今日は、華琳、春蘭、秋蘭、一刀、俺の五人で街の視察に来ている。華琳が州牧に昇進してから、引き継ぎや手続きをすませて、ひと段落ついたのがつい先日。
落ち着いたのを機に、一度みんなでよりにぎやかになった街を見て回ろうって事になった。季衣がいないのは、山賊のアジトが分かったという報告があり、討伐に行っている。なので、みんなで季衣への土産を買おうと言う事になった。ちなみに桂花はお留守番をしている。
「はい!それでは、次の一曲、聞いていただきましょう。」
「姉さん、伴奏お願いね!」
「はーい。」
「ほう。旅芸人も来ているのか……。」
一刀「珍しいの?前から結構いた気がするけど。」
「芸人自体はさして珍しくはないが、あれは南方の歌だろう。南方からの旅人は今までこちらまでは来なかったからな。」
如月「街道が安全でなければ来れないか。俺らの働きが評価されたと。」
そんなに人気があるグループではなさそうだな。ヘタではないが、人だかりが出来ているわけでもないし、おひねりもほとんど入ってないな。
「まぁ、腕としては並という所ね。それより、私たちは旅芸人の演奏を聴きに来たワケではないのよ?狭い街ではないし、時間もあまりないわ。手分けして見ていきましょうか。」
「では、私は華琳様と…。」
「一刀と如月は私についてきなさい。」
「えー…。」
「あきらめろ、姉者。我々はじぶんの身くらい守れるだろう?」
「…うぅ。そういうことか…。如月、華琳様の護衛頼んだぞ。」
如月「まかせとけ。」
こうして、秋蘭は右手側、春蘭は左手側、俺らは中央を見て回ることになった。
中央部は、真ん中を走る大通りと、そこに並ぶ市場がメインだ。
しかし、今は、小さな店や住宅がひしめき合う裏通り見回っている。
如月「裏通りで良いのか?」
「えぇ、大通りは後にするわ。大きな所の意見は、黙っていても集まるのだから。」
如月「なるほどね。」
一刀「食べ物屋ばかりだな、この辺は。」
「えぇ、他には?」
一刀「他?んーと、料理屋も結構多い。」
「でしょうね。食材がすぐに手に入るのだから。で?」
一刀「……で?」
「他に気づくことは?なんでもいいわ。」
一刀「包丁……か。鍛冶屋が近くにあれば儲かりそうだな。」
「鍛冶屋は三つ向こうの通りに行かないと無いわ。向こうの通りには料理屋が無いの。」
如月「華琳、何でそんなに詳しいんだ?」
「そのくらいは街の地図を見れば分かるもの。」
一刀「じゃあ、わざわざ視察しなくても……。」
「人の流れは地図や報告書だけでは実感できないわ。客層や雰囲気もね。たまにはこうやって視察して実際に確かめておかないと、住民たちの意にそぐわない指示を出してしまいかねないわ。」
一刀「…そんなもんか。」
「そんなものよ。それに……ああいう光景は紙の地図だけではなかなか確かめられないもの。」
「はい、寄ってらっしゃい見てらっしゃーい!」
露天商らしき女の子が、猫の額ほどのスペースで、竹カゴをずらりと並べており、その横に木製の物体が置いてあった。
如月「なあなあ、あれって何の装置?」
「おお、お目が高い!こいつはウチが開発した、全自動カゴ編み装置や!」
一刀「全自動……。」
「カゴ編み装置…?」
「せや!この絡繰の底にこう、竹を細ぅ切った材料をぐるーっと一周突っ込んでやな……そこの兄さん、こっちの取っ手を持って!」
如月「お、おう…?」
「でな。こうやって、ぐるぐるーっと。」
如月「ぐるぐるー。」
「ほら、こうやって、竹カゴのまわりが簡単に編めるんよ!」
一刀「おお…スゲー!」
「……底と枠の部分はどうするの?」
「あ、そこは手動です。」
如月「全然全自動じゃないな…。」
「う。兄さん、ツッコミ厳しいなぁ…そこは雰囲気重視、っちゅうことでひとつ。」
如月「でもまぁ、ハンドルを回すだけでカゴが編めるのはすごいな。」
「あ、ちょ!兄さん、危ない。」
如月「え…?」
ドゴーーーーン!!
如月「えっ…え?爆発した?」
手に握っているのは、ハンドルだったもの。あとは周囲に吹き飛んで、バラバラになった木製の歯車や竹カゴの材料だったものが辺りに散らばっている。
「まだそれ、試作品なんよ。普通に作ると、竹のしなりに強度が追い付かんでなぁ…こうやって、爆発してしまうんよ。」
如月「なんで、そんな物騒なもん、持ってきてんだよ!」
「置いとったらこう、目立つかなぁ…と思てな。」
「ならここに並んでいるカゴは、この装置で作ったものではないの?」
「ああ、村のみんなの手作りや。」
「「「……」」」
「なぁ、兄さん。せっかくの絡繰を壊したんやから、一個くらい買うて行ってぇな。」
「…まぁ、一つくらいなら、買ってあげなさい。如月。」
如月「はぁ、分かったよ。」
視察が終わり、集合場所で待っていると、ほどなくして他の二人と合流したが、二人ともカゴを持っていた。秋蘭は、今朝、カゴの底が抜けていたため、春蘭は竹カゴ一杯に服を買っていた。
「帰ったら今回の視察の件、報告書にまとめて報告するように。……一刀と如月もね。」
如月・一刀「「……了解。」」
「そこの、若いの…」
「何だ?貴様。」
「占い師か…」
「華琳様は占いなどお信じにならん。慎め!」
「…春蘭、秋蘭。控えなさい。」
「強い相が見えるの…。希にすら見たことのない、強い強い相じゃ。」
「一体何が見えると?言ってごらんなさい。」
「力のある相じゃ。兵を従え、知を尊び…お主が持つは、この国の器を満たし、繁らせ栄えさせることの出来る強い相…。この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ……」
「ほほぅ、良く分かっているではないか。」
「…国にそれだけの器があれば…じゃがの。……お主の力、今の弱った国の器には収まりきらぬ。その野心、留まることを知らず…あふれた野心は、国を犯し、野を侵し…いずれ、この国の歴史に名を残すほどの、たぐいまれなる奸雄となるであろう。」
「貴様!華琳様を愚弄する気か……っ!」
「秋蘭!」
「…し、しかし華琳様!」
「そう。乱世においては、奸雄となると…?」
「左様…それも、今までの歴史にないほどのな。」
「…ふふっ、面白い。気に入ったわ。…秋蘭、この占い師に謝礼を。」
「は…?」
「聞こえなかった?礼を。」
「し、しかし華琳様…」
「如月。この占い師に、いくばくかの礼を。」
如月「ん、了解。」
「乱世の奸雄大いに結構。その程度の覚悟も無いようでは、この乱れた世に、覇を唱えることなど出来はしない。そういう事でしょう?」
「それから、そこのお主。」
如月「俺か?」
「それから、そこのお主。使い方を間違うと身の破滅。くれぐれも、用心なされよ。」
如月「大丈夫だ。この力、自分の野心には使わねーよ。まぁ、野心なんか持ってねーけどな。」
こうして、城に帰ることになった。季衣もお土産に喜んでくれたみたいだった。