かささぎの梯   作:いづな

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長らくお待たせしました、続きが出来たので投稿します。




第十八話 『ウォーフェット一家④』

そもそもが、初めからおかしな状況であった。

今朝起きたら始まっていた、街の住民による唐突な村八分。

レオリオ曰くシュルトの生家であるウォーフェット家の指示らしいが、オレを街から追い出したいのならもっと良いやりようがいくらでもある。

にも関わらず、住民による理不尽な迫害と、彼らを使った一方的な監視。

まるで理解不能な状況を演出する事で、イナギという人間の底を確かめているかのようだった。

 

そして今。

複数の拳銃という暴力を一瞬で無力化したイナギは、彼らには近づこうとはしなかった。

意識を失った彼らを前に警戒を続けたまま、大きな溜息を吐き出した。

 

「なんか、悪いことしてる気になるから嫌なんだよなぁ。念使えない人と戦るのって」

 

独り言にしては幾分大きな声だったが、それに応える声はない。

しかしイナギは何も気にしてないように、再度その場から投げかける。

 

「用があるなら、直接話しません? 」

「……」

「いや、いるのはもう分かってるから」

 

その言葉で観念したのだろう。

拳銃片手に倒れ伏すマフィアの後方。まだ明るいのに何故か松明が灯る鉄柵の裏から、一人の男が姿を現した。

ブランドものだろうか。チャコールブラウンの品ある背広を自然に着こなし、顔には人好きのする朗らかな笑みを浮かべている。

 

「"絶"が、乱れてましたか」

「こいつ等、アンタの部下か? 崩れ落ちた時に、ほんの一瞬だけな」

「まだまだ、修行が足りませんねぇ」

 

あぁ、未熟でお恥ずかしい。そう言って振る頭は、スーツと同じ茶褐色。

長身、手足が長く、痩身とまではいかない均整の取れた体躯。

その身を包む洗練されたオーラは、言葉とは裏腹に彼が習熟した念能力者であることを示してる。

 

「シュルトのお仲間、でいいのか? 」

「はい。ウォーフェット家の若頭、ジルフ=プレナドートと言います」

「そうか、俺はイナギ。シュルトに念を教えてる者だが」

「……はい、はい。よくよく知っています。ハンター試験以降、シュルト坊ちゃんがずっとお世話になっているようで」

 

相変わらず笑みを絶やさないが、念の話題を出した際に少しオーラが揺らいだ。同時に漏れ出る、ごく僅かな殺気。

その時イナギの脳裏に浮かんだのは、念に纏わるシュルトの境遇であった。

彼は7歳からの5年間、ウイングから教わった"燃"を愚直に続けたと言っていた。間近にジルフ=プレナドートという念能力がいたにも関わらずである。

つまり何らかの明確な意図をもって、シュルトには念の存在が秘匿されていた?

 

「――知ってるなら話は早いか。シュルトに会いたいから、ちょっとお邪魔させてもらうよ」

 

まぁそんな疑念はうっちゃっといて、何はさておきシュルトに会うことである。

そんなイナギのつかつかとした歩みに合わせて、ジルフもスッと前に出てきた。

5mほどの距離を空けて、対峙する2人。

 

「ここから先は、立ち入り禁止ですねぇ」

「あー、そりゃ急だもんな。悪かった。だったら、シュルトをここに呼んでもらえないか? 」

「現在、シュルト坊ちゃんは多忙ですので。お引き取り頂ければ」

 

柔らかいもの腰ではあるが、キッパリと謝絶される。

とはいえガキの使いじゃあるまいし、はいそうですかとなる筈もない。

 

「いやいや、取り次いでくれるだけでいいからさ」

「どうかお引き取りを」

「今朝待ち合わせをすっぽかされたのはこっちなんだが」

「お引き取りを」

 

そうして少しだけ粘ってみるが、全く取り付く島がない。

 

