Cクラスの臆病者   作:ビビり山田

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僕の名前は端橋 渡(はしばし わたる)

 

親が半ば突き放すような形で僕は高度育成高等学校というところに入学させられた。

 

ここが普通の学校だったなら、普通のクラスだったら普通に人付き合いをして無難な生活を過ごせたはずなのに。

 

しかし、この学校は普通の学校と違ったのだ。

 

「俺に従え。文句のある奴はかかってこい」

 

何だか怖そうな奴がいきなりそんなことを言い出した。

 

馬鹿なことを...いきなりそんな訳のわからないことを言っても浮くだけだ。

 

そう、思っていたんだ。

 

なのに、

 

「龍園さん、お茶買って来ました」

 

「ああ」

 

何でクラスの支配者になっちゃってんのさ。

 

初めは龍園とかいうやつに対抗していたガタイのいい外国人もいつのまにか傘下に加わってるし、もう龍園に勝てる奴はいないだろう。

 

終わりだ。

 

「おい、端橋」

 

「な、なにかな龍園...君」

 

「なぁに、ちょっと頼みたいことがあってなァ」

 

嫌な予感がする。特に目立ったこともしていない僕がなにをやらされるのが怖くて震えが止まらない。

 

膝が笑っている。

 

・・・

 

その後、龍園に頼まれたのは普通におつかいだった。

 

焼きそばパンとかベタだな。

 

あーよかった。

 

 

入学式の後、10万プライベートポイント(お金の代わりになるポイント)が配布され、クラスの奴らは豪遊した。

 

かくいう僕もそのつもりだったのだが、消費は最小限に抑えて友達に誘われた時や服を買うぐらいにしかお金を使わなかった。

 

学校では野菜が好きなんだと友達に言って山菜定食(無料)を食べ続け、生活必需品はすべて無料のもので買い揃えた。

 

『今月、10万プライベートポイントが諸君に配布されているはずだ。このポイントは学園敷地内のものなら何でも買うことができる』

 

担任のメガネをかけた悪そうな先生が言っていた言葉を思い出す。

 

【今月は】という所を強調して言っていた様に聞こえた。

 

では来月は?0だったらどうする?

 

臆病者でチキンな僕は出しゃばって先生に質問して目立つことを嫌い、後で一人で聞きに行こうと思ったが、龍園が担任と話し込んでいた。

 

時折先生が笑っている所を見ると仲良くなってしまったらしい。

 

ここで僕が先生に質問すれば、僕のことを龍園に伝えてしまうかもしれない。

 

誰かが質問するか、次の月初めまで待つしかない。

 

うまくいかないなぁ...

 

取り敢えず、上級生との関わりを作りたい僕は部活動説明会なる物には友達と参加することにした。

 

○○○

 

「じゃあ、今日の放課後みんなでカラオケ行こうぜ!」

 

現在クラス内のグループの一つの中の一人が、話の流れからカラオケに行こうと言い出した。

 

次配られるプライベートポイントの量がわからない今、あまり消費したくないのだが...

 

「それいいね。折角だし、他にも誘おうよ!」

 

「いいねいいね〜じゃあ・・・」

 

なんて感じで乗っかってしまう。ここで僕はちょっと用事が...なんて言ってしまったら浮いてしまう。

 

ああ、何でこんなこと気にしてしまうんだろう。もう今月は付き合いだけで10000ポイントは使った気がするよ。

 

これでも抑えてるはずなんだけどなぁ...

 

「端橋君もそれでいいよね?」

 

「うん、いいよ」

 

笑顔で返事をする。周りの人は僕が臆病者だってことは知らないだろう。

 

僕は筋金入りの隠れビビりだ。

 

小学校も中学校もずっとそうだった。仲間外れにされるのが嫌で、蚊帳の外にされるのが嫌で、でも一人の方が気楽で僕の頭の中はいつもぐちゃぐちゃだ。

 

それでもなにも問題が起きたことはない。

 

家族には取り繕う必要がないのでいつからか忘れたが、一切口を聞いていないが。

 

というか、気付いた時には一人暮らしになっていた。

 

