Cクラスの臆病者   作:ビビり山田

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「クラス対抗のゲーム?」

 

「うん。Dクラスとは色々あったからね。3年間同じ学校で過ごすのに、 クラス間に蟠りがあったら嫌だなと思ってね。どうかな?」

 

「そうだね。僕もCクラスとも仲良くしていきたいと思ってるし、いいと思うよ」

 

クラスの中心人物である平田に話をつけることで、スムーズに事が進みそうだ。

 

クラス対抗のゲーム。

 

ゲームの内容はこうだ。

 

次に行われる小テストのクラス平均によって勝敗を競う。そして、一人1000ポイントを参加費として徴収する。

 

もちろんこのポイントはそれぞれのクラスのリーダーが所持しておくものとし、勝敗が決まった時点で買ったクラスのリーダーに負けたクラスのリーダーが集めていたポイントを譲渡する。

 

こんなゲームをやったら余計に蟠りができるに決まっている。当たり前だ。

 

だから、こちら側が提示する条件として、Cクラスが勝った場合は、手に入れたポイントを予め決めているみせを貸し切ってDクラスを招待し、Dクラスの分も含めた全ての会計をCクラスが持つパーティを開くのに使うものとする。

 

という条件をつけている。これが龍園が持ちかけた話だったとしたら確実にDクラスは乗ってこないが、僕が女子友達のつながりで軽井沢とは比較的良好な仲であり、平田とは定期的に遊びに行く仲だからこそできた提案だ。

 

この条件を聞けば、どんな馬鹿でもDクラスは勝つ必要がないということには気付くだろう。

 

Dクラスが勝った時のポイントの使用先を決める条件は今回のゲームに含まれていないので、Dクラスには得しかない提案というわけだ。

 

勝ったら約30000ポイントの臨時収入が入り、負けても1000ポイント以内では行けないようなそこそこのビュッフェに招待すると店名も明かして提示している。

 

元々小テストが終わったら貸し切ってクラスで行くつもりだったので、店を貸し切ることは確定している。

 

店に問い合わせれば分かる。

 

不安なら教師立ち会いのもとで宣言してもいいと言ったらそこまではいいと言われた。

 

そこまでしてもなにも問題はないが、僕の事を疑っていると平田の印象が悪くなるからか、断られた。

 

まあ、平田の場合は純粋にそこまでしなくてもいいと思っているのだろう。

 

そしてそれは正解だ。僕はこの契約を違えるつもりは一切ない。

 

勝てば店に招待し、負ければポイントを明け渡す。まあ、こちらのポイントは僕が全て立て替えているのだが、そんなのは些細な事だ。

 

「じゃあ、来週のテストお互いに頑張ろう」

 

爽やかな笑顔で平田が僕に握手を求めてきた。

 

「そうだね、お互い良い点数が取れるように頑張ろう」

 

そう言って、僕と平田は軽く握手を交わした。

 

○○○

 

さて、今回のゲームはDクラスとCクラスの蟠りを解消するとともに、競い合う事でテストの点数を上げようというのが表向きの狙いだ。

 

「みんな、先輩方から過去問をもらってきたんだ。よかったら勉強に使ってよ」

 

クラス全員に過去問の配布。前回の小テストでDクラスの平均が高かったロジックは分かっている。

 

過去問の存在だ。ポイント不足に悩んでいる先輩に、過去問をポイントで買い取りクラスに配布した事で点数を上げていた。

 

今回Cクラスは、僕がクラス全員分の食事を奢ってあげることを条件に真剣に勉強してもらっている。

 

正直かなり痛い出費だが、綾小路を追い詰める作戦の一つだ。仕方がない。

 

特に点数が低い生徒達を集めて僕がそこに入る事で、一緒に相談しているフリをして思考を誘導し、最短で答えに辿り着くようにした。

 

どう考えてもDクラスに勝てる自信しかなかった。当然Dクラスの情報も定期的に仕入れているが、一部の真面目な人や平田と特に仲のいいグループの人間は多少頑張っているようだが、クラスの大半が負けても良いやというムードになっている。

 

負けても損な事は特に無いので、やる気がないみたいだ。

 

赤点を取らない程度には頑張るだろう。

 

そして今回一番大変だったのはポイントに困っている先輩方に少し融資してあげて、Dクラスに過去問を売らない様にした事だ。

 

下手をすれば銀行運営を行なっている僕の正体がバレてしまうリスクもあったが、今の所それはない様だ。

 

口止め料も払っておいたのである程度は分かっていた事だが。

 

「少し、ポイントを使いすぎたな」

 

預かっているポイントは半分ぐらいになってしまっていた。

 

だが、今回の勝負に勝つことができればその損も回収可能だ。

 

僕の予想通りならDクラスはポイント不足に陥る。

 

そしてポイントに困った彼等を利用した稼げる計画を思いついているのだ。

 

全てが全て上手く行くとは思っていないが...

