鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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目覚める2体目の悪魔

▽△▽――――――▽△▽

 

 あれは、ダンジの!?

 無謀にもモビルスーツに突撃をしかけた、ダンジのMW。30ミリ機関砲を激しく撃ちかけるが、その程度でモビルスーツの装甲は………!

 だが、オルガやシノらにはもうどうすることもできない。ギャラルホルンのモビルスーツは、まるで小石でも蹴飛ばすかのようにちっぽけなMW目がけて足を………

 

〝ヴアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!〟 

 

 だがその時、重低音の凄まじい発射音がその場にいた誰もの鼓膜を振動させ、次の瞬間、ダンジのMWに蹴りを入れようとしていたモビルスーツに無数の弾痕が穿たれる。

 

『な、何ィっ!?』

『どこから!?』

 

 周囲の少年兵たちの混乱を纏いながら、ギャラルホルンのモビルスーツは機体上半身各所から炎と煙を散らし、やがてゆっくり後ろへと倒れ込んだ。

 

『ダンジ! 無事かっ!?』

『は、はい! でも今のは………!』

『オルガ! もう1機、あそこにいる!』

 

 オルガが振り返ったその先。

 巨大な多銃身砲を腰だめに抱えた、重装甲の青いモビルスーツが1機、銃口から硝煙をくゆらせながら佇んでいた。

 機体頭部の双眸は、CGS本部の地下にあるあの機体と同様のもので………

 

「あいつが………!?」

『な、何なんだよアイツ! 敵か!? 味方か!?』

『どうするオルガ!?』

 

 すっかり混乱しているユージンやシノ同様、オルガもすぐに事態を理解できずに歯ぎしりする。

 が、その時、

 

『そこのCGS部隊! 援護する! 今のうちに態勢を立て直せッ!!』

 

 外部スピーカー越しに飛び込んでくる、巨砲を抱えた青いモビルスーツからの通信。

 続けて多銃身砲が炸裂し、丘を一つ越えた辺りの………移動中のギャラルホルンMW隊を嘗めるように薙ぎ払った。

 

『み、味方なのか………?』

『で、でも何で!?』

『どうすんだよオルガっ!?』

 

 混乱しきったユージンらは、こぞって隊長格であるオルガの決断を待つより他ない。

 当のオルガは………吹き飛ばされ高々と舞い上がったギャラルホルンMWの残骸を見、ニヤリと笑った。

 

「どこの誰だか知らねえが………好都合だ。全員一度下がれ! 態勢を立て直すぞッ!!」

 

 応! と命令を受けたCGSのMW隊は弾かれたように再び行動を開始した。

 

 

 もうすぐ、ミカが出てくる。

 そうすれば………俺たちの勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「ふぅ………」

 

 間一髪だった。

〝グレイズ〟がダンジのMWを蹴飛ばす寸前、発射したガトリング弾が〝グレイズ〟の上半身に命中。そのまま倒れ込み、オーリスは死んだか気絶したか、ピクリとも動かなくなった。

 ダンジ機はあたふたと仲間の下へと逃げ去り、CGSのMW隊も、態勢を立て直すために一時撤退を始める。後は………

 

 

「………来た!」

 

 

 エイハブ・リアクターの反応、背後から2基!

 すっかり明けきった空。

 ようやくこちらに追いついた2機の〝グレイズ〟が、ライフルを撃ちまくりながら迫る。

 後ろに退がりながら、ガトリングキャノンで応射。間違ってCGSのMWを轢かないように気を付けつつ、〝その地点〟を探す。

 第1話「鉄と血と」で、〝ガンダムバルバトス〟が飛びだしてくる、あの地点だ。おそらく、この辺りだと思うのだが………

 

『そんな………オーリス隊長が!! ここにモビルスーツがあるなんて情報は………!』

『く………アインッ! 貴様は援護だ!』

『りょ、了解っ!』

 

 脚部スラスター全開で、クランクの〝グレイズ〟がバトルアックスを振り上げて迫る。

〝ラーム〟のコンバットナイフで迎え撃つが、推力が付いている分、今は〝グレイズ〟の方がパワーで有利だ。そのまま〝ラーム〟は後ろへと押し込まれてしまう。

 

「うぐ………っ!」

『どこから持ってきた機体かは知らんが、そんな旧世代のモビルスーツで!』

 

 通信越し、クランクが咆える。

 って、そのセリフここで使うのかよ………!?

 コックピットモニターに大写しになる〝グレイズ〟の頭部。その時、頭部カバーが上下に開かれ、眼球状のセンサーがギョロギョロと蠢いた。

 

『………このギャラルホルンの〝グレイズ〟の相手ができるとでも!?』

「もう一人やられたみたいだけど!?」

 

 ハッと息を呑む音が、通信越しに聞こえてきた。

 

『貴様! まさか………子供か』

「ああそうだ! あんたらがさっきまで散々殺しまくったのも! そして………これからあんたを殺すのもなッ!!」

 

 バーニアスラスター全開。ガンダムフレーム特有の大出力で、先ほど同様〝ラーム〟は一気に押し返し始める。

 

『な……お、押し負ける………っ! く………!』

『クランク二尉ッ!!』

 

 照準警報。横か?

 いや………後ろだ!!

 だが一拍遅く、脚の関節部分にアイン機からの100ミリライフル弾が着弾。脚部の出力が低下し、次の瞬間〝ラーム〟はクランクの〝グレイズ〟に対し、アックスをナイフで防ぎつつ跪くような姿勢になってしまう。

 

 まずい………!

