STEP by STEP UP   作:AAAAAAAAS

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できる限り頑張ってみます。
頑張るぞいって青葉に言って欲しいです。

作者的には辟易してそうなネタですが…。


チートな妹登場です。
重い志望動機の姉です。


「…私は同情や共感で採用などしません」

 とりあえずヒビキはしずくに連れられて業務の手順を習う。

 

 キャラデザ班の近くに隣接してる空いたブースでテキストを片手に、

ノートで書き写し黙々と彼女は勉強をしている。

ヒビキは暗記は基本、筆記で覚えていくタイプのようだ。

 

 少し空いた時間に青葉たちは彼女の様子を見に行くのだが、

キャラデザ班たちは神妙な顔をしていた。

 

「ヒビキさん、真剣にやってるみたいですね」

「いや、まぁ、流石にいい加減にはやらんやろ」

 

 青葉は感心感心という感じで両こぶしをぐっと握って踏ん張る。

なんとなく「ぞい」と言いそうなポーズだ。

ゆんは苦笑を浮かべ青葉に突っ込む。

 

「でもさー…あのカッコって多分…」

「うん…間違いなく…葉月さんの趣味…だと、思うよ?」

 

 冷や汗を垂らしてはじめとひふみは彼女のカッコを見やる。

オフィスチェアに座り、背筋を伸ばしノートに何やら書き込んでるヒビキ。

 

 その彼女の姿はメイド服だった。

しかも結構本格的な。

 

 目の前にパソコンとキーボードがある空間でのメイドの存在。

違和感極まる状況だった。

 

「でも、似合ってますよね」

 

 紅葉は感心したように呟いた。

 

「似合ってるからこそ、違和感が凄いんやけど」

「まぁ、多分葉月さんのせいですよね」

 

 はじめと青葉は硬い笑みを浮かべる。

目についてしまったから、頭から気になって離れない。

だから、思いっきて聞いてみることにした?

 

「あの~、九能さん?」

「ヒビキでいいですヨ?多分、妹も来ると思うのデ?」

 

 柔らかい笑みを浮かべてヒビキは青葉にそう言った。

とっつきにくさがないその笑みに安堵を覚えて青葉は頷く。

 

(良かった、今度の人はちゃんと返してくれる人だっ!

 ひふみ先輩に見たいにめんどくさくなくて、

 望月さんみたいに無愛想じゃないっ!!

 この人、イイ人だっ!!)

 

 ヒビキの言動に感動してきらきらと指を組み、

青葉は彼女を見やった。

 

「青葉ちゃん…何か、失礼なこと…考えた?」

「私も何か、そんな気がしました」

 

 青葉の嬉しそうなリアクションにジト目でひふみと紅葉は見る。

青葉はその視線に気まずさを感じて「あはは」と笑った。

 

「えっと、ヒビキさんの衣装ってやっぱり葉月さんの?」

「あぁ…まあ、そのネ」

 

 苦笑交じりにヒビキは肯定し肩をすくめた。

 

「世話してもらってるのは事実ですから、まぁこれ位ハ…

 それにメイド服着てバンドの経験もありますから別に抵抗もないですシ」

 

「おぉ~!それはちょっと見てみたいですっ!」

「私も見て、見たいかな」

 

 青葉はきらきらと目を輝かせ、詰め寄る。

ひふみもコスプレが趣味なのでその光景に興味を持った。

 

「この会社にもブースも衣装もあるみたいなんデ、

 暇ができたらやりますヨ」

 

 自分的にはそうでもないと思ったが意外と好評のようだ。

ヒビキ的にも悪い気はせずくすぐったかった。

 

「あっ、そういえば今日やっけ?

