鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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夕焼けの戦い

 

▽△▽――――――▽△▽

 

………で、結局翌日の昼過ぎぐらいまで待たされていた。どうやら昨夜のクーデター騒ぎで、オルガ以下幹部組はてんやわんやになっているらしい。

 その間、とりあえずメシをいただきつつ、戦場に放置したままの〝ラーム〟をCGSの敷地内に入れ、推進剤の補充と簡単な整備、それにバックパックからガトリングキャノンの給弾作業を行う。

 モビルスーツ整備に関する簡単な知識は、どうやら脳内の情報チップのおかげで頭の中に入っているらしく、ほとんど新品同然の〝ラーム〟の作業が一通り済むと、今度は〝バルバトス〟の方にもちょっかいをかけてみる。

 すっかり昇った日差しに照らされて、〝バルバトス〟は静かに、再び戦う時を待っているかのようだった。

 

「ちょ………カケル! ……さん。その機体は三日月さんの」

「少しぐらい大丈夫だろ。別に壊しはしないって」

「でも………」

 

 監視役のダンジを宥めつつ、とりあえず〝バルバトス〟の前に立つ。

「鉄血のオルフェンズ」最初期の〝バルバトス〟は、ほとんどまともに整備されていない機体で、確か関節部に妙な負荷がかかっていたと三日月が言っていた気がする。

 情報チップのおかげで脳内にインプットされている技術知識でどこまでいけるかは分からないが………

 MW用の簡単なバンカーを一つ抜けると、開けた場所に〝ガンダムバルバトス〟の姿を捉えることができた。膝をつき、ただ静かに次の戦いを待っているかのようだ。

 せり出した胸部コックピットに取りついて作業している少年は、タカキ・ウノとヤマギ・ギルマトン。

 数少ない参番組の理解者である浅黒い肌の大人、雪之丞・ナディ・カッサパは小さなコンテナに腰を下ろし、一人煙草休憩としゃれこんでいた。

 

「おやっさんは残ってくれるんだ」

「まあなぁ。俺も年食っちまった。ガキのお守りぐらいの仕事がちょうどいいのさ」

「おやっさん、友達いなそうだしねぇ」

「外でやってけなさそうだしね~」

「おう。よくわかってるじゃねぇか………」

 

 あははは、と賑やかに笑うタカキたちとは裏腹に………見れば輝かんばかりの金髪の少女、クーデリア・藍那・バーンスタインが質素な姿でふらりと現れ、足下に落ちていたボルトを拾い、なにやら思い悩んでいる様子だった。

 

 そこに、荷台取付型のモビルワーカーから飛び降りたオルガが姿を現す。

 

「おーい! こっちに三日月はいるかぁ?」

「おぉ? こっちにはいねえぞー」

「そっかぁ………ん?」

 

 そこで、オルガが背後で所在なげに佇んでいたクーデリアの姿に気が付く。そこから、クーデリアはさらに苦悩を深めるのだろう。

 

「………って、おめえさん。ナニモンだ?」

 

 ようやくこちらの姿が目に入ったようで、雪之丞が怪訝な表情で立ち上がった。

 

「俺ですか? 俺はカケルって言います」

「あの青いモビルスーツのパイロットですよ! さっきから〝バルバトス〟が見たいって聞かなくて………」

「こいつか? 厄祭戦時代の骨董品だぜ。………そういや、もう1機も同じフレームの………」

「俺の〝ガンダムラーム〟も、〝ガンダムバルバトス〟同様、厄祭戦時代に製造された〝ガンダムフレーム〟をベースとする機体です。汎用型の〝バルバトス〟と違って、〝ラーム〟はガトリングキャノンの運用機として火力重視の側面が強いですけど………」

 

 ほお、と感心したように雪之丞が息をついた。

 

「モビルスーツには詳しいみてえだな」

「軽くかじった程度ですけどね。お手伝いしましょうか?」

「そう言ってくれると助かるんだが………てかお前さん、傭兵か何かか? あんなモビルスーツ一人で乗り回して………」

 

 答えようと口を開きかけたが、視界の端でクーデリアが去り、一人残されたオルガが困惑した表情で後頭部を掻きむしっているのが見えた。

 

「あ………」

「すいませーん! オルガさん!」

 

 一足先に、ダンジがオルガへと駆け寄る。

 