 

綾小路清隆が僕の策をどこまで見破って潰しに来れるのか見ることができる。

 

僕が提案したゲームは盛大な威力偵察というのが真の目的だ。

 

ついでに儲けたいというのが心情だ。

 

どうせ綾小路の事だ。

 

このゲームの裏に隠された事にも、僕の真の目的にも気付いているんだろう。

 

どんな手で打ってくるのか。その手段から今後の綾小路への対策を考える。

 

彼には幾つの予防策を巡らせれば安心できるのか、僕が知りたいのはそれだけだ。

 

○○○

 

「どうしたの、綾小路君。そんなに見つめられると気持ち悪いのだけれど」

 

「見てるだけで気持ち悪がられるのか、嫌われてるなー俺」

 

俺は堀北を見ていたわけではない。廊下で話す端橋を見ていた。

 

どうにも、嫌な予感がする。

 

「彼を警戒しているの?貴方が?あの男が何かをできる様には見えないけど」

 

「警戒している?なんでそう思ったんだ」

 

「顔が少しこわばっていたわよ。いつも無表情だから、とてもわかりやすかったわ。・・・別にわかりたくなかったけど」

 

たしかに、Cクラスには龍園というカリスマ的存在がいる。警戒するなら奴こそ警戒すべきだろう。

 

この前の須藤を退学させようとした計画もおそらく龍園が考えたものだろう。

 

「綾小路君。今の話ちゃんと聞いていたのかしら。」

 

「ん、ああ。Cクラス、Dクラスのクラス対抗のゲームの話か」

 

「一体何が目的なのかしらね。前の須藤君を退学させようとした犯人の計画だとは思えないけど」

 

「違うだろうな。このイベントを考えたのはおそらくさっき来ていた端橋だろ」

 

「そうなの?」

 

「多分な。Cクラスのリーダーがこんな平和的なイベントを計画するとは思えない」

 

「それは同感だわ」

 

「でも、だからと言ってなぜ彼なの」

 

不思議そうに堀北が聞いてくる。あの時隣にいなかった堀北には分からないのも仕方がない、か。

 

「それは、まあなんとなくだ」

 

平和的なイベント、一見そう見えるが多分違うだろうな。

 

俺が堀北を隠れ蓑に利用していたことを気付いて接触してきた数日後にこれだ。なんらかの思惑があると考えない方がおかしい。

 

「なんとなくって...最低ね。人を見た目で判断するなんて」

 

「あいつの見た目から腹黒そうなイメージしか湧かないんだ」

 

「醜い嫉妬ね綾小路君。ぼっちでコミュ障の綾小路君がそう思うのも仕方ないわね。彼はどうやら貴方にはないものを全て持っていそうだもの。もっとも、私は欲しいとは思わないけれど」

 

「俺は友達が欲しい。だからあいつが羨ましいと思っているのはたしかだ」

 

「本気で言っているの?なら行動で示しなさいよ。今から平田君のグループにでも行ってきたらどう?」

 

「俺には無理だ」

 

「でしょうね」

 

クラス間のゲーム。クラス対抗のゲーム。

 

このゲームの内容はおそらく学校も把握しているだろうな。だが、学校がこの程度のゲームに関与してくるとは思えない。

 

学力をあげる為の素晴らしい工夫だと評価してくれればいいが。提案したのは端橋達Cクラスだ。

 

この点で評価されるというのならCクラスに加点が入るだろう。

 

・・・なにか、何かおかしくないか。

 

Dクラスは絶対に不利にならない条件で、Cクラスは勝っても負けても多少損をする。

 

Dクラスには不真面目な生徒も多い、やらなければならないことなら渋々やるが、やらなくてもいいことならやらないやつの方が多い。

 

赤点は取らないだろうが、平均点はいいものにならないだろう。

 

Cクラスは一体何がしたいんだ...いや、違う。

 

不利に働かないのは生徒間だけでの話であって、生徒と学校(・・・・・)の間ではどうなるんだ。

 

学力向上の為、クラス間の蟠りをなくす為、イベントを考案したCクラスが勝負でDクラスに勝ったとする。

 

その時、学校はDクラスをどう評価する?