っと、僕の過去の話はどうでもいいや。今はこのカラオケで歌うメジャーで普通に盛り上がれる曲を考えなくては。

 

チョイスにさえ失敗しなければ歌が得意な僕にとってカラオケの点数調整なんてお手の物。

 

一人でどれだけ練習したと思っている。

 

当然友達には、

 

「端橋君ってカラオケ結構いく?」

 

と聞かれたら

 

「僕は、友達に誘われて何度か行ったことある程度だよ」

 

と一人で行ったことはないアピールをする。

 

この日もカラオケは無難な曲の選曲に成功し、普通に盛り上がって普通に解散して終わった。

 

一安心だ。

 

 

○○○

 

僕はファー付き黒フードジャケットにGパンという格好で外に出ていた。

 

「さて、始めるか」

 

僕の輝かしい未来のために行動を開始した。

 

 

まず僕の計画に顔バレはご法度。

 

 

初めての顧客との待ち合わせ場所に向かう。

 

 

既に深夜0時だ。こんな時間に外出している人は限りなく少ない。

 

 

フードを深くかぶって顔がばれないようにもう一度確認して僕は客の前に姿を現した。

 

「初めまして。この学園で安心安全の銀行コワード銀行をご利用いただきありがとうございます。早速ですが、いくら入金されますか?」

 

まず僕がターゲットにしたのは、端末のパスワードがバレてお金を寝ている間に勝手に奪われた事がある先輩方だった。

 

友達関係を壊したくないが、お金を奪われるかと不安でその友達と遊んでいても心から楽しめないと信頼できる友達に相談していたのを盗み聞きした時に銀行を作ろうと思い立った。

 

月々100プライベートポイントで安心安全にお客様のクラスポイントを預かる事で無駄遣いや盗難を防ぐというのがキャッチコピーだ。

 

勿論信じられない人もいると思うので、ダミーの顧客を何十人も用意して客に見せた。

 

1.口外禁止、

2.連絡はメールのみで順番を待ってもらう時もある。

3.残高確認はメールで連絡する。

4.月々100プライベートポイントの支払い

5.4の条件が満たされない時、連絡もつかず支払いもない場合は預金額全額を回収する事がある。

6.口座を消した後は3ヶ月間新たな口座を作る事ができない。

 

と行った条件でとりあえずやってみる。

 

穴があるかもしれないがそれは後々対処すればいい。それこそ稼いだプライベートポイントで黙らせれば良いのだ。

 

「こいつも、こいつも預金してたってのか...全然気づかなかった。だからアイツらはパスワードがバレていても気楽で入れるのか」

 

この交友関係の狭い(調べた)先輩が相談していた信頼できる友こそが泥棒の犯人だと言うのは分かりきっていたのだが、敢えて口出しはしない。

 

せっかくのカモなのだ。いい感じに勘違いしてくれているようだし、このまま行こう。

 

「そうですね、この話を持ちかけた時彼らもすぐにのってきましたね。よっぽど不安だったんでしょうねぇ。」

 

「そうか...」

 

「彼らもはじめは訝しがっていましたが、徐々に貯金額を増やして行って今では使わない金の殆どをコワード銀行に預けていただいております」

 

勿論嘘だが。

 

「わかった。取り敢えず俺も1000ポイント預けさせてもらう」

 

「ありがとうございます。今月の支払いは結構ですので、次の月初めに預金からもしくは手渡しで100ポイントを回収させていただきます。」

 

後々、自動引き下ろしと行った形で毎月勝手に100ポイントを引いてくれと言われるようになったら、こっちのものだ。

 

「今後ともよろしくお願いします」

 

「ああ、また預ける時は連絡するよ」

 

そう言って先輩とは別れた。

 

あとをつけられていないことを確認してトイレに入り、フードを持ってきていたカバンの中にしまう。

 

徐々に顧客を増やして行き、最終的には...

