鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

68 / 78
4-4.

▽△▽―――――▽△▽

 

 地球。

 月夜に照らされた洋上を優雅に進むは、ギャラルホルン総本山である海上都市〝ヴィーンゴールヴ〟。

 その、地球支部長の執務室にて。

 

「准将への昇進及び地球外縁軌道統制統合艦隊総司令官への正式着任。おめでとうございます。また、私のような人材を登用して下さったこと、感謝いたします」

 

 生真面目に一礼する石動・カミーチェ〝一尉〟に、執務室の席に深く腰を下ろしたマクギリスは、

 

「ありがとう、石動。君の能力を考えれば、当然の昇進だ。これからの地球外縁軌道統制統合艦隊では、コロニー出身者であることを理由に不当な扱いを受けることは無いだろう。その能力を存分に発揮してくれることを期待している」

「ハッ!!」

 

 監査局特務三佐から准将へ。

 異例中の異例と呼べる特進だが、イズナリオ亡き後の正式なファリド家後継者であること、カルタ・イシューが退いた後セブンスターズ血縁者内で総司令官を務められる適当な人物が存在しないこと、なによりも監査局時代から認められてきたその才覚によって、マクギリスはセブンスターズ各家の合意の下、イズナリオが手にしていた地球での権限を一挙に手にするに至った。

 

「前体制下において、出自を理由に不当な境遇にある者は多い。地球外縁軌道統制統合艦隊をより実戦的な組織とするためには、出自に関わらず有為な人材を積極的に登用し、組織を一新する必要がある」

「はい准将。こちらに、独自調査による推薦リストを作成しております。ご確認ください」

 

 石動が差し出したタブレット端末――――複数の人物の簡易プロフィールや能力の数値データなどが入力されている。既にマクギリスから指示があることを見越して、前もって用意していたのだろう。

 予想通りの仕事の速さにフッと思わず微笑をもらしつつ、マクギリスは石動から受け取った端末の情報に目を………

 

 

 

 

「マクギリスッ!!!」

 

 

 

 

 その時だった。

 厳重にロックされ、マクギリスの許可が無ければ開放されないはずの扉が開け放たれる。マクギリスの名を怒鳴りながら飛び込んできたのは―――――度重なる失態によって地位を失い、心身共に負った傷を癒すため自邸で静養しているはずの、カルタ・イシュー。

 

 その後に容姿類まれな士官が続き、カルタの背後でザッ! と整列した。

 マクギリスは一切動じることなく、悠然と立ち上がって、

 

「やあ、カルタ。怪我の具合は………」

「とぼけるのもいい加減になさい! あなたの差し金だってことは分かっているのよッ!!」

「………ほう?」

 

 指差されたマクギリスを守るように石動が一歩進み出るが、軽く手を振って下がらせる。

 カルタは怒りに満ち満ちた表情ありのままでマクギリスに詰め寄り、

 

 

「さっき報告が来たわ。この私が―――――〝准将〟に昇進ですって!? 冗談も大概になさい! 一体………」

「冗談、などではないよカルタ。セブンスターズの賛成多数で可決されたことだ。汚職撲滅のために刷新されるギャラルホルン火星支部及び、火星での治安維持力強化のため新設される火星外縁軌道統制統合艦隊。その司令官たる者には准将の地位が相応しいと………」

 

「だからッ! それがおかしいと言っているでしょう!? 失態を重ね、多くの部下を失い、家名にも泥を塗って地球外縁軌道統制統合艦隊の地位をも失った私が………」

 

 カルタ。囁くように呼び掛けるマクギリスに、カルタはハッと顔を上げた。

 マクギリスの顔がすぐ近くにあることにようやく気が付いてしまい、驚き慌てて引き下がろうとしたが………片手が、マクギリスの片手に包み込まれてしまう。

 

「ま、マクギリス………!」

「それは違う、カルタ。君の失態などではなく、ギャラルホルン全体が責任を負うべき事態だ。火星支部の腐敗、前地球支部長イズナリオとアーブラウ議員との政治的癒着、クーデリア・藍那・バーンスタインを巡る一連の事件と、禁忌であるにも関わらず実行された経済圏への武力干渉………君は、地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官として、その責務と権限において最善を尽くしただけだ。ガエリオも。責められるべき者は他にいる」