……一応シュルトの実家であるし、事態を平和裏に済ませればと思っていた。

だからコイツらの真意が何であれ、シュルトに会えるならとここまで付き合ってきたのである。

にもかかわらず、この期に及んでけんもほろろ。しかも実害0とはいえ、拳銃まで向けられたのだ。

だとすると、これ以上大人しくする必要性は皆無である。

 

「ここまで来たのに、会わせてすらもらえないってか。仕方ない、帰るとするさ」

「ご納得いただいたようで」

「――ちょっくらお邪魔して、シュルトの顔を見てからさ」

 

そのイナギの言葉に、ピシッと、二人の間の空気が軋む音がした。

 

「つまり、私の言葉では納得頂けないと?」

「すぐそこにいるんだからさ。それが嫌なら、さっさと連れて来いよ」

「……あぁ、残念ですね。命の恩には命で以て。穏便に済ませられるなら、越したことはなかったんですが」

 

一度穏便の意味調べてこい!

そう叫ぶイナギの耳に、どこからだろうか。微かに、カタカタと震える無数の音が聞こえ始める。

揺れで金具を外そうとしているような、その鳴動は止まることがない。

むしろ段々と大きさを増していき、最後はピンッと何かが外れた音。

 

「これは、ちょっと予想外だな」

 

その音の出所が明らかになった時、イナギは思わず息を飲んだ。

それは、敷地を囲う巨大な鉄柵に備えられていた数多の松明。

火勢が増し火の塊となったそれらが、まるでジルフに従う忠臣のように広がっていた。

その数、およそ30。

 

「まぁ、腕の1本や2本、なくても生きていますから。ご自身の疑わしい背景と、聞き分けの悪さを恨んでくださいね」

 

そう言って、静かに笑う若頭。

しかしその糸のような目から覗くのは、彼の念能力とは真逆の、猛禽のように冷たい瞳であった。

 

 

 

 

かささぎの梯

第十八話『ウォーフェット一家④』

 

 

 

 

「疑わしい背景って一体」

「話してる暇あるんですか? ちゃんと抵抗してくださいね、死にますよ」

 

そう言って、指揮棒のように指を振るう若頭。

呼応して、炎塊となった松明が一斉にイナギを襲う。

 

「ここ、までの念使いが、いるなんて、聞いてない、よっ、と! 」

 

というかこのレベルの使い手が身内にいるなら、さっさと念教えといてやれよ!!

なんて心の中で八つ当たりしながら、倒れるようにして火の奔流を躱す。

そのまま勢いよく身を捻り、横から回ってきた数本を"周"をしたボストンバックで打ち払った。

 

「――ッ! なかなかいい念の込め具合で! 」

「そちらこそ、流石は心源流の師範代」

 

返事と共に、弧を描いて戻ってくる炎の群れ。

飛び起きたイナギはギリギリまで引きつけてから横に避けつつ、直撃コースのものはバッグの底面を盾とした。

 

「受けましたね。それ、頂きますよ」

「どういう、うおっ!! 」

 

発言の真意を測りかねた瞬間、炎が異様な速度で広がり、バッグ側面に燃え移る。と同時に暴れ始めた為、急いで手を離し飛び退る。

哀れバッグは炎に包まれ、群れの一部として若頭の方へと下がっていった。

 

――物体操作。対象の数と込めている念の量から、操作系で間違いない。

そして底部が燃えたボストンバッグが、若頭の元に飛んで行った事を考えると。

 

「……燃やす事による物体操作、か。中々いい趣味だな」

「お褒めに与り光栄ですね」

 

いや、褒めてない。純度100%の皮肉である。

 

「正直、私の念は手加減に向いてません。先ほど腕の1本や2本と言いましたが、消し炭になるという意味です。ここで退くなら、これ以上追いませんが」

「そりゃご親切なこって」

 

会話しながらも身構えるが、ジルフは律儀に返答を待つようだ。

その言葉に悩むふりをしつつ、イナギはこの状況について考えを巡らせる。

 

身近に能力者がいるのに、念の存在を知らされていなかったシュルト。

住民に指示して街から追い出そうとし、拳銃は向けられるも結局発砲はされていない事実。

若頭の口から出た、『疑わしい背景』と『穏便に済ませられるなら』の下り。

 

――つまりシュルトが念を覚えた事は、彼らにとって都合が悪かった。

しかしその元凶(イナギ)は、試験中にシュルトの命を救っている。

同時に疑わしい背景もあったが故に、善意と悪意どちらの人か判断つかず、とりあえず穏便に退場願おうとした?

