「マクギリスじゃねぇか……」
ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!
俺はリオン・ブリッツを名乗るマクギリスに向けて銃を発砲するが、その銃弾はどこからか飛んできたカードによって防がれる。
「君の相手は私ではない」
「は?」
マクギリスがそう言うと、カードが飛んできた木の陰から隠れていた男がその姿を現す。
レディース エーン ジェントルメーン!
「俺の名前は榊遊矢!」
榊遊矢と名乗った赤と緑のまるでトマトのような色をした奇抜な髪型の少年は、カードを媒体にして、ドラゴンを召喚する。
「【吹き荒ぶ次元に垣間見る新たな力!今再び
「何っ!?」
「あれは……?」
冬夜もこんな魔物は始めて見るといった様子で
「カッコいいー!」
と叫んでいた。「カッコいいー!」じゃねぇよ……。
とにかく、このパッと出の意味わからん奴に手間取る訳にはいかねぇ……。
俺はユミナにこう声をかける。
「ユミナ!たしかお前は召喚魔物が使えたよな!」
「……はい。私の契約している魔物はシルバーウルフですけど」
「そいつを一匹、貸してくれ!」
「いいですけど……何に使うんです?」
「とりあえず、召喚してくれや」
「わかりました。【闇よ来たれ、我が求むは誇り高き銀狼 シルバーウルフ】!」
ユミナが
……よし、準備完了だ!
「俺は、場の
「銀狼を融合し、狼の王を生み出したか」
マクギリスの言う通り、俺は自身の限界の魔力とユミナの
「どうすればいい、オルガ」
「……潰せ」
「うわぁ~~~~!!」
榊遊矢はバルバトスルプスレクスに吹き飛ばされ、地面に頭を打ちつけた後、まるでゴムのように、ポン、とバウンドした。
「さて、腹割っていこうじゃねぇか!大将!」
「……久し振りだね。オルガ・イツカ、そして三日月・オーガス君」
「チョコの人ひさしぶり」
「なんで、てめぇがここにいる」
「君やそこの望月冬夜君と同じだよ。私もこの異世界に転生した一人さ。さっき倒された榊遊矢もね。私と君たちの違う点は、転生時に記憶を失ってしまったことくらいか……」
マクギリスの話によると、マクギリスはガエリオ・ボードウィンによって殺された後、気がつくと記憶を失ってベルファストの王都に倒れていたらしい。
そして、同じく隣で倒れていた榊遊矢と共にベルファスト王国の将軍 レオン・ブリッツに拾われ、マクギリスはブリッツ家の養子として迎え入れられた。
その時に与えられた名前がリオン・ブリッツだ。
その後、
『ガンダム・バエル』を見た瞬間、前世の記憶がよみがえり、それ以降はレオン・ブリッツの息子リオン・ブリッツとしてベルファスト王国第一騎士団に入団し、力が支配する真実の世界を作ろうと尽力しているらしい。
騎士の座につきながらも力で物事を解決する……。
その時、正体を隠すためにモンタークの仮面をつけるのだそうだ。不祥事がバレるとやっかいらしい。
「じゃあ、オリガとはどういう関係なんだ?」
「オリガ殿はどことなくカルタに似ているんだ……」
「あぁ~、確かに声が似てるかもな」
「そして、オリガ殿の妹君のアルマ殿はアルミリアに似ている」
「最初の二文字だけな」
「カルタとアルミリア……。彼女たちは生前の私が傷つけた女性だ。この異世界では幸せにしなければ、と思ってね」
……どうやらマクギリスはこの異世界で自分のすべきことが見つかったらしい。
だが、俺たちはどうなんだ?
本当にこの世界が俺たちの居場所なのか?
