STEP by STEP UP   作:AAAAAAAAS

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気づいてる方もいると思いますが、
八神コウの留学の時間にずれが生じてます。

修正不可能のバグスターに感染しましたのでお願いします。


独自設定と過去捏造、まっしぐら…。
好きな人はついてきてください。


「えぇ、もちろん!  八神さんは憧れの目指すべき存在の人ですっ!」

 翌日、久能姉妹は二人揃って出社することになった。

 

 そんな状況の中、ヒビキは思案した。

 

 音楽関係の仕事が希望だったが、募集求人にそれが載っていなかった。

一応、付け焼刃でキャラデザの勉強はしていたもののまだ実力不足だろう。

 

 応募したものの希望の場所にすぐ行ける、

という虫のいい前向きさは捨てるべきと考えていた。

 

 採用には感謝はすべきだ。

だからこそ、これ以上の高望みは気を付けたほうがいい、

そうヒビキは自戒した。

 

 そんな事を心に留め、

会議室のブースでしずくと対談をしていた。

 

「流石に郷里君のようにすぐに業務は無理だろうね」

 

「一緒にしないで下さいヨ。

 本来、持てるはずのない物を間違って手に入れてんですかラ」

 

 メイド服に身を包んだ彼女、

ヒビキは背筋を伸ばしてしずく社長の正面に座った。

 

 しずくはヒビキの正面に座って彼女の企画書を見ていた。

彼女はヒビキにどんなゲームを作りたいのか、という課題を与えていた。

 

「何というか、発想がメタ的に豊かだね。君は。

 方向性は違うんだが、どこか八神を思わせるな」

 

「っ、そうですカ?光栄ですネ。その言葉ハ」

「デザインの描画力は流石に青葉くんや紅葉くんに劣るが、

 着眼点が面白いね」

 

 彼女の持ってきたゲームの企画書はリズミカルな音ゲーものだ。

 

 舞台はコンピュータの中の電脳世界で蔓延する

バグやエラーをリズミカルなボタン操作で消滅させていくというもの。

特殊なアバターを使い、バグ消滅のクエストをこなしてくというものだ。

 

 しずくが目を引いたのは、舞台設定が現代に近い近未来。

バグやエラーを消滅させるための電脳アンドロイドというアバターが普及。

 

 ゲーム会社はそのアンドロイドを駆使し、

バグやエラーを倒していくというもの。

 

 アンドロイドは最初は最低限の人工知能しか有していないが、

育成の要素も兼ね、ユーザと心通わせることにより感情を確立していくというものだ。

 

「割とよくある設定とは思いますけド…

 機械が感情を持つとか、敵を倒すためのアンドロイドとカ」

 

「おいおいヒビキ君?卑下はよくないよ。

 私的にはゲーム会社のデバッグ作業を音ゲーにしてるという発想が好みだ。

 プログラム班には結構好評だと思うよ」

 

「ははっ、だといいんですガ」

 

「私たちの苦労をわかってくれてる、ありがとうみたいな」

「あー…そっちですかァ…」

 

 ここに来る途中、

ちらっとだけデバッグ作業とプログラミングに苦労してるねねとツバメを見かけた。

郷里はスキルはスキルだけに使いどころやタイミングをうみこと話していた。

 

(便利ではあるけど、使いどころを考えないとだからネェ…

 強力な何だけどネ、郷里の瞬間記憶演算能力ハ…)

 

「郷里くんのことが心配かい?」

「あー…まぁ、作業はともかくコミュニケーションがからきしなのデ…

 仕方ないといえば仕方ないんですガ」

 

 その言葉にしずくは納得した。

確かに彼女は普通の面接で採用は不可能だろう。

 

 だからこそヒビキは彼女の演算能力を見せつけて、

手放すのが惜しいと思わせたのだ。

 

 彼女の回りくどさも今なら納得というものだった。

 

「うみこくんは辛抱強く面倒見がいい。

 桜くんも鳴海くんもみんないい子たちだよ」

 

