鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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▽△▽―――――▽△▽

 

『いい、カケル? 〝ラーム〟の精密射撃管制システムは今、性能が低下してる状態だから………』

「分かってる。誤差は阿頼耶識で補正するさ」

 

 作業用クレーンが、出撃準備を整えた俺の〝ラーム〟をカタパルトデッキの射出ベースに乗せる。

 発進前のシステムチェックを淡々とこなしつつ、俺は側面モニターの通信ウィンドウに映し出されるフェニーに「大丈夫だ」と頷いた。

 

「ちゃんと生きて戻ってくるからな」

『………アンタは造りが雑だからバラバラになってもドクターが直してくれるけど、〝ガンダムラーム〟は世界に20機もない貴重なガンダムフレームなんだからね! ちゃんと無傷で戻すのよ!』

 

「俺の心配もしてくれよ………」

 

 

 とほほ………などと思う間もなく、別の通信ウィンドウにメリビットが映り、『〝ラーム〟、発進準備スタンバイ。いつでもどうぞ』と発進準備完了が通達される。

 

 

『………待ってるから』

 

 

 それだけ言うとフェニーは一方的に通信を切ってしまった。

 大丈夫だ。帰れるところがあるなら、俺は死なない。

 ガンダムにはそれだけの力がある。

 

「――――〝ガンダムラーム〟、蒼月駆留で出撃するッ!!」

 

 刹那、射出時の荷重がコックピットの重力制御を超えてわずかに俺の身体をシートに押し付けた。

 カタパルトレールから勢いよく弾き出された〝ラーム〟を、更にメインスラスター全開で加速させ、俺は眼前の敵部隊に迫った。

 

〝スピナ・ロディ〟が5機。

〝ガルム・ロディ〟が5機。

 強襲装甲艦が2隻――――うち1隻はオルクス商会の船だという。まさかここで第5話『赤い空の向こう』のオルクスとまたまみえることになるとはな。

 

 敵モビルスーツが迫る。

 

 

【UGY-R38 LOCK】

【UGY-R38 LOCK】

【UGY-R38 LOCK】

【UGY-R45 LOCK】

【UGY-R45 LOCK】

 

 

 まずは先陣を切る〝スピナ・ロディ〟3機と〝ガルム・ロディ〟2機に狙いを定めた。

 

 重力偏差修正、他システム上の修正―――完了。

 さらに模擬戦でのデータを元に阿頼耶識システムによる感覚的照準補正―――完了。

 

 俺は〝ラーム〟のガトリングキャノンを敵機に突きつけ、トリガーを引いた瞬間………6連装の砲口がフラッシュし100ミリ砲弾が秒間50発以上の速度で撃ち放たれる。

 

 数秒トリガーを絞り続けた間に撃ち放たれた数百発のガトリング弾は、次の瞬間、5機の敵モビルスーツを激しく撃ち殴る。内部の推進剤や火器に上手く引火したらしく、爆発の炎が短く迸り、2機の〝スピナ・ロディ〟と1機の〝ガルム・ロディ〟が爆煙をなびかせ、背後に打ち飛ばされた姿勢のまま漂流していった。

 

 敵モビルスーツ3機が戦闘不能に。

 性能が落ちたとはいえ、十分にカバーできる。阿頼耶識システム越しに、俺は十分な手ごたえを感じた。

 

 そして残された敵2機は――――次の瞬間、側面から撃ち据えられて怯み止まった。

 

 

『あたしらもいるっての!』

『ウチらに喧嘩売るなんざ、舐めた真似してくれるじゃないのさァッ!』

 

 

〝ラーム〟が敵モビルスーツ隊を引き付けている間に、後から出撃した〝百里〟〝百錬が〟側面から敵を強襲。

 速力で他機種の追随を許さない高機動モビルスーツであるラフタの〝百里〟が敵陣に突っ込んで陣形と連携を断ち、次いでアミダの〝百錬〟が迫り近接戦を挑む。

 