「おう。どうしたダンジ?」

「どうしたもこうしたもないすよ~! 青いモビルスーツの人、どうするんすか?」

「おっと。そうだった。忘れてたぜ」

 

 忘れてたのかよ。

 そこでようやく、こちらの姿を見たオルガが歩み寄ってきた。

 

「あんたが、えーと………」

「蒼月駆留。カケルって呼んでください」

「おうそうか。オルガ・イツカだ。昨日は助かったぜ」

「お役に立てたのならなにより」

 

 固く握手を交わし合う。大きく、それにこれまでの過酷な経験を感じさせる硬い、少し冷たい手だった。

 

「………で、アンタ何であそこにいたんだ。この辺りには同業者はいねえはずだが」

 

 早速、核心を突いてくるな。だが「転移してきましたww」なんてほざいても、イカれてるとしか思われないだろうし。

 

「クーデリア・藍那・バーンスタイン」

「………ほぅ?」

「火星独立運動の象徴であるクーデリア・藍那・バーンスタインが地球経済圏・アーブラウとの交渉に臨むと聞きましてね。………失礼ながらCGS程度の装備では護衛として心もとないと思い、自分を売り込みに来たんですよ」

「なるほどな」

 

 ただ、とここで首をすくめてみせる。

 

「CGSはクーデター騒ぎでこれからどうなるか分かりませんし、クーデリアさん自身も去就を決められていない。もしよかったら、モビルスーツの整備とか、護衛のお手伝いをさせてもらえたらと思ったんですが」

 

 

 そいつは助かる。と油断のない表情ながら、それでもフッとオルガは口元を緩めてみせた。

 

「だが………これから俺らは、下手すりゃギャラルホルンとやり合うことになる。その意味、分かってるんだろうな?」

「最悪、俺も一生追われる身になるということですよね? それを承知の上で、こうやってお話しているんですよ」

 

 あくまで冷静に。ジッとオルガの双眸を見返してやる。

 雪之丞、タカキ、ヤマギ、ダンジに……気づけば辺りにいた少年兵らが、事の次第を遠巻きに見守っていた。

 

「ふ………じゃあ止めねえよ。一人身なら、メシと補給・整備はこっちで持ってやる。だが、クーデリアへの売り込みは、自分一人でやりな。まあ、それもどうなるか分からねえが」

「ありがとうございます。もし………我が儘な申し出ですけど、売り込みが断られたり、そもそも地球行きを断念するようなことがあれば、俺を、あんたの仲間にしてくれませんかね? 〝ガンダムラーム〟共々。お役に立って見せますよ」

 

 モビルスーツを2機、それにギャラルホルンMWを多数。〝ラーム〟単体でのこの戦果を、オルガは今思案の鍋の中に放り込んでいるはずだ。

 

 果たして、

 

「いいぜ。あんたには命の借りもある。兵隊としても使えそうだしな。……いざって時は、俺の下で働かせてやるよ。内定だ」

「ありがとうございます」

 

 これで、最悪の場合鉄華団の一員として引っ付いていくことが可能になった。

 

「だがな。肝心のお嬢さんはあんな調子だし、金はマルバが………」

「オルガ!」

 

 その時、少年兵にしては恰幅のいい……参番組の参謀ビスケット・グリフォンがオルガに声をかけてきた。その手にあるのは、一枚のタブレット端末。

 

「デクスターさんが、資産の合計が出たって」

「分かった。すぐ行く。じゃあ、後はおやっさ……雪之丞さんと詰めてくれ。整備関係は任せてある」

 

 それだけ言うと、オルガはビスケットの後に続き、CGSの建物内へと入っていった。

 きっとこれから、デクスターさんがまとめた収入と支出で一喜一憂することになるのだろう。

 

「さて、それじゃあ改めて。よろしくお願いします。雪之丞さん」

「おやっさん、でいいぜ」

「んじゃ、おやっさん。………早速ですけど〝バルバトス〟の関節部用の駆動ポンプって………」

 

 基本的に、皆排他的ではないらしく、1時間としないうちにすっかり溶け込むことができ、〝バルバトス〟の簡単な整備と改修に取り掛かることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 火星の荒野を、6機のモビルスーツがスラスターを噴かして疾駆する。大規模な演習でもなければ、一度に6機のモビルスーツ………〝グレイズ〟の姿を見ることなどできないだろう。

