嬉しいものですね。とっても!
プロローグ3です。
この辺から暗雲が見えます。
結局退院の日、ミツネに別れの挨拶を出来なかった。
心残りだったが、遊びに行けば良い。彼女は治る。そう言われているみたいだし。
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退院から5日、今は仕事に出ている。仕事と言っても、現場に出る訳ではなく、事務所の書類整理や掃除をしている。
随分ギプスと松葉杖にも慣れ、今日は午前のうちに作業を終える事が出来た。親方へ連絡をして、帰って良いと言葉を貰ったので、ありがたくそうする。
そして、午後は決まっている。
ミツネに会いに行こう。
鞄へDSと貴重品を仕舞い、タクシーに乗って病院へ向かう。
前は隣の部屋だったのに、今では随分遠くなってしまった。
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317号室。俺の相棒のいる部屋。
「おーい、ミツネ?いるか」
カーテンの方からガサっと音がして、続けて彼女は言った。
「アル!?来てくれたの!?」
「約束だもんな」
「やったあ!!!」
「病院だぞ、静かに」
「えへへ、ごめんごめん」
「そんなに騒ぐ事か?」
「だって嬉しいもん、私、アルのこと大好きだし。」
…?
ホワッツ?なんですと?
「いま、なんておっしゃいました?ミツネさん。」
「二度も言わせるかなぁ、アルさんや。大好きって言ったんだよ。」
「あ、は、はい。」
ははは、と笑いながらミツネは話始めた。
「あのね、もし、本当にアルが来てくれたら、告白しようって決めてたの。」
「告白…ですか…?」
「うん。ダメだったかな?」
春だ。春が来た。
苦節18年。モンハンという種は、チャットにより発芽し、今、花開いたのだ。
「ダメじゃ無いよ」
「ミツネのこと大好きだし。」
「…へ?いま、なんておっしゃいました?アルさん」
「そのままの意味だよ」
「やったあ!!」
「静かに、病院だぞ」
「えへへ、ごめんごめん」
たくさんの人々がいろんな形で出会って、映画を見たり、ご飯を食べたりして、告白をして、恋人になる。様々な形があるのだろうけど、俺とミツネは、集会酒場で出会って、いろんなマップに狩りへ行って、築いた関係である。周りから見ればズレているんだろうけど、どこにいても楽しくて、いつも最高のデートをしていたと思う。
こうして、モンハンカップルは誕生した。
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季節は変わって秋。
ミツネに初めて会ったのが夏の初めてだったから、大体3カ月が経ったのか。
2カ月前辺りに足のギプスも外れて、今では入院前の様に親方にドヤされながら働いている。ミツネの所へ遊びに行くのは大体週に2.3回。この3カ月は一瞬の様に過ぎた。
最近は全力で採取ツアーを楽しむという狩りを楽しんでいる。全力で採取をして、アイテムのレア度をそのまま点数にして勝負する。話をしながらなら結構楽しい。
ミツネは手に力を入れられないと言っていた。従って、高難度なクエストに行っても、脳の指示通りに指が動かない。俺も悩んで、その末に出した答えが採取ツアーで勝負する事だった。
ミツネの両親にも何度か会った。
気さくな二人で、ミツネと、その両親、俺の四人で、彼女の病室でお茶を飲みながら話をしたりする。連絡先も交換した。
ただ、最近は二人とも元気が無い。今日は一人で来たのかな?奥さんがいない。
今は、眠ってしまったミツネの隣で、彼女の父と話をしている。
「アル君のおかげで、あの娘もなんだか元気になったよ。ありがとう」
彼女の父は、感慨深そうに言った。
「いえいえ、俺の方こそミツネから元気をもらえていますよ。」
「そうか、君は優しいんだな。最初、あの娘から病院にすごく良い人がいる。と聞いた時は何者かと思ったけどね。一緒にゲームをしてくれて、とても楽しい!と話すあの娘を見ていると僕や妻もなんだか嬉しくてね。本当に感謝しているよ。」
「そんな、頭を上げてください。感謝をしているのは俺の方です。彼女のおかげで今とても幸せなんですから。」
そう言うと、彼女の父は力強く俺を見た。
「アル君。君は、あの娘の事をどう思っている?」
うっ、怖い質問だ…でも、ここは引いてはならない。
「愛しています。」
父は少しずつ笑顔になる。
「良い答えだ」
「ありがとうございます。」
「そして、君になら話せる。」
「はい、なんでしょう?」
父は床を見て、落とす様に言った。
「あの娘はもう永くない。」
「え…」
「何も言わなくて良い。ただ、あの娘が愛する君だ。知っていて欲しい。そして、あの娘もきっと気が付いている。自分の時間がもう短い事に。」
父は続けて話す。噛み締める様に。
「俺だけなんだ。今動けるのは……。妻は家にいる。鬱病だよ。ミツネの病状が悪化した頃から様子がおかしくてね。先日診てもらったらそう診断された。」
何か言いたいが、言える言葉が見つからない。
父は、一層強く、まっすぐな眼でこう言った。
「このままじゃ僕に何があるかもわからない。もし、僕に何か会ったら、君があの娘を助けてあげてくれ。」
「はい」
それしか言えなかった。
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あの話をした後、家に着き、DSの電源を入れた。"HR250 アル "ミツネと共に育てた大事なキャラだ。
立ち回りをミツネから教わり、今では超特殊許可クエストもソロでやれる。流石にミツネよりはタイムも遅いし被弾も多いが、成長したなと思う。
でも今日はそのままDSを閉じて、眠った。
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目が覚めた頃には朝だった。頭が回らないが、一先ず仕事の準備をして、水を飲む。
忘れていれば良いのに。
そう思ったが、昨日のミツネの父の話はしっかりと覚えている。
準備を済ませて、車に乗り、職場へ向かう。気分は乗らない。
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昼休憩。
秋の乾いた風が吹いた時、携帯が鳴った。
ミツネの父からだ。
「もしもし、アル君?」
「はい、どうしました?」
「アル君、今から病院に来れるかい?」
嫌な予感がした。
「どうしたんですか?」
「ミツネの容体が急変した。」
次の瞬間には動いていた。競馬新聞を読んでいた親方に「どこ行くんだ!」と怒鳴られたが無視した。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
タクシーを捕まえ、病院の名前を伝える。
永遠の様に思える車内で、ミツネの事を考えた。
ありがとうございます。
誤字脱字、感想等ありましたらよろしくお願い致します。