西行寺さんちのフランドール   作:cascades

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フランドールは業務報告書の作成で疲れている所に、妖夢が現れる……。

17/11/11 誤字報告、有難う御座いました。
17/11/12 再度の誤字報告、有難う御座いました。


1_6_妹

 

 拝啓お母さま。

 私、フランドールは疲労困憊ですが、妖夢という妹分を手に入れました。

 

――1980年代 白玉楼

 

 

 私は自分の書斎で、是非曲直庁へ提出する業務報告書の作成に追われていた。

 何度確認してみても出ていく幽霊の数よりも、入ってくる幽霊の数の方が多いのだ。

 計算してみると、あと半年で冥界は面積が足りず、幽霊で一杯になるだろう。

 是非曲直庁の幻想郷担当閻魔、四季映姫様に冥界の拡張を頼んでいるのだが、いまだに良い返事が返ってこない。

 この間、大量の返信が書面で返ってきたので、ついに冥界拡張計画を実行するのかと思いきや、文章を斜め読みしてわかっただが……。

 

「一杯になったら考えます」

 

 私の中で四季映姫様へのヘイト値が溜まっていく。

 返信の文章は1項目につき3行以内でって、お願いしてたのに。

 四季映姫様の面倒な事を先送りにする性格にも困ったものだ。

 こんな時こそ、ご自身の『白黒はっきりつける程度の能力』で、ズバッと決めてもらいたいものだ。

 ご自分では『迷わない』と仰っているのに、この先送りはなんだろうか?

 ありえない事なのだが、閻魔様を惑わせるほど、冥界を拡張する事に問題があるのだろうか?

 確かにお母さまの領地が広がり、権力が強化されるのは確かなのだが、それが不都合なのだろうか?

 

 

 まったく進展が見られないこの状況を、お母さまの書斎で相談したところ、奇妙な回答が返ってきた。

 

「四季様が冥界拡張計画を、実行に移さざる負えない状況に仕組むのよ」

「でもどうやって」

 

 正直、今のごり押しを続けるのは、手間がかかるし、精神衛生上よろしくない。

 お母さまには、何か方策がおありの様だ。

 

「題して、幽霊移民計画」

「移民計画?」

「顕界の廃校や、廃病院、廃ビルといった、誰も寄り付けなさそうな場所に、転生待ちの幽霊をいったん移民させるのよ」

 

 なるほど、器が無いのなら、別の器を用意すればいい事か。

 場当たり的な対応であるが、冥界が一杯になるのは避けられそうだ。

 だが、本題の冥界拡張計画がどの様に幽霊移民計画につながるのだろうか。

 いまいちピンとこない。

 

「確かに冥界が転生待ちの幽霊で一杯になるのは避けられそうですね。ですが、それが冥界拡張計画とどの様なつながりがあるのですか?」

 

 私はお母さまに質問をしてみた。

 

「そうねぇ、いくらフランドールの質問でも、これだけは答えられないわ」

「なぜですか?」

 

 私は歯ぎしりをして、拳を握った。

 

「フランドール、あなたは私の後継者になるのです。今後、冥界には数限りなく問題が持ち込まれるでしょう。それらを一人で問題解決をする必要があります。今は私が居ますが、いずれ別の冥界に置かれた時、一人で解決せねばなりません」

 

 現に問題解決のため、是非曲直庁へごり押しをしているのだが、それでは不十分なのだろうか。

 

「あなたは『報告』『連絡』『相談』が出来るようになってきました。だから次の段階に移りましょう」

「はい」

 

 元気よく答えたものの、全くもって、見当もつかなかった。

 当面の仕事は是非曲直庁への警告文と、幽霊移民計画の計画書作成だ。

 私は自分の書斎へ戻る事にした。

 

「それではお母さま、仕事に戻らせて頂きますね」

「フランドール、ちょっといいかしら」

「何でしょうか?」

「私への敬語はお仕事の時だけで良いですからね」

「わかっておりますが、敬語で話すとカリスマっぽく聞こえるじゃないですか」

 

 そういう年頃なのかしら、というお母さまの独り言が聞こえたような気がしたが、私はお母さまの書斎を後にした。

 

 