「えぇ、それは知ってまス。

 言うほど心配はしてないですヨ」

 

 あの子も割と愉快なところはあると思いますシ…。

 

「では、桜さん、鳴海さん、郷里さんも少し休憩にしましょう」

「ふぅ、やっぱ肩こるなぁ~」

「ねねっち、基本じっとしてるの苦手だしね~…

 さとっちはぁ~?」

 

 椅子から立ち上がり伸びをするねねとツバメ。

そして、無表情に突っ立っている郷里。

 

「………」

 

 真顔と無表情のままでノーリアクションだ。

しかし、数秒後には緩慢な動作でコックリとうなずいた。

 

(あっ、あんなに仕事の動作が早いのにっ、

 リアクションがスローライフだよっ!)

(たぶん、さとっちにとってはこれが普通なんだ、うん…)

 

 ひふみや紅葉を遥かに超える上限しらずのコミュ障を発揮する郷里。

しずくも思っていたが、これでは確かに面接は通らないだろう。

 

 じーーーー。

 

「なっ、なにかな?さとっち?」

「えっと、どうしたの?」

 

「私…やりたいこと…も、動機も、わかんない…

 楽しいことも…苦しいことも…わかんない…」

 

 訥々と郷里は言葉を落とした。

うみこもその主張を静かに聞いている。

 

「こんな私を…お姉ちゃんが…いつまでも、私を、

 構ってくれる、理由もわかんない」

 

 どうしてここの人たちは、構って、くれる、の?

 

 郷里の言葉に三人は静かに受け止めてそれぞれ口を開く。

 

「私は実力を評価しただけですよ。

 …実際、あなたはそれに応えれる技能を有している、

 では不満でしょうか?」

 

 あくまでも情を排した言葉だが、

過度な憐れみを向けることはうみこは良しとしていない。

 

「少なくとも、ヒビキさんがきっかけではありましたが…

 それだけの理由ではありません。

 あなたと仕事をしたいと思ったのが、全員の総意です」

 

「そーだよっ、私たちっ、さとっちの事大好きだからねっ!」

 

「それに面倒見るのはももで慣れてんだし、

 気ぃ使う必要なんてないんだからっ」

 

 その言葉に郷里は一瞬、沈黙し…。

 

「…うん、わかり、ました」

 

 とだけ返した。

 

 その返事はねねとツバメは嬉しそうに笑い、

互いを見やって手を組み合わせ、うみこは見守るように笑んでいる。

 

 

 昼時。

 

 キャラハンブースで五人は談笑していた。

 

「ヒビキちゃん、葉月さんに企画の提出の課題を受けてたね」

「せやったなぁ~、上手くいってるやろかぁ~」

 

 はじめのその言葉にゆんはその言葉をきき、

心配そうにおろおろとしている。

 

「ゆん先輩、何かお姉ちゃんかお母さんみたいですよ」

 

 青葉は苦笑しながらゆんを見ていた。

 

「ははっ、うちも妹おるしな。兄はおらへんけど、弟もおるしなぁ…

 妹のためにここに来たっていうのはうちには共感できるんよ」

 

「あー…でも力になってあげたい子だよね」

 

「でも、力になってもらわないと困りますよ」

 

 紅葉はすこし厳しい表情でそう言う。

 

「紅葉ちゃん、ちょいとそれは厳しいんじゃ…」

 

 青葉は若干容赦ない言葉を宥めるよう止めるが…

 

「あの人は私たちより辛いことを味わってきたんです。

 だから、乗り越えれる人だと思います。

 私はあの人と一緒に仕事ができると思えますから」

 

 生真面目に紅葉は返した。

青葉はそんな彼女の言葉に優しい目を向けて微笑む。

 

「そう、だね…あの子は一生懸命、だもんね?

 報われるよ…きっと…」

 

 ひふみは拳をぎゅっと握って一緒に仕事をする未来を想像していた。

 

 

 

 

 社内の別のブースでコウは絵を描いていた。

そんな自分の背後に見知った気配が近づいてくる。

 

「どうしたの?

