STEP by STEP UP   作:AAAAAAAAS

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 このキャラクターの立ち位置を後書きに書いておこうと思います。


「ヒビキちゃん、ハードルを上げないでくださいっ!!」

 長身の少女の背中を押す、二つの小柄な影。

一人は九能ヒビキであり、二つは涼風青葉、望月紅葉その人たちだ。

 

「意外と二人共、力強いんですネ」

「そっ、そうですかね~、寧ろ体力ない方なんですけど」

 

 青葉は困ったように笑い、頬をポリポリ掻いた。

むしろ運動もしてないので落ちてると思っているが…。

 

「というか、ヒビキさん…相当鍛えてませんか?

 背中がなんか硬い…いえ、引き締まってますよね?」

 

 紅葉はメイド服腰に感じる背中の手触りに感心するようにいう。

 

「あっ、ホントだ。

 ヒビキさん結構鍛えてるんですね?」

 

 青葉たちの感想を聞いてため息を吐く。

 

「まぁ、楽器を使うのって体力勝負だからねェ。

 サックスとかトロンボーンは肺活量使うシ、

 アコーディオンは重いシ」

 

「なるほど、だから締まってるんですね。

 私、お肉つきやすいんで羨ましいです」

 

 青葉はキラキラ視線をヒビキに向ける。

しかし、ヒビキはヒビキで青葉にこういう。

 

「でも変にゴツくなるかラ体重は軽くても細マッチョに成りそうなんだよねェ」

「あ〜…ムキムキになりそうなんですね」

 

 青葉は自分に筋肉が付いたボディを想像したが、

んーと悩ましげに頭をひねる。

 

「それはそれで死活問題ですが早く行きましょう。

 八神さんの元へ」

 

 話と目的が脱線しそうになったので紅葉は釘を刺した。

 

「あっ、そうだねっ、紅葉ちゃん」

「…二人共、有難ウ。ついて来てくれテ」

 

 そういうとヒビキは振り返りふたりの右手を優しくとった。

その行動が疑問に思って二人は首をかしげる。

 

「貴女たちの商売道具をこれ以上、酷使させるわけには行かないかラ…

 御免ネ?二人共?」

 

「いえいえいえっ、私の手のことなんて気になさらずにっ!

 それにまだまだですよっ!」

 

「そうですっ、何か恐れ多いです…八神さんの関係者にそう言われるのは」

 

 二人のその畏まった言動にヒビキは困ったように首を振った。

 

「そうやって畏まれそうだから黙ってたんだけどネ。

 それに妹分ってだけだから、サ」

 

 ふたりの右手を優しく包んだままヒビキは笑みを向ける。

 

「私の方が確かにちょっと年上ではあるけド、

 ここでは先輩なんですかラもっと堂々としてくれてもいいんですヨ?

 あーでもっ、私みたいなムキムキな後輩は要らないかァー」

 

 前半は優しげに後半は落ち込むようにヒビキはそう言う。

二人に背を向けて三角座りをして落ち込んでいる。

 

「わわっ、そっ、そんなことありませんよ~!!

 大歓迎ですよっ!ねっ!紅葉ちゃんっ!?」

 

「っ…ぇえ…。

 私もその…」

 

 付き合いの短い彼女に関して紅葉はどもってしまう。

彼が気さくに話せるのはツバメだけなので、

とっさのことにどうしていいかわからない。

 

 青葉とも大分打ち解けた方ではあるが…

ヒビキに関してはハードルが高いようだ。

 

「ん~?」

 

 ヒビキは背中越しにその反応が面白いのかニコニコと笑みを浮かべている。

元々、そんなに落ち込んではいない。

二人のリアクションが面白そうだからだ。

 

「じゃぁ、こうしましょう。

 いきなりは無理そうなのデ、紅葉さんは「ちゃん」づけで呼んでください」

 

「ふぇえぇ!?」

 

 いきなりの振りに紅葉は顔を赤くしてギョドる。

青葉はどこか楽しそうなヒビキの気配と彼女の余裕のない姿が面白くて…

 

(ヒビキさん、やるなぁ~…私ものっかろ~♫)

 

 そしてにっこりと青葉はヒビキを見つめ…

 

「じゃぁ。ヒビキちゃんっ、そろそろ八神さんのところへ行きましょうか?」

(涼風さんっ!?順応早すぎでしょう!?)

「いや、私は紅葉さんがちゃんづけしてくれるまで動きませン!」

(ヒビキさんっ!?なんでそんなに必死なんですか!?)