 

「ありがたい話だが、俺には不要だな」

 

そこまで頭を回した所で、イナギは一先ず打ち切った。

 

「……どういうことでしょう? 」

「すまんすまん、分かりにくかったか」

 

結局、上記は全てイナギの想像に過ぎないのだ。

そして彼らが対話を希望してない以上、事態を打開する糸口にはなりえない。

いま必要なのは、まず彼らを話し合いのテーブルにつかせること。

 

「アンタの念、俺との()()()()()みたいだからな。格下の滑稽な勧告なんて、聞く必要あるか? 」

 

その為には、こちらが格上だと力を見せつけることである。

 

「その言葉、後悔するなよ」

 

とはいえ、ここまで煽り耐性が低いのは正直想定外だった。

笑顔のまま、盛大に青筋浮かべてブチギレてる若頭。

彼が火群に突撃を命じるのと、俺がポケットに手を入れるのは同時だった。

 

「いけ――ッッ!!? 」

「残念ながら、俺の方が早いんだよなぁ」

 

飛びかかってきた火柱が、パァンという音と共に吹き飛ばされる。

その打撃音は瞬間的に何度も響き、火勢が寸暇に撃ち落とされていく。

 

「――なに、を」

「簡単な話さ」

 

飛んでくる火の速度は、精々自動車程度。

そのくらいなら難なく目で追えるし、俺の拳の方が断然早い。

 

「アンタの火が届く前に、拳で撃ち落とした。それだけだ」

 

すると後はキャパシティの問題なのだが、現在ジルフが操っている火柱は31。

しかしイナギは、その数が倍だとしても捌けるくらいには余裕だった。

この程度、心優しき師範ども(アラマ爺とビスケ)の修行に比べれば、お茶の子さいさいである。

 

「まだです! 例え撃ち落とされても」

「少しでも燃やせれば、ってか? 」

 

そう思ってる時点で、アンタの負けなんだよなぁ。

 

「残念。アンタの炎じゃ俺は燃えないよ」

「何を馬鹿な」

「騙されたと思ってさ、"疑"してみなよ」

 

一体何が、とオーラを目に集めたジルフ。

するとイナギの姿が掻き消え、代わりにに佇むは物々しい全身甲冑。

 

「――"隠"。念の鎧、ですか」

「その通り。で、俺のバッグ、底に板が入っててさ」

 

金属製なんだと言いながら、絶賛燃焼中の鞄を指し示す。

既に燃えて原型は留めてないが、底部は燃えずに残っていた。

 

「火の性質はイジってないんだろ? その程度の火力だったら、ほら、やっぱり()()()()()

「この短時間で、そこまで」

「師の教えが良かった、とでも言っておこうか」

 

などと余裕ぶってはいるものの、イナギの心臓は正直バクバクであった。

何故ならこの『燃やしたものを操る能力』、凶悪の一言に尽きるからだ。

 

まず人間とは、全身の3割程度に負った深さ数mmの熱傷が、致命傷になる生き物である。

それは念能力者も同様で、オーラを纏えば多少強くはなるものの、燃えれば痛いし生死にかかわる。

その上で、この能力で燃えた部分はコントロールを失うのだ。

火を消そうとしても邪魔されるし、その間にも熱傷は広がる。

控えめに言って悪夢である。

 

一方で、その攻撃も操作も燃焼を起点とする。燃やされなければダメージは受けないし、操られることもない。

そして金属の底板が溶けていないという事は、念鎧さえ着てればイナギが燃やされることはない。

相性が良いと言ったのは、そういう意味であった。

 