マクギリスと別れて、スゥシィやアルマを家へ返した後、ベルファストの屋敷へと帰ってくると屋敷の前に一人の少女が立っていた。
その少女を見て、冬夜が少女の名を呼ぶ。
「あれ?リーン?」
「遅かったじゃない、冬夜」
「誰なんだよ。そいつは」
「彼女はリーン。ミスミドの妖精族の
「火星の王か!」
「ちがうよ」
「……なんだよ」
リーンとかいう妖精の王は、俺たちにとある依頼をしに来たらしい。
「それで、僕らに依頼ってなんなのさ?」
ユミナたち四人を呼び、皆がリビングに集まったところで冬夜がリーンにそう聞いた。
するとリーンは冬夜にこう質問を投げかける。
「貴方【ゲート】は使えるのよね?」
「使えるよ。一度行ったところにしか跳べないのが難点だけどね」
「無属性魔法【リコール】って知ってる?他人の記憶を読み取る魔法なんだけど、この【リコール】と【ゲート】を併用すれば、読み取った他人の記憶からその場所へ跳べるはずよ」
そんな魔法があったのかよ……。
もっと早く知ってれば、ミスミドへもその【リコール】で行けたじゃねぇか……。
「その【リコール】と【ゲート】を使って貴方に連れていってほしい場所があるのよ。その場所にある古代遺跡に興味があってね」
「その場所というのはどこなんですか?」
「遥か東方の島国、イーシェン。そこの……八重、だったかしら?その子がイーシェンの生まれでしょう」
……そういうことか。八重の記憶を【リコール】で読み取ってイーシェンへの【ゲート】を開き、その国にある古代遺跡まで連れていってほしいというのがリーンの依頼らしい。
話している間に日も落ちて夜になってきたので、リーンは屋敷の空いてる部屋に泊まり、イーシェンへは明日の朝に向かうことになった。
そして朝、イーシェンへの【ゲート】を開くためリビングに集まったとき、俺の顔を見て、冬夜がこう言った。
「どうしたの、オルガ。ちょっと顔色悪いよ」
「……なんでもねぇよ」
「こいつ、昨日の夜に酒飲み過ぎたのよ」
エルゼの言う通り、昨日の夜はリーンに誘われて俺とミカ、リーン、エルゼの四人で飲みに行った。
その時に少し酒に飲まれてしまい、今の体調は万全の状態ではない。
……だが、問題ねぇ。鉄華団でも酒飲んですぐにイサリビを動かすことなんてざらに有った。
……こんくらいなんてこたぁねぇ……。
「まぁ、オルガが大丈夫って言うならいいけどさ。呪文の詠唱だけは出来るようにしといてよ」
「分かってるっつーの」
そして冬夜は【リコール】で八重からイーシェンの記憶を読み取り、【ゲート】を開いた。
【ゲート】を抜けると、そこは森の中だった。
冬夜が八重に確認を取る。
「【リコール】で思い浮かべた通りの場所だけど、ここがイーシェンなの?」
「間違いござらん!ここが拙者の生まれ故郷イーシェンでござる!実家のある徳川領の外れ、
どうやら、無事イーシェンに辿り着いたようだ。
ここがイーシェンだと確認出来た冬夜は次はリーンにこう聞いた。
「それで、リーンの行きたい古代遺跡って? 」
「場所は分からないの。ただ『ニルヤの遺跡』としか……」
「『ニルヤ』……。うーん、父上なら知っているやもしれませぬ」
「俺たちに辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続くッ……!」
「置いてくわよ!酔っ払い!」
エルゼが俺にそう言った。ま、待ってくれ!