 妹さんの郷里ちゃんの面接…」

 

 そこでヒビキはちょっと硬い表情になった。

 

「そのことですいませン。

 謝らなければいけないことがあるんでス」

 

「謝らなければいけないことですか?」

 

 どこか困ったようにヒビキはそう言い、

紅葉は小首をかしげた。

 

「妹の面接に関してはあは…うみこさんと遠山さン…

 しずくさんに頼んで、プログラムの仕事の実力を見てもらうよう頼んだんでス」

 

 多分、郷里は面接形式だと合格できませんかラ。

 

「?え、どういうことですか??」

 

 ヒビキの言葉に五人は困惑した。

 

「そうですね…

 じゃぁ、休憩時間になったらプログラム班のところに行きましょう。

 見てもらった方が早いです。事情も話しやすいですし」

 

 

 

 プログラム班、ブース

 

 

 うみこ、ねね、ツバメは驚いていた。

 

 面接に来た目の前の少女は二台のパソコンデスクの真ん中に座り、

二つのキーボードを両手ブラインドタッチで操作していた。

指先が機械のような精密さで動き、プログラムが凄まじい勢いで組みあがっていく。

 

「こっ、こんなのアニメや映画でしか見たことがないよ」

「さとっち、凄すぎだよ~!!」

「ヒビキさんが推すわけです…これほどの演算能力と暗記力、

 器用さを持った人がいるとは…」

 

 三人は彼女の組み、

修正したプログラムにミスがないか確認する。

 

「しかもパーフェクト、ですか」

「うぅ~…でも悔しい」

「まぁね。ちょっと妬けちゃうな~」

 

 他のプログラム班も似たような感想を抱いていると、

丁度、ヒビキたちと合流したしずくとりんがプログラム班に来た。

 

「やっぱり上手くやってるみたいだネ、郷里」 

 

 しかし、聞こえてないのか黙々と高速でブラインドタッチする。

青葉たちはその光景に驚いていた。

 

「ちょ、えぇ…!?」

「嘘っ、両手で二つのキーボードを打ってる!」

「しかも、めっちゃ早いやん、なにあれ!!?」

「凄い…どんどんデータが完成していってる」

「彼女がヒビキさんの妹の郷里さん…」

 

 しずくもりんも彼女に驚いて一瞬、茫然とした。

 

「なるほど、ヒビキ君が推すわけだ。

 確かにわが社の力になりうる人材だ」

 

「えぇ…業務の効率化も夢ではないですね」

 

 そこにいる全員の驚きを聞き流してヒビキは真剣な表情で、

妹である郷里に近づくと。

 

 なんとヘッドロックをして椅子から引き離した。

 

「っ!!?」

 

「へ!?」

 

 妹は呻き、周りは驚いたが…妹の方は無表情のまま言った。

 

「あぁ、姉さんか。

 もう、そんな時間なの…?」

 

「あぁ、時間だヨ?一旦、休もう…それで私と一緒に面接をしないと、ネ?」

 

 その言動と言葉に青葉たちは困惑を隠せなかった。

 

「郷里の演算能力は早く正確な分、制限があるんでス。

 それが大体二時間くらいなんでス。

 それを超えるとぶっ倒れて眠ってしまうんでス」

 

「えぇ!?それ、大丈夫なんですか!?」

 

 ツバメだけでなく一同も驚いたが、

ヒビキは肩をすくめ微笑む。

 

「だから、こうやって無理に引きはがしてやらないと無理にやっちゃうんですヨ。

 倒れるまで…で、それを超えると三時間は起きないでス。

 充電するとまた出来るみたいでス」

 

 ヒビキはその報告に一同は困惑した。

あまりに突飛すぎる報告と非現実めいたスキル、まるでゲームみたいだ…

と一同はそう感じた。

 

「郷里…こっち向いテ、あの人たちが上司で先輩なんだかラ」

「……」

 

 姉の優しい言葉に妹は無表情にこくりと頷く。

 

「えーっと、とりあえずどっから話しましょうカ?」

 

 郷里の近くに立ち、青葉たちの質問を待った。

 

「えっと、じゃあ、さとっちはどうしてそんなことができるのか…

 を聞きたいんだけど…」

 

 ねねの言葉をわかっていたかのようにヒビキは頷き口を開く。

 

「なるべく簡潔に話しまス、時間を取らせたらすいませン」

「いえ、彼女が大幅にやってくれたおかげで余裕ができました。

 今日はキャラ班含め全員、定時に帰れそうです」

 

「うっそ!?」

 

 うみこの言葉にはじめは驚いた。

 

「それが郷里の能力でス、

 この子は7年前この能力を手に入れてしまったんでス」

 

 

 ヒビキの目線が郷里に向かう。

つられて青葉たちも彼女を見た。

面接の体ということでスーツを身に着けている。

スレンダーで細身の少女だ。

 

