森のピアノと   作:さがせんせい

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1年半くらいぶりの更新でしょうか?
よもや2話目の投稿があるとは誰も思っていなかった。
けれど帰ってきましたとも。
ピアノの森はアニメが放送され、ユーフォは映画化。これは、書くしかないと。
作者の最押しは奏ちゃんなんですけどね。というか、ユーフォパートの4人が大好きなんですけどね。
さて、彼女たちの絡む話でひとつ話を書くのも楽しそうですが、まずはこのクロスオーバー、2話目をどうぞ。


低音パート

 お互いの自己紹介も終え、とりあえずのところ談笑に移った俺たち。

 低音パートの人たちはみんな接しやすく、あすかさんを筆頭に話が弾んでいく。

 練習時間というより、俺の紹介や馴染むための時間なせいか、教室にいる皆が楽器を持たず、話に集中していた。そのぶん、残りの時間の練習は濃くするって、あすかさんは最初に言っていたけれど。

「ほほう、つまり一ノ瀬くんはほんとに小さい頃からピアノを弾いて過ごしてきたわけだ」

「はい。それはもう、当時は森のピアノそのものが遊び場だったんですよ。あのピアノがあったから、いまこうしていられるってのもありますけどね」

 いまは俺がピアノを弾くに至った経緯を説明している最中であり、ところどころでみんなからの質問も受けているところだったりする。

 俺の出生や住んでいた場所だけは言うことができないのではぐらかしたけど、どうやらそこに関しての興味はないようで助かった。先生からも注意しろって言われていたからな。

「にしてもピアノが遊び場ってのも不思議な話だよねー」

「おとぎ話みたいで素敵じゃないですか」

 あすかさんの言葉に反応を示したのは、今年高校生になったばかりの川島緑輝。緑輝でサファイアと読むらしいけど、本人はあまりよく思っていないらしく、「みどり」と名乗っているとか。

 楽器はコントラバス担当で、中学校でも演奏してきたと話していたっけ。

「おとぎ話か」

「夢があっていいねぇ」

 大柄の、メガネをかけた男子と、ぽわぽわした雰囲気の女子が二人で話しているのが目に留まる。

 二人はチューバ担当で、男子の方が後藤卓也。女子が長瀬梨子。卓也は真面目そうで、口数は多くなさそうだけど、しっかり聞いているようなタイプで、梨子は雰囲気の通りなのかな。前に誰かが癒し系って言葉を使っていたけど、それが当てはまりそうだ。

「そうか?」

「そうだよ。だって、本当に夢見たいなお話だったから」

 自己紹介もそこそこに二人の世界に入りつつあるな。よし、あのままにしておこう。

「ちょいちょーい。二人だけの世界に入り浸るのはいいけど、二人だけのときにしてよねー」

 あすかさんが突っ込むとすぐに独特の世界から帰ってきたみたいだけど、梨子の方は顔を赤くさせると慌てた様子で手を振っていた。

「うわぁ……モロバレ」

 何事かを知っている様子でつぶやいて、すぐさま口を手で塞いだのは黄前久美子。

 今年入ったばかりの1年生らしい。緑輝と同じだな。

「モロバレ?」

「あっ、いや! なんでも! なんでもないです!」

 聞き返してみると、慌てた様子で手を前に突き出して振る動作を繰り返す。

 第一印象は、どこか冷めたような、落ち着いた雰囲気が見られたが、接っしてみると、中々どうして。少しだけ印象が更新された。

「そういえば、一ノ瀬先輩って、北宇治に転校してきたんですか?」

 なんて考えていれば、活発な印象の女の子が、元気良く手を上げてから質問を口にする。

「あ、それみどりも思ってました! どうなんでしょうか?」

 一人、また一人と視線が突き刺さる。

「あー……転校じゃないよ。しばらくこっちにはいるし、ほぼ毎日北宇治の吹奏楽部には来るけど、高校は変わらない、かな」

「え? じゃあ、毎日学校終わってからこっちに来るんですか? うひゃー、大変そう……」

「うーん、それも違うというか……なんだろう、学校行ってる場合じゃない、みたいな?」

 応えると、俺とあすかさんを除く全員から訝しげな顔をされた。

 元々、高校にだって毎日通っていたわけじゃない。

「誰かにノートを取っておいてもらうのなんてしょっちゅうでさ、進学校だから勉強だけはなんとかしてるけど、そう通っているわけじゃないんだよね。だから、こっちにいる間も何度かは戻って授業受けて、で、残りはこっちで皆と演奏って感じ」

