ワン・フォー・ワン《独りは一人のために》   作:亡き不死鳥

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出来の良さを確認せずに書ける小説素晴らしや。


ヒーロー

ヴィランとは個性を無断で使用し、悪用するものを指す。それは誘拐だったり物取りだったり、強盗だったり。個性の数だけ犯罪があると行っても過言ではないだろう。

だがヴィランだけが悪と断じられるのも、俺はどことなく納得がいかない。何故なら世間、いや一般人と括ろうか。彼ら自身が、まるで罪のない悪のようにしか見えないからだろう。

 

 

「……あそこか。田等院商店街、野次馬ばっかだな。いつも通りだけど」

 

 

そう、彼らはヴィランとヒーローの戦いを子供たちが喜ぶヒーローショーと同列に見ている。ヴィランがある以上被害者がいる。誘拐された子供がいれば、盗まれた人間もいて、店に押し入られた人間もいるだろう。

そんな彼らを面白おかしく眺める社会は正しいのだろうか…。

 

 

「……でかっ。しかも爆発してるし」

 

 

商店街には遠目に見ても巨大な……水?泥?まあ巨大なヘドロスライムのようなヴィランが大暴れしている。しかも爆発系の個性まであるのか周囲を大いに巻き込みながら爆発を繰り広げている。

 

 

『ヒーローなんで棒立ち?』

 

『中学生が捕まってんだと』

 

 

……それがわかってて、なんでそこまで落ち着いてられるのやら。人のこと言えないけど。これが慣れってやつなんだろう。嫌な慣れだ。

そんな野次馬の話し声から状況を僅かだが把握していく。低くなっていたモチベーションがさらに下がるのを感じた。

目を凝らすとあのヘドロの中に、たしかに暴れ続けている制服を着た金髪の男子の姿が目に入った。爆発しているのは少年の方の個性らしく、今いるヒーローでは対処しきれないのだとか。

 

 

「…チッ。オールマイトは何してんだ」

 

 

思わず舌打ちが漏れる。

こんな派手な事件なら確実に目にしているはずだ。なのになんでとっとと解決しない。早く来ないと……

 

 

「早く来ないと、俺がやるはめになるじゃねえか」

 

 

『目の前でヴィランが出現すれば能動的に解決する』。契約は果たさなくちゃいけない。救うことはできなくても、解消するくらいならできるから。

…うおっ?

 

 

「……おっと」

 

「あっ、すいません!」

 

 

背中に僅かな衝撃が走り、俺の横を緑の髪をした子供が野次馬の波をかき分けていった。

……まああのくらいの歳なら普通か。最前列で見たくなる気持ちもわからんではないが、爆発現場に嬉々として近づいていくのは正直どうかと思う。

まったく最近の若もんは!助ける気もないなら引っ込んでいたまえ!…なんてな。

 

 

『馬鹿ヤロー!!止まれ!止まれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?………は!?」

 

 

誰かが野次馬の境界線を飛び越している。警察官やヒーローの防波堤をすり抜け、ヘドロに向けて一直線に。

その誰かはさっきぶつかった子供で、ヒーローの筈もなくただ必死だとわかるような前傾姿勢で駆けて行く。

 

………ザワッと、心が揺れるのを感じる。

走ることしか考えてないのか、それとも助けることしか考えてないのか、緑髪の子は走りながら個性を発動する気配はない。ただカバンを投げつけ、ヘドロに近づいた後はただ無意味に水をかくだけ。ほんとうに、無策で飛び込んだだけにしか思えない。

だから聞き流せばよかったんだ。ただの子供の戯言で、状況からみたら自殺志願者の妄言だ。

 

 

『足が勝手に!何でって、わかんないけど!!」

 

 

けどそれは、心から叫んでいて、聞き漏らすこともできやしない。

 

 

 

『君が、助けを求める顔してた』

 

 

 

 

 

 

()()()()の言葉だった。

 

 

「最高かよ…」

 

 

その瞬間、商店街は闇に包まれた。

視界が消え、聴覚と触覚だけが残されたフィールドが世界から取り残される。

ビュオッと突風の吹き荒れる感触、ピシャッと水の飛び散る音。そんな微かな異常が人々の感覚を狂わせる。

 

 

『あ、あれ?』

 

 

誰かの惚けた声が漏れ出る。

暗闇は数瞬で、視界はすぐに回復した。だが誰の目から見ても異常事態が目の前に広がっていた。まず爆発によって起きた火災が一つも残らず消化されている。さらに救助中だった怪我人やまだ取り残されていた人達が近くに纏めて安置されている。