 

「だって呼ばれたいじゃないですカ!?ねぇ、青葉ちゃんッ!?」

「はいッ、私も呼ばれたいですッ!ヒビキちゃんッ!!」

 

 どこで通じ合ってるのか、二人は切実にそういい固い握手をした。

しかもすでにちゃん付けである。

 

「~~ッ…もぅッ、知りませんッ!!」

 

 顔を真っ赤にして頬を膨らせて二人より先にずかずかと歩いていく。

 

「ちょっとまっテ、紅葉さンッ!

 というか貴女だけ先に言っても意味ガ…」

 

「紅葉ちゃんっ、ごめんごめん、だから置いてかないで」

 

 二人は笑いを堪えながら紅葉を追いかけた。

紅葉は不意にぴたっと止まり、こちらに顔を向けずに行った。

 

「…ヒビキさん、あなたがちゃん付けで呼んでくれたらやります。

 私だけさん付けは不公平ですっ」

 

 そういうと青葉は楽しげにヒビキは嬉しげに微笑んだ。

 

 すると、向こうから足音がコツコツと聞こえてきた。

暗がりの廊下だったが、人数的にあの二人しかいなかった。

 

「…姉、さン…」

「ヒビ、キ…」

 

 やや緊張した顔持ちでコウはリンを伴い彼女の前に現れた。

ヒビキも緊張してるのか表情は硬い。

 

「よぉ…」

「はイ…」

 

 コウは硬い笑みで軽く手を挙げた。

同じく硬い笑みで響きはうなずくだけだ。

七年間のズレは二人の中にシコリと溝をはっきりと残していた。

 

 なにを言えばどう謝ればいいのかわからない。

否定された妹と見捨てた姉…互いの後暗さが互いを縛っていたが…

 

「コウちゃん、ちゃんと言わなきゃダメでしょ?」

 

 りんは彼女の背中をそっと押した。

 

「あぁ…私が姉だからな?」

 

 苦笑しながらコウはヒビキを見つめ近づく。

 

「まだ、妹と思ってくれてるんですネ。

 肝心なトコで見捨てちゃった私ヲ…」

 

「っっ、違うっ!!

 お前に八つ当たって拒否したのは私だっ!

 お前は何も悪くないっ!!」

 

 自嘲気味なヒビキの言葉にコウはたまらずそう叫んだ。

 

「それでもッ、私が強ければ…ちゃんと側にいれたんですッ!

 あの時の私は姉さんが怖かったんですッ!

 鄕里もああなって兄さんも居なくなってッ…」

 

 この上っ、姉さんまで居なくなっテ…否定されるのが怖かっタ。

そんな現実が耐えられなかったんでス!

 

 姉も妹も兄もいなくなる現実なんて認めたくなかったんでス!

 

「っ…ごめんっ、なっ…!!

 本当にごめんなっ…!!」

 

 コウは彼女の抱えた不安を改めて突き付けられ、

たまらずヒビキを抱きしめた。

 

「なぁっ、ヒビキぃ…

 まだ、こんな私を姉ちゃんって呼んでくれるなら…

 また…チャン、スくれるかな?」

 

 涙声に震えながらもコウは響きの頭を撫でて尋ねる。

その所作は本当の姉妹にも親子にも見えた。

 

 コウの胸の中で感極まって震えて泣いているヒビキ。

彼女は言葉を出せずに、只首を静かに縦に振った。

 

 その様子を三人は涙ぐみながらじっと見ていた。

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

「すいませン、見苦しい所を見せちゃいましタ」

「ううん、いいのよ?

 ヒビキちゃんたちには必要なことだったんだから」

 

 泣きはらした瞳をヒビキは苦笑に歪めた。

そんな彼女にりんは優しげに言う。

 

 コウはヒビキに向き直って笑みを浮かべる。

 

「お互い避けててまだ言ってなかったな。

 就職おめでとうヒビキ」

 

「はいっ、姉さン」

 

 自らも泣きはらした目だったがコウは笑顔を浮かべてそう言った。

それにヒビキも笑顔で応える。

 

「私からも姉さんに一言…?イイ?」

「ん?何だよ?」

 

 

 

 

 おかえリ、姉さン

 

 

 

 っ、あっ、あぁ…!ただいまっ!ヒビキっ!