 コウちゃん…」

 

 母性的で心配を含んだ音色が彼女の背に響く。

その人物は自分のことをよく知っている相棒の声だ。

 

「ん?あぁ、りん?

 ちょっと手が離せないんだ、またあ」

 

 後で、と言おうとしたが…

 

「コウちゃん、ヒビキちゃんたちと何かあったの?」

「っっ!?」

 

 その言葉にペンを止める。

 

「なっ、何かってなにさっ!?」

 

 あくまで背中を向けたままで動揺した音色でりんに放つ。

このリアクションは何かを悩んでいるときだ。

 

「コウちゃん、あの子達が来てから何か変よ?

 緊張してる…ううん、怯えてるみたいで」

 

「そんなことっ、ないっ!!」

 

 ペンを叩きつけるようにおき、ブースに響き渡る声で叫んでしまう。

その様子に青葉たちはびっくりして、視線を彼女に向けてしまう。

 

「やっ、八神さんっ!!」

 

 青葉はびっくりして席を立ち上がり、ブースを確認する。

りんはそのようすにびくっと震えてしまう。

反射的に組んだ両手を胸元に当てている。

 

「っ、ごめんっ、頭冷やしてくるっ!」

「こっ、コウちゃん!?」

 

 乱暴な足取りでコウはその場から逃げるように立ち去ろうとしたが、

向こう側から扉が開き、コウは思わず立ち止まる。

 

「っ…ぁ…」

「!…ねっ、ねぇ…やっ、八神さン…」

 

 しずくとともに歩いてきたヒビキは目の前のコウと鉢合わせし戸惑う。

それ以上に戸惑ってるのはコウで目を逸らし、ずかずかとその場を後にした。

 

「ふむ…なにやら、大変なことになってるようだね。

 それにヒビキくんはなにやら知っているのかな?」

 

 穏やかな笑みだが射抜くような目線を彼女に向ける。

 

「別に後ろめたいことは隠してませんヨ。

 黙っていたのはどちらかというト…」

 

 去っていくコウの背中を苦しそうな笑みで浮かべていた。

 

「なるほど、原因は八神か。

 まったく、今も世話をかけるな」

 

 そのやり取りを見ていた青葉たちの視線が突き刺さるのを感じ肩をすくめた。

 

「遠山さん、いいですカ?」

「ん?なにかしら?」

 

 困惑するもののヒビキとコウの間に何かあると感じ、

不安と若干の警戒を含んだ目を向ける。

 

「あの人の…コウさんのところに言ってあげてくださイ。

 たぶん、あなたなら話しやすいと思いまス」

 

 真剣で真っ直ぐな目で、りんにそう言う。

彼女の言葉に真剣さがあったのでそれを信じてみることにした。

 

 そしてりんがコウについていくのを見届けた後、

ため息を吐くと腹を決めたようにキャラハンブースに行く。

 

「あのっ、ヒビキちゃんっ!」

「はい?何ですカ?」

 

 初対面時に部類のコミュニケーション力を発揮した青葉、

すでにちゃん付けで呼ぶ気安さを身に着けていた。

 

「あっ、あのっ…ヒビキちゃんと八神さんって知り合いなんですか?」

 

 困惑するように青葉は言う。

キャラハンどころか、プログラマ班たちも青葉のその問いに耳を傾けた。

 

 この会社のエースであり主力の彼女と新入社員がどう繋がるのか…

そんな無粋な好奇心を抑えられなかったのだ。

 

「知ってますヨ。

 私たち出身は奈良ですガ、

 両親の仕事の都合上東京に越す事もあったんでス」

 

 そこのお隣、というか近所にいたのが八神さんでしタ。

 

 その事実にあまり動じないしずくも目を見開いて驚いた。

しかし、気になったのは…。

 