 

「………!」

 

 真っ直ぐカルタを見るマクギリス。

カルタは、その視線から目を反らすことができなかった。

 

「今こそ、君の本当の力を発揮するべき時なんだ、カルタ。地球外縁軌道統制統合艦隊から実戦能力を奪い、お飾りなどとしてきた我が父イズナリオのやり方や古い体制は、私の下で一掃する。君には、前支部長コーラル・コンラッドの腐敗や政情の悪化によって混乱する火星――――その平定を頼みたい。

 無理だというのであれば、辞退してくれて構わない。確かに急な話で混乱しているのも分かる。よければ………」

 

「ば、馬鹿にしないでッ!!」

 

 バッ! とカルタはマクギリスの手を振りほどき、自分を落ち着かせるように後ろ髪を軽く撫で上げた。

 

「………いいわ。あなたがそこまで言うのなら、受けて立とうじゃないの」

「ありがとう。私にできることがあれば言ってくれ。装備・人員、可能な限り手配しよう。………もし、君が先の一件を汚点だと考えているのなら、火星での成果が必ず、君の名誉を挽回させる。その手助けをさせて欲しいんだ」

 

「マクギリス………」

 

 驚き、瞳を震わせるカルタを、マクギリスは優しく見返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日後―――――――イシュー家の戦艦〝ヴァナディース〟を旗艦に、計4隻のハーフビーク級戦艦が、地球軌道上の宇宙基地〝グラズヘイム1〟を発った。

 艦隊を先導する旗艦〝ヴァナディース〟の艦橋にて、

 

 

「―――――我ら!! ギャラルホルン火星支部及び火星外縁軌道統制統合宇宙突撃高機動総合打撃(・・・・・・・・・・・)艦隊ッ!!!」

「「「「「「面壁九年ッ!! 堅牢堅固ッ!!!」」」」」」

 

 

 重傷から回復したカルタ・イシュー准将と、先の戦いで生き残った3名を中心に立て直したカルタ親衛隊。当然、新たに加わったのもカルタが直々にその容姿・家柄・実力から選び抜いた容姿端麗・文武両道の猛者ばかりである。

 

 既に火星の状況はカルタの頭に入っていた。元々、独立騒ぎ等で治安は悪化の一途を辿っており、前支部長コーラル・コンラッドは一部の企業家や自治政府有力者から賄賂を受け取って、ギャラルホルンの武力を用いて彼らに便宜を図っていたという。

 さらには物資や装備の横流しまで発覚しており、訓練も行き届いておらず、士気・練度共に最低。地球経済圏から委託されている間接統治すらままならぬ状況で、一刻も早く改革のメスを入れる必要があった。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊を鍛え上げたカルタの辣腕が、今求められているのだ。

 

 

 

「これは好機よ。必ずや火星を平定して、イシュー家の名誉を回復してみせる。………見ていて頂戴、ガエリオ。貴方の無念は必ず晴らしてあげるわ――――――故にッ!!!

 

 我らッ!! 火星支部及び火星外縁軌道統制統合宇宙突撃高機動総合打撃艦隊ッ!!!!」

 

「「「「「「面壁九年ッ!! 堅牢堅固ーッ!!!」」」」」」

 

「右から二番目ッ! 最後は伸ばさなくていい!!」

「も、申し訳ありません!」

 

 さあ! とカルタは意気高く拳を握りしめる。イシュー家の名誉回復のため、ギャラルホルンの改革を望んだ亡きガエリオの遺志を継ぐため、そしてアイツの期待に応えるため………

 

 

 

「待ってなさい宇宙ネズミ共! 私の邪魔をするようなら………今度こそ跡形も無く、叩き潰してあげるわァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 マーズファングによる鉄華団基地襲撃から数時間後。

 

『団長! マーズファングのアジトに着いたぜ!』

 

 火星の荒涼とした大地。その片隅にマーズファングが根城にしている基地がある。

 断崖の上から俯瞰するその施設の構造は、鉄華団………旧CGSの基地と同じ。厄祭戦時代に建設され、放棄された前哨基地を再利用したものらしい。

 

「〝出迎え〟はどうだ、シノ? こっちからじゃ何も見えねえが」

『ああ、人っ子ひとりいねえよ。なんつーか、モビルワーカーも………工具一つだって落ちてねえ。まるで夜逃げだぜ』

 