 年齢は19歳で青葉、紅葉と同じ年…

しかし表情にも瞳にも覇気や輝きがない。

 

 顔つきが可憐で童顔の分、どこか哀れさを誘う空気を持っていた。

そして、決定的なのは彼女は事ここに至るまで殆ど口を開いていない。

 

 そして懐から写真を取り出す。

 

「これがその時の妹でス」

 

 12歳の郷里と13歳のヒビキ、

そして17、8位の端正な顔の青年が仲睦まじく映っていた。

その時の郷里の表情は笑っていて、

甘えるようにヒビキの腕に抱き着いていた。

 

「えっ、これが!郷里さん!?」

「7年も経ってるのを引いても違いすぎるね」

「えぇ、かわいらしい子で元気そうなのに」

 

 青葉、しずく、りんはそれぞれに驚愕のアクションを返した。

周りも似たようなものだったので困惑だけが残る。

 

「同一人物ですヨ、間違いなク。

 それは置いて置きまス。結論から言うト、

 妹の夢はこの会社に入ってキャラデザになることだったんでス」

 

 ヒビキのその言葉にますます訳が分からなくなった。

プログラムの驚異的な処理能力を持つ彼女…。

そんな正反対の能力を持つ場所に惹かれていた。

 

「私たちの両親は父がイラストレーター、母が音楽関係の講師をしてまス。

 そんな中で育って私は音楽に、兄と妹はイラストに惹かれていきましタ」

 

 それは納得していたのか、

誰も異論も疑問も挟まなかった。

 

「そしてゲーマだったんでス、郷里ハ。

 ゲーセンでも知らない人はいない位凄腕ノ。

 そしてクリアするゲームの対象にフェアリーズストーリーもやり込んでましタ」

 

 青葉はそこまで聞いて郷里に共感を覚えた。

 

(この子、私と同じだ…でも、なんで…?)

 

 青葉も困惑したのか、表情どころか心を感じさせない彼女を見つめる。

 

「この会社のイラストに惹かれたんだと思いまス。

 元から父の影響も受けたのもあって、

 今まで以上に兄とともに絵にのめり込みましタ」

 

「その、それが…どうして…」

 

 紅葉も今の郷里が不思議で困惑を隠せない。

彼女も自分に近い何かを感じ、郷理を見て動揺を隠せない。

 

 そしてヒビキはわずかな沈黙の後、耐えるように言葉を放った。

 

「所用で外に出た兄さんと郷里は、

 信号を無視した大型車両に跳ねられたんでス」

 

 その言葉に重い空気にのしかかる。

 

「ぇ…跳ねられたって…なんやの?それ!?」

 

 あまりの結末に引き攣った半笑いのままゆんは尋ねる。

 

「言葉の通りですヨ…二人とも本来は即死…のはずでしタ、

 しかし、兄が守ってくれたんでしょウ…郷里は五体満足で助かりましタ」

 

「という事はお兄さんは…もう」

「はい…見る影もなく砕けていたらしいでス」

 

 しずくの確認にヒビキは重い音色で答えた。

その凄惨な結果にどんよりと言葉を失った。

 

「しかし、郷里も完全に無傷というわけにはいきませんでしタ。

 脳に損傷があったらしいんでス」

 

「じゃ、じゃあ…その結果が!?」

 

「はい…今の郷里でス。

 どういうわけか、あの演算能力、記憶力、器用さを手に入れました。

 でも…この子の感情はずっト…」

 

「そんなぁ……」

 

 ひふみは涙を浮かべて顛末を聞いた。

青葉も涙を浮かべて郷里を見つめていた。

 

「この子は7年間何が楽しいのカ、面白いのカ、悲しいのカ…

 自分自身でも忘れていテ…その後、誰からも避けられテ…」

 

 思い出してきたのか、ヒビキも声が震えて涙声になっている。

 

「でも、この子は辛いことももうわからなくなっテ…!!」

 

 近くにいたゆんが涙を浮かべてヒビキの背中を擦っている。

 

「でも、一つだけきっかけが残っていたんでス。

 何も感じなくなっても、郷里はあのゲームだけは…

 フェアリーズストーリーをやり続けてたんでス」

 

 しゃくりあげそうな音色を何とか整えて、

ヒビキはメンバー一人一人の顔を見る。

 

「このゲームの面白さは分らないけド、何故かやりたいんだっテ…

 その言葉を聞いたとき、ここに就職を決めたんでス」

 

 そして彼女は郷里の後頭部に手を置いて、妹共々頭を下げた。

 

「あの頃は戻りませンッッ、今の妹も大事でスッッ!

