STEP by STEP UP   作:AAAAAAAAS

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個人的に八神さんは10代の頃は全然、今と性格が違う気がします。
ゲームでは母親をママと読んでるっぽいですし。

ドラマcdだとお化け屋敷で幼児退行してるので;


「大事にする、ね?…お姉、ちゃん」

 モーションのふたりがそろそろ終わる作業の頃合を見計らい、

コウは鄕里の手を引いてキャラハンブースに戻っていた。

 

 そして少し散らかったテーブルを簡単に片付け、

引出しを引いた。

 

 その中には彼女が書いたであろうラフ画があった。

フェアリーズストーリーのキャラの絵だ。

 

 バッテンやリテイクという文字がキャラの周りを埋め尽くしていたが、

決定稿の版が押されたキャラがいた。

 

 そのキャラはフェアリーズストーリーの現・カレンというキャラだった。

 

「約束だったな。

 お前と兄さんをゲームに必ず出すってさ」

 

 コウはラフ画を困ったように、

それでいて万感の思いを込めた笑みで笑った。

 

「…せめてこんな形でも出したかったんだよ.

 ちなみにナイトやコナーは清太郎を参考にしてるんだ」

 

 その紙を受け取り鄕里は確認するように呟く。

相変わらず無表情のままで、自分と似ていて自分より表情豊かな分身を見る。

 

 そんな彼女を見つめるコウの表情はとても優しかった。

 

「私は…覚えてない…記憶はある…けど、どう思ったか思い出せない、

 でも…この絵が好きだってことだけは、わかる…よ?」

 

 しかし、鄕里の目から透明に光るものが流れていく。

 

「あれっ…なんで…涙が…」

 

 自分がどうして震えてるのか分からない。

そしてどうして泣いてるのかも分からず鄕里は困惑した。

 

 コウは鄕里にゆっくりと近づき、強く抱きしめた。

 

「ちゃんと深いところで覚えててくれてるからだよ。

 鄕里?お前は妹で大事なファン一号だよ」

 

 彼女の頭を撫で優しく囁く。

鄕里はコウの肩に顔をうずめこくりと頷いた。

 

 

「アリガトな?鄕里、私なんかの絵を好きでいてくれて、

 信じてくれて…色々、寄り道も回り道もしたけど何とかやってるんだ、私」

 

「こんな私にも後輩ができて、さ。

 んで、昔のお前と同じものを見てる奴らがどんどん増えて…

 結構、今、幸せで楽しいんだ」

 

 コウはここ数年の自分の不器用さを振り返り、

自嘲気味だがそれでいてはっきりと強く言う。

 

 再び鄕里に会えた。

 

 失敗も後悔もしたが妹の前で下を向くつもりはない。

只、強く誇らしげにコウは笑う。

 

 そしてゆっくり離れるとラフ画を彼女に手渡す。

鄕里は受け取る。

 

「大事にする、ね?…お姉、ちゃん」

「あぁ、大事にしとけっ!」

 

 涙を指先で拭いながら、鄕里は静かに返した。

無表情だがその顔はどこか晴れやかに見えたのは、

コウ自身の気のせいではないだろう。

 

「じゃ、ヒビキやりんたちのトコに行こうか。

 さとりん」

 

「…それ、私のこと?」

 

「ひふみんと同じで「ん」つけると響きがいいんだよ」

 

 実質、コウは親しい人間の名前に「ん」のつく響きが気に入っていた。

ヒビキにも「ん」をつけるかどうか…

どうでもいいことを迷っていた。

 

 りん、阿波根、ゆん、あたり割とコウにとっては何故か好きな響きだ。

 

「わかった、じゃそれで…」

 

 特に、本当に特に思うこともなく鄕里は了承した。

 

「じゃ、行こうか。さとりん」

「ちょっと、遠山さん…ぽいね…お姉ちゃん」

 

 どうでもいい返答をして鄕里はコウについていった。

 

 そのやり取りを聞いていたのか、ヒビキたち三人が見計らうように出てきた。

先程までのやりとりを聞いていたのか、見守るように優しい笑みだ。

 

「姉さん、どうでもいいこだわりがあるよネ。

 うみこさんを阿波根って呼ぶあたり何というカ」

 

「んーでも、私もあおばんとか八神さんに呼ばれたいです」

「何か青い番長みたいですね」

 

 羨ましそうに青葉はそう言うが紅葉にそうつっこまれ、

若干ショックを受けた。

 

「個人的に番長ではなくてモ、東大の赤本みたいですネ」

「あー、ちょっと分かります。専門用語っぽいっていうか」

 

 あおばんの響きを真面目に考える二人。

その二人の真面目なボケに居た堪れなくなったのか、

顔を真っ赤にして青葉は反論する。

 

「二人はヒビキんやもみじんでいいですよねっ、

 私より響きが可愛くてっ!」

 

「いや、でも…漢字を想像するとヒビ禁とかもみ神とカ…」

「ヒビキちゃん、なぜその漢字をチョイスしたんですか」

 

 そう紅葉に突っ込まれつつ、本題を切り出そうとわざとらしく咳をする。

 