 

『今だ! 背中ががら空きだぞッ!!』

『! 待てアイン!』

 

 こちらが年端もいかない少年と知ってか、クランクがアインの行動を留めようとする。

 だがすでに頭に血が上ったアインには聞こえなかったようで、『ウオオオオオオォォォッ!!』と発破と共にアックスを振りかざしたアインの〝グレイズ〟が、無防備な背中を晒す〝ラーム〟へと肉薄する。

 

 その間、数秒。

 もう、逃げることはできない。

 

………ここまでなのか? ここで、俺は終わってしまうのか? 俺の願いは………?

 

 まだだ。

 まだ終われない。

 こんな所じゃ………終われねェッ!!!

 

 

 

 

 

 

『だろ!? ミカアァァァッ!!!』

「そうだろ!? 三日月いいィッ!!」

 

 

 

 

 

 

 地面が、激しく爆ぜた。

 爆風と土煙が、一瞬にして〝ラーム〟の背後に迫った〝グレイズ〟を包み込む。

 一瞬後、視界がクリアになった時………おそらくアインが見たのは、コックピットモニターいっぱいに映し出される、巨大なメイスだったはずだ。

 

『な!?』

 

 轟音。

 金属がぶつかり合い、ひしゃげる嫌な音。

 地面から突如として飛び出した〝ガンダムバルバトス〟が、眼前の〝グレイズ〟目がけて巨大なメイスを振り下ろし、その大質量によって〝グレイズ〟の頭部、そして胸部があっけなく潰される。

 全てが再び晴れ渡った時、そこにあったのは頭部と胸部を押し拉がれ、無残に倒れる1機の〝グレイズ〟。

 そして、先ほどの激しい動きが嘘であったかのように静かに佇む〝バルバトス〟。

 

 それはまるで、一枚の絵画であるかのような荘厳さを………思わず感じさせた。

 

『バカな………アイン!?』

 

 悲痛さを滲ませるクランクの声。アインの生死は不明だが、あのコックピット部分のダメージだ。無傷とは思えない。

 

「2対1だ! どうする!?」

『くっ………モビルスーツが2機もいるとは………!!』

 

 原作では1機だったけどね。

 だが、元から推進剤を大して充填されていない〝バルバトス〟に、スラスターの使い過ぎでもうさっきから【FUEL FUEL】の警報が鳴りっぱなしの〝ラーム〟で、どこまで戦えるか。

 

『………緑のが敵でいいの? オルガ?』

『ああ、ミカ。青いのは味方だ。助けてやれ』

『分かった』

 

 交わされる三日月とオルガの通信。

 その瞬間、(三日月はまだ気づいていないだろうが)燃料残り少ないスラスターを全開に〝バルバトス〟がこちらへと迫る。

 

『くそ………っ!』

 

 鍔迫り合いを中断し〝グレイズ〟がこちらを蹴飛ばし、脚部スラスターで土塊をまき散らしながら急速離脱していく。

 だが、タダで逃がすつもりはない。

 ガトリングキャノンの残弾、200発と少々。バックパックで弾薬が製造中だが、少し時間がかかる。

 数秒で使い切る弾数だが………問題ない。

 ガトリングキャノンを構え、重力偏差修正を完了し、狙う。

 

 この戦い最後のガトリング砲の噴火。

 トリガーを引いた瞬間、数秒で撃ち放たれた200発の弾丸は撤退しようとする〝グレイズ〟の下胸部や脚を捉え、着弾により制御を失った機体は硬い地面へと打ち付けられた。

 

『ぐお………!』

 

 残り少ないスラスターを噴射し、〝ラーム〟は起き上がろうとする〝グレイズ〟に組み付き、胸部コックピットにコンバットナイフを突きつける。

 少しでもこれを動かせば、装甲の合間に突き刺し、中のクランク二尉の身体を真っ二つにすることができるだろう。

 

『く………殺すなら殺すがいい! 俺も武人として恥を知っているッ!!』

「あんたを殺すつもりはない。少なくとも俺は。………CGSに投降してくれないか?」

『何………? だが俺に人質としての価値は………』

 

「何でここで少年兵が戦っているのか、その理由と背景を知りたくないのか?」

 

 沈黙するクランクの〝グレイズ〟。

 コックピットで自害するつもりなら、止めることはできないし、三日月たちが殺す気なら、止めるつもりはない。

 

 数分の時が流れる。

 

『ねぇ。アンタ………』

 

〝バルバトス〟が近づき、三日月からの通信が飛び込んできた。

 と、その時。

 

『分かった。俺の身柄、しばらくそちらに預けよう』

 

 ぎこちない動きと共に〝グレイズ〟のコックピットハッチが開き、中から精悍な中年男……クランク・ゼント二尉が両手を挙げて出てきた。

 ニヤリと笑いかけ、コックピットモニター越し、〝バルバトス〟へと振り返った。

 

 

 

 

「ギャラルホルンの士官が投降するそうだ。受け入れはそっちに任せていいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 

 一方その頃………

 

「ああああぁぁぁあ~っ!!」

「おやっさん………?」

「ヤマギやべぇ! スラスターのガス補給すんの忘れたぁ!」

「えええぇ~っ!?」

「どうしよ………」

「いやどうしようったって………」

「やべぇ! 起動するのでいっぱいいっぱいでよぉ。残ってた分だけでどれだけ動けるか~!」

 

 

 

 

 


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