STEP by STEP UP   作:AAAAAAAAS

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とりあえずけいおん!編は一時、中断です。


OG(オールド・ガール)02!

 小奇麗な大き目なアパートの三階。

その扉の前。

 

 ここが彼女と憂の住むアパートの一室のようだ。

 

「もっといいところ住めるでしょうニ、二人とモ」

「そうだけど、狭い方が人との距離を近くに感じれるしね」

 

 ヒビキの疑問に唯は当然という風に返してノックをした。

 

「憂~、あずにゃんっ、帰ったよ~」

 

 とっとっとっと…

 

 やや速足の足音が聞こえてきて向こうの扉の前で止まり、

かちゃりと錠が下りる音がした。

 

 扉が伺うように開いて、ヒビキにとっては久しぶりの二つの顔が覗いた。

唯と同じ顔で腰まで伸びるほどの長髪の女性。

もう一人は黒髪のポニーテールをした女性だった。

 

 唯と同じ顔の女性は平沢憂、黒髪の女性は中野梓だ。

 

「久しぶりね。九能さん。

 また身長伸びたのかな?」

 

「ヒビキちゃん、久しぶりだねっ」

 

 

 自分に四年前に自分にかまってくれた二人を見つめ、

困ったようにヒビキは笑い、肩をすくめた。

 

「お久しぶりでス、活躍のほどは聞いてますヨ」

 

 自分でも驚くほど堅くなった返事にヒビキは驚いた。

意識はしてなかったが、雲の上とまではいかなくても遠い人と思っていたのだろうか?

 

「ほらっ、ビッキーっ、カタいよっ!

 前みたいに先輩か、ちゃん付で読んでよ、ねっ!」

 

 ぱしんと緊張した彼女の背中を叩き、唯は柔らかい笑みを向ける。

 

「はハ、そうですカ…

 そうですネ、じゃ先輩たチ、お邪魔しまス」

「うんっ、やっぱり九能さんは…ヒビキちゃんはそれでいいんだよ、

 それとちょっと屈んで?」

 

「?はいッ」

 

 梓は笑みを浮かべ、ヒビキにそう言いヒビキは中腰になる。

 

 すると、彼女の頭にぽんと暖かい掌が載せられる。

 

「お帰り、ヒビキちゃん…

 会いたかったよ?軽音部をちゃんとつないでくれてありがとね?」

 

「っ…はイっ」

 

 優しい音色で梓はそういい、彼女の頭を撫でた。

身長が彼女を超えてから、ヒビキは余り彼女に撫でられることが無くなった。

久々の感触にヒビキに笑みがこぼれた。

 

「くすぐったいですヨ」

「ふふっ、もうちょっと撫でさせてよっ」

 

「あーずるいっ、じゃっ、憂っ、私たちは抱き着こうっ!」

 

 そういうと唯はヒビキの屈んだ背中にひょいと飛び乗った。

負ぶさった感じだ。

ヒビキも何となく予想がついたのか、両腕で彼女の太ももをとらえた。

 

「ちょっと、唯先輩っ!さすがにそれはズルいですよっ!」

「じゃ、私みたいにあずにゃんも抱き着けばいいんだよっ!

 ビッキーあったかいし、すべすべでふかふかだしっ!」

 

「お姉ちゃん、梓ちゃん、

 さすがにそろそろ部屋に入れてあげようよ」

 

 憂は苦笑を浮かべてヒビキを見た。

ヒビキも同じように乾いた笑みをこぼした。

 

 

 シャワールームにて。

 

 唯は気にしてなかったが、ヒビキの体は汗だくだった。

流石にこの状態ではと思い、シャワーを借りようと思ったが先手を打たれていた。

いい笑顔で梓から紙袋に入った着替えを渡され、

浴室に通された。

 

(…久しぶりですネ、

 唯さんたちのところで厄介になるのモ)

 

 心地よく熱いシャワーが淀んだ汗を流していく。

こんなベタベタなのにあの人は良く抱き着けるものだ。

 

「だってビッキーの汗、なんかいい匂いなんだもん」

「変態ですカ!?」

 

 そのやりとりも久々だ。

 

(ゆっくり、浴槽に浸かるのがベターなんでしょうけド…

 今はカラスの行水にしときますか)

 

 ボディソープを借り、頭と体を簡潔に洗い流した。

そして脱衣室に出ると、下着と服が用意されていた。

 

 バスタオルで体を拭いてブラとショーツを身に着け、

服装のチョイスに苦笑する。

 

「パンツスタイルは正直、ありがたいですネ」

 

 少し前にここに厄介になってたこともあり、

替えの服や下着には困っていない。

 

