Cクラスの臆病者   作:ビビり山田

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小テストでは、僕は当然目立たない平均点ぐらいの点数だった。

 

平均点ぐらいに調整するために、既に教科書は読み尽くして全範囲解けるようにしてある。

 

よし、クラスの足を引っ張ることなく引っ張り上げることもない人間味あふれた素晴らしい点数だ。

 

何故かウチのCクラスの平均がDクラスに負けていたのが気にかかる。

 

前回のクラスポイント発表でてっきり僕は成績順に振り分けられているんだと思っていたがどうやら頭の良さだけで振り分けられているわけではなさそうだ。

 

「っと、メールだ」

 

今回も預かりいれ額増額のメールだ。今日の夜会いたいというメールが来ている。

 

着々と様々な学年から預金された僕の端末には400万弱のポイントが表示されていた。

 

まだまだ増え続ける。そしていずれは...しかし、この計画はあくまでも保険だ。

 

こんな事いつまでもアイアに隠しながらやって行くことなんかできるはずがない。

 

だから、僕は奴に話を通すことにした。

 

「龍園君、ちょっといいかな」

 

僕が龍園に話しかけたことでクラス中がざわざわしている、に違いない。

 

それはそうだろう。僕は今まで意図的に避けて来たといってもいいぐらい龍園を避けていたのだから。

 

それが急に自分から話しかけにいったら不思議に思うに決まっている。

 

だからこそぼくは、先程の言をメールで龍園の端末に送ったのだ。(え?)

 

○○○

 

「俺を呼び出すなんてな、一体何のようだ端橋」

 

ぼくに呼び出された時点で勘付いているはずなのに敢えて聞いてくる龍園。

 

全く性格の悪い奴だ。

 

「実は僕は君に黙ってやっていたことがあるんだ」

 

それから僕は、コワード銀行のことを龍園に話した。

 

「なるほどな。で、俺にどうして欲しいんだ?」

 

「この銀行を続けることの許可だよ。特に助力してもらおうとは考えていないよ」

 

「おいおい、わざわざ俺に許可なんかいらねぇだろ?同じクラスメートなんだから秘密の一つや二つぐらいあって当然じゃねぇか」

 

全く白々しい。さっさと聞いて来てくれ。アレを。

 

「まあ、冗談はともかくとして。それで俺に何のメリットがある?テメェにポイントが流れたら俺にポイントが回ってこなくなるんだが?」

 

龍園はクラスの奴からポイントを月に一万ポイント徴収している。まさに王。Cクラスの王だ。なんて奴だ許せない。

 

「僕は君の計画に必要な資金を融資しよう。それこそが本来あるべき銀行の姿なんだから」

 

「なるほど。それで?」

 

これだけで満足してくれればよかったのだが、やはりそううまくはいかなかったか。

 

「...僕このクラスがAクラスに上がることができなかった時の保険のために動いている。この保険に龍園君も含めよう。必要な資金が倍になるけど、一人分ためられれば二人分貯めることだってできるはずだ」

 

「ある程度算段があるのか」

 

「一応は」

 

その内容は流石にいうつもりはない。それを龍園も理解しているのかそれ以上は突っ込んでこない。彼が目指しているものは単独のAクラス昇格ではなく、他クラスを踏み潰してクラスごとAクラスにのし上がることだからだ。

 

僕の計画は一人をAクラスに昇格させる、つまりはポイントでAクラスに行く権利を買うだけというつまらない計画だ。無論、保険はこれだけではないがそれを龍園に言う必要はない。

 

これ以降の僕の計画は全てこの銀行計画を隠れ蓑に進めていけるのだから。

 

「いいぜ。乗った。だが、融資はお前の判断でしろ。強制はしねぇ」

 

「?それはどういう...」

 

「そういうことだ。これ以上一人でいたら怪しまれる。じゃあな」

 

軽く手を振り僕の前から去って行く龍園。

 

ひとまず一つ目の難関はクリアすることができたようだ。

 

僕はもう一つの不安の種を潰すためにある場所に向かった。

 

○○○

 

まさか、あの端橋が裏で銀行なんか作り上げて既に400万のポイントを手に入れてるとは。

 

人は見かけにやらねぇってのはこのことをいうらしい。

 

初めは他の連中と同じパシリに使ってやろうと思っていたが、なかなかに面白い。

 

奴の意見も参考にして今後の計画を決めて行くのもありか。

 

あいつが融資しない計画は見直しで見るのも面白いかも知れん。

 

だが、直接あいつと二人で話してみてわかったのは恐怖だ。

 

あいつが怖いということじゃねぇ。あいつが自分以外の全てが怖いと、怯えている腑抜け野郎だってことだ。

 

だが、あいつはただの腑抜けじゃねぇ。

 

狡賢く、小賢しい。

 

頭が回って何重にも保険をかけることでしか安心できない。

 

そして何よりも、とんでもない矛盾を抱えてる奴だということに気づいた。

 

全く面白い。

 

まさかあんな事を考えてるなんてな。

 

 

あれは、俺があいつと初めて会った夜の日のことだった。

 

 

あれはまだ手下もおらず、反抗してくる奴を片っ端から片付けていた時のことだった。

 

夜の公園で一人、何もせずに海の向こうを見ている男子生徒がいた。

 

チャラチャラした明るい茶髪をしているくせに、身だしなみはきっちりしている奴でクラスでもそこそこ人気のあった人間だ。

 

少し気にくわねぇから、殴ってやろうとでも思っていた時だった。

 