「まだ終わっては」

「いやいや終わりさ。ここ一帯を焼いてまで続けるなら、話は別だけどさ」

 

とはいえ負け筋はあって、物量差で攻めてイナギを蒸し焼きにすること。

しかしここはウォーフェット家の本拠地なので、当然そんなこと出来る筈もない。

だからここいらで手仕舞いにしよう。

 

「俺はただ、シュルトに事情を聞ければそれでいいんだ。取り次いでさえくれれば、ん? 」

 

その時、イナギは何かが聞こえた気がした。

初めは甲高い鳥の鳴き声。次は、やけに飛ばす車のエンジン音。

丘に吹きつける海風に紛れて、確かに聞こえたハイトーン。

 

――ィィィィィィィィィ

 

発生元は、ウォーフェット家敷地の遥か奥。

同時に緑溢れるなだらかな丘陵を、猛烈な勢いで近づいてくる黒点。

 

「ぃぃぃぃぃぃいぃぃ! 」

 

間もなくそれが声だと分かり、叫びに変じ、指先ほどだった音源がどんどん大きくなっていく。

 

「ぃぃいいいい、ナギ、さぁぁあああああん!! 」

 

小柄な人影が叫んでいたのは、他でもないイナギの名前。

最高速を維持して走り込んで来たのは、半日ぶりに会うシュルトだった。

 

「イナギさん! 」

「お、おお」

「迎えに行けなくてすいませんでした!! 」

 

あまりの気迫に面食らうイナギに向けて、浴びせかけるように頭を下げるシュルト。

 

「ちょっと家のアレコレでですね、僕も初めて聞くことばかりで混乱してて。一応伝言は若頭に頼んだんですけど」

「伝言、ねぇ」

 

チラッと横を見ると、スッと顔を逸らす眼鏡。

あー、なるほど。今朝からの一連の出来事は、本人の与り知らない所で勝手にやっていた、と。

そんな微妙な空気を感じ取ったのか、シュルトの目が細くなっていく。

 

「あれ、イナギさん。もしかして伝言届かなかったですか? 」

「そうさな、色々あったけど、結果的に会えてるからいいんじゃないか。ねぇ若頭さん」

「はい、そうですね」

 

――おまえ、これ貸し1だかんな。合わせろよ。

そう目で告げると、驚きを瞬時に隠して話に乗ってくるジルフ。

しかし目の前のちみっこは、その程度で逃してはくれないらしい。

 

「色々あった、ですか。分かりました。ちなみにジルフさんに質問なんですけど」

「なんでしょう」

「なんでイナギさんと戦ってたんですか? 」

 

まぁ、そうなるよな。

いきなりの襲来だったので、燃え滓やら何やらはそのままだったし。

 

「ちょっと、坊ちゃんの師として相応しいかをですね」

「若頭」

 

その一言と、微笑み。

今の所イナギには向けられたことがない、言葉と態度の冷たさである。

 

「ちょっと後で、じっくりと、お話ししましょうね」

「……わ、分かりました」

 

この世の終わりとばかりに膝をつくジルフはもう目に入らないようで、シュルトはイナギに向き直った。

 

「すいません、イナギさん。迷惑かけちゃったみたいで」

「いや、それは大丈夫だが。家庭の事情でゴタゴタしてたって聞いたが、何かあったのか? 」

「えぇ、まあ。もう終わった話ではあるんですけどね。付随してお願いもあるので、イナギさんにも知ってもらった方がいいかもしれません」

「分かった、聞かせてもらおうか」

「はい。――とはいえ、立ち話もなんですし、中でお茶でも飲みながらにしましょう! 」

 

ついてきてください、案内しますよ!

