異世界オルガ   作:T oga

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異世界オルガ12 Episode of Orphans

『バビロンの空中庭園』から帰ってきた俺は、エルゼと八重に呼び出され、エルゼの部屋に来ていた。

 

「で、なんだよ話って」

「その、えっと……何をどう話せばいいのかわからんでござる……」

「たっ、単刀直入に言うわね。…………あんたも冬夜と戦いなさい!」

「は?」

 

エルゼはその後、ゆっくりと事情を説明していった。

 

 

……つまり、今ユミナとリンゼは冬夜の部屋で先程のリンゼのキスの件について話し合っていて、その冬夜の返答次第ではあるが、エルゼと八重も冬夜の嫁に立候補したい。

 

しかし、二人共ユミナやリンゼのような積極性は無く、告白するにしても何かのきっかけが必要。

そのきっかけとして、冬夜との決闘という形を取ることにした。

ちなみにこの決闘はユミナの入れ知恵らしい。

 

だが、冬夜は全属性の魔法の使い手で、全ての無属性魔法も操ることも出来る。

正面から堂々と戦っても勝てるかどうかわからないため、俺の手も借りたいと……。

 

「でも、それでいいのか?バルバトスを使って冬夜に勝っても意味無いだろ?お前らが自分の力で勝たねぇと…… 」

「うるさいわね。とにかく勝てばいいのよ!!」

「確かに武士の心得からは外れてしまうやも知れませぬが、拙者は武士であると同時に女でもあるのでござる!」

 

こりゃ、何言っても無駄だな……。

 

「……はぁ、明日の朝、庭に行きゃいいんだな」

「ええ、私が冬夜を呼びに行くから。あんたは八重と庭で待ってて」

「ああ、わかった」

 

 

そして、次の日。エルゼは俺と八重が待つ庭へと冬夜を連れてきた。

 

エルゼは俺と八重と並んで立ち、冬夜にこう話し始める。

 

「……リンゼをお嫁さんにするんだってね?」

「あー、ハイ。そういうことになりました」

「あんた、リンゼのことどう思ってるの?本当に好きなの?」

「その……愛してるとまではいかなくとも大切にしたいと思ってるのは本当だよ」

 

愛してるとまではいかないのか……。それでいいのかよ?冬夜も、リンゼも。

 

「それをあの子は受け入れたの?」

「ああ」

 

そんな冬夜の返答を聞いた二人はこう呟きを漏らす。

 

「昔っからあの子、そういうところあったのよね……。普段はビクビクと怯えてるくせに、ここぞというときには大胆でさ。私と全く逆なのよね……」

「拙者も似たようなものでござる。なにかきっかけがないと踏ん切りがつかない性格でござってな……」

 

その呟きとため息の後、エルゼはガントレットを装着し、八重は刀を抜く。

俺もそれに続くようにポケットの中から銃を取り出した。

 

「冬夜。あんたにはこれから私たちと戦ってもらうわ!」

「は?」

「あんたが勝ったらもう何も口を出さない。でも私たちが勝ったら言うことを一つ聞いてもらうわ」

「この刀の刃は落としてあるでござるが、骨ぐらいは折れるから気をつけてくだされよ」

「あんたの『ブリュンヒルド』も【モデリング】で刃を無くしておいてよね。あと攻撃魔法も禁止。……じゃあ覚悟はいいわね」

「ああ」

 

冬夜が小さく頷いた。あいつも覚悟を決めたみたいだ。

戦いが始まると同時にエルゼが右から、八重が左から冬夜を攻める。俺も真っ直ぐ冬夜へと銃口を向けた。

しかし、銃の引き金を弾こうとした瞬間、足下が急に滑り、転倒した。……冬夜の【スリップ】だ。

 

「【アポーツ】」

 

次に冬夜は【アポーツ】で俺たちの武器を奪い、無力化させた。

だが、俺にはまだ召喚魔法がある!