 

 

空に浮かぶ満月を見ながら、僕は計画の成功を祈った。

 

 

○○○

 

 

翌月になった。あれから何人か銀行の利用者ができて顧客がようやく二桁になった。特に問題になるようなことはしていないので、騒ぎになったりはしていない。

 

引き出したいという連絡も何度かきているが、いつもしっかり対応しているため今のところ順調だ。最終的には一学年ぐらいの人数を顧客にしたいと考えている。

 

顧客は1日にクラスポイントが入るので100プライベートポイントぐらいなら問題ないのか普通に支払いに来た、もしくは引き落とさせてもらえた。

 

そして、うちのCクラスでは...

 

「10万ポイントもらえるんじゃなかったのかよ!」

 

「どういう事!?わけわかんないんだけど!」

 

とんでもない騒ぎになっていた。

 

龍園は何やら笑っていたが、関わりたくない。

 

隣の席に座る女子に「端橋君もそう思うよね!」と同意を求めて来たので適当に「そうだね」と表向きとても同意しているように合わせる。

 

内心こんなことになる可能性を予知していたので他の人より動揺していなかったが、このままではなかなかポイントの貯金ができない。

 

どうしたものか、と考えていると急に静まり返った。

 

龍園が立ち上がったのだ。

 

「落ち着けお前ら、先生の話の続きを聞こうぜ」

 

そういうと、着席した。

 

ほー、すごい。さすがこのクラスのリーダー様だ。

 

「どうせポイントを増やす方法もあるんだろ?」

 

と龍園が言った。

 

それはそうだろうな。じゃないと困る。

 

「今龍園が言ったように、試験で良い点を採るなどクラスポイントを上げるチャンスはある。クラスポイントに関する詳しいことは教えられないが、これだけは断言できる」

 

Aクラスよりもクラスポイントを高くできればCクラスはAクラスになれる、と。

 

そう言うシステムなのかー、と一人感心していると一人の生徒が立ち上がって吠えた。

 

「そんなのAクラスに試験で勝てるわけねぇだろ!いい加減にしろ」

 

そーだそーだとクラス中がまた騒がしくなる。

 

うるさくなったクラスに嫌気がさしたのか担任はクラスから出て行ってしまった。

 

自由だな。

 

出て行く前に龍園の方を見たことから、「なんとかしろ龍園」という言葉が聞こえる。

 

その後、龍園がクラスにクラスポイントを上げるのは勉強だけじゃねぇ。

 

みたいなことを言ってみんなを焚きつけていた。

 

「俺についてくれば、勝てる」

 

自信を持って言う龍園にクラスのみんなは黙るしかなかった。

 

カリスマ性だけでなく、龍園は頭も切れる。

 

なんだかとんでもない方法でクラスポイントを増やして行きそうだ...

 

僕はクラスの友達と普通に過ごすので頑張ってください。

 

心から僕は祈った。

 

○○○

 

案の定事件が起きた。

 

暴力事件だ。

 

生徒会が裁判官みたいな感じで判決を下す学級裁判のようなものが開かれるぐらい事態は発展した。

 

一方的にうちのクラスの三人がDクラスの須藤とやらにボコボコにされたらしい。

 

弱すぎんだろうちのクラスの男...

 

というのは冗談で、どうやらこの時間は龍園が仕組んだ事件らしい。

 

Dクラスを潰すために企んだ計画らしい。

 

何故Dクラスなのかはわからないが、おそらくD、B、Aと潰して行くつもりなんだろう。

 

その気持ちは僕もわかる。一から十まで全て制圧しないと気が済まないという気持ちはゲームでよく起こる。

 

例えば、戦国時代の無双系ゲームで敵の大将以外は全部味方の兵士になるまで敵兵を殲滅するとかね。

 

よくやったよ僕も。龍園がこの例えに共感してくれるかはわからないけど。

 

その後、何故か龍園の須藤の退学計画が失敗し、いつのまにか怪我させられたことに対する訴えは取り下げられていた。

 

誰だよ取り下げたのは。そんなことしたら龍園の怒りに触れるに決まってるじゃないか。

 

どうやって言いくるめられたのか知らないけど愚かすぎる。

 

やれやれだ。

 

 

これで龍園の機嫌が悪くなってこっちに当たられたらどうするんだよまったく。

 

 

奇跡的に僕のグループに飛び火することなく、小テストが実施された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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