 ライフルを潰された〝ガルム・ロディ〟がすかさず近接武器であるブーストハンマーを振りかざすが、鈍い一撃を悠々と回避した〝百錬〟がお返しとばかりに片刃ブレードで〝ガルム・ロディ〟の頭部を潰し、更にコックピット部分を殴って沈黙させた。

 

 その〝百錬〟を側面背後から狙い撃とうとしていた〝スピナ・ロディ〟や〝ガルム・ロディ〟を、〝ラーム〟のガトリング弾をばら撒いて牽制。戦場のペースは既にこちらの手に落ちつつあった。

 数だけいても、敵の練度は低い。

 これならすぐに………

 

 

 

『―――――仲間をやらせるかあっ!』

 

 

 

掴んだ〝スピナ・ロディ〟に、〝百錬〟が片刃ブレードを突き立てようとした刹那、遮二無二に〝ラーム〟の弾幕を突き破ってもう1機の〝スピナ・ロディ〟が〝百錬〟目がけて突っ込んできた。

ブーストハンマーと片刃ブレードが激突し、激しく火花を散らす。

その敵パイロットの、あまりに幼い声音に………俺もアミダも思わずハッと息を呑む。

 

 

『………子供だからって手加減するつもりは無いけどね………やり辛いねェッ!!』

 

 

〝百錬〟は素早く荷重を移動させてブーストハンマーの重斬を受け流しつつ、さらに斬りかかろうとして大きく隙を見せた〝スピナ・ロディ〟相手に、強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

『あう………っ!』

『機体は潰させてもらうよッ!』

 

 

 アミダは〝スピナ・ロディ〟の頭部を叩き潰し、さらに両腕にも片刃ブレードを突き立てて内部の構造を引き裂く。かくて、戦闘不能に陥ったその〝スピナ・ロディ〟は、蹴飛ばされてゆらゆら宇宙を漂うまま動かなくなってしまった。乗り手の安否は不明だが、コックピット部分は比較的破壊を免れている。

 

「ヒューマンデブリを使ってきたのか………」

『こいつは………親玉を潰してさっさと終わらせるしかないねぇ』

 

 その時だった。背後から3機のモビルスーツ反応。〝イサリビ〟から出撃した〝マン・ロディ〟隊だ。

 通信ウィンドウがさらに開かれ、〝マン・ロディ〟の元デブリ組パイロットたち―――アストン、ビトー、ペドロの姿が現れる。

 

 

『俺たちも加勢するッ!』

『蹴散らしてやるぜ!!』

『行きますっ!』

 

 

 手持ちの90ミリマシンガンを撃ちまくり、突撃してハンマーチョッパーを叩き込んでくる〝マン・ロディ〟隊を前に、オルクス商会のモビルスーツ隊は浮足立って反撃もままならずに後退を繰り返すしかない。

歴戦の鉄華団、タービンズと寄せ集めの傭兵もしくはヒューマンデブリ兵しかいないオルクス商会との練度の差が明確に表れていた。

 

 隊を分けて、敵艦・敵モビルスーツ隊を各個に攻撃するなら、今しかない。

 

 

「ラフタは敵艦を! 残りでモビルスーツ隊を一気に叩く!―――――〝イサリビ〟聞こえるか!?」

『はい。こちら〝イサリビ〟』

「メリビットさん、補給中の昭弘と昌弘の機体を対艦用装備にするよう伝えてください。敵艦隊の攻撃を〝百里〟〝グシオン〟、昌弘の〝マン・ロディ〟で」

『分かりました!』

 

 

『ふふっ………カケルが頭張ってくれるならアタシは好きにやらせてもらうよッ!』

 

 

 アミダはすでに2機目の〝ガルム・ロディ〟を無力化し、3機目に飛びかかっている所だった。

 俺も、〝ラーム〟の主砲であるガトリングキャノンを肩部に格納し、腰にマウントしてあるコンバットブレードを抜き放つ。

 

 

「アストン、ビトー、ペドロは牽制を頼む。俺を撃たせるな」

『『『了解ッ』』』

 