「でも、やったらどうして二人とも…知らん振りしてたん?」

「そうだよっ、別に隠す必要なんかっ」

「ひょっとして、コネ扱いされるのが嫌だったとか?」

 

 ゆん、はじめ、ツバメは順に疑問をぶつけていくが、

三人の問いにヒビキは首を振った。

 

「いえ、私たちは徹底的にズレてしまったんでス。

 七年前ニ…後、鳴海さン?もうここまできたらコネ使ってでも入りますヨ、私ハ」

 

 前に聞いた七年前のワードに一同は困惑を隠せない。

 

「わかりません、それがどう繋がって今に至るんですか?」

 

 静かに強く目を向けて紅葉は尋ねる。

 

「本当は黙っておきたかったんですガ、これに関しては本当ニ…

 しかし、八神さんはここの要ですよネ?」

 

「うん、そうだよ。

 だから、理由を知っておきたい…。

 今の八神の雰囲気は七年前を思いだすよ…」

 

 あのままでは空回ってしまっていい作品を作れないだろう。

 

「…だから、お願い。ヒビキちゃん…教えて?

 あなたと、コウちゃんに何があったの…?」

 

 しずくとひふみの言葉に一瞬だけを瞳を閉じる。

 

「言ったはずですヨ。

 兄と妹が轢かれた…それが私の本当のことでス。

 そして私たちはあの人を姉のように慕っていましタ…」

 

 そしてヒビキは口を閉ざした。

 

「ちょっと、ヒビキン?それだけなのー?

 もっとほかに何か…!」

 

「これ以上言いようがないんですヨ。

 この事実がすべてでス」

 

 ねねはあまりの情報量の少なさに不満交じりに問う。

やはり青葉たちも分からないのか、言葉を望むように彼女を見た。

 

 しかし、うみこもしずくも驚いたようにヒビキを見つめた。

 

「なぁ、君は姉のように慕ってたって言ったな!?」

「だとすれば…八神さんは…あなたたち姉妹は…」

 

 二人はヒビキの言う意味が分かったのか、

困惑していた。こんな展開は予想外だからだ。

 

「成るほど…我が社にくる訳だよ。

 妹のことだけじゃなく姉貴分の八神が心配だったんだね」

 

「しかし、縁というか業というものを感じますね。

 これは…」

 

 事実を知った二人は辛そうにヒビキを見やった。

 

「ねぇ、もしかして…」

「ホンマなん!?やったら…八神さんは…」

 

 ひふみも何か気づいたのか驚いたように、

どこか辛そうにヒビキを見つめた。

 

 ゆんは瞳に涙をじわりと溜めている。

 

 

「ちょっと待ってよっ、

 ぜんぜん分かんないんですけどっ!」

 

「そっ、そーですよっ!

 私たちにも分かるように説明してくださいっ!」

 

「何でそんなすぐに分かるんですか…?」

 

 分からない組の青葉、紅葉、はじめ、ねね、ツバメは不満げにもらす。

ひふみはその様子を宥めながら事情を説明した。

 

「…要するにね、ヒビキちゃんたちのお兄さんが…

 コウちゃんと関係があったってことだよ」

 

 その言葉に納得したが、

同時にもう彼はこの世にはいないという事実が困惑させる。

 

 

「幼かった私でも分かりましタ…

 コウさん、コウ姉さんと…兄さんは交際していた恋人同士だったんでス」

 

 

「えぇぇぇえええ!!!!!?」

 

 その驚愕の絶叫がブースに響いた。

 

「えっ、何何々っ!?