 自分の書斎に戻ると、白髪のおかっぱ頭の小さな子が、書斎を荒らしていた。

 有ろう事か、大事に隠しておいた、紫さまから頂いた『外』のお菓子を食べ散らかしていた。

 

「何をしているのっ!!」

 

 私の声に驚いたのか、その子は奥の方に隠れてしまった。

 楽しみにしていた『外』のお菓子を食べられたのは悔しいが、相手は幼子である。

 これ以上、怒っても怖がらせるだけだろう。

 私は深呼吸をした。

 是非曲直庁への対応や、お母さまの対応で少しカリカリしていた様だ。

 私は女の子に話しかけた。

 

「私の書斎に勝手に入り込んだ事と、お菓子を食べた事は不問にします。まずは出てきて、挨拶をしなさい」

「……いじめない?」

 

 か細い声で返事が返ってきた。

 

「いじめないよ」

 

 女の子は安心したのか、私の前まで出てきてくれた。

 

「わたしは、ようむ」

 

 まだ日本語が片言だ。とても若いのだろう。

 一見すると彼女の近くに白玉の様な霊があるので、半人半霊の冥界の住人らしき人物ではある。

 よく見かける人物に、似ている気がするのだが、まずは自分の自己紹介が先だ。

 

「私はここ白玉楼の主、西行寺幽々子様の娘で、幼名はフランドール」

「ふらんろーるおねぇたん」

「最初は難しいか~」

「フランおねぇたん!」

「もう、それで良いよ」

 

 何故か頬がゆるむ。

 凄く可愛い。

 

「フランおねぇたんの翼、きれー」

 

 『ようむ』と名乗る幼子はそういうと、私の翼を引っ張り始めた。

 

「こらこら、痛い痛い」

「ほしー」

「あげられないよ」

 

 私は翼を羽ばたかせた。

 シャランシャランという軽快な音が聞こえてくる。

 

「フランおねぇたんの翼、なないろ! にじみたいー」

 

 虹か。雨では動けない私にとって、とんと縁がない。

 

「虹を見た事があるの?」

「うん! すごく大きいわっかが、いっぱいあるのー」

「機会があれば、見てみたいものね」

「フランおねぇたん、また翼ふってー」

 

 私はもう一度、翼を羽ばたかせた。

 

「すごい、すごーい!」

 

 喜んでくれている様である。

 私の前で出した笑顔がとてもあどけなくて、庇護欲を掻き立てられる。

 もしも、妹がいたのなら、こんな感じなのかもしれない。

 私は『ようむ』にある提案をした。

 

「かくれんぼでもやろうか」

「かくれんぼ? するするー!」

 

 私達は書斎の後片付けそっちのけで、かくれんぼを楽しみ始めた。

 

 

 時間があっという間に数刻過ぎた。

 私はすぐに見つかってしまう。

 やはり虹色の翼が目立つ様だ。

 こんどデコイでも作るか。

 そう考えていると、お師匠様の魂魄妖忌が通りかかった。

 

「これ、妖夢!」

「おじいさま……」

「こんなに散らかして……お前はフランドール様の部屋で何をしている」

 

 妖忌は少しムッとした表情をし、『ようむ』は私の後ろに隠れてしまった。

 

「お師匠様、横から口を挟んで申し訳ないのですが、この子は私とかくれんぼをしていて、こんなに散らかしたのです。ですから、この部屋の惨状には責任の一端が私にもあります」

「そうでしたか。それは失礼しました。てっきり妖夢が汚したのかと思いました」

 

 だいたいあってはいるが、ここは可愛い妹分をかばってやろう。

 話題を変えて矛先をずらす方法をとる。

 

「この子はお孫さんなのですか?」

「はい、孫でございます。本日はどうしても、ついて来たいと申しまして」

「それはしょうがないですね」

 

 お師匠様の妖忌は厳格な祖父の様に思えたのだが、甘い所もある様だ。

 確かにちょっと甘いな、という場面はいくつかあった。

 技は見て盗め、が基本の妖忌なのだが、私が見切れる速度まで落としてくれていたりする。

 最速の妖忌? 試合は放棄するね。早速『死合』になってしまう。

 妖忌が甘くなったのは、私に対するお母さまの教育方針が影響したのだろうか?