 残念だったなぁ。と背後のせせら笑いに、オルガは剣呑な表情で振り返った。

 民間警備会社マーズファング社長、ディラス・ホライゼン。先の戦いでミカが捕虜にした男だ。後ろ手に縛り、武装した団員二人に監視されていてもなお、ニヤついた表情を崩さない。

 

「おおかた、耳の早いウチの連中が取るモン取ってずらかったんだろうよ」

 

 そこに、同行しているメリビットが近寄り、オルガに耳打ちした。

 

「………団長。賠償金として鉄華団が要求したのは、モビルスーツとモビルワーカーだけです。もう土地施設しか残ってないのなら………」

「ああ。どの道俺たちの規模じゃ基地二つも維持できねえ。地球での例の仕事もあるからな………」

「ですが、エイハブ・ウェーブの反応が基地から出ています。今もLCS以外の通信ができないことを考えると、おそらく、モビルスーツがまだどこかに隠されているのかもしれません」

 

 

 メリビットの手に握られている端末――――財産譲渡証明書。

 先の戦いにおける賠償金として、マーズファングは鉄華団に対し、所有するモビルスーツ、モビルワーカーを差し出す、といった内容だ。モビルスーツはあらかた鉄華団基地での戦いで撃破され、その残骸がサルベージされている最中だ。

 

 残るマーズファング所有のモビルワーカーを確保するべく、シノの隊を向かわせたのだが………マーズファング基地は既に荒らされた後。

 

 

『マーズファング基地の中に入ったぜ! えらい散らかりようだ! こりゃあ、探すだけ無駄かもなぁ。どうするオルガ!?』

「エイハブ・ウェーブの反応があるんだ。とにかく徹底的に探せ! 俺らの基地と構造が似てるなら、どこかに動力室があるはずだ」

 

『あいよっ!………それじゃあテメーら! 気合い入れて家探しするぜェッ!!』

 

 

 オォーッ!! と団員たちの掛け声が通信機越しに飛び込んでくる。

 オルガはニッと笑いかけ、後ろで拘束されているディラスに振り返った。

 

「そういう訳だ。悪いがお邪魔させてもらうぜ、ディラス・ホライゼンさんよォ」

「………ちっ。好きにしな。当然この後解放してもらえるんだろうな?」

 

「やることが終わったらな。どこに行くなり、好きにしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『OK、地下に入った。トラップの類は無し。………でも、どこの部屋も開けっ放しになってて、ハンモック一つ残っちゃいないわよ』

「鉄華団の基地と構造が同じなら、奥に動力室があるはずだ。気を付けろよ」

『分かってるって。アンタも周囲の見張り、きっちりやりなさいよね』

 

 

 了解、と俺はフェニーとの通信を一時中止し、愛機〝ラーム〟のコントロールグリップを握り直し、コックピットモニター越しに周囲を見渡した。周囲に敵影は無し。もっとも、俺の〝ラーム〟の他に、クレストらの〝ランドマン・ロディ〟4機を連れた計5機でマーズファングの基地を包囲している。マーズファング亡き今、クリュセ最大の民間警備会社となった鉄華団に喧嘩を売る奴もいないだろうが。

 

 

 今、マーズファングの基地内部にシノ率いる地上部隊が進入し、中にめぼしいもの………マーズファングから所有権を譲渡されたモビルスーツやモビルワーカーが残っていないか、探し回っている最中だった。メカニックであるフェニーも同行して、今、動力室があるはずの地下に立ち入っている所のようだ。

 

 

『動力室の前に来たわ。セキュリティロックが掛かってるみたい。パスワードと生体認証コードの二重ロックね』

「ディラスを連れて来ようか?」

『待って。この程度ならすぐに破れると思う。この、ダンテに用意してもらったウィルスプログラムを組んで送信………っと』

 

 ピピ! というロックが解除される音が、通信ウィンドウ越しにこちらまで聞こえてきた。

 

『開いた! 中はかなり暗いわね。電源は………』

「おい。他に誰かいるのか? 一人じゃ危ないぞ」

『大丈夫だって! それより、ほんのり暖かいかも。たぶん、近くにエイハブ・リアクターがあるんだと思う。えーと、明かりのスイッチは………』

 

