STEP by STEP UP   作:AAAAAAAAS

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良い話を書くのは難しいですネ、うん。


「そう言う言い方は卑怯ですヨ」

 ヒビキと唯は走っていた。

それも結構な早さだ。

 

 ヒビキはジャージ、唯は私服だったが走るのに適しているくらい軽装だった。

何故、走ってるのかというと…。

 

 少し離れた唯と憂の住むアパートに行くため…

というわけではない。

そこそこ有名になった唯は気配を感じ、

追跡者を撒くことにした。

 

 恐らく、記者だろう。

 

「気づいてたんですネ」

「ヒビキちゃんもでしょ、

 ううんビッキーなら私より早く気づいてたよねぇ」

 

 走りながら、呼吸を乱すことなく併走する二人。

歩きながら世間話をするような気やすさで会話した。

両手を全力でふり、足を小刻みに上げて走っている。

 

 しかし、呼吸は全く乱れず平常、

という奇妙なランスタイルが完成されていた。

 

「やはり有名になると色々な人が付きまとうんですネ?

 ある意味では良い事ですヨ?」

 

「でもぉ~、私はビッキーやあずにゃんの方に構いたいっ!」

 

 唯のそこだけは譲れないという言葉にヒビキは笑みを零した。

変わってないな、いや大人っぽくなってるとは思う。

そのままちゃんと大人になったんだ、と感じた。

 

「ビッキーって…いや、もう今更構いませんけど」

「…それより、さ。もうそろそろ、家だから聞きたい事があるんだ」

 

 柔らかな笑みを真剣な表情に変え、唯は尋ねる。

 

「私たち『放ティー』、それかあずにゃん、憂たち『若リブ』に入らない?」

 

 唯はどこか願うようにヒビキにそう言った。

ヒビキはその言葉を聞いてとりあえず目線をそらし、

彼女のアパートを見た。

 

「…話しましょうカ、ゆっくりト」

「そうだねっ…あずにゃん、泣いて喜ぶよ。

 ビッキーが入ってくれたラ」

 

 

 そう言う言い方は卑怯ですヨ

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 ツバメは一宿一般の恩義として部屋の掃除をしていた。

 

 彼女自身、掃除はマメにするのか散らかってはいない。

唯、拭きが少し甘いと感じたのか、

洗面器と雑巾をもって彼女のデスクを拭く。

 

(こう言うところだけは、私は向いてるんだよねぇ~)

 

 掃除や家事が嫌いではない自分。

しかし、それを生かさない道を選んだ。

母からすれば何をしてるのか分からないだろう。

 

 昨日、自分が酔っ払ってヒビキに何を言ったか忘れてる。

しかし、紅葉も流れで飲んだのでそこで記憶が飛んでるらしい。

 

 恐らく、ひふみを含めた三人が運んでくれたのだろう。

 

(月曜になったらちゃんと滝本先輩にもお礼を言わないと…)

 

 しかし、今、懸念して言るのは別だった。

 

 ツバメはイーグルジャンプに来てから、桜ねねと対立した。

あの勤務態度や甘さに腹が立ったのは事実であり、

その心情が大半だった。

 

 今はもう和解し、上手くはやっている。

 

 しかし、彼女と働いてツバメは薄々感づいていた。

ねねは自分よりもプログラマーの才能が段違いにある。

 

 自分が数年かけて倣ったものを、

環境の良さを抜いても殆ど身に着けていた。

 

(ねねっちは感覚型の天才なんだろうなぁ~…)

 

 自分に全く能力がない、なんて卑屈な事は思わない。

少なくとも専門学校生のなかでは自分も紅葉も最高レベルだ。

 

「でも、私たちよりも才能がある奴なんてやっぱりごろごろいるんだよね…

 一人ひとりに才能があっても、望む才能は私にはないんだ」

 

 ぽつりとそんな言葉を零してはっとした。

 

 紅葉が聞いたら怒りそうだ。

幸いなことに彼女は食べ物のカタログに夢中だった。

 

 正直な話、いや当然の話。

ツバメは紅葉の絵を最上のモノと思っていた。

そしてそれは狭い見解というのもツバメ自身分かっている。

 

 だが、涼風青葉の絵を見た時、

紅葉には言わなかったが紅葉よりも上手いと感じた。

 

 感じてしまった。

 

 彼女自身の努力もあるだろうが、

ぱっと惹かれる何かが青葉の絵にはあった。

 

 そして改めてみると親友の絵が残酷な位、霞んで見えた。

描画力、技術にそれほど差がないのなら何が紅葉には足りないのだろう。

 

 そして私の何がねねっちに足りないんだろう?