 いや、そうに違いない。今までの厳格な妖忌だったのなら、孫をつれてはこないだろう。

 

 そういえば、私は孫の名、『ようむ』の漢字を知らない。

 妖忌がいるうちに聞いておこう。

 

「ねぇ、お師匠様。この子の『ようむ』とは、漢字ではどのように書くのですか?」

「妖怪の『妖』に、『夢』で妖夢と書きます」

「『妖夢』、いい名ね」

 

 妖怪の夢、私達の夢、私の夢。

 私の夢って何だろうか。

 お母さまから領地を分けて頂いて、新たな冥王となる事だろうか?

 それはお母さまの夢であって、私の夢でない気がする。

 私はなんとなく妖夢に聞いてみた。

 

「ねえ、妖夢。私の夢ってなんだろう?」

「えー、わかんなーい」

「そうよね、自分でもわかってないんだから」

「じゃあフランおねえたん、わたしがさがしてあげる!」

「あなたが?」

「うん!」

 

 妖夢は元気よく答えてくれた。

 嬉しい事を言ってくれる。

 こんな妹分に何かをしてあげたくなった。

 私は後ろに隠れていた妖夢を抱き上げた。

 妖夢は少し驚いたのか、落ち着かない様子だった。

 

「妖夢、私の夢、一人前になるまで守ってあげるからね」

「まもるのは、わたしのおやくめ……」

「いいのよ、そういうのは一人前になってから言ってちょうだい」

 

 そう言いながら、私は妖夢を下ろした。

 ここで、妖夢にやり残していた仕事の提案をした。

 

「さあ、後片付け! 後片付け! 掃除用具は隣の部屋よ!」

「フランおねえたん、まってぇ!」

 

 私の後をちょこちょことついてくる。

 妹分というものは、結構いいものなのかもしれない。

 

 

 後片付けが済んだ時点で、仕事をするには時間が大幅に押していたので、そのまま夕食となった。

 その席で妖夢は、私の寝室で一緒に寝ると言い出したのだ。

 結果は家主である、お母さまの一声で決まってしまった。

 

「別にいいじゃない。従者と親睦を深めるのも重要よ~」

 

 妖忌の苦悩もわかる気がする。

 本当は一人前になった妖夢を、皆の前でお披露目をするつもりだったのだろう。

 しかし、実際はまだこんな幼子の状態で、一緒に来たいとせがまれて連れてきてしまった。

 そんな子が、あろう事か、ご主人様の娘である私と、一緒に寝たいと申しいるのだ。

 私は妖忌の胃の心配をしていた。

 

「お師匠様、私は大丈夫です。私も心得ておりますので。」

「妖夢は幼いゆえ、ご迷惑をおかけする可能性が……」

「大丈夫です、何もない筈ですから」

「それならば良いのですが」

 

 妖忌の心配をよそに、私達はそそくさと私の寝室へ向かった。

 最初は枕投げをして遊んでいたのだが、夜も更けてきたので、私達は布団に入る事にした。

 

「フランおねえたん、何かお話して!」

「ねんねん ころりよ おころりよ」

「もう! こもりうたじゃなくて!」

 

 私は疲れているので、さっさと寝たいのだが、妖夢はまだまだ元気一杯だ。

 何をすれば満足するのか、聞いてみる事にした。

 

「要望とかある?」

「何かあつくなるお話がいい!」

「熱くなるのは良いけど、眠れなくなるよ?」

「いいの!」

 

 何が良いだろうか。

 とりあえず、紫さまから聞いた『英雄』の話でもするか。

 

「それじゃあ、紫さまから聞いた、『竜の血族』の物語を語りましょう」

「りゅうのけつぞく?」

「竜神に祝福された者? 人間に竜の血が混じっている? そうね、妖夢みたいな感じの者の事だよ。全然違うけど」

 

 私は自分のおとぎ話に興味を持たせるため、少し嘘をついた。

 

「わたしみたいな? きかせて! きかせて!」

 

 

「『竜の血族』の者よ、『竜の血族』の者よ。永遠に邪悪を封じ、栄誉を賜いし者よ! 凶悪な敵を打ち負かし、勝利の雄叫びをあげる時、『竜の血族』の者よ、汝の祝福を祈ろう!」