 じゃぁ、八神さんとヒビキちゃんって…」

 

「兄が生きていたラ…義妹になってたでしょうネ。

 いえ、違いますネ…私は今でもあの人を姉だと思ってまス。

 それ程、兄さんとコウ姉さんは通じ合ってましタ」

 

「でも、だったらなんで…今みたいになっちゃったの?」

 

 青葉は困惑するように尋ねた。

 

「東京にいたとき、私たちはすぐに仲良くなりましタ。

 コウ姉さんは私たちにかまってくれテ、

 郷里の事も面倒を見てくれましタ」

 

 両親がアート関係の共働きだったんデ、

そんな私たちを気にしてカ、学校終わりはいつも来てくれてましタ

 

 懐かしむような笑顔でヒビキはそう語る。

 

「ですかラ、私や郷里が習ってた音楽や絵に触れる機会もあったんでス。

 そしてそこには同世代の兄がいつも絵を書いていたんでス」

 

「で、ではっ。八神さんの絵のルーツは…」

 

 紅葉は驚愕を浮かべてヒビキを見やった。

 

「えぇ…兄の影響でス。

 コウ姉さんをいつも被写体にして練習してましたかラ…。

 あの人、じっとしてるの苦手だかラ仕返しに兄の絵を描くって息巻いてましタ」

 

「…変わってないですね」

 

 うみこはあきれた様に肩を竦めてため息を吐いた。

 

「そーですネ。でも、絵は昔とは比べ物にならない位旨くなってますヨ。

 姉さんの絵は…それは貴女たちが知ってるはずですよネ」

 

 その問いに一同は頷いた。

 

「郷里は兄より、姉さんの描いた絵の方が好きで…兄はいつも嘆いてましたヨ。

 どちらも小学生のころから凄かったんですけどネ」

 

 微笑ましい内容に一堂の空気は弛緩していく。

コウとヒビキ、郷里の過去を想像して微笑ましくなったのだ。

 

「コウ姉さんにとって、妹の郷里は自分の絵のファンの一号でしたかラ…

 それが嬉しかったんでしょうネ。姉さんはよく郷里と絵を描いてました」

 

 無表情の郷里を見やり、青葉たちの心は締め付けられる。

今の彼女は多分、それすら分からないのだろう。

 

「兄と姉さんと二人は競い合うように書いていて、

 そしてその流れで進路を決めようとしてましタ…

 当時、私は二人は漫画家かイラストレーターに進むと思ってましタ」

 

「でも、八神が就職したのはここだった、と言うわけだね」

 

 しずくの指摘に困ったように笑みを浮かべてヒビキは頷く。

その理由が興味津々なのか、ヒビキの言葉を待つ。

 

「理由としては音楽関係の私と一緒にやれる仕事がしたいかラ…

 との理由でしタ…あの時は本当に嬉しかったでス」

 

「あー、確かにこの業界ってイラストと音楽関係が一緒にできるしねー」

 

 ツバメは納得したように頷く。

 

「八神さんはヒビキちゃんのためにゲーム会社に入ったんだ…」

 

(やっぱり、優しい人なんですね…八神さん)

 

 しかし、そこから先のヒビキの表情は暗かった。

 

「小学校の中頃までは東京にいたんですガ、

 また、奈良に帰ることになってしまいましタ」

 

 そして、兄さんと姉さんの高校卒業間近に…事故が…。

 

「ちょ、ちょいまちぃなっ!

 事故のことはしんどいと思うけど、何で八神さんもヒビキちゃんも…」

 

「互いを避けてる…ですカ?」

 

 ゆんの疑問にヒビキは予想してたかのように笑む。

 

「兄の事故が会った年、姉さんはこの会社の面接に来タ…

 それはしずくさんが知ってますよネ?」

 

「あぁ、もちろんさ。

 随分と無愛想な奴が来たなって、けどその理由も納得したよ」

 

「私が兄を失ったんなら、姉さんは恋人と自分の最初のファンを失ったんでス。

 そして一番見たかった夢、私たち四人の夢ヲ…」

 

「そんなぁ…」

 

 その事実に青葉も紅葉もたまらず表情を曇らせる。

 

「実ハ、姉が高校卒業と同時に就職するのを私は止めたんでス。

 余りにも自棄に見えテ、投げやりで危なっかしかったのデ」

 

「うん…分かるよ…コウちゃん…

 どこか張り詰めてたから…」

 