 

(それが埋めがたい差異で『差異(さい)能』って奴なんだろうなぁ…)

 

 少なくとも紅葉には言えない、

言いたくない悩みをツバメは抱えていた。

 

「……ヒビキちゃんに才能なんてない、よ」

「っ!?えっ!?」

 

 いきなり背中に張り付いた声にツバメは驚いて振り向く。

すると郷里がそこに立っていて眠たげに目を擦っていた。

 

 まるでさとりのように自分の心を読んだかのような言葉。

案外、そう言う洞察力が郷里という意味合いに相応しい。

 

「…郷里、ちゃん?…いや、さとっち…聞いてたの?」

 

 あははと堅い笑いを浮かべてそう返す。

郷里は相変わらず無表情だ。

しかし、別に彼女に否定的な空気はない。

むしろツバメを見守るように見ている。

 

「…ヒビキちゃん、ううんっ、お姉ちゃんは凡人だよ。

 少なくとも父さん、母さん、コウちゃんよりもずっとずっと」

 

 ひよっとしたら、会社の中で一番ないよ

 

「ちょ…どういうことさっ?

 いきなりなんなのさっ…というか、お姉ちゃんディス酷くないっ!?」

 

 いきなり郷里の姉ディスに気の毒になったのか、

ツッコミ気味にツバメは言った。

 

「事実、だもん…。

 お姉ちゃんにはミュージシャン…表で脚光を浴びる為の何かがないし、

 お姉ちゃん自身…それも分かってる」

 

 本人はいつもの無表情だ。

しかし、郷里の口調がツバメには冷たく重く淡々と感じる。

 

「なっ、なんでっ…

 何でそう言う事いうのさっ!?お姉ちゃんなんでしょっ!?

 世話に成ってる大好きなお姉ちゃんじゃないのっ!?」

 

 郷里のあんまりな評価に思わず、彼女の肩を掴みツバメは睨む。

郷里はそれにも動じない。

 

「家族だから…お姉ちゃんの先生は母さん…

 母さんはお前に才能はないって言ってたから」

 

「っっ…!なっ、なによっ!

 ナンなのっ!!それっ!!」

 

 実の母親の冷徹かつ現実的な宣告をヒビキは受けていた。

ツバメは遠まわしに…ある意味ではねちっこく母からそう言われていた。

しかし、父は応援してくれた。

 

 今、此処に入れるのは父の影響が大きい。

そうだ、ヒビキの父さんが応援してくれたんじゃないか?

しかし、そんな予想は郷里は裏切った。

 

「父さんも死んだ兄さんも…

 そんな姉さんに特に何をすることもなかった。

 そして…コウちゃんも」

 

「っ、なんでっ!?

 じゃぁ、誰もヒビキんを応援してないのっ!?」

 

 姉と慕っている八神コウすらそうだと妹の郷里は言った。

ツバメはその状況から、彼女は出来そこないと扱われているのか?

八神コウは本当は彼女を疎んでいるのではないか?と感じた。

 

 しかし、郷里は少しだけ微笑んだ。

 

「そこから姉さんは、音楽に関して何でもやった。

 大体の楽器を使えるようになった。

 ステージを走り回る体力を身に付けた、

 前座のトークを学んだ。

 母さんは足りないのなら、補う努力をしなさいって」

 

 客を楽しませるために寸劇をした。

 

 寸劇をするために運動神経を鍛えた。

 

 運動神経を活かすためにジャグリングをした。

 

「姉さんは一流のミュージシャンには成れないかもしれない、

 でも、一流の人たちに目がとまるほどのエンターティナーになった。

 私の大好きなお姉ちゃんは、才能なんかなくても渡り合える人だから」

 

 その言葉を聞いてツバメの萎んでいた心の何かが燃える気がした。

 

「そっか、取り乱しちゃってごめんね。

 すごいんだね…ヒビキは」

 

 掴みかかった彼女にゆっくり離れ、

笑顔を向けてツバメは謝った。

彼女が小さく微笑んだという事実もツバメは驚いた。

 

(そっか、信じてたから…見ていたんだ)

 

 ツバメはいや、ツバメどころか紅葉達すら、

あの技量と運動神経は好きでやってると思っていた。

実際好きなのだろうがそれでも『一番なりたいモノ』に必要なスキルではないはずだ。

 

 しかし、腐ることなく前向きにそれに取り組んだ結果、

今の彼女が培われたのだろう。

ツバメは改めて自分とは違う、と感じた。

 

(でも…私にはそんな情熱なんてあるのかな?)

 

「…昨日お姉ちゃんはツバメちゃんに言ってた事があるの…。

 才能がないってツバメちゃんが言ってたから…

 その言葉を教えてあげる、ね…。

 ヒビキちゃんは言わないでって言ってたけど」

 

「?なになに?