 ラフな服装に着替えた後、ヒビキは三人のいる今に向かった。

テーブルを囲んでファーのついたカーペットの上に座る、唯、憂、梓。

人数は少ないが見慣れた光景だった。

 

「お風呂頂きましタ、いいお湯だったでス」

「ははっ、いいんだよ?」

 

 憂は自分の隣に座布団を置いて、ぽんぽんと叩く。

ヒビキはそれを見やって「失礼しまス」といい、座った。

 

「でっ、ビッキーの返事はどうなのっ!?」

「いっ、いきなりだよっ、お姉ちゃんっ!?」

「でも、正直、すぐに聞きたい話題ですからね」

 

 唯の気持ちいいくらい遠慮のない声に憂は困惑し、

梓はしかし納得してヒビキを見つめていた。

 

「まぁ、引き立て役くらいには利用できる実力はありますからネ。

 私ハ」

 

 からかうようにヒビキはそういい微笑む。

しかし、梓も唯もその一言にムッと睨む。

 

 あの憂ですらじろっと彼女を見ていた。

怒ってる顔だった。

 

「もうっ、ビッキーはなんでそんなこと言うのっ!?」

「そうだよっ!私たちは貴女に才能がないなんて思わないっ!!

 いろんな楽器も弾けて、トークもできるっ!ヒビキちゃんは凄いよっ!」

 

「私たちの何かが気に障ったなら謝るからそんなこと言わないでっ…!」

 

 唯と憂の必死な呼びかけに梓の涙ぐんだ主張。

その言葉を聞いて気まずげに目を逸らすと、困ったように微笑む。

 

「すいませン、ちょっと言ってみただけなんでス。

 そう思ってくれてることは素直にうれしいでス、私自身モ」

 

 ですガ、同時にそれが理由で返事でもあるんでス。

 

「わからないよっ、私たちは本当にっ、

 放ティーか若リブに来てほしいんだよっ!?」

 

「ヒビキちゃんが才能ないって思ってても、

 私たちは組みたいと思ってるの、それじゃ足りないの?」

 

「それとも、そんなに私たちとやりたくない理由があるの?」

 

 ここまで自分を買ってくれてることに嬉しさと後ろめたさを感じる。

正直な話、それも良いのかもしれない。

 

 コウたちと別れ、彼女たちと奏でる日々も悪くはない。

己一人で輝けないのなら誰かと組めばいい。

それはいつも思ってることだ。

 

 奏でるものとしては称賛を受けたいのも事実だ。

コウたちの夢も大事で絶対だが、華々しくデビューも悪くはない。

少なくとも、昨日までなら考える時間を貰っただろう。

 

 唯たちも自分がこの業界に足を踏み込んだ理由を知っている。

その上で誘ってくれる事に在り難い。

 

 そういう万感の思いを整理して口を開いた。

自分と約束した人物のことを。

 

「助けてくれって泣いてる女の子を放って置けますカ?」

 

 ヒビキは笑みを向けて三人の先輩に尋ねた。

意外な返しに唯たちは黙ってしまう。

 

「その子は、中学の時にプログラマーを目指して

 専門学校に行って上京したみたいなんでス。

 実家は旅館で母親は女将さん、らしいでス」

 

「うん…」

 

 唯にはわからないが、どこか優し気に語るヒビキを見守る。

 

「その子の父親は応援したんですガ、母親は反対しテ…

 内定を取れなかったら夢を諦メ、旅館を継げと言われたらしいでス」

 

「……」

 

 梓はその人物の近況を静かに聞いている。

 

「結果、彼女は何とか内定を勝ち取って今に至ル…

 で終わればよかったんでしょうガ…

 その子は泣きそうな、いえ泣きながらこう言ってましタ」

 

 私が内定を取っても母さんは喜んでくれないんだろうな、ト

 

「……うん」

 

 梓はその子の環境を顧みて複雑な表情をゆがめた。

梓自身、ある意味では親のやってることを継いでいた。

だから、その子の状況に引っ掛かりを感じてしまうのだ。

 

 夢を応援されないってどれだけしんどいんだろう、と。

 

「とは言ってモ、これは実際その子の予想なので分りませン。

 しかし、その子の周りには妹を含めた才のある子がいましタ」

 

 三人はヒビキの妹を知っているので、他の才ある子にわずかに驚いた。

 

「流石に郷里のようなことはできませんガ、

 感覚的に物を吸収して消化するのが得意な子でス。

 その子が数年かけたものを一年足らずで習得し、同じ土俵に立ったんでス」

 

 私はその子と約束しちゃったんでス。

 

「…だから、行けませン」

 

「そっか…なら、仕方ないかな?」

 

 唯は苦笑を浮かべて座っているヒビキの頭に手を伸ばして撫でる。

 