 

 

 

 

 自分を迎えてくれる言葉に、コウの胸に暖かい痛みが走る。

再び彼女の目に涙が溢れてくる。

 

「本当に良かったですね。

 八神さんにヒビキちゃん…」

 

「はいっ、私もちょっと泣きそうです」

 

 青葉と紅葉は目の淵に涙を浮かべて微笑んでいる。

りんは指先で瞳を拭い二人を見つめていた。

 

「姉さン、良い後輩と後継者に恵まれたんですネ」

 

 コウから離れて青葉と紅葉を見つめ言った。

 

「あぁ…これからの奴らだよ。

 この会社を担う次世代の人材さ」

 

「えぇ!?

 そんな勿体ない言葉ですよっ!」

 

「そっ、そうですっ!

 私の方はまだインターンですしっ」

 

 コウが笑みを浮かべてヒビキに二人にそう紹介した。

ヒビキは青葉と紅葉のそんな様子がおかしくてクスクス笑った。

 

「それは期待大だネ。

 二人が居ればあっという間に売り上げ黒字間違いなしですネ」

「あぁ、後は二人が盛り上げてくれる。んでっ、私はだらだら過ごすっ!」

 

「ヒビキちゃん、ハードルを上げないでくださいっ!!」

「そうですっ、というか八神さんも何、ダメな方に乗っかってるんですか!?」

 

 青葉と紅葉の焦ったリアクションにコウとヒビキはくすくすと笑った。

ヒビキはひとしきり笑うと、りんの方に目を向けた。

 

「遠山さン…」

「?何かしら?ヒビキちゃん…?」

 

 ヒビキはりんに近づくとゆっくり上体を…頭を下げた。

 

「姉さんの事、有難うございまス。

 貴女のお陰で再び姉さんに会う事が出来ましタ。

 そんなつもりはなかったんでしょうガ…

 姉さんの傍にいてくれて感謝しかありませン」

 

 その言葉を受け、りんは彼女の後頭部をに手を置き優しく撫でた。

 

「いいのよ。好きで傍にいたんだからっ、それに楽しかったわ。

 コウちゃん、貴女のお姉さんと駆け抜けた七年間は」

 

 優しい音色でそう言いりんは言う。

ゆっくりと彼女は頭を上げるとヒビキは救われたような笑みを向けた。

 

「何となくですけど姉さんが立ち直った理由が分かった気がしまス」

「ふふっ、褒め言葉としてとっておくわね」

 

 二人のやり取りにコウは照れるように気まずげに頬を書いて目をそらした。

 

「とりあえず戻りましょうか。皆さんっ!」

「えぇ、まだ残ってる作業もありますしね?ヒビキちゃん」

 

 青葉は元気よく、紅葉はどこか照れくさそうにそうつぶやく。

 

「そうだな。じゃ、行こうか。ヒビキ、りん」

 

 りんとヒビキは静かに頷くと青葉たちと共にその場を歩いていく。

 

 

 

 

 そしてこの日、

イーグルジャンプに、新しい風が吹いた。

 

 

 九能ヒビキはこの後、後継者たちとの関わりの中で成長し、

成長させていく。

 

 

 

 

 





 newgame!に限りませんが自分の中で決めた課題がありまして…
原作とはちょっと時間軸が違う独自展開を書こうと思いました。

 というのもオリキャラを出すんなら独自の展開を出したかったんです。
原作に登場しない奴を出すんなら、何かしら違う流れに成るはずなので…
原作通りイベントが進む事はないだろうと。

 出ても原作と全く変わらない流れなら出す意味がない気がしたからです。
既存キャラ達だけで出来ると思うので…

 後、ハーレムものという手もあったのですが…
原作では花ちゃん?に男は取られてるので、即却下でした。
無理に出す事も出来たのですが、それやると原作に遠ざかる気がしたからです。

 個人的にこう言うキャラが居た場合の並行世界の体で書いてます。
だから、そこら辺の社風を変えると原作と剥離していくのが理由だったりします。
偽物度が強くなるというか…。

 原作に男が就職すればハーレムものを書けたでしょうが…。

 そして全く、原作に出てきてない担当を宛がおうと思いました。
それが音楽、音響の担当でした。

 唯、これに関しては私自身も調べてみてもどんな感じでやってるか分かりづらいので
ごまかしごまかしやっていきます(をい


 そして原作では謎の八神コウの七年前を埋める設定を作ろうと思いました。
彼女の今の性格を鑑みると、何か理由が合ってあんな攻撃的だったんじゃないかな?と
じゃぁ、どれくらいの理由ならそうなるかと言えば…と考えて九能家が生まれました。

 ちなみに九能兄、九能ヒビキ、九能郷理の名前にも八神コウ、newgame!に関わる意味があります。
それは次回の後書きで。

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