 

 さすがに聞きかねて、俺はシノに誰かを地下の動力室にやるよう連絡しようと、コックピットの端末に手を―――――――

 

 

『あった! これがスイッチね。………よし! パワーはきちんと供給されてるみたいだし、モビルスーツのリアクターなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………え? って、でえええええええええええぇ!!!???』

 

 

 

 

「? どした、フェニー?」

 

 唐突に飛び込んできた素っ頓狂な悲鳴。特に争うような音は聞こえてこないので罠や伏兵の類ではなさそうだが………

 

「フェニー?」

 

 だが、一向に返事してくる様子がない。

 流石にほっかたらかしにする訳にもいかず、俺は〝ラーム〟のコックピットハッチを開いた。

 

「クレスト。しばらく任せていいか?」

『いいよ!』

 

 傍らの〝ランドマン・ロディ〟に乗るクレストにこの場を預け、俺はラダー伝いに地上へと降りた。

 鉄華団によって制圧されたマーズファング基地の規模は、おおよそ鉄華団の基地と同じ程度。本社屋など、多少立派な施設があるぐらいだ。

 物取りでもあったようにすっかり荒らされたロビーから中に入り、鉄華団基地の記憶を頼りに地下への階段を降りる。そしてすぐに動力室の前まで辿り着くことができた。

 扉は開け放たれたまま。

 

 

「おい、フェニー。返事ぐらい………って」

 

 広い空間だった。鉄華団火星本部基地より少し広いぐらい。モビルスーツの1機ぐらい余裕で入りそうなほどに。

 1機の、全体的に暗い色のモビルスーツが、第1話での〝バルバトス〟のように、膝をついて静かに佇んでいた。装甲は所々取り外され、コックピットブロックも取り外されてしまっている。

 

 部分的に剥き出しになった胸部フレーム。

 そこから覗く、特徴的なツインリアクター。

 それに、こちらを見下ろす頭部ツイン・アイは――――――

 

 

「おいおいまさかコレ………〝ガンダムフレーム〟!?」

 

 

 むっふっふ………中ボスみたくフェニーの低い笑い声が、動力室全体に木霊した。

 キャットウォークから、コックピットブロックを取り外されがらんどうになった胸部に取りつき、何本もの配線を自分の端末に繋いで何やら操作している。

 

 

 

「ふっふっふ………きたきた! リアクター出力上昇。メインシステムの50%をオンライン。機体情報にアクセス。この機体の名前は―――――――ASW-G-43〝ガンダムサブナック〟ね!!

 

〝ガンダムサブナック〟………。

 まさかこんな所で、原作にも登場しなかったガンダムフレームとまみえることができるとは。俺は言葉も継げないまま、鎮座する〝サブナック〟の双眸をしばらく見上げていたが、

 

 

 

「ああっ! まさか〝サブナック〟をこの手でいじれる日が来るなんて! この美しいフレームデザイン! 幻のツインリアクターシステム! エイハブ・リアクター直結の背部キャノン砲システム! でもメインOSの阿頼耶識は取り外されてるし、キャノン砲の砲身も無いし、装甲と電装系の一部は取り外されてるし………

いいわ! 私の腕の見せ所ね!! さあ見せてやるわよ! 歳星整備オヤジ直伝! フェニー・リノアのモビルスーツ鍛冶術ってヤツをねッ!!」

 

 

 できればSEEDの〝カラミティ〟っぽくして下さい。などという俺の中のリクエストはさておき。

 

 

 それ以上のめぼしい発見は特になく、俺たちは〝ガンダムサブナック〟を接収し、ディラス・ホライゼン以下マーズファングの捕虜をその基地にほっぽり出して解放。――――民間警備会社〝マーズファング〟を巡る一連の襲撃事件にケリをつけて、撤収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「………んで、そのマーズファングってのがウチらにちょっかいをかけることはもう無いって訳だね?」

 

 夕暮れを間近にした桜農場。

 マーズファングを巡る騒動から幾日が過ぎ、警戒態勢を解いた鉄華団から、再び収穫の手伝いに団員が訪れるようになった。真面目で、農産物を盗むようなこともしない鉄華団の少年たちは、この時期は特に引く手あまただ。

 