「最も、その子は酔っぱらて覚えてないんでしょうガ…

 あんだけ飲んだってことは余程、だったんでしょうねェ」

 

「ははっ、そうなんだ♪」

「それに…ナナセ…七瀬ってその子は言ってましタ。

 自分がプログラマーになるきっかけを与えてくれた人だっテ」

 

「えっ、七瀬ってそれ…先生の苗字だよねっ?」

「はイ、母の旧姓かつ今の芸名ですネ、恐らく関係してると思いまス」

 

「そっか、ならここでお別れ、なんだね」

 

 憂は涙を浮かべてヒビキを見やった。

しかし、彼女は笑みを浮かべたまま首を振る。

 

「いエ、実はここに来るまで考えてたことがあるんでス」

 

 ヒビキは3人を真剣な表情で見つめた。

 

 

 実は…今、作ってるゲームのOPとEDを頼みたいんでス。

 

「それって!?」

「この分野なら私も付き合っていけますかラ、

 お願いできませんカ?」

 

「うんっ、でもいいの?私たち高いよ?」

「…負けてくれるとありがたいでス」

 

 梓の意地悪そうな表情に苦笑交じりにヒビキは答えた。

 

「じょ、冗談だよっ!

 でもいいのっ?勝手にそんなこと言っちゃってっ!」

 

「はいっ、一応、こっそりと企画の方にはそういう知り合いがいるト」

 

 ヒビキはニヤッと笑って笑みを浮かべた。

3人は観念したように笑った。

 

 彼の母親が言っていたことを思い出したのだ。

才能ある人間の感性に必要な人間は、

それを正当に評価して繋いでくれる少数の凡人だと。

 

 どんなに独創的なものを才あるものが作ったとしても…

大多数の普通の人間の目には止まらない。

 

 ホームズの隣にいたワトソンのような人物…

そういった才を認め受け入れ、ついてきてくれる人がいるからこそ輝けると。

 

 

 娘はあなた達ほど称賛される腕も才もありません。

しかし、あなた達が称賛する凡人にはなれると信じてます。

 

 ヒビキが人の夢を守れる子に育ってくれたのは、

私の誇りです。

 

 

 目の前の後輩はそういう稀有な凡人だった。

 

「分かったよ。

 ヒビキちゃん、で、貴女のことだからもう作詞も楽譜もあるんでしょ?」

 

 梓は観念したように微笑んで、かつての後輩に尋ねた。

 

「はいッ、OPタイトルは『STEP by STEP UP』、EDは『ユメイロコンパス』です。

 でっ、ボーカルはこっちで用意しまス」

 

「ヒビキちゃんのことだから、普通に歌手を使わなそうだよね」

 

 憂はどこか探るように微笑んで、彼女の肩を叩いた。

 

「ちょっと奇を衒いたいんですヨ…そうですねェ…いっそのこト」

 

 ヒビキはにやりと意地の悪い笑みを浮かべて、

キャラ班とツバメとネネをを思い浮かべた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ただいま、でス」

「あーっ、お帰り~っ、ヒビキ」

 

 ヒビキはあの後、会話を交わして唯たちと別れた。

戻った彼女の視界にはエプロンを付けたツバメが

こちらに向かってくるのが見えた。

 

「どこの主婦なのかナ?」

「萌えてもいいだぞい?ヒビキん」

「ゴメン、意味わかんなイ」

 

 持ってきていたお玉を突き付け不敵に笑うツバメ。

笑みを固めたまま突っ込むヒビキ。

 

すると後ろの方からぶーぶーと不満げな郷里、

紅葉の声が聞こえてくる。

 

「なるー…もう、6時だよー…食べようよー」

「うん、お姉ちゃんのことは置いといて…うん、許してくれるから…

 だから放って置いて食べよう、ね?」

 

「紅葉ちゃんって意外とスボラなノ?」

「さとりんって意外とヒビキに容赦ない?」

 

 お互いの相棒の意外な一面を知って互いに苦笑を零す二人。

 

「仕方ないですネ。じゃ、行きましょうカ、ツバメ」

「うんっ、じゃ行こうかヒビキん」

 

 その言葉にツバメは背を向けてリビングに向かおうとするが、

ヒビキは右手を突き出しタ。

 

「?」

「……取り合えズ、やるだけやって今は頑張ろウ?

 私はついていくから…サ」

 

 優しい笑みを浮かべてヒビキはそういう。

ツバメはその言葉に詰まりそうに鳴りながらも嬉しそうに微笑み、

その手を取った。

 

「うん、よろしくね。これからもずっと」

 

 ツバメはそういいヒビキの手を握りしめた。

 

 

 

 

 




次回はイーグルジャンプの禁忌、男性社員に触れます。
それでは。

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