騎士王さんとアーチャーの話   作:ミドリムシ師

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ようやくアーチャーさん登場です
先は長いですね〜



その体はきっと、

「…で、朝起きたら士郎が倒れてたってわけ?」

 

「はい…」

 

 

 

 

 

早朝、屋敷中に少女の悲痛な叫びが響き何事かと駆けつけた遠坂凛が見たものは、体を無数の剣で貫かれ、血を撒き散らし虫の息となった衛宮士郎と、泣き出しそうな顔で彼を抱え、必死に呼びかけるセイバーの姿であった。

 

 

 

 

現在、ひとまず士郎を出来るだけ負担が少ないような体勢で寝かせ、少しでも回復を見込んでセイバーに彼の手を握ってもらっている状態だ。

 

 

 

なにせ未だに剣は残ったままで、今もギチギチと音を立て蠢いているのだ。

 

 

 

当然彼の顔色は良くない。鞘の力があるにも関わらず徐々に悪くなっていく一方だ。意識も戻らず、全身に汗と血を滲ませ、時折ビクリと跳ねては苦悶に満ちた声を漏らしているその姿は、見ているだけで痛々しい。

 

 

 

 

「今日は桜が不在でよかったわ。士郎のこんな姿を見たら取り乱しかねないもの」

 

 

 

様々なやり方で士郎の体を診てみたが、あまり得られるものはなかった。立っていても落ち着かないので士郎を挟む形でセイバーと向かい合って座る。

 

 

 

「一体シロウに何が起きたのでしょうか…?」

 

 

 

心配そうに彼を見つめるセイバーにいつもの覇気はない。その瞳は、不安と後悔の色に染まっていた

 

 

 

「分からないわ。分かるのは士郎の魔術回路が暴走しているってことと、これらの剣が全て内側から出ている(・・・・・・・・)ってと。それにあまり時間の猶予は無いということだけよ。」

 

 

 

 

それより、と付け加え

 

 

「貴女ががそんな顔をしてどうするのよ。セイバーには何の責任もないわ。…貴女の力がシロウの命を繋いでいるのだから、しゃんとしなさい。」

 

 

その言葉にセイバーはハッと顔を上げる

 

 

 

ーーーセイバーにとって彼は文字通り剣と成り、守ると誓った大切な人だ。きっと、最も近くに居ながら彼の異変に早く気がつかなかった自分を責めているのだろう。

 

 

 

けれど、だからこそ分かることもある

 

 

 

「セイバーが何も感じなかったということは誰かが侵入して士郎を攻撃した可能性は少ないはずよ。私はついさっきまで徹夜で研究してたからキャスターによる遠隔魔術って線もないと思う。」

 

 

 

そう、セイバーならば隣の士郎の部屋に誰が入った地点で直ぐに臨戦態勢になるはずなのだ。

 

以前、士郎にイタズラしようとしたライダーが大変な目にあっていたのは記憶に新しい

 

 

 

 

…一番大変だったのは、夜中起きてみたら目の前で二人の怪力サーヴァントが狭い部屋で暴れまわる恐怖と、破壊された屋敷を直す苦労を味わった家主なのだろうがーーー

 

 

閑話休題。

 

 

 

「では、アサシンはどうでしょうか?ハサンであれば気配遮断のスキルで忍び込み、何らかの毒物をシロウに与えた可能性も…」

 

 

 

セイバーが言うことは正しい

もはやこの屋敷で誰にも気づかれず侵入し、あまつさえ衛宮士郎に攻撃できる人物は彼くらいしかいない…のだが

 

 

 

「間桐臓硯がいない今、彼が士郎を狙う理由が無いわ。感情で個人に攻撃するようなヤツでもないし、慎二も桜が怖くてそんなこと命令できないでしょ。それに一応昨晩はアーチャーが見張りをーーーー」

 

 

していたのだから。と言いかけて凛の顔が固まった

 

 

 

「ーーーーーーーー凛?」

 

 

突如言葉を失い、動揺している彼女を不思議に思い声をかける

 

 

 

「…ごめん、少し出かけてくる。士郎をよろしくね。」

 

 

「凛、どこへ行くのです?」

 

 

強張り、先程までとは顔付きが違う凛に、思わず立ち上がりそうになる。

…セイバーには何故か、彼女が泣いているように見えたのだ。

 

 

 

「ちょっとあのバカを探しにね。全く、契約切ったせいでいちいち街中探さないといけないコッチの身にもなれっての…ッ」

 

 

さっさと身支度を済ませ、部屋から出て行った凛をセイバーは見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

赤いコートを纏い、肩で風を切る彼女の顔は険しい。遠坂凛の本性を知らない学友が見れば、良く似た別人なのではないかと思ってしまえるほどにその眼光は鋭かった。

 

 

ひときわ高いビル、鉄橋の上、見渡しが良い場所、セール中のスーパー、港の釣りスポット…

 

彼がいそうな場所はあらかた探したが手がかりはなかった。

 

 

「ーーーーーーーはぁ…」

 

 

怒りで興奮した頭を冷やすために立ち寄った公園のベンチに座る。

 

 

 

「全く、何処にいるってのよ」

思わず空を見上げ、ぼやく。

 

 

 

凛はあの士郎の姿を見たときから妙な既視感を抱き、頭のどこかで引っかかっていたのだ。

 

 

そしてセイバーと話していて思い出した

 

 

「ーーーーッ!」

 

思い出して、また血が頭に上ってしまう。

 

 

 

 

 

 

串刺しにされ、無数の剣を背負う彼はーー

 

 

「あれは…!あの姿はまるで…ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーいつか夢に見た、少年の成れの果て(理想の姿)のようではないか

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

 

 

そのころ衛宮家

 

 

一人残されたセイバーは動くこともできず、刻一刻と弱まっていくマスターの手を握り、その様子を見ることしかできずにいた。

 

 

「ーーー私は、無力ですね」

 

 

つい弱気になって独り言を言ってしまう。

 

そこへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事はない。ーーーー衛宮士郎は…お前に救われている。」

 

 

 

赤い外套に身を包んだサーヴァントが現れた

 


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