太陽が少し見え、朝靄の中目が覚めた。良く眠れたな。体を伸ばそうとモゾモゾしていたら、ミツネが起きた。
「おはよう、アル」
「おはよう、ミツネ」
一つ屋根の下で寝たのだ。(屋根は無いが。)初々しい挨拶に、少し照れる。
「どうしようか。実際これからサバイバルだぞ」
「ね、でもさっぱりわからないや」
「とりあえず飯でも探そう。」
「いいね!!すっごいお腹減った!」
「じゃあ探索と食料集めに行くか」
「おーーー!」
テコテコと歩き出したミツネの後ろを付いて行く。
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ヤバい。
森丘のマップを覚えているから大丈夫かな。なんで考えて居たのがバカだった。ゲームじゃ隣のステージへ向かえばロード画面になって移動出来たけど、ここは現実。実際はずっと広いし、道がわからないと行きたい場所へ行けない。つまり、全く知らない場所を通らなければならない。
何が言いたいかって?迷ったんだよ。
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とりあえずさっぱりわからないので、マップの事は忘れて食べ物を探す。
「あ、これ食べれるんじゃない?」
小さな実をいつくか拾ってミツネが言った。
良く見ていると、"美味しくない。"と俺の本能が知らせる。これが4つ目の条件で出来た本能なのかな?
「いただきまーす」
なんの躊躇も無くミツネが口へ入れた。
「ちょ、待て待て!何かわからないんだぞ!」
「大丈夫だよ!多分!」
ポリポリと実を食べるミツネ。
不安になりながら見ていると、
「美味しい!柿の種の味だ!」
うっそだろ、まじか。
「本当に美味いの?俺の本能は美味しくないって言ってるぞ」
「美味しいよ!アルも食べる?」
「うう、怖いなぁ」
ミツネが平気でポリポリと食べているので、勇気を出して食べてみる。
ポリっ
「か、か、辛い!!!」
ヤバい!これはヤバい!美味しくない!必死の思いで涙を流しながら、飲み込む。
「えっえっ、アル、大丈夫?」
「はぁ、はぁ、大丈夫…だけどその実はもう絶対食べない」
「うぅ、ごめんね、食べさせて。なんでだろ、美味しいのになぁ」
多分これは俺とミツネの条件の違いだ。"なんでも食べる"と、"食べ物を見分ける"。その違いが今顕著に現れた。
ミツネはポリポリと実を食べるが、俺には美味しくない。
まだ舌がピリピリする。
「ミツネの悪食は便利だな」
「いいでしょ〜。我ながら良い条件だと思うよ」
実際、サバイバル生活の中でなんでも食べられると言うのはめちゃくちゃ有利だ。
俺も何か食べられないかと、辺りの草木を良く見る。すると、
まあまあ食える
そう、本能が示した草があった。
「お、これ食べられそう」
「見つけたんだ!どんなの?」
「この雑草みたいなやつ」
ただの雑草にしか見えない。でも背に腹は変えられない。
ムシャ
「ちょっと苦いな…でも、まあまあ食える。」
「私も食べるー!」
そう言って雑草を口に入れる。
「なんか苦くない?その草」
「お、美味しい!ほろ苦いけど、シャキシャキしててみずみずしい!三つ葉みたいな味だ!」
「嘘だろ、美味しいか?」
そんなこんなして、まあまあ食える草をひたすら食べた。ちょっと食べ足りないけど。
ミツネはそこらじゅうの実やら草やら食べて美味しい美味しい言っていた。いいなぁ。
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食休みを少しした後、歩いていると、何やらモンスターが寝ていた。
背中が緑で、豚のような見た目。
「モスだ」
「モスだね」
ミツネと感想が一致した。そして、ミツネが寝ているモスへ近づく。
「危ないぞ、一応モンスターだし」
「大丈夫。何かあったらすぐに逃げるから。それに、何かあったらアルは私を守ってくれるんでしょ?」
えへへ、とミツネは笑った。
しょうがないなぁ、と俺もモスの近へ寄る。
グゥグゥと寝ているモスを見ていると、本能がこう示した。
"美味しい"
キタコレ!でもどうしよう、食べるには命のやり取りだもんなぁ。いや、弱肉強食なのかな。と言っても、俺はモスより強いのか?
ミツネは落ちていた枝を拾って、モスをつつこうとした。
「まじですか、ミツネさん。一応逃げる準備しとこうよ」
わかった。と言って、ミツネは半身でモスをつつく。
その瞬間、
ズバンッ!!!
と音を立て、枝から赤黒い光が散った。
「えっ⁇何事?何が起きたの?」
「わからん、枝が光った。」
そして、モスは目を覚まし、俺たちの方へ突進してきた。
「「逃げろー!」」
二人して走り出したのだが、モスは俺たちのすぐ近くで倒れこみ、動かなくなった。
これが、俺たちの最初の狩りだった。
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動かななくなったモスをつついているミツネに、聞いてみる。
「死んだのかな?」
「多分、死んでる。つついただけなんだけどな」
ミツネは怯えながら言った。そのまま続けて、
「でも、違う…。死んだんじゃない」
「どういうことだ?」
ミツネが悲しそうに言った。
「殺したんだ…。今。私は、モスを殺したんだ。だから、私に今必要なのは、この子を美味しく全部食べてあげる事。世界の仕組みだよ。」
大事な事だった。弱肉強食とは、強い奴が弱い奴に勝つ事じゃない。強い奴が弱い奴を食べて、生きる糧にする事だ。そして、今ミツネはモスに勝った。お互いに不本意ではあったが、このモスは生きる糧となる。
「そうだな。食べよう。しっかりと。そして、生きて行こう。」
一人と一匹は、改めて、この世界の住人となった。
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さすがに包丁も無いし、捌く道具も無い。なので、俺が肉を噛み千切る事になった。
正直グロテスクだったが、さっきまで生きていた命だ。しっかりと認識して大事に肉を噛む。
「美味しい!!!」
やっと、美味いものにありつけた!
前の世界の肉なんて比べものにならない。
生肉なんぞ食べた事は無いが、これは美味い。
「本当に?私も食べる!」
肉を適当な大きさに噛み千切り、ミツネへ渡す。血の滴る肉を見て、ミツネは少し動揺したが、俺と同じように大事に食べた。
「美味しーーい!!!」
ミツネが叫んだ。ランランと生肉を食べている少女は相当見応えがあった。
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腹の膨れた一人と一匹。
その間には、血の付いた骨と、苔の生えた皮。
生きるための殺生をした一人と一匹は、「ごちそうさま」と言った。