リーンの行きたい古代遺跡『ニルヤの遺跡』の手がかりを探すため、俺たちは八重の実家にやって来た。
しかし、八重の実家には父と兄が居なかった。
八重の母に話を聞くと、どうやら今は徳川軍と武田軍の
「真玄公がなぜ侵略を……?」
「噂では真玄公は病で無くなっており、今は山本完助なるものが武田を裏で操っているとか……」
「なるほど、それで戦況はどうなってるんですか?」
「……我が徳川の砦が落ちるのも……時間の問題だと聞き及んでおります」
「……っ!冬夜殿!また【リコール】とやらで!」
「うん!行こう!」
【リコール】と【ゲート】をもう一度使い、俺たちは戦場へとやって来た。
戦場では赤い鬼の仮面を被った武田兵と蒼い鎧の徳川兵がぶつかり合っていた。
赤い鬼の仮面を被った武田兵をよく見てみると、あれは人ではなくゾンビであった。
冬夜と八重たちは八重の父と兄のいる徳川軍の砦へ【ゲート】で向かい、俺とミカは戦場に残って、徳川の増援として武田兵のゾンビを倒しに向かう。
「酔い醒ましにはちょうどいい!行くぞ【ミカァ!】」
俺はポケットから銃を取り出しながら『ガンダム・バルバトス』をLv1で召喚し、戦場のど真ん中に飛び込んでいった。
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僕らが【ゲート】を抜けると、左頬に刀傷のある青年が僕に剣を向ける。
「……っ!何者だ!?武田の手の者か!?」
「違うでござるよ、兄上!」
「……八重!?」
八重のお兄さんである九重重太郎さんは自分の妹を見て、ゆっくりと剣を納めた。
「八重……本当に、八重なのか?」
「はい!」
兄妹の感動の再会を見た後、僕は重太郎さんに気になっていたことを聞いてみる。
「ところで、あの鬼の仮面の被った奴らはなんなんです?」
「分からない。あやつらはすでに死んでいるはずなのに……。面を壊せば動きも止まるらしいのだが……」
あの鬼の仮面については重太郎さんも知らないらしい。するとリーンがこう言った。
「アーティファクト、かしらね?」
「アーティファクト?」
「古代文明の遺産、強大な魔法の道具のことよ。あなたのそれもアーティファクトなんじゃないの?」
手に持っていたスマホを指され、僕は思わず誤魔化し、苦笑いを浮かべた。
「まぁ、なんにしろ仮面の奴らは厄介だ。一気に殲滅した方が良さそうだな」
「そんなことが出来るのか?」
不思議そうに重太郎さんが僕を見ているのをよそにスマホで仮面の武田兵を【サーチ】すると、スマホの地図上にピンがストトトトッ、と落ちた。
「でも、結構数いるなぁ~。まぁいいや【マルチプル】っと」
「冬夜殿、まさか……」
「【光よ
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「なんだありゃ?」
俺とミカが武田のゾンビ兵と戦っていると、空に無数の魔法陣が展開された。
そして、その魔法陣に混ざっている、とある兵器を目にする。あれは……。
「……ダインスレイヴじゃねぇか……」
俺がそう呟いた瞬間、ミカが急にバルバトスを後退させる。その後、空から【シャイニングジャベリン】とダインスレイヴが落ちてきて、希望の花が咲いた。
ヴァアアアアアア!!