 ひふみは当時を振り返り、悲しそうに呟く。

何というか焦り、生き急ぐかのように仕事に没頭している彼女を見てきたのだ。

りん共々に心配していたことでもあった。

 

 そしてフェアリーズストーリー2のあの事件だ。

あの時のコウは本当に見てて辛いくらいに落ち込んでいた。

 

「だから週末両親に無理を言い、お金を借りて東京と奈良を往復しテ…

 できるだけ姉さんに就職をやめてゆっくり養生してほしイ…

 そう頼み込んだんでス」

 

 そう言うと天井を見上げ、ため息交じりに零す。

 

「あの時の姉さんにはクリエイターとしてのモノ…

 兄が言っていた事を忘れていたと思ってましたかラ」

 

「ヒビキちゃん…」

 

「ですガ、そんなに心配して目の前に阻む私をウザったく感じたんでしょウ。

 私にも苛立ちをぶつけてきたんでス」

 

「そんな…ヒビキちゃん何も悪くないじゃんっ!!」

「っ、姉さんだって悪くありませンっ!!」

 

 はじめの非難する講義にたまらずヒビキは叫ぶ。

全員が驚いて息を止める。

 

「っ、すいませんッ…でも、姉さんのことハ…」

「ねえ、さん…」

 

 それほどまで沈黙と無表情を保っていた郷里。

彼女が静かに口を開いた。

 

「さと、り…?どうしたノ?」

 

「言われた、事…傷ついた、事…言ったほうがいい…。

 耐えたら、だめ…だと思う…ねえ、さんは私とは…違う」

 

「そうやで…八神さんの事で溜め込んでるんやろ?

 ヒビキちゃんは強い子や、やけどな?もちっと弱音を吐いていいんやで?」

 

 ゆんは笑みを浮かべてヒビキの頭をなでる。

その時に胸を突く痛みが彼女に響き渡る。

 

「なら、一つだけ…約束してくださイ…

 この言葉を聴いてモ…姉さんを嫌いにならないでくださイ」

 

「えぇ、もちろん!

 八神さんは憧れの…目指すべき存在の人ですっ!」

 

「そうですよ。

 見損なわないでください。

 言葉一つで憧れも尊敬も消えません」

 

 

 とりあえず二人の言葉を聞き入れ、目を閉じた。

 

 

 ヒビキは目を閉じ、当時を思い返してその言葉を伝えた。

 

 

 

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 ヒビキ、あんたを見てると私は苦しいんだよっ!!

アンタガ私と居るだけでっ、私は死にたくなるんだよっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで清太郎(せいたろう)を守ってくれなかったのさっ!!!

なんであんたが生きて清太郎が死んだの!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 返してよっ!!

私の好きな人を…アイツを返してよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「りんっ…私はあいつにどう償えばいい?

 どう謝ればいい…」

 

 コウは屋上の壁にもたれかかりしゃがみ込み、

頭を抱えて涙に震え嘆く。

 

「コウ…ちゃん…」

 

 コウから自分とヒビキたちとの関係を聞き、

自分がかつての妹分にしてしまった仕打ちを思いだした。

そしてそれを相棒のりんに吐き出した。

 

 りんはその過去に驚きを隠せなかった。

だが、当時の張り詰めたあの空気も孤立気味の性格。

納得できる要素は多分にあった。

 

 あの時はもう自分の世界が閉ざされた気がしたから…

何もかもがどうでもよかった、良くなったのだ。

 

 だが、結局その絶望も一過性のものだということ。

それをりんや青葉たちスタッフによって教えられたのだ。

 

「辛いのは私だけじゃないのも分かってたんだっ、

 兄が死んで郷里がああなったんだっ!

 アイツが辛いのは分かってたっ…」

 

 頭を抱えてうめくコウ。

りんは何もいわずに近づき彼女を抱きしめる。

 

「許してくれないし、今度はコウちゃんを否定する立場かもしれないわ…。

 でも、コウちゃんは自分だけ楽になりたいの?