 

「やっちまえ!【ミカァ!】」

「うげっ!?」

 

俺は『ガンダム・バルバトスルプス』を召喚し、冬夜へ向けて突貫させる。

冬夜は驚きの声を上げながらも『ブリュンヒルド』を構え、俺に向けて発砲した。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

意識を取り戻すと、戦いは終わっていた。ってか冬夜が死んでいた。

庭に倒れる冬夜の死体とその目の前に立つミカの『ガンダム・バルバトスルプス』。そして、その状況に慌てふためくエルゼと八重。

 

「エルゼ殿!オルガ殿がよみがえったでござるよ!!」

「ちょ、ちょっとオルガ!冬夜が、冬夜が……」

「落ち着け」

 

死んだ後、俺たちがどこにいくのかは分かってる。あの爺さんのところだ。

おそらく冬夜も今頃、神界についている頃だろう。

 

「……ちょっと呼んでくるわ」

「は?」

 

エルゼが「何言ってんのこいつ」とでも言いたげな顔をしたが、それを無視して俺は自らの頭を銃で撃ち抜き、自殺した。

 

 

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった。……まさか、また君たちを迎えることになるとはのう」

 

予想通り、俺は再び神界へとやって来た。

雲海に浮く畳の上でちゃぶ台を囲んでいるのは俺と神の爺さん、そして冬夜だ。

冬夜はうまく状況を飲み込めていないらしい。俺は冬夜を無視して神の爺さんにこう言った。

 

「おい、爺さん。ちょっと今、そこの冬夜が立て込んでてな、さっそく生き返らせてくれや」

「前にも言ったがのう、元の世界に生き返らせることは出来んのじゃよ。そういうルールでな」

「は?」

 

俺はそんなことをぬかす神の爺さんに睨みを利かせる。

そして、ミカを召喚し、初めてこの神界に来た時と同じ状況を作り上げた。

 

ミカは無言で銃を構える。すると、神の爺さんは脅えながら前言を撤回した。

 

「す、す、すぐに生き返らせる!」

「わかった」

 

俺と冬夜の体になにやら力が流れ込んできて、気がつくと元の場所に帰って来ていた。

 

 

 

生き返った俺を見て、エルゼと八重はキョトン、とした顔でこちらを見る。

 

「もうそろそろ、冬夜も生き返るだろうから待ってろ」

「「えっ?」」

 

俺はそう二人に告げて、屋敷の中へと帰った。

 

 

「終わりましたか?オルガさん」

 

屋敷に入ると、玄関ホールでユミナにそう話しかけられた。

 

「ああ、冬夜の負けだ」

「ありがとうございます」

「おう」

 

俺に礼を告げたユミナはリンゼを連れて庭の方へと向かっていった。

 

 

自室に戻って少し寝て、その後、食堂で昼食を摂った。

そして、食堂から自室へ戻る廊下で俺はメイド姿のフランシェスカとすれ違った。

 

俺はあまり関わりたくなかったため無視したのだが、そんな俺の意図を知ってか知らずか、奴はこう話しかけてきた。

 

「あ、オルガさん。マスターを見ませンでしたか?朝から姿を見ないのでスが」

 

俺は小さく舌打ちをしてから、歩みを止めること無くフランシェスカにこう返した。

 

「ちっ、ああ……冬夜な……。冬夜はてめぇのせいでめんどくせぇことになっちまってるんだよ。今日は顔を見せない方がいいと思うぞ」

「そういう訳には参りませン。火急の要件があるのでス」

 

そう言いながら、フランシェスカは俺の後をついてくる。俺が歩くスピードを早めても無駄のようだ。

……はぁ、仕方ねぇな……。

 

「冬夜なら、自分の部屋にいるだろ!」

「行きまシたが、いませンでしタ」

「……じゃあ、外に出てるんじゃねぇのか?」

「どこに行っているのか、わかりませンか?」

「『空中庭園』は探したのか!」

 

俺がそう言い放つと、フランシェスカは「あっ」と呟いた後、こう言った。

 

「探していませンでした……」

 

この、ポンコツアンドロイドが……。

 

 

俺はフランシェスカの転移能力で『バビロンの空中庭園』へとやって来た。

庭園を見渡すと、噴水に腰掛けてサンドイッチを食べている冬夜を見つけた。

 

「こちらにいまシたか」

「ほらな。俺の予想通りだったじゃねぇか」

「オルガにシェスカ?どうしたのさ?」

「こいつがお前のことを探してたぞ」

「え?」

 

俺がフランシェスカを指差して冬夜にそう言うと、フランシェスカはその要件とやらを冬夜に話した。

 

「昨日いい忘れていたコトがありまシた」

「いい忘れていたこと?」

「マスターにメッセージがありまス」

「誰からなんだよ。そのメッセージっつーのは」

 

俺がフランシェスカにそう聞くと、フランシェスカはその名を口にした。

 

「レジーナ・バビロン博士でス」

「博士?」

 

 