 

 

「よくわからないけど、あつくなれた!」

「熱くなれたのなら、話して良かったよ。元々は古代竜語なんだけどね。色々な訳があるみたいなのよ」

「りゅうご? えーどんなのー、きかせて! きかせて!」

「あなたが寝たら、教えてあげる」

「わかったー。それじゃ、おやすみなさいー」

「おやすみなさい、妖夢」

 

 子供は素直でよろしい。

 私も寝よう……。

 

 

 でもその前にやる事をやってしまおう。

 この時間でしかできない事。

 それは能力の練習である。

 私はお皿を5枚持って、お母さま手作りの射的台のある裏庭までやってきた。

 あれから180年程練習したおかげか、能力が暴走する事なく安定した状態になった。

 昔は感情の起伏なんかで暴走したりと、能力に振り回されていたが、今では落ち着いて制御できる様になっていた。

 これもお母さまのいう、「練習」のおかげだろう。

 

 私は射的台の前まで来た。

 それを私の膂力でぐいぐいと押していく。

 傷んできた射的台を見て思う。

 最後にお母さまが日曜大工をしたのはいつだっただろうか? もう覚えていない。

 そんなことを思いながら押していったら、裏庭の端まで来てしまった。

 距離にして約300m。問題はないだろう。

 射的台に1枚1枚お皿を置くと、翼を羽ばたかせ、飛んで屋敷まで戻った。

 

 私は目を見開き、点にも見えない射的台のお皿に集中する。

 あたかも近くにお皿がある様に見えてきたら、お皿の『目』を手のひらに移動させる。

 それを握るとお皿が割れる音が遠くから聞こえてくる。成功だ。

 次は連射の練習だ。

 残り4枚のお皿の『目』を一気に手のひらに移動させる。

 順番に握っていくと、4枚のお皿は右から順番に割れていった。

 

「ん。絶好調」

 

 独り言をいうと、真横から声が聞こえた。

 

「フランおねえたん、今のはなに?」

 

 お皿に集中しすぎて、周りに気を配るのを怠っていた! 不覚!

 

「妖夢? どこから見てたの?」

「すごかった! ねーねー今のはなに?」

 

 会話が成立しない。

 しかし、見られたからには釘を刺しておかなければ。

 

「誰にも言わないって約束できるなら、教えてあげる」

「いわないよー」

「本当かしら?」

「ほんとほんと」

 

 怪しい所だが、教えてしまおう。

 人という種族は、真実が隠されていると、口がすべって根も葉もない事を喋ってしまうのだ。

 それが噂になってしまう。

 だがある程度、真実を伝えておくとで、それが抑止力となり、喋らなくなる。

 でも妖夢はそれが理解できるほどの年齢に達していない気がする。

 

「今のは、私の隠された能力なの」

「かくされた!? どんなの? どんなの?」

「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』」

「なんでもこわせるんだ! すごい! すごい!」

 

 妖夢は『秘密兵器』程度だと思っているに違いない。

 この問題には『火消』が必要かもしれない。

 

「さ、こんなところに居ても仕方がないから、私の寝室に向かいましょう」

「うん!」

 

 

 翌日、妖夢は妖忌に連れられ、家に帰っていった。

 妖忌と同じく、住み込みで働く様になるには、もう少し年月がかかるだろう。

 週一で遊びに来てくれる約束を取り付けたのは、良い判断だったと思う。

 このままガス抜きをしないと、ストレスでどうにかなりそうだった。

 だが、妖夢という妹分は、私の秘密を喋ってしまうのではないかという、一抹の不安を覚えた。

 事後報告になってしまったが、その事でお母さまに相談をした。

 

「どうせお子様なんだから、大丈夫よ。言っている事なんて、でたらめばっかりという感じで、大人は信じないわよ」

「では、妖夢の周辺での火消作業はやらなくて大丈夫だと」

「ええ、そうよ」

「わかりました」

 

 よーし、懸念事項もなくなった事だし、幽霊移民計画でも立て始めますか。

 




最後までお読み頂き、ありがとうございます。

17/11/11 Skyrim発売6周年記念

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