 許してほしいから謝るの?許してくれないと謝らないの?」

 

 優しく穏やかだが、厳しさを含んだ音色でりんは尋ねる。

その言葉にはっとしてりんを見る。

 

「こうちゃん、思い出して…?

 ヒビキちゃん?さっき、あなたに会ったとき…こう言ってたわ」

 

 

 …ねっ、ねぇ…やっ、八神さン…

 

 

「あの時、ヒビキちゃんは『お姉ちゃん』って言おうとしたんじゃないかしら?」

「……あ…」

「もちろん、私の妄想の可能性もあるけれど…

 これが本当ならコウちゃんはまた拒絶するの?」

 

 その言葉に反射的に首を横に振って否定した。

その動作ができた事に驚いた。

 

 自分はまだあの二人を妹だと思っていると。

 

「そうだね、りん…。

 許してもらえなくても、もう姉の真似事ができなくてもケリはつけないと…」

 

 顔を上げてコウは涙をぬぐった。

遅すぎる謝罪だ。だからこれ以上待たせるわけにはいかない。

今度は私が鬱陶しく構うんだ。

 

 

 あの子達の姉として

 

 

 

「私、いくよ…。

 りん、いつもアリガト」

 

「慣れてるわよ。

 本当に私が居ないとだめなんだから」

 

 苦笑を浮かべてりんは相棒に向かい笑みを浮かべ、

妹の居るところへと向かうコウの背を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

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「可笑しいですよネ…慕ってるって言ってたのニ、

 姉さんに話しかけられるのが怖いんですかラ…

 結局私が一番、姉さんの事を信じてないのかもしれませン」

 

 ヒビキは涙を零して青葉たちにそう訴えていた。

 

「取り戻せるなら、また少しでもあの時に戻れるなら…

 でも、それが出来ないんでス。

 あの言葉を最後に私は逃げ出しテ、姉さんを一人にしてしまいましタ」

 

 ヒビキの苦しむような独白に一同は涙を浮かべて聞いていた。

 

「分かっていたんでス!

 姉さんが今のままじゃ孤立する事モ、誰もついてこない事モ… 

 私だけは居てあげなきゃ行けなかったのニ…」

 

「いや、そのときはまだ君は小学生だろう?

 それは仕方のない事だよ」

 

 しずくは自責に駆られるヒビキの頭をなでて微笑む。

 

「それに、利己的な言い方だがそう言う過去があったからこそ…

 私は八神を見出せたし、青葉君や紅葉君はコウに憧れ来てくれた。

 加害者には感謝しないが、君にはそう言う意味では感謝をしている」

 

「…そう、ですカ…」

 

 そしてそのまま黙って聞いていた青葉と紅葉は同時に立ち上がり、

ヒビキの両手を取った。

 

「ぇ…?」

 

「行きましょう!ヒビキちゃんっ!

 八神さんのっ、お姉さんのところへっ!!」

「そうです。怖いなら私たちがついて行きますから…!」

 

「青葉ちゃん?」

「ももっ!?」

 

 ひふみとツバメは二人の行動に驚きを隠せない。

 

「でも…私ハ」

 

「今の八神さんはそんな人じゃないですっ!

 私たちは今の八神さんを知ってますっ、ルーズでだらしないですけど…

 とても優しい人ですから!」

「私はそこまで知りませんが、

 あんな絵をかける人が今も悪い人とは思えません」

 

 

「だから…!」

「ですから…!」

 

 

 置いて行っちゃったお姉さんを取り戻しましょうよっ!

 

 

 青葉はヒビキの不安を吹き飛ばすようにそう言い、

紅葉は彼女を安心させるように彼の両肩に手を置き微笑んだ。

 

 

 

 

 

  青と赤の若葉が響く苦悩を散らす。

 

 

 

 

 

 

  その時はすぐそこまで来ていた。

 

 

 

 




 最後の一文はヒビキの名前の由来です。
まだネタはありますが;

次回は登校少し遅れるかも…。
反応が怖い設定です。

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