そしてなにより、最大の問題であったヘドロが跡形もなく消え去っているのだ。ヘドロの破片を残すこともなく、人質にしていた中学生と飛び出していった少年をその場に残して。

 

 

『………な、なにが』

 

 

起きたんだ、という言葉は続かなかった。

カコーン、カコーンと二つの音が静寂の一角に響き渡る。空から訪れたソレはただのペットボトル。ただ中身は毒々しい色で近づくとわかるが目玉のようなものが浮かんでいる。

 

その正体が今の今まで大暴れしていたヘドロだと気づくまでに五分の時間を要したという。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そんな騒動を起こした人物は早々に上司とともに帰路についていた。何を隠そう比企谷八幡である。

 

 

「ふぅ。撤退撤退と。タイミング良くこっち来てよかったな、オールマイト」

 

「………そう、だね。助かったよ。

あれは私のミスだ。一度捕まえたのに取り逃がしてしまった」

 

「マジか。まあ結果オーライだろ。いやオーライしてないけど。怪我した人には悪いけどいいもん見れた。今ならもうちょいヒーローしてもいいと思えるレベル」

 

「…そうか。彼はそこまで君に影響を与えたか」

 

「彼?ってなんか知り合いみたいな雰囲気だな」

 

「知り合い、だね。といっても今日会ったばかりだが。無個性で、ヒーローに憧れている、普通の男の子だったよ」

 

「無個性であの行動力かよ。ザ・ヒーロー気質って感じなのにもったいないな」

 

 

いや実際あの飛び込みは凄かった。個性ありきの余裕とかじゃないならなおさらだ。久しぶりに、純粋にカッコイイと思えた。その相手が自分より年下というのはなんとも言い難いが、しかしあの行動は間違いなくヒーローの動きだった。ヒーロー擬きの俺がいうんだ間違いない。擬きなのかよ。

 

 

「………そこで相談なんだが、いいかな比企谷くん」

 

「…微妙に予想がつくな。で、なに?」

 

「彼を後継者にしようと思う」

 

「やっぱりか。またナイトアイが怒るぞ。『もっと考えて行動しろ』ってな」

 

「考えた故さ!無個性でただのヒーロー好きな少年こそが、あの場の誰よりヒーローだった!そんな彼だからこそ、私は心を動かされた!正直あと少し君が遅かったら飛び込んでいたよ」

 

「最初から飛び込めってツッコミはしないでおくわ」

 

「くぅ〜辛辣っ!」

 

 

頭を抱えるオールマイトを尻目に少しばかり考える。結論から考えれば考える間も無く《論外》といえる。

ぱっと見しただけだが、さっきの奴はワン・フォー・オールを使えるような筋肉があるようには全く思えない。ヒョロかったし。

さらにいえば学ランからして中学生だ。まだ体が出来上がってない成長期に継承しても、どこに負担のしわ寄せが行くか分かったもんじゃない。

その上もしも相手が三年生だったらどうするのか。受験までおよそ10ヶ月、受験勉強に体作りに、さらに個性を使いこなせないと話にならない。そして個性を使いこなすことを考えれば、例え一、二年生でも難しいと言わざるを得ないだろう。

………うん、出るわ出るわ否定の山よ。むしろ肯定する部分が全然見つからない始末。

 

 

「ま、いいんじゃね。後継者にしても」

 

「…!ほんとか!正直ノーと言われると思っていたよ」

 

「正直言ってノーだよ。だけどまあ、悪用はしないと思うしな。なら物は試しでやってみりゃあいい。そのかわりナイトアイへの言い訳は全部自分でやれよ?俺は嫌だ」

 

「もちろんだとも!ありがとう、比企谷くん!

では早速彼に伝えてこよう!早くしないと帰っちゃう!」

 

「おお。俺は先帰る…っていないし」

 

 

砂埃だけが残る残照を横目に駅への道を歩き出す。

ま、あとは頑張れとしか俺には言いようがないことだ。誰を後継者にするかは最終的にはオールマイトが決めるべきこと。多分オールマイトが付きっ切りで面倒を見ることだろう。それでもキツイ部分は多いと思うが。

 

 

「……虚仮の一念なんとやらってな」

 

 

不思議となんとかなる。そんな気がした。

 




チープな最強チート系にしたい(適当)

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