 優しく励ましてくれたの?」

 

「えぇっと、こういってた」

 

 そんなに自分が弱っていたのか、と苦笑するツバメ。

そしてやっぱりヒビキに最近の悩みを吐き出していたようだ。

 

 ツバメは「そんな事ない」って励ましてくれのか?

と思ったが。

 

 

 いや、どう見てもネネちゃん天才ですよネ?

  地味に郷理についてってますよネ。

 ツバメさんはなんて言うか、普通ですシ

 

「ちょっと、酔って弱ってる私に容赦ないよねっ!?

 弄るのは八神さんだけにしてよねっ!?」

 

 そうなのだ。

ねねは感覚で郷里の動きをよんでサポートしたり出来ていた。

ヒビキもそれを気付いたようだ。

 

 慈悲のない言葉にややキレ気味に突っ込む。

関西出身のゆんがいれば、高評価を与えただろう。

 

 ツッコミの才能がある、と。

本人は喜ばないだろうが…。

 

「まーまー…ツバメちゃん…このあとこのあと…」

「もうっ…!」

 

 無表情で抑えて押さえてとジェスチャーする。

今度は何言われても動揺しないでおこうとツバメは構える。

そして郷里は口を開いた。

 

 

 

  ですガ…私はどちらかというト、

 ツバメさんの仕事の方が好きですヨ?

 同情とか優しさ抜きにしテ

 

  持たないのに持つ人と一緒にしている、

 ってそれってやっぱり凄いじゃないですカ。

 

  それで足りない、納得しないって言うのなラ…

 私も手伝いますヨ…

 

 

 一つの才で足りないのなら二つの才で挑みましょウ。

 

 

 一つの事で足りないのなラ、二人で二つの事を倣いましょウ。

 

 

 私が貴女の才を補いますかラ、前を向いてくださイ…。

 

 

 

 何より、才能ない人が夢を見ちゃいけないなんて悲しいじゃないですカ?

 

 

 

「って言ってたよ?

 ヒビキちゃん…」

 

「っ、なによっ、それっ…

 当たり障りのない言葉なのにっ、ずんと来てっ…暖かいじゃんっ

 もーっ、なんなのさっ、ヒビキんっ」

 

 彼女が自分に言っていた言葉を聞いて、

ツバメから大粒の涙がこぼれた。

掌であふれる涙を何度も拭う。

 

 そうだ、まだ自分はそれしか…一つの事しかやってない。

 

教わり真似る事は終わっても学ぶ事は終わらないじゃないか。

 

「私っ、やばいなー…

 ヒビキんが男なら好きになっちゃってたかも…」

 

 涙を拭い、顔を真っ赤にしながらぼやく様にそう言った。

 

「お姉ちゃん、女子校で男装させられたよ?

 客寄せの為に」

 

「うっそっ!?すごい見たいんだけどっ!!?」

 

 ツバメは郷里にむかってさっきとは違う感じで詰め寄った。

 

「うん、見る?ツバメちゃん」

「みるみるーっ!あっ、ももも呼ぶねっ!」

 

 そう言い彼女は親友の元に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 なら、私も友達の才能になろう。

 

 それが私の新しい夢だから…!!

 

 

 

 

 

 この時、鳴海ツバメの新しい夢が生まれた。

 

 

 




個人的に才能ってなんでしょう、って話です。
才能持つ人がドヤ顔で威張ってるのも腹立ちますが、
才能だけじゃなく、努力を見てくれというのも微妙です。

勝者や成功者がその理論を持ち出せば、大多数の人間に
持ってない人の怠慢や不足を突く事に成るからです。

凡人は凡人で成功した人の家庭や苦労話をそれほど聞きたいとは思いません。
いや、思う人もいるのでしょうが…
勝者や成功者はまず夢を与えるべきと思うんですよね…

例えば作品を見て、客がこの人はこれを創るためにどれだけの時間や労力を費やしたのか?
と考える人はいないと思います。

その分野を目指す人ならわかりますが、別分野の全く関係ない、
純粋な客にそう思わせる時点で作品だけをちゃんと観られてないので、負けなんじゃないか?

とここ数日、この小説をどんな展開にするかと考えてたりします。
少なくとも青葉や紅葉よりもコウやほたるの方が持ってるモノが在る訳ですし。

それを勝ってる奴が努力だけで片付けるのは結構残酷じゃないかと…。

 その点、八神さんは聞かれるまで苦労を語る人ではないので見事ですよね。
八つ当たりはしますけど。

今回はツバメちゃんとヒビキの話でしたが…

次回は持っている唯さんと持たないヒビキの話です。

前回の後書きの予告と違ってすいませんでした。

けいおん!メンバー出なくてすいませんっ!!

ツバメちゃんの父さんのやり取りを独自に作ってすいません。
でも、まだどっかで捏造しながらやります(爆)

感想待ってます。

では。

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