 ですがッ、この子が心や楽しさを取り戻す為に私はここに来ましタッ…!」

 

 改めてお願いしまス!!私たちを此処で働かせてくださイ!!

 

 ヒビキの涙の懇願が響く。

一同はその志望動機に何も言えなかった。

 

 妹の感情を取り戻すきっかけを探し入社した、という理由なのだから。

しかし、彼女と郷理がここに入社したとしても郷理の心が取り戻せるかは未明だ。

 

 余りにも予想斜め上の答えに青葉たちは困惑したが、

ベテラン班は落ち着いていた。

 

 そしてうみこは瞳を閉じて静かにヒビキに向かい目を向ける。

 

「…私は同情や共感で採用などしません。

 それでやっていけなくなっては本末転倒ですから…。

 第一、ここで働いたとして妹さんが戻るとも思えません」

 

「ちょ、うっ、うみこさんっ!?」

「それはっ、あんまりじゃ…!」

 

 うみこは頭を下げる姉妹に腕を組み厳かに言う。

ねねもツバメも不憫に感じて抗議するが…

 

「ですが、妹さんの実力は短期勝負とはいえ使えます。

 ちゃんと面接できないのは残念ですが、

 貴女がフォローするなら問題ないでしょう」

 

「じゃ、じゃぁ!?」

 

 その言葉に涙をこぼしてヒビキは顔を上げる。

 

「えぇ、郷里さんは合格ですよ」

 

 うみこは笑みを浮かべてヒビキに近づき、彼女の肩に手を置く。

感極まった笑みでヒビキは上体を起こし破願した。

 

「ありっ、アリガドゥ…御座いまぁスゥ…」

 

 嗚咽交じりにヒビキは感謝の言葉を述べ、上体を起こした。

 

「うむ…私は基本的にウェルカムだよ」

 

 しずくは最初から決めていたのか、どこか軽い調子だ。

 

「何ですか、それ」

 

 苦笑を浮かべてヒビキは涙を拭った。

 

「では、ようこそっ、イーグルジャンプへ!

 私たちは君たち姉妹を歓迎しよう」

 

 しずくのその言葉に一同が歓喜に沸いた。

ゆんはヒビキの腕に抱きつき、良かったなぁと貰い泣きしている。

はじめは彼の頭を涙を浮かべてガシガシ撫でている。

 

「ヒビキちゃんっ、ホンマよかったなぁ~~っ!!

 分からん事あったらうちに言うンやでぇ~っ!」

「そうだよっ、独りで何も抱えなくていいんだかんねっ!!」

「はいッ、はいッ…!」

 

 自分の事のように喜ぶゆんとはじめに涙を拭いながら、

ヒビキは何度も頷いた。

 

 青葉と紅葉は郷理に近づいて挨拶と雑談をしていた。

本来、同じものを目指してる彼女を何とかしたかったのだろう。

青葉と紅葉の元気で静かな自己紹介の後、軽い雑談を交わした。

 

 その後、休憩時間も終わりそれぞれの作業に戻るのだが、

会議室の外から見ている一つの影があった。

 

「………」

 

 その様子を物陰から見ていたのは八神コウだった。

腕を組み壁にもたれかかり、悔いるような表情をしていた。

 

(コウちゃん…?)

 

 りんは先ほどから見えない彼女にようやく気付いた。

窓から見る彼女は早足でその場を離れていくのが見えた。

 

 

 そしてその彼女の姿を見る目線がもう一つ。

 

(八神…コウさン…)

 

 どこか寂しげな眼を去っていくコウに同じ目でヒビキは見送るだけだった。

 

 

 

 

 




何気にキャラがお互いを何て呼ぶのか地味に把握しづらい。
その事実にモノを書く難しさを感じますね;

プログラムの仕事や作業を検索して調べても、
文字で現すと結構難しいので、実際はこんなんじゃないかも;
という不安がありますな。

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