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あれは、ダンジの!?
無謀にもモビルスーツに突撃をしかけた、ダンジのMW。30ミリ機関砲を激しく撃ちかけるが、その程度でモビルスーツの装甲は………!
だが、オルガやシノらにはもうどうすることもできない。ギャラルホルンのモビルスーツは、まるで小石でも蹴飛ばすかのようにちっぽけなMW目がけて足を………
〝ヴアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!〟
だがその時、重低音の凄まじい発射音がその場にいた誰もの鼓膜を振動させ、次の瞬間、ダンジのMWに蹴りを入れようとしていたモビルスーツに無数の弾痕が穿たれる。
『な、何ィっ!?』
『どこから!?』
周囲の少年兵たちの混乱を纏いながら、ギャラルホルンのモビルスーツは機体上半身各所から炎と煙を散らし、やがてゆっくり後ろへと倒れ込んだ。
『ダンジ! 無事かっ!?』
『は、はい! でも今のは………!』
『オルガ! もう1機、あそこにいる!』
オルガが振り返ったその先。
巨大な多銃身砲を腰だめに抱えた、重装甲の青いモビルスーツが1機、銃口から硝煙をくゆらせながら佇んでいた。
機体頭部の双眸は、CGS本部の地下にあるあの機体と同様のもので………
「あいつが………!?」
『な、何なんだよアイツ! 敵か!? 味方か!?』
『どうするオルガ!?』
すっかり混乱しているユージンやシノ同様、オルガもすぐに事態を理解できずに歯ぎしりする。
が、その時、
『そこのCGS部隊! 援護する! 今のうちに態勢を立て直せッ!!』
外部スピーカー越しに飛び込んでくる、巨砲を抱えた青いモビルスーツからの通信。
続けて多銃身砲が炸裂し、丘を一つ越えた辺りの………移動中のギャラルホルンMW隊を嘗めるように薙ぎ払った。
『み、味方なのか………?』
『で、でも何で!?』
『どうすんだよオルガっ!?』
混乱しきったユージンらは、こぞって隊長格であるオルガの決断を待つより他ない。
当のオルガは………吹き飛ばされ高々と舞い上がったギャラルホルンMWの残骸を見、ニヤリと笑った。
「どこの誰だか知らねえが………好都合だ。全員一度下がれ! 態勢を立て直すぞッ!!」
応! と命令を受けたCGSのMW隊は弾かれたように再び行動を開始した。
もうすぐ、ミカが出てくる。
そうすれば………俺たちの勝ちだ。
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「ふぅ………」
間一髪だった。
〝グレイズ〟がダンジのMWを蹴飛ばす寸前、発射したガトリング弾が〝グレイズ〟の上半身に命中。そのまま倒れ込み、オーリスは死んだか気絶したか、ピクリとも動かなくなった。
ダンジ機はあたふたと仲間の下へと逃げ去り、CGSのMW隊も、態勢を立て直すために一時撤退を始める。後は………
「………来た!」
エイハブ・リアクターの反応、背後から2基!
すっかり明けきった空。
ようやくこちらに追いついた2機の〝グレイズ〟が、ライフルを撃ちまくりながら迫る。
後ろに退がりながら、ガトリングキャノンで応射。間違ってCGSのMWを轢かないように気を付けつつ、〝その地点〟を探す。
第1話「鉄と血と」で、〝ガンダムバルバトス〟が飛びだしてくる、あの地点だ。おそらく、この辺りだと思うのだが………
『そんな………オーリス隊長が!! ここにモビルスーツがあるなんて情報は………!』
『く………アインッ! 貴様は援護だ!』
『りょ、了解っ!』
脚部スラスター全開で、クランクの〝グレイズ〟がバトルアックスを振り上げて迫る。
〝ラーム〟のコンバットナイフで迎え撃つが、推力が付いている分、今は〝グレイズ〟の方がパワーで有利だ。そのまま〝ラーム〟は後ろへと押し込まれてしまう。
「うぐ………っ!」
『どこから持ってきた機体かは知らんが、そんな旧世代のモビルスーツで!』
通信越し、クランクが咆える。
って、そのセリフここで使うのかよ………!?
コックピットモニターに大写しになる〝グレイズ〟の頭部。その時、頭部カバーが上下に開かれ、眼球状のセンサーがギョロギョロと蠢いた。
『………このギャラルホルンの〝グレイズ〟の相手ができるとでも!?』
「もう一人やられたみたいだけど!?」
ハッと息を呑む音が、通信越しに