめた方がいいわね。失礼だって、嫌がられちゃうわ!」

 

セブルスは、自分の頬がかあっとなったのを感じた。

 

「違う!いや・・・違わない・・・けど、でも、君にも聞きたいんだ。君が・・・魔法が使えるのかどうなのか」

 

沈黙がその空間を支配した。

ヴァイオレットはスコップを手放し、呆けた顔で彼を見ていた。

 

「・・・・・・魔法ですって?」

 

彼女が小さく囁く。今度の緑は煌めいている。

彼は仰々しく頷いた。

 

「そうだ。僕も使える。多分──」

 

君の妹も、と言うのに、セブルスは少し躊躇った。ショックを受けてしまうだろうかと考えたからだ。でも、どうせいつかは知ることになるのだ、早いことに越したことはない。そう思い直し、彼はまた口を開いた。

 

「──君の妹も、魔女だ」

 

「リリーも?」ヴァイオレットは素っ頓狂な声をあげた。「あの子の不思議な力は魔法なの?」

「ああ、そうだ」

「・・・もしかして、からかってる?」

 

セブルスは首を振ると、視線をシーソーの遊具に向けた。途端、キィキィ音を軋ませながら、シーソーが動き出した。・・・もちろん、彼がしたことだ。

 

「まあ・・・」

「魔法なんてもの、すぐには信じられないかもしれないけど・・・君も、何かあったんだろう?不思議なことを、起こしてしまったんだろう?」

「・・・・・・」

 

黙り込んでしまったヴァイオレットを前に、セブルスは慌てて付け足した。

 

「言いたくないなら言わなくていいんだ!僕──僕、君が魔女なのか知りたかっただけだから」

「あらそう?」僕には彼女がホッとしたようにみえた。「別にそういうわけじゃないのよ、ただ思い出そうとしてただけ。根拠については長くなるから言わないけど、私が魔女っていうのは本当なんだと思うな」

「そんな言い方しなくても。言いたくないんだろう?」

「そう思ってるなら、なにも聞かない方が紳士的よ」

 

ヴァイオレットは、おだやかな口調を一転、厳しくさせた。

セブルスは肩をすくめて頷いた。腐っても魔法使いでも英国紳士だ、女性は大事にしなければならない。

 

彼女はにっこりと笑って頷くと、最後の仕上げとばかりに城に白い粒の大きい砂をかけた。

本当に、素晴らしい出来栄えだ。マグルの大人にみせたら天才だともてはやすだろう。

 

「これで完成よ。どうかしら?」

不安げな彼女に、セブルスは本心から「素晴らしいね」と言った。

「ありがとう、嬉しいわ!」

途端に笑顔になるヴァイオレットがおもしろかった。

 

パンパンっと手とスカートについた砂をはらい、彼女は立ち上がった。

 

「・・・貴方、朝には強いほうかしら?」

唐突な質問に、彼は戸惑いながらも答えた。「ああ、まあ、それなりに」

「じゃあ、明日の朝の・・・そうね、5時頃にここに来てくれる?魔法の世界のこと、いろいろ教えてほしいの。・・・だめかしら?」

 

リリーとそっくりな彼女は、リリーとはまた違う意味で魅力的な少女だと言える。

だから、セブルスがリリーというかわいいあの子がいるのに、彼女の上目遣いに少しだけ息がつまったのは、きっと仕方ないことだ。

 

「・・・だめじゃない」

「よかったあ!じゃあ、また明け方にね」

 

彼女はそう言って、スコップを手に駆けだした。

きっと、リリーたちはちょうどいちごタルトの準備ができたころだろう。

いつかリリーとも、逢い引きのようなことができたら。

そんな夢をみつつ、セブルスも家路についた。

いつもより、足取りは軽い。

 




オリ主のヴァイオレット[Violet]ちゃん、愛称はヴィオ[Vio]です。
リリーと瓜二つ!


・エヴァンス
原作では「エバンズ」表記ですが、僕的には[Evans]は「エヴァンス」というふうにしか読めないのです。
というわけで、このSSでは「エヴァンス」表記でいきます、ご了承くださいな。


・リリーに恋焦がれる子かしら?
セブっていつからリリーのこと好きなんやろな?って考えてみたんですけど、リリーちゃんあんなにかわいい子だもの、一目惚れっていう可能性あるなって思って…
ヴィオちゃんは本当にカマかけてみただけで、まさかマジでセブがリリーのこと好きとは思ってませんでした。わーお!


章の名前である衝羽根朝顔はペチュニアの和名です。
この姉妹でブーケを作ったら個性の大暴走になりますね。笑


感想、評価、ご指摘などなど、なんでもお待ちしております。


次回は僕の最推し、わんわんが出てきます。
お楽しみに!


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