「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「此度の助太刀、心より御礼申し上げる」
砦の天守閣に案内された俺たちは、徳川の領主 徳川
その礼に対し、冬夜が答えた。
「いえ、どうかお気になさらずに。ですが武田軍があれで引き下がると思いますか?」
「また、態勢を整え攻めてくるやもしれぬ。しかし、此度の鬼面兵と突然の侵略……。噂は本当なのだろうか……」
「噂って、真玄公はもう死んでいて山本完助が裏で糸を引いてるとかいう……」
「そうだ」
「じゃあ、その山本完助を捕らえてしまえば、丸く収まりますかね」
冬夜はさも簡単そうにそう発言した。
だが、そういう男はあまり人前に姿を現さないんだよな……。ラスタル・エリオンもそうだった。
徳川
「しかし、完助は本陣の館に
「ではその案内、私が務めましょう!」
その時、どこからか声が聞こえた。
そして、天守閣の屋根裏から黒装束の女が現れた。
その女の名は椿。武田軍のくノ一で武田四天王の一人高坂政信からの親書を届けに来たらしい。
その親書によると、山本完助は『不死の宝玉』というアーティファクトを使い、死んだ武田真玄と武田兵たちを操っているのだそうだ。
高坂政信も含めた武田四天王は現在、地下牢へ放り込まれており、徳川に助けを求めて親書を送ったのだという。
俺たちは夜になるのを待ってから、椿の案内で敵の本陣へと侵入することにした。
「リーン、透明化の魔法を頼む」
「透明化じゃなくて、視覚の……。まぁいいわ。【光よ
「お前……消えろよ!」
「消えた!」
夜になり、冬夜の【リコール】と【ゲート】を使って、山本完助のいる敵の本陣までやって来た俺たちはリーンの【インビジブル】の魔法で姿を消して、敵の根城へ侵入する。
そして、地下牢に閉じ込められていた武田四天王を助け、山本完助のいる天守閣へと向かった。
「誰かと思ったら、武田四天王の皆さんじゃありませんかぁ。どうやって地下牢から脱出を?」
「テメェに教える義理はねぇよ、さっさとくたばりな!」
山本完助のいる天守閣へとやって来ると、すぐに武田四天王の一人 山県政景が完助に斬りかかる。
しかしその刀は赤い鎧武者に止められた。
「御屋形様……」
武田四天王の一人 馬場信晴がそう呟く。
じゃあ、あいつが武田真玄か……。
同じく武田四天王の一人 内藤正豊も弱気な声を上げた。
「これじゃどうすることも出来ない……」
「御屋形様に刃を向けられないのは分かってるんですよぉ」
完助がそう言った瞬間、冬夜が武田真玄に向けて『ブリュンヒルド』を発砲するが、その銃弾は真玄に避けられ、真っ直ぐ俺に向かってくる。
「う"う"っ!」
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
Take2
「御屋形様に刃を向けられないのは分かってるんですよぉ」
完助がそう言った瞬間、ミカが武田真玄に向けて発砲する。
武田真玄は銃弾を喰らい、その場に崩れ落ちた。
「なっ!?……なかなかやるじゃないですかぁ。だが、私にはまだこれがある!」
完助はそういって、懐からカードを取り出す。
あのカードは榊遊矢が『
「【出でよ!『ブルーアイズホワイトドラゴン』!】」
だが、こちらにも『モンスターカード』はある!
ミカの『ガンダム・バルバトスルプスレクス』が榊遊矢を倒した後、奴が落としたカードを俺は拾っていたのだ!
「【混沌たるこの世の行く末を見極める王よ。未来に流れる血を吸い、竜をも倒す勇者となれ!融合召喚!『DDD
「粉砕してくれるぅ~!」
『ブルーアイズホワイトドラゴン』と『DDD
Take3
「私にはまだこれがある!この『不死の宝玉』があるかぎり、私が死ぬことはない!」
完助は目に埋め込まれたアーティファクトを見せつけながらこう続ける。
「絶大な魔力と死の力を与えてくれる素晴らしきアーティファ……」
「【アポーツ】」
完助が台詞を言い終わる前に、その『不死の宝玉』が冬夜の手の中に吸い込まれる。
「えっ!?……貴様いつの間に……!?」
あの宝玉が無けりゃ、あいつもただの人だ。
完助へ向けてミカが銃を構え、発砲した。
「待っ!?」
パンパンパンパン
そして、武田軍を操っていた闇の軍師 山本完助はこの世を去った。
「アーティファクトは貴重な物だけど、これは破壊した方がいいわね」
リーンはそう言って、『不死の宝玉』を空へと投げ捨て、それを冬夜が『ブリュンヒルド』で撃つ。
しかし、その銃弾は『不死の宝玉』に当たらず、ロフテッド軌道(高高度に達してから、落下する軌道)を描いて、俺に着弾した。
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
冬夜がダインスレイヴを使えた理由は第3章で明らかになります。お楽しみに。