 

 その瞬間、3機の〝マン・ロディ〟が〝ラーム〟の背後に展開。〝ラーム〟に迫る2機の〝ガルム・ロディ〟目がけてマシンガンを乱射、分厚いナノラミネート装甲を激しく叩いてその動きを封じ込めた。

 その隙を逃さず俺はコンバットブレードを振りかざし、〝ガルム・ロディ〟1機のライフルを斬り裂いてマニピュレーターごと破壊し、さらに頭部にブレードを突き刺す。

 頭部メインカメラを失った〝ガルム・ロディ〟はヨタヨタと逃げ散ろうとするが、その背にガトリングキャノンを突きつけて発射。1秒間のうちに放たれた数十発の100ミリガトリング弾が〝ガルム・ロディ〟背部のメインスラスターを叩き潰して、推進力を失ったその敵機は力なく漂って行った。

 

 残る1機の〝ガルム・ロディ〟は、アストンら〝マン・ロディ〟の牽制射撃に動きを封じられつつも、ようやくブーストハンマーを抱えてこちらへと飛びかかってくる。

 

「―――はァッ!!」

 

 俺は、向き直って〝ラーム〟のコンバットブレードでそれを受け止め、メインスラスターをフルスロットルに、鍔迫り合いを一息に押し切り―――――〝ガルム・ロディ〟のブーストハンマーを叩き落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『お、オルクスさん!? 聞いてないですぜっ! こいつらメチャクチャ――――』

『た、隊長がやられたっ!』

『デブリ共の〝スピナ・ロディ〟を前に出すんだよッ! ひ―――こ、こっちくんじゃねぇッ!!』

 

 傭兵部隊の〝ガルム・ロディ〟5機。それにオルクス商会が保有しているヒューマンデブリを乗せた〝スピナ・ロディ〟5機、計10機の混成部隊………数の上では鉄華団のモビルスーツ隊に優っているはずが、数の差で包囲することも叶わずに1機、また1機と次々に潰されていき、

 

 

「わ、我が方のモビルスーツ、残り〝ガルム〟が1機と〝スピナ〟が3機ですっ!」

「鉄華団の〝イサリビ〟、タービンズの〝ハンマーヘッド〟がこちらに接近中! う、撃ってきます!」

 

 上ずった声のオペレーターが示す先………鉄華団とタービンズの強襲装甲艦2隻がこちらへと迫り、砲口から閃光が幾度も迸る。

 反撃を命じようとオルクスが声を張り上げようとした矢先、壮絶な衝撃が幾度となくオルクスの艦を襲った。

 

 

「ぐぅ………!? う、撃て! 撃ちまくれ――――っ!!」

 

 

 半狂乱の体でオルクスが喚き立て、遅れながらもオルクス艦と僚艦からも砲撃が始まる。

 だが射程距離ギリギリで撃ち出された砲撃は〝イサリビ〟や〝ハンマーヘッド〟に有効打を与えることはできず………だが逆に、向こうから発射された砲弾は正確にこちらを撃ち叩いてくる。

 蹴立てられるような激しい衝撃に首をすくめつつ、オルクスは忌々しげに敵艦を睨むより他なかった。

 

 

「おのれぇ………こちらも前進しろッ!」

「で、ですが! 敵艦からの更なる集中砲火を浴びる恐れが!」

「このままだと埒が明かんだろうが!! できるだけ近づいてデブリ共を放出するッ!」

 

 

 金にモノを言わせてかき集めた傭兵やモビルスーツは、すでに半数以上が失われ、艦艇同士の撃ち合いでは奴らには勝てない。

 だがオルクスの手にはまだ―――――必勝の秘策が残されていた。

 

 

 

 

「………宇宙ネズミには宇宙ネズミだ!! デブリ共を全員、爆薬満載のモビルワーカーに乗せろォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『昭弘・アルトランド。〝グシオンリベイク〟出るぞッ!』