まだ何メートルも離れているというのに、あいつはこっちを見やがった。

 

俺が殴ってやるかと考えた瞬間にだ。

 

少し驚いて、その場で固まっているといつのまにか目の前にあの男が立っていた。

 

「僕は怖いんだ。僕を害そうとする全ての物が...僕は臆病者なんだ。リスクのある賭けなんて絶対にしない。僕がするのは出来レースだけだ」

 

どこまでも卑屈で、どこまでも消極的で、そしてどこまでも臆病な男がそこにいた。

 

「ヤンキーに絡まれ喧嘩では相手に勝てないと思った僕は、逃げる為に足を鍛えた。陸上部にすら負けない俊足の足を手に入れた。すると今度は学力で貶められた。頭が悪過ぎるといじめられて優秀過ぎると白い目で見られる。だから僕は数週間で中学の教育課程全てを自習で理解し、あらゆる平均を計算して常にクラスの中間層にいることにした。今度は、大人しいだけで陰キャラだと責められた。何もしていないのにいじめられるのが嫌だった僕は程よく協調性のあるクラスでも中の上ぐらいのグループに所属して友達を作った。僕の人生は逃げの人生だ。苦しみから逃げる為に逃げて逃げて逃げ続けて、いつしか僕はヤンキーにも喧嘩で勝てて、陸上部相手に欠伸しながら勝てる、それに加えて勉強もでき、協調性もある完璧超人になっていた。・・・僕は本当に何がしたかったんだろうね...」

 

チューハイ片手に一方的に語った男子生徒は話し相手が欲しかったのか、話すだけ話すとどこかにふらふらと消えていった。

 

後に同じクラスの端橋と知って驚いたのは記憶に新しい。

 

そんな奴の考えだ。

 

そんな面白い奴の思考が一考する価値もないわけがないだろう。

 

今まで奴に大したことをさせていないのは自由にさせたら面白くなりそうだったからだ。

 

案の定銀行なんか作ってやがって、上の学年も巻き込んでいるときた。

 

俺に許可を求めてきたところを見るに俺が本格的にコワード銀行の正体を暴きに動き出そうとしたのを察知したんだろう。

 

「次の計画には奴も参加させるか」

 

少し、端橋という男を使って見たくなった。

 

○○○

 

龍園が言った言葉の意図がいまいちわからなかったが、気にしても仕方がない。

 

今はそれよりも、彼の事だ。

 

綾小路清隆。

 

名前を知ったのはつい最近だ。最近綾小路清隆という一年から過去の小テスト問題を譲って欲しいと言われた先輩がいた。

 

Dクラスの小テストの点数が上がったのは十中八九それが原因だろう。

 

このことを龍園に言うべきか悩んだが、龍園の能力を試す為にも今後の自分が取る行動を決める為にも今回は黙っておくことにした。

 

しかし、それはじっとしていることと同義ではない。しっかりと布石をうちに行く。

 

臆病者の僕としては彼には極力動いて欲しくない。純粋に堀北とやらと龍園には戦ってほしい。

 

そして懐柔してDクラスを支配下に置くのだ。

 

そうすれば僕も安心して上のクラスを潰す事に協力できる。

 

龍園が何かするときに立ちはだかって邪魔になるのは綾小路清隆ただ一人だ。

 

他にも彼にも比肩し得る存在があるかもしれないがそんなことを考え始めてばかりがないので、最近Cクラスに有益な情報を流してくれる彼女に頼んで監視してもらう事にした。

 

「ごめん、綾小路君っているかな?」

 

近くにいた女子グループ(顔見知り)に話しかけて彼の席を教えてもらう。

 

よっぽど面白い話をしていたのか僕のことに触れずに話を再開した。いい流れだ。

 

言い訳を10ほど用意していたけど余計な心配だったかな。

 

顔も知らない綾小路清隆とか言う人に僕は初めて会った。

 

そしてその瞬間、彼の目を見たときに僕は気づいてしまった。

 

自分さえ良ければいい、自己中の目だ。

 

他ならぬ僕が自己中なのだから余計に理解できる。

 

他人がどうなろうと自分が良ければそれでいいと言う思考の持ち主の目は周りに向ける目が死んでいるのだ。

 

最低限の情報収集は行なっているようだが、それ以外に興味はなさそうだ。

 

よく利用する駒には積極的に話しに行くようなタイプで余計な体力は消費しない主義の効率厨だ。

 

クラスのみんなと仲良くする。

 

そんな非効率的な事をしたくない、あるいは出来ない思考の人間は利用したい駒をそばに置き、いつでも使えるようにコンディションを整えているものだ。

 

かく言う僕もそうだった。

 

隠れ蓑にする生徒とは他の人たちよりも少しだけ仲良くしていた覚えがある。実際に高校でもそうやって生活して行くつもりだった。

 

普通の学校だったらの話だけど。

 

「君が綾小路君かな」

 

「ああ、そうだが。...多分初対面だと思うんだが」

 

「ああ、ごめんね。君のことは友達から教えてもらってね。僕の名前は端橋渡。よろしく」

 

「しってるようだが一応、綾小路清隆だ。よろしく」

 

目の前にしても何を考えているのか全く思考が読めない。表情の変化が乏しすぎる。判断材料が少なすぎる。

 

全く、僕の経験則から言って、

何を考えているのか分からないやつほど、思慮深くて狡猾なんだ。

 

本当、こんな奴がDクラスにいたんじゃ龍園も苦戦するだろうなぁ...

 

僕は今はここにいないCクラスのボスを哀れんだ。


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