フランシェスカの腕から伸びたケーブルを冬夜のスマホに繋ぐと、一人の女性が写った。

 

この女が『バビロンの空中庭園』や『フランシェスカ』を造ったレジーナ・バビロン博士のようだ。

 

《やあやあ、初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは『空中庭園』及び、『フランシェスカ』を引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、望月冬夜君》

「は?」

 

スマホに写る映像の中で博士はそう話し始めた。

俺は博士が冬夜の名を呼んだことに疑問を覚える。それは冬夜も同じのようだった。

そして、博士は俺や冬夜の疑問に対する答えを告げる。

 

《わかるよ。君の疑問はもっともだ。それを知りたくなるのも当然だよね。まず、なぜボクが君のことを知っているのか?それはボクが未来を覗くことができる道具を持っているからだ。時空魔法と光魔法を組み合わせて、そこに無属性魔法の……まあ、細かいことは省くが、とにかくそれを使って君のことを見つけた。興味本位で君と君の仲間の冒険を楽しく眺めていたのさ》

「えっ!?全部見てたってことですか?」

 

博士の「興味本位で君と君の仲間の冒険を楽しく眺めていた」という言葉に対して、俺は反射的にこう呟いていた。

 

「まぁ、これっぽっちも面白くなかったがな」

 

俺の言葉など聞こえていないのだろう。博士はそのまま話し続ける。

 

《一時見えない時があった。未来が不確定になってしまってね》

「不確定に?」

《ああ、突如……まさに突如現れた『フレイズ』が原因さ。君と君の仲間達は『モビルアーマー』と呼んでいたかな。予想できない出現だった。ボクも色々手は尽くしたんだけどね……。結局、パルテノ文明は崩壊してしまったよ。ボクの遺産『バビロン』はその『フレイズ』に対抗するために造ったものだった》

 

俺たちの世界ではモビルアーマーに対抗するためモビルスーツが造られたが、この世界では対抗手段として、この庭園が造られたらしい。この庭園でどうやって戦うのかは分からないが……。

 

《しかし、ある時を境に『フレイズ』達が世界から消えてしまったんだ。理由は分からないがね。まぁ、そのおかげでまた未来を見ることが出来たわけだ。『フレイズ』がいなくなった今、この『バビロン』は必要なくなったのだが、壊すのももったいないのでね。未来を覗かせてもらったお礼ということで君に託すことにしたんだよ》

 

パルテノ文明があったのは五千年前だというのをリーンから聞いたことがある。俺たちの世界で厄祭戦があったのは三百年前の話だから、元々この世界に居たモビルアーマーが何かの拍子で世界を超えて俺たちの世界に来た。ということなのだろうか?そうだとしてもどうやってこの世界から俺たちの世界へやってきたのかはという疑問が残るが、まぁ、それももう終わった話だ。

 

《では話はこれで終わりだ》

 

こう言って、博士のメッセージは終了した。

 

 

「う~ん。ミカさんには自分で考えろって言われたけど、やっぱり誰かに相談してみようかな」

 

博士のメッセージを聞き終えた冬夜が数分の静寂の後にそう呟く。

どうやらこいつは博士の話より自分の今置かれている状況のが重要らしい。まぁ、そりゃそうか。

俺は冬夜にこうアドバイスした。

 

「じゃあ、あの爺さんに相談してみりゃいいんじゃねぇか?」

「そっか!神様ならいい答えを出してくれるかも知れない!」

 

俺のアドバイスを聞いた冬夜はそう言って【ゲート】を開く。

俺も神様に聞きたいことがあったので丁度いい。

 

 

【ゲート】をくぐり抜けると、輝く雲海と古びた卓袱台(ちゃぶだい)が視界に飛び込んできた。

 

「邪魔するぜ~」

「おー。君たちか。来るなら来ると連絡してくれ」

「さっき振りです、神様」

「それでどうしたのかね?」

「相談があるんだよ。俺も冬夜も」

「ふむ? まあ、話してみなさい」

「オルガからでいいよ」

「そうか、じゃあ……」

 

俺は神の爺さんに相談する。

 

俺の相談というのは、異世界に来てから死にやすくなっていることについてだ。

以前行った自転車の実験でも分かったが、俺は死を引き寄せる運命にあるらしい。

 

なぜ俺の体が死を引き寄せるのか、この爺さんなら分かるかも知れないと思い、そのことについて相談してみた。

すると、神の爺さんは当たり前のようにこう言った。

 