 これが俺と先生の予定。

 でも、テストも落とせないからなんとかするしかない。

「ほぼ毎日なんて言ってるけど、実際はそう毎日来れるわけじゃないよ」

 ここまで話しても、やっぱり表情は変わらない。

 別に、理解が欲しいわけじゃない。一般的に言うのなら、多分理解されない話だから。

 俺と先生の――より詳しく言うのなら、先生の目的には多分、俺の高校卒業がどうとかは含まれていない。今は日本にいるから、高校に通っているってだけの話だと思う。

「必要なのは、そこじゃないんだよな」

「ほほう? どういうことかな?」

 隣で、小さな声が響く。

 独り言に目ざとく食いついてくるあすかさんの目には、興味と、わかりづらいけどどこか冷めた感情が入り混じっているように見えた。

「先生との約束、ですかね。それを果たすために、俺はいるんだと思います」

 もっとも、先生が本当に目指しているのは、その遥か先なんだろうけど。

 この日本で俺が活動するには、足枷が多すぎる。だからきっと、阿字野は俺を海外に出したいんだ。それに今回の遠出は、ショパンコンクールに向けての……。

「約束ねぇ。ふーん、そっか」

 一人で納得されてしまった。

 俺の周りにはいなかったタイプの人だな、この人。

 野生の動物たちの鋭さとも、臆病さとも違う。

 目標に燃えるような人柄でも、冷めきっているようにも見えなくて。枯れているわけじゃない。

 阿字野とも、ジャンとも違う。もちろん、レイちゃんとも。出会ってきた人たちの中に、あすかさんと重なる人なんていない。

「そういえば、進学校って言ってたけど、一ノ瀬くんはもしかして、勉強できる人なのかな?」

 あすかさんとの会話は聞こえていなかったのか、梨子が聞いてくる。これ以上の追求はなさそうだし、梨子の質問に応えても問題なさそうだな。

「んーできると言うか、できるようになるまで勉強してきたって言うか。赤点とか取れないし、成績は保てるように学んでるよ」

「秀才!」

「うわぁ……」

 1年生の子たちから各々の声が漏れる。

「あの、コンクールの出場経験はどうなんですか? 今回はピアノ関係のために来ているんですよね? あ、それともオケなんですか?」

「どっちもだよ。コンクールは――小学生のときに1度と、つい最近の2回だけかな。小学生のときはてんでダメ。前回のは……いい経験だった、かな?」

 小学生のときのはともかく、前回のは調べれば出てくるだろうな。

 俺のことを熱心に調べるかは別として、ネット検索でもすれば、ヒットする可能性は高い。とはいえ、出てくるのはソリスト賞を取ったってことだけど。

 あのときは1位に該当者がなくて、初めてソリスト賞に選ばれて、最初は焦ってたっけなぁ。

「JAPANソリスト・コンクール、だったかな」

「ん? それって確か……」

 あすかさんが顎に手をやって、なにかを思い出そうとしている。

 この人、音楽的知識もあるみたいだし、もしかしたらピアノコンクールに関しても知っているかもな。

「なんだったかなぁ。どこかで見た気がするんだけど。まあ、それはあとにしよっか。ほーら、練習始めるよー」

「「「「はーい!」」」」

「はい」

「……はーい」

 パートでの全体練習の後、楽器ごとに各々の場所に移っていく。というより、個人練だ。

 コンクールメンバー以外の人たちはまた別メニューでの練習のため、更に他へと移るらしい。

「みんなの練習聞かせてもらったけど、やっぱりあすかさんの音、違ったなぁ。でも、みんな上手かった。いい音だった」

 あの音がひとつひとつ重なって、音楽を奏でるんだよな。

 早く聴いてみたいし、合わせたい。ピアノを弾きたくなってくる。

「あの喫茶店、また弾きに来てもいいって言ってたな。帰りも寄って行こうかな」

 阿字野がこっちで用意してくれた寝ぐらもあることだし、幸い、そこからも近い。ピアノが弾ける環境は寝ぐらにもあるけど、せっかくなら喫茶店で弾かせてもらおう。