「うん。ほとんど壊滅したようなもんだし、ここに来ることはないんじゃないかな」

 

 収穫の傍ら、問いかけてきた桜ばあちゃんに、三日月は火星ヤシを口に放りつつそう答えた。ビスケットも、

 

「でも、生き残った人も結構いるし、マーズファングがどうやってモビルスーツを手に入れたのかも分かってないから、まだ注意が必要だろうね」

「………そうかい。ま、何事も無いのが一番なんだけどね」

 

「あ! おにーちゃん!!」

「おにぃっ!!」

 

 駆け寄り、飛びついてきたクッキー、クラッカーをビスケットは両腕を広げて受け止めた。二人の無事な姿を見、ビスケットは胸を撫でおろしたように、

 

「二人とも無事でよかった………」

「怖かったよぉ」

「あ! おにぃ! 頑張った子はほめてあげないとダメだよ! ん!」

「あ、ああそうだね。よしよし」

 

 クッキーの頭をなでてやると「あ、私も~!」とクラッカーもせがんでくる。

 妹たち二人の頭を優しくなでてやると「「えへへ~」」とクッキー、クラッカーは嬉しそうに顔をほころばせて、ビスケットの横に広い身体に抱きついた。

 

 三日月、桜ばあちゃんもその光景を微笑ましく見守りつつも、

 

 

「………で、こいつは何だい?」

「またマーズファングみたいな奴らにココがちょっかいかけられるとマズいから、しばらくここに置いとくって、オルガが。今週は〝バルバトス〟で、来週から別のを置くって」

「まあ、カカシみたいなもんかねぇ」

 

 

 桜ばあちゃんが振り返る先。

 収穫が終わり、次の種まきを待つ畑の一角に、1機のモビルスーツ〝バルバトス〟が膝をついて鎮座していた。まるで畑の守り人のように。

 

 

 鉄華団と桜農場の、持ちつ持たれつの関係はすっかり知れ渡っており、今後、鉄華団を気に食わないと考えるような連中からちょっかいを受けることは容易に想像できる。

 それを防止するためにモビルスーツを畑番として置いておく。それにいつでも戦える団員やモビルワーカーも。これで農場や、装備に乏しい自警団を危険に晒さずに済む、という訳だ。

 

「それと、交代で何人か見張りするから。モビルワーカーとかも出すけど気にしないで」

「なら、メシはウチで食ってきな。アレをここに置いとくってことはあんたもしばらくココにいるってことだろ? あんたの部屋も用意するよ」

「いいよ別に。俺たちが好きでやってるだけだし」

「………若いのにいっちょ前に気い遣ってんじゃないよ。自警団を雇うより遥かに安上がりさね」

 

 これから、しばらくは農場でも物々しい状況が続くが………それでも、〝バルバトス〟の周りを元気よく駆け回るクッキー、クラッカーの双子。鉄華団の基地に持って帰る籠いっぱいのトウモロコシを見て、「今日も腹いっぱい食えるな!」と嬉しそうな団員たち。

 

 

 三日月は、ただ戦うことしかできない。オルガが決めた道を切り開くために。仲間……いや、家族を守り抜くために。

 だからこそ、道を切り開き、守った家族が得た一時の平穏に、頬を緩めずにはいられなかった。

 

 

「何だい、ニヤニヤして」

「ううん。別に」

 

 

 

 




【オリメカ解説】

・ASW-G-43〝ガンダムサブナック〟

厄祭戦時代に製造された72機のガンダムフレームの1機。
戦後、マーズファング代表ディラス・ホライゼンの手によって発見され、基地の動力源として利用されつつ、マーズファングを撃破した鉄華団によって接収された際には、既に部分パーツやコックピットブロック、電装品を売り飛ばされていた。

機体構造から、砲撃戦に特化したモビルスーツと推定されるが砲身パーツや武装は売却されてしまっており、長期に渡って整備されていなかったため駆動系のコンディションも最悪であり、大幅改修が必要な状態となっている。

(全高)
18.70メートル

(重量)
22.9t

(武装)
なし(全て売却済み。改修・新規取り付けの必要あり)




これで1.5期マーズファング編についてはおしまいとなります。
次編については、まとまり次第投稿するか、活動報告などで予告したいと思います。
m(_)m

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。