相変わらず物理的に落ち込んでいる若頭は放って置かれたまま。

シュルトは飼い主に懐く犬みたいに、とっても人懐っこい笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

――うん、コイツはなるべく怒らせないようにしておこう。

そう心のメモ帳に殴り書いて、イナギはシュルトに導かれるまま、ゆるっとウォーフェット家に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

△▼

 

 

 

 

 

通されたのは、邸内にある巨大な応接室。

ソファに腰かけて待っていたのは、筋骨隆々の偉丈夫だった。

 

「おぉ、アンタがイナギさんか! 」

 

年のころは、男盛りの40手前。

日に焼けたボルドーレッドの髪に、オールドダッチスタイルの髭。

見るからに高級そうなスーツは筋肉ではじけ飛びそうになっており、声も見た目同様かなりデカい。

 

「パーパ、紹介前だよ。イナギさん、この人が僕の父、アレキス=ウォーフェット。そしてパーパ、こちらが僕の師匠のイナギさん」

 

アレキス=ウォーフェット。

こちらの姿を見るなり立ち上がった彼こそが、ここペルレモを支配するウォーフェットファミリーの組長であった。

 

「どうも、シュルトに念を教えています、プロハンターのイナギといいます」

「アレキスだ。試験ではシュルトが世話になったみたいだな。命を救ってくれてありがとう」

 

シュルトの紹介に合わせてツカツカと近寄り、握手と同時に頭を下げてくる。

それが異例な対応であるのは、後ろに控えるジルフの慌てぶりから容易に理解できた。

 

「一つ聞きたいんだが、ライバルの命をどうして助けてくれたんだ? 」

「まぁ、子どもを見殺しにするのは忍びないと言いますか。その前の試験で協力し合ったのもあり、自然と」

「なるほど、そういう感じか。ほれ見ろジルフ、いい奴だったじゃねえか!! 」

 

イナギと握手したまま、俺の予想通りだったな! と後ろにいる若頭を笑い飛ばす。

 

「それよりもパーパ、ジルフがイナギさんを襲ってたんだよ! 僕の命の恩人だって伝えたのに 」

「おぉ、それは俺が指示した!」

 

その言葉に、ポカンと父を見上げるシュルト。

俺も完全に同じ気持ちである。一体全体どういうことだってばよ。

 

「敵が多い職業だからな! イナギさんをいい奴だとは思ってたが、イコール味方とは限らねぇ世界だ。シュルト託すなら実力を見る必要もあったし、一石二鳥ってやつだな! 」

 

その後話をまとめると、彼らの中ではイナギの目的について3つの可能性が挙がっていたそうである。

まずシュルトを救った事すら仕込みの、完全なる敵対勢力。

次に、救ったのは善意だが、後々正体を知って利用しようと近づいてきた潜在的敵対勢力。

そして善意の第三者。

 

ジルフは2つ目だと思いつつ1つ目の可能性も捨てきれず、アレキスは2つ目と3つ目で半々くらいと予想。

だから試させてもらった、正直スマンかったという事らしい。

 

「で、どれかは分かったんですか? 」

「正直言うとだな」

「はい」

「まだ確実には分からん」

 

じゃあ何のために試したんだテメー。

 

「だが、1つ目ではないという確信はある」

「そりゃどうして」

「ジルフより強いなら、こんな策を弄する必要ないからな」

 

組内の念能力者は他にもいるが、戦闘力という意味ではジルフに秀でるものはいないらしい。

話しながら、顔先の男と視線が交わる。正面から捉えたその燃えるような目は、想像以上に深く、重く、そして澄んでいる。

 

「シュルトの命を自然と助けたというさっきの台詞に、俺は嘘を感じなかった。それ以外に含む所があったとしても、真にシュルトの命の恩人である事さえ分かったならば」

 

アレキスの顔を見て話す為に、イナギは見上げなければならなかった。

その角度が、下がり、水平、俯角、静かに降りていく。

 

「――息子の命を救ってくださり、本当にありがとうございました」

 

そしてイナギは、自身にはついぞ縁がなかった、形を持った父の愛の姿を見たのであった。

 






大変な遅筆ですが、失踪予定はございません。
「この筆不精が」とでも思いながら、感想・評価頂けますと非常に喜びます。
拙作を応援して下さる方がいらっしゃれば、どうぞよろしくお願いします。

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