「あ、一ノ瀬くん。これで部活動の時間内での練習は終わりだから、音楽室に戻るよ」

 パートで集まっていた部屋に戻ってくると、撤収を始めている梨子が教えてくれる。

 そのまま、卓也も加わって、3人で話しながら戻ると、ほとんどの生徒が戻ってきていた。

「じゃあ、私たちは席に行くね」

「またな」

「おう、ありがと」

 で、俺は席なんかないんだけど?

 入ってきて棒立ちになると無駄に視線を集めるわけで。あー、とりあえず、どこか居場所を見つけないとな。

「おや、一ノ瀬くん。キミはこちらですよ」

「え? あ、はい」

 そこにタイミングよく入ってきた滝先生が、手招きをして俺を呼ぶ。

 けれど、その場所は滝先生の横なわけで。

 最初に自己紹介をした位置とほとんど変わらない。

「さて、皆さん。今日から一人仲間が増えました。明日以降も、皆さんのパートを回ってもらうことなります。彼のことが気になることもわかりますが、けれど。我々がコンクールの最中であることも忘れないでくださいね」

 そう締めくくった滝先生の話も終わり、部活動の初日は終わりを告げた。

 本当は、そのままピアノを弾きに帰りたかったのだが、吹奏楽部の皆から色々な話を振られ、かなりの時間を使ってしまった。

 滝先生の協力がなければ、帰れないのではないかという具合にだ。

「それでは一ノ瀬くん。阿字野先生の期待もあって大変かもしれませんが、明日からもよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

「キミも、なにか掴めるといいですね。ああ、それと、これ」

 滝先生が箱から取り出して、差し出してきたのは、小さなおもちゃのピアノ。

 昔、バーで1度弾いたピアノにそっくりだ。マスターはディスプレイ用に買ったって言っていたっけ。

「これは?」

「棚を整理していた際に発見したものです。動作は問題ないので、一ノ瀬くんさえよければ、ぜひにと」

「――懐かしいな。いいんですか?」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「気に入っていただけたなら良かったです。では、帰りも気をつけて」

 受け取ったおもちゃのピアノが壊れないよう箱にしまい直し、カバンに入れる。

 音楽室への道を覚えながら校門へと向かいながら時間を確認するが、やはり、これから喫茶店に寄るには少し厳しいだろう。

 夜は酒場だって言っていたし、流石にマリアのときのように誤魔化すのは効かないか。

「楽しかったけど、こりゃ今日の演奏はなしだなぁ」

 残念だとは思う。

 喫茶店なら、誰かに向けて弾くこともできたし。でも、歳の近い人たちと普通の話すのなんて、かなり久しぶりな気もする。

 だからなのかはわからないけど、悪くなかった。

「北宇治高校、吹奏楽部か」

 思っていたよりも、俺が学ぶことはまだまだ多いみたいだ。

 先生のために、自分のために。

 もっと、もっと弾きたくなる。

「帰って自主練だな」

 行きは時間に余裕もなく、景色を眺めながらとはいかなかったが、帰りはその余裕があった。

 いや、あってしまった、と云うべきなんだろうか。

「ん?」

 川沿いの帰り道に、膝を抱えて顔を埋める女の子が一人。

 顔こそ見えないものの、赤いリボン型のヘアクリップが覗いている。

 随分と小柄な印象なんだけど、なんだろう? 学生服のままだし、学校帰りかな。普通の学生ってあんな風に川沿いで丸くなるもんだっけ。

「はあ……さって、どうしたもんか」

 どうやら、俺はまだ帰るには早いらしい。

 




カイの過去話等は話を進めるうちに補足していきます。
ピアノの森の原作知っている方がハーメルンにどれだけいることやら……。
そんな人たちにもわかるように書いていくようにします。

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