「さて、じゃあ姉さんがいない間にちゃっちゃと済ませましょうカ」

 

 そう言うと自分のデスクの下にある風呂敷包のそれを机に置く。

 

「紅葉ちゃんにはこっちを…青葉ちゃんにはこっちですネ」

 

 ヒビキは二人にそれを手渡す。

受け取ったふたりはやはり興味があるのか、伺うように彼女を見た。

 

「へっへっへっへ~っ、これがその例のブツですか、お代官様」

「なんで悪代官のノリなんですか」

 

 下衆な笑みを浮かべて揉み手をする青葉、

それに律儀に突っ込む紅葉。

 

 この二人、いいコンビだなぁと思いつつヒビキは苦笑する。

 

「とりあえず開けてみてヨ。

 私のいう意味が分かると思うんデ」

 

「はいっ、風呂敷の中身はなんじゃろなぁ~♫っと」

(青葉さん、ノリがいちいち古いです…)

(言葉のチョイスが何か面白いネ…うン)

 

 彼女自身、無意識の言葉のチョイスを内心だけに止め二人は突っ込む。

二人は風呂敷をとくと中には無数の紙の束が出てきた。

 

「うわ…紙…画用紙…自由帳…」

「漫画用の原稿用紙もありますね…それも全部、落書きが踊ってますね」

 

 様々な種類の紙の束に鉛筆やインクの線が奔る落書きが書き込まれていた。

二人はこの落書きが何の意味があるか分からず、混乱した。

 

「あの、ヒビキちゃん。

 コレってなんですか?」

 

「だれかの落書きということはわかります。

 線のラインから見ると私のトコの落書きと

 青葉さんの落書きは違う人が描いてるみたいですが」

 

 青葉は素直に紅葉は分析するように当然の疑問をぶつけた。

その疑問を待っていたかのようにヒビキは微笑む。

 

「そう、落書きだヨ。

 紅葉ちゃんに渡したのは、姉さんの昔の落書キ、

 青葉ちゃんに渡したのは姉さんの先輩とも言える兄さんの落書きだヨ」

 

 その内容に思わず二人は驚く。

しかし、構わずヒビキは続ける。

 

「ふたりの絵のルーツがこの落書きにはあるんだヨ。

 他の人たちにはともかく、君たちにとっては非常に価値のあるものと思ったけド?」

 

 ヒビキの言葉に二人は目をキラキラさせて彼の両手をそれぞれ取る。

 

「ありがとうございますっ!

 確かにこれは宝物ですっ!

 八神さんに負けないようなデザインを勉強しますっ!」

 

「憧れの人の歴史…

 気分が高揚しますね、これは…ありがとうございますっ!

 参考にさせていただきますねっ」

 

「例を言われるほどじゃないヨ…

 実家の倉庫に腐るほどあるかラ、整理の意味も込めテ…だからネ」

 

「でもいいんですか?

 八神さんはともかく、お兄さんのは形見なんじゃ…」

 

「だからこそ、かナ…

 今の鄕里や畑違いの私が抱えても兄さんの技術は死ぬだけだし…

 それにpecoのキャラデザの事は聞きましタ…。

 だったら、青葉ちゃんが持っていたほうがいいでしょウ?」

 

「ヒビキちゃん…」

 

 青葉はヒビキの言葉に感極まったように笑みを浮かべ、

瞳に涙を浮かべた。

紅葉は時期的にその意味は分からなかったが、

青葉が何か悔しさを抱えてるような気がした。

 

「紅葉ちゃんには姉さんの事をもっと知る方が良いかもしれないかラ、

 そっちを渡しましタ。でも姉さんには秘密ですヨ?」

 

「?どうしてですか?

 落書きですけど、これでも結構うまいですよ?」

 

「いや、恥ずかしがって取り上げようとすると思うのデ」

 

 紅葉の疑問にヒビキは硬い笑みを浮かべ、そう答えた。

青葉は納得したように頷く。

 

「分かりますっ!八神さん、がさつでズボラなのにそこら辺、変に照れ屋ですよね」

「今の姉さン、パンツ一丁で会社に泊まってるとはしずくさんに聞きましタ」

「えぇっ!?そうなんですか!?

 インタビューの写真が儚げで綺麗な感じだったんで意外ですっ」

 

「ちなみに昔の姉さんは滝本さんに近い感じの人でしたヨ。

 パンツ一丁も流石になかったですシ」

 

「おぉー、そうなんですかっ!

 他には他にはっ?」

 

「私も知りたいですっ!お願いしますっ!」

 

 そして三人は八神コウ談義に花を咲かせた。

その会話はキャラハンの三人が来るまで続いた。

 

 そして後日、

口を滑らせた二人に自分の過去の暴露話をされたと知ったコウは、

凄まじい形相でヒビキに詰め寄る。

 

 しかし、それを見越し彼女はプログラム、

モーション班にヘルプとして避難したそうな。

 




妄想ですがヒビキの声のイメージは山田さん役の藤田咲さんを想像してください。
鄕里は可憐のコスプレをしていた角元明日香のイメージです。

エキストラ声優さんも豪華ですよね、このアニメ。

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