『昌弘・アルトランド。〝マン・ロディ〟、行きます!』

 

〝イサリビ〟の後部甲板から飛び立つのはスラスターガスの補充と対艦装備への換装が完了した〝グシオンリベイク〟と〝マン・ロディ〟。

 2機のモビルスーツは並んで、途中でラフタの〝百里〟も加わる3機で陣形を組み、オルクスの艦隊へと突っ込んでいった。

 

 オルクス艦への着弾の火花、それに対空砲火の閃光が迸り、宇宙空間を激しく彩るさまを、オルガはジッと睨み据えた。この調子なら、下手に前進して艦を危険に晒すよりも、艦砲とモビルスーツでじっくり攻め落とした方がいい。時間はかかるが、被害は少なくて済む。

 

「敵艦との相対距離を維持しろ! だが、カケルたちと離れすぎるなよ!」

「オーライ! 前方スラスター全開ッ!」

 

〝イサリビ〟の前方スラスターが艦首に向かって噴き上がり、迫るオルクス艦と一定の距離を保とうとする。〝ハンマーヘッド〟もそれに倣って続いた。

 対するオルクス艦2隻はムキになったように追いすがろうと加速するが、加速によって疎かになった対空砲火の照準の穴を突き、〝百里〟が敵艦上方から突撃。さらに〝グシオンリベイク〟〝マン・ロディ〟も続いてさらに1基の主砲と対空砲を破壊。

 

 明らかにオルクス艦隊からの攻撃は弱まっていた。加えて艦首への着弾被害が目に見えて増大しており、一部は内部から煙を噴き上げ始めている。

 メリビットがセンサー情報表示端末を読み取り、艦長席のオルガへと振り返った。

 

「オルクス艦2隻の推力が弱まっています。中枢部分に被害を受けたのかも………」

「よし。だが攻撃の手を緩めるな! まずはオルクスの船を最優先で狙え! 頭さえ潰してしまえば………」

 

 その時だった。

 被害に耐えかねたように前進を緩めたオルクス艦2隻から、何かが放出され始めたのだ。

 

「オルクスの船が何かを放出してる!」

「何だアレは、ビスケット! 脱出ポッドか?」

「い、いや違う! モニター拡大………対象確認………これは、モビルワーカーだっ!」

 

 オルガは、いやブリッジにいた誰もが、モニターに拡大表示された画像を見、わが目を疑った。

 オルクスの船から次々と放たれていくのは………カーゴコンテナをいくつも連結して牽引する、十数機もの貨物運搬用モビルワーカーだった。スラスターを各所に備えた宇宙仕様で、主に船と船、宇宙施設間の短距離貨物運搬のために使われるものだ。

 それが、戦闘用モビルワーカーでもないのに何故――――?

 早速、ユージンが困惑したように喚き散らした。

 

「あ、あいつら正気かよ!? 船と船の間にゃ、艦砲が飛び交ってるんだぞ!」

「流れ弾でやられちまう!」

 

 だが、ユージンらの予想とは裏腹に、オルクス艦から放たれたモビルワーカーは、まるで宇宙空間を泳ぐように自在に飛び回り、まるで艦砲の間を縫うようにこちら目がけて飛び上がり始めた。

 まるで、まるで泳ぐように―――――――

 オルガは歯噛みした。それにビスケット、ユージンもハッと合点がいったように顔を見合わせる。

 

 

「ちっ、オルクスの野郎まさか………!」

「あの動き、まさか阿頼耶識!?」

「俺たちと同じ宇宙ネズミを使ってるってのかよ!?」

 

 

 生身の身体のような自在な重心制御は直感的にモビルスーツ、モビルワーカーを動かすことができる阿頼耶識システム、その端子である〝ヒゲ〟を植え付けられた者特有のものだ。

 そして、人体に異物を埋め込むような境遇に置かれた者は限られている。貧しい圏外圏で食い扶持を得るために手術を志願した子供たち、それに人としては死に、商品として一人頭ゴミクズ同然の値段で売り買いされるヒューマンデブリ――――