「ああ、その話か。それは神殺しの呪いじゃよ」

「神殺しの呪い?」

「うむ。お前さんが始めてこの神界に来たとき、ワシを殺したじゃろ。その時の呪いでお前さんは死にやすい身体になっておるんじゃよ。まぁ、何度死んでもよみがえる能力を与えてやったから問題はないと思うがのう」

「まぁ、確かに何とかなってはいるが、……何度も殺されるこっちの身にもなってくれよ……」

「その言葉、そのままお前さんに返すぞ」

「はぁ……」

 

どうやら、俺が死にやすいのは神殺しの呪いで、治すことは出来ないらしい。

俺はこれからも死に続け、よみがえり続ける。ということになりそうだ。

 

 

俺の話が終わった後、冬夜は神の爺さんにユミナたちのことを相談した。

すると、神の爺さんはこう言った。

 

「そう深く考えんでもいいんじゃないかのう。好きと言ってくれてるんじゃから、素直に喜べばいいと思うが。それにこれは君が自分で答えを出さなきゃいかんのじゃないか」

「同じようなことを別の人にも言われましたけど、やっぱり色々考えてしまって……」

「ふむ、そういった話なら専門家に聞いてみるか」

「えっ?」

 

神の爺さんは(かたわ)らに置いてあった黒電話に手を伸ばし、ダイヤルを回してどこかにかけ始めた。

 

しばらくすると雲海の中から一人の女が浮かび上がってきた。

神の爺さん曰く、彼女は恋愛神らしい。

 

「恋愛神って恋愛の神様ってことですよね?」

「そうなのよー!でも、人の気持ちを操ったりはしてないのよ?ちょっと雰囲気を盛り上げたり、お約束をしたりするくらいなのよ」

「お約束?」

「そうなのよ。「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!」とか言う奴は結婚できなくするのよ」

「は?」

 

恋愛神がそういった時、俺は思い出した。……ラフタが殺された時のことを……。

 

いつのまにか召喚され、俺の隣にいたミカは怒りを露にする。

 

「お前が……!」

 

俺は昭弘と『ガンダム・グシオンリベイクフルシティ』を召喚し、彼に復讐をさせる。

 

「やっちまえ!【昭弘っ!】」

「お前かぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

昭弘の『ガンダム・グシオンリベイクフルシティ』はグシオンペンチで恋愛神の上半身と下半身を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

そして、恋愛(を弄ぶ邪)神は死んだ。

 

 

 

 

 

恋愛神を殺した俺たちは、また神殺しの罪を背負うことになった。

次の神殺しの罪は、同じ異世界に何年間も滞在出来なくなるというものだった。そのため、俺たちはこれから何度も何度も異世界を巡る旅に出ることになった。

 

この異世界での旅はこれで終わり、今から次の異世界へと旅立つことになった。

神殺しの罪を言い渡された俺たちに冬夜はこう言った。

 

「なんか急な話になっちゃったけど……」

「そうだな。だがよ……。博士のメッセージのときはああ言ったが、ホントはお前らといるのも別に悪くはなかったぜ」

「冬夜も元気でね」

「はい。ミカさん!オルガもまた会えたら会おう!」

「ああ、帰ってこれたらまた顔を見せるわ。じゃあな」

 

何度も何度も異世界を巡っている内に以前いた世界に帰ってこられることもあるらしい。

俺は冬夜にそう別れを告げ、別の世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルガ、次は俺どうすればいい?」

「……勘弁してくれよ。ミカ。……俺は……」

「ダメだよ、オルガ。俺はまだ止まれない」

「……待ってろよ」

「教えてくれ、オルガ」

「待てって言ってんだろ!」

「ここが俺たちの場所なの?そこに着くまで、俺は止まらない。……止まれない」

「ああ、……分かってる。……ミカ。やっと分かったんだ。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい」

「ここが俺たちの場所なの?」

「ああ、ここもその一つだ。止まんねぇかぎり、道は続くッ!」

「そっか……」

「俺は止まんねぇからよ……」

「連れていってくれるんだろ?」

「ああ……! お前らが止まんねぇかぎり、その先に連れてってやるよ!!!

 

 

「終わったな。……なぁ、ミカ。次は何をすればいい?」

「そんなの決まってるでしょ?」

 

 

……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……

 

 

 




読んでいただいてありがとうございました!

『異世界オルガ』第1章ついに完結です!

お付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございました!!

これからもオルガ作品が増え続けていくことを期待しております。


……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。


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