 

十中八九、『クラス間の雰囲気改善に勤めず、学力を向上させる機会を不意にし、一つ上のCクラスに大差をつけて敗北した落ちこぼれのクラス。』

 

学校側は、"あ〜やっぱりDクラスはダメだな。"

 

そう、評価を下すのではないか。そしてそれはクラスポイントに多大な影響を及ぼすのではないか。

 

sシステムについての詳細は未だ明らかになっていない部分が多い、しかしそのシステムの中に生徒間で行われたゲーム、争いも考慮されると仮定するとDクラスはCクラスよりも圧倒的に不出来な落ちこぼれとして、クラスポイントが減るかもしれない。

 

その可能性はある。端橋がこのことを承知で理解していて見抜いていて、このゲームを持ちかけたのだとしたら...

 

次のポイント支給は悲惨な結果になるだろう。

 

やられた。

 

他のクラスの奴が過去問を先輩から貰おうとしても誰も相手にしてくれないという話を最近耳に挟んだことを思い出した。

 

この話を持ちかける前から準備していた...?

 

だとしたら、端橋は頭の切れる奴であるのに加えて用意周到な奴だということか。

 

龍園が爆弾だとしたら、端橋は遅効性の毒、トリカブトだ。

 

ターゲットが気づかない間に追い詰めていくタイプの人間、ゆっくり確実に事をなす慎重なタイプの人間であることがうかがえる。

 

今から勉強しようと言っても過去問を入手することはできない。だったら、Cクラスとの差を少しでも縮めることができれば被害を抑えられるかもしれない。

 

「堀北。何でいきなりこんなゲームを持ちかけてきたんだろうな」

 

「何を言ってるの綾小路君。さっき平田君が言ってくれていたでしょ?クラス間の蟠りを「本当にそうか?」・・・どういう意味よ」

 

「Cクラスには一切得がない。じゃあ、どうやってCクラスはモチベーションを保って勉強するんだ?」

 

「そんなの、何も考えてない...訳ないわよね」

 

「だろうな。」

 

「でも、一体何があるっていうの...」

 

・・・こういう時、自分で閃いてくれると楽なんだがな。

 

「・・・そういえば、学校はこの事を知ってると思うか堀北」

 

「学校側が?このイベントについて知っているかということ?」

 

「ああ」

 

「十中八九、把握しているわね。でないと生徒達の過ごし方等全てを考慮してクラスポイントに反映させる、なんて真似はできないわ」

 

「そうだよな」

 

「待って、学校側がこの事を把握していたとしたら...このイベントの勝敗が翌月のクラスポイントに影響する、なんて事にはならないかしら」

 

「あり得るかもしれないな。幾ら生徒間の勝負とはいえ、しっかりとした契約ありきの勝負だからな」

 

「だとしたら、いや、でも」

 

「過去問は買えない、か」

 

「ええ、クラスの人が貰えない、買えないと言っていたのを聞いたことがあるわ」

 

「盗み聞きか?」

 

「うるさいわね」

 

俺が知っていたのは盗み聞きしたからじゃない。須藤に聞いたからだ。

 

 

 

『先輩が過去問売ってくれねぇんだよ。なんでだと思う?綾小路』

 

『分からないな。嫌われてるんじゃないのか』

 

『んな訳ねぇだろ!ぶん殴るぞ綾小路ィィィ!!!』

 

 

 

 

なんて事があった。

 

「とにかく、クラスのみんなにさっきの考えを伝えてくるわ」

 

「ああ」

 

クラスに勉強を呼びかけたところで、大して人は集まらないだろうな。

 

というよりも、今回は基盤が出来上がりすぎている。堀北では対処が難しいだろう。

 

だが、堀北がギリギリ対処できない、正攻法ではもう対処できない領域まで用意しておいて、まだ隙がある。

 

非道な手段を取ればなんとかなる道筋があるのだが、堀北にできない以上俺がやるしかない。

 

しかし、どうにも納得がいかない。ここまで準備できる奴が、非道な手段を想定していなかったとは思えない。

 

もしかすると、このイベント自体、俺を動かせるための罠なんじゃないか...

 

「考えすぎ、か」

 

俺は静かに席を立ち上がった。


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