 

 

「………やってくれるじゃねえか」

「どうすんだよ、オルガ! やるなら………」

「ま、待ってください! 相手が同じ子供たちなら何とか………」

「んなこと言ってもよメリビットさん! やるかやられるかって時に………」

 

 

 例え同じ宇宙ネズミでもデブリであっても、敵として立ちはだかるならば迷わず殺す。少なくともCGS参番組時代には誰もがそんな意識を持っていた。そうでなければ殺されるのは自分だからだ。

 だがブルワーズのヒューマンデブリを助け出し、宇宙で酷使されるデブリの境遇を目の当たりにするにつれて、鉄華団の中に躊躇いに近い空気が生まれ始めていたのも事実だ。迷っていたら殺される。だが、もしブルワーズの時のように全員を救い出すことができれば………

 

 

 そんな無茶を、頼める奴は鉄華団に一人しかいない。

 

 

 

「―――――ミカを出せ!」

 

 

 

 そしてオルガは艦長席アームレスト内蔵のタッチパネルを操作し、メインスクリーンに通信ウィンドウを開いた。直ちに通信が開かれ通信ウィンドウに〝バルバトス〟のコックピット、そして三日月の姿が現れる。

 

「ミカ。今すぐ出てこっちに来てる敵モビルワーカーをやってくれ。………中身のパイロットは殺さずにだ」

『分かった。三日月・オーガス、〝バルバトス〟出るよ』

 

 刹那、すでにカタパルトレール上で待機状態にあった〝バルバトス〟が勢いよく打ち出される。そして背部にマウントしてあった太刀を隻腕で取り構え、迫る敵モビルワーカー隊の1台へと躍りかかった。

 

 

 一閃。両断。

 

 

 先のエドモントンの戦いで太刀の扱い方に習熟した三日月は、片腕の〝バルバトス〟でも難なくモビルワーカーを斬り裂いた。両断されたモビルワーカーが、太刀の刃を瞬間的に当てられて真っ二つに切断される。

 そして真っ二つになったモビルワーカーから………ノーマルスーツ姿の小さな体躯が無傷で投げ出された。

 

 

『誰か回収お願い』

 

 

 淡々と言い放った直後、三日月はさらに2台目の敵モビルワーカーへと襲いかかる。敵モビルスーツ戦力はすでにカケルやアミダ、〝マン・ロディ〟の元デブリ組らの奮闘によって無力化されており、モビルワーカーを守るものは何も無い。

 2台目のモビルワーカーも同様に両断されて、放り出されたパイロットは1台目と同じく、そっと寄ってきた〝マン・ロディ〟のマニピュレーターにつままれて回収された。

 

〝イサリビ〟のブリッジでもその有り様がはっきり映し出されており、

 

「す、すげ………」

「あんなことができるなんて………」

 

「はっ―――――やっぱすげェよミカは」

 

 

 あり得ないことをさも当たり前のように平気でやりやがる。

 既に4台のモビルワーカーが両断され、その後ろを〝マン・ロディ〟がチョロチョロ飛び回ってヒューマンデブリのパイロットを回収して回る。

 その向こうには、最早身を守るものを持たないオルクス艦2隻が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「すげぇ………」

『全く、規格外のテクニックだねぇ』

 

 残った最後の〝ガルム・ロディ〟を行動不能にし〝ラーム〟のマニピュレーターで突いて放り出した俺は、アミダ共々、遠くで繰り広げられる一方的な戦いに舌を巻くより他なかった。

 おそらく爆薬を満載していると思われる貨物運搬用モビルワーカー………そのモビルワーカー部分を真っ二つに斬り裂いて、デブリの乗り手をほとんど無傷で宇宙空間に放り出す。それをビトーとペドロの〝マン・ロディ〟がせっせとマニピュレーターで掴んで〝イサリビ〟に運んでいく――――その姿はもはや一種の単純作業を思わせるほどで、あまりに非常識的で非現実的な光景だった。

 

 