 だが、オーリス・ステンジャ二尉を隊長とするものモビルスーツの目的は「実戦」である。CGS本部強襲失敗の雪辱を晴らすため、ギャラルホルン火星支部第3地上基地の出撃可能な全モビルスーツを以てして、再度戦いを挑むのだ。

 

「ふ………いいか! 我らの目的はクーデリア・藍那・バーンスタインの確保。そしてCGSとそれに関する一切の抹消である! いいかッ!〝一切〟だ!! 敵の降伏など認めてやることはない。残らずすべて駆除し、破壊しつくせ!」

 

 了解! と随伴する5機の〝グレイズ〟からの呼応。

 と、昨日の屈辱的な脱出劇を思い起こし、オーリスは思わず歯ぎしりした。厄祭戦時代の骨董品のようなモビルスーツに後れを取り、乗機を失い、這う這うの体で基地まで戻ったのだ。………この屈辱、決して忘れてはならない。

 

 必ずや憎き仇を討ち、何もかもを灰燼に帰してくれる。

 

「続けッ!! 後れを取るな!」

 

 

 勇ましく吼えるオーリスに続き、計6機の〝グレイズ〟は敵地へと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 もうそろそろ、夕方か………

 原作では、陽が沈み始める頃、クランクの〝グレイズ〟が決闘を挑みに現れた。

 だが今、当のクランクは捕虜として、地下の一室で捕らえられている。アイン・ダルトンは、乗機が〝バルバトス〟のメイスを食らった際に、どこか脳機能にダメージを食らったのか………外傷はほぼ癒えたものの目を覚まさない。

 唯一の不安要素はオーリス・ステンジャ。あの後、コックピットに乗っていなかったらしい。コックピットは、それほど損壊しておらず、身体だけ吹き飛ばされた形跡もない。おそらく、乗機を捨てて逃走したのだ。

 

 だとすると、もしかしたら今日挑んでくるのは……オーリスかも知れない。

 そして、オーリスなら単機で決闘を挑むような潔い真似はしないはずだ。

 

 ようやく〝バルバトス〟足回りの整備が完了し、カバーと装甲を取り付け直し、全て問題ないことを確認すると………〝ラーム〟が駐機している方へと足を向けた。

 とりあえずできる限りのことはした。足回りの不具合も、多少は改善されているだろう。それでも、すぐにでも本格的な設備で改修する必要があることには変わりはないが。

 

「あれ? カケルさん」

「どこ行くんすか?」

 

 工具箱を抱えたタカキと、ふらりと現れた利発そのものの少年、ライド・マッスに声をかけられる。

 

「ちょっとね。〝ラーム〟の試運転に行ってくる」

「あ、了解です」

「だったら俺操縦してみてー!」

 

 目を輝かせるライドだがタカキは諫めるように、

 

「ダメだよライド。MWでだってまだ実戦出たことないのに」

「MWのシミュレーションこなしたから大丈夫だろ」

 

 等々仲良く言い合う様に微笑ましさを感じつつ、「行ってくるよ~」と、〝バルバトス〟同様跪いてパイロットの帰還を待つ〝ラーム〟のコックピットへと、俺は再び舞い戻った。

 

 全システム・オンライン……オールグリーン。

 阿頼耶識システムとの接続……良好。

 スラスター残量……MAXで問題なし。

 ギガンテック・ガトリングキャノンの弾数……FULL。

 

 機体を立ちあげた瞬間、おそらく外から見れば、一度〝ガンダムラーム〟のツイン・アイが輝いたのが見えたことだろう。

 

『………んん? どうしたカケル?』

「すいませんおやっさん。ちょっと〝ラーム〟の試運転に行ってくるんで」

『〝グレイズ〟の最終調整、手ぇ貸して欲しかったんだが………』

「一周したらすぐ戻るんで!」

 

 周囲の資材を吹き飛ばさないよう気を付けて進み、安全な地点に出た所で、一気にスラスターを吹かす。

 スラスターは良好。動きも問題はない。

 ギャラルホルンの動き、杞憂だったらいいのだが………

 

 

 が、その時。〝ラーム〟のセンサーがエイハブ・リアクターの反応を………6個捉えた。

 

 

 

 


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