『カケル! あたしらも船をやるよ!』

「了解ッ! 俺が先行します!」

 

 

〝イサリビ〟〝ハンマーヘッド〟からの砲撃、さらには〝百里〟〝グシオンリベイク〟〝マン・ロディ〟の猛攻によって主砲を全て潰された2隻のオルクス艦は、今や残った対空砲だけで薄い弾幕を築いて抵抗するのみ。それでも周囲を鋭く飛び回る鉄華団やタービンズのモビルスーツを追い払えず、各所への被弾が重なりほとんど満身創痍だ。

 そこに俺は〝ラーム〟を突進させ、未だ健在な対空砲に狙いを定めた。

 

 引き金を絞り〝ラーム〟のガトリングキャノンを至近で撃ち放つ。

 間近で100ミリガトリング弾の直撃を食らった対空砲は、意外にも頑強な造りでしばらく直撃に耐えたが、数秒後には内部の火薬に引火させて爆発四散。

 残る1基も〝グシオンリベイク〟から撃ち放たれたバズーカの直撃を食らい、砲身を歪めて沈黙した。

 

 

『よしっ………!』

『敵の武器は全てやった! 後は!?』

 

「任せろッ!」

 

 

無力化したオルクス艦の上部甲板へ〝ラーム〟を着地させ、俺は抜き放ったコンバットブレードを、真っ直ぐ艦体へとぶっ刺した。

ブリッジのある部位、ちょうどその真上で寸止めになるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「全対空砲機能停止! 全ての攻撃オプションが失われましたっ!」

「リアクター出力上がりません!」

「モビルスーツ隊との通信途絶! か、会長、これでは………」

 

「そんなバカな………」

 

 奴ら以上の戦力を揃えたというのに。それに相手は惑星間航行で疲弊しているはず。

 全ての条件がオルクス商会側に有利だったというのに………!?

 

 呆然と艦長席に座り込んでしまったオルクスには理解できなかった。

 

「10機のモビルスーツと2隻の強襲装甲艦が………?」

 

 火星の民間企業でこれだけの戦闘力を揃えられる組織はそう存在しない。それだけの資金の提供を受けて、オルクス自らがあちこち駆けずり回って火星で手に入るだけの装備を用意したのだ。モビルスーツ、強襲装甲艦、それに名うての傭兵も。

 その全てが打ち破られ、オルクスには最早―――――――

 

 

 

―――――ガンッ!!

 

 

 

「ひ………っ!?」

「じょ、上部甲板にダメージ! デッキ1、デッキ2を貫通しましたっ!」

 

 何かで艦体を抉られるようなおぞましい音。

 それが敵モビルスーツによるものだと悟った時、金属を引き裂く凄まじい音と共に巨大な刃の先端が、ゆっくりブリッジの天井を突き破ってきた。

 

「ひ、ひいいいぃぃ~っ!?」

『オルクス商会に告ぐ。雌雄は決した! 死にたくなければ投降しろ。………代表者の頭を変えて代理人が降伏を受諾しても構わない』

 

 若い男……いや少年の声。鉄華団のガキだと、オルクスにはすぐに分かる。

 だが既に、オルクスに選択肢は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 火星の傭兵企業マーズ・オービタル・セキュリティの〝ガルム・ロディ〟隊を含むモビルスーツ10機。強襲装甲艦2隻。ヒューマンデブリによる自爆特攻。鉄華団とタービンズによってその全てを打ち破られたオルクス商会は、全ての戦闘手段を失って無条件降伏。オルクスは捕縛され、乗り込んできた鉄華団の兵士に引っ立てられて〝イサリビ〟へと連れ去られた。

 

 

 そして〝イサリビ〟と〝ハンマーヘッド〟は、無力化したモビルスーツ10機と強襲装甲艦2隻を鹵獲し、何事も無かったかのように火星への航海を再開する。

 

 

 もう、見慣れた赤い惑星がすぐそこまで見えていた。

 

 




次話、第2話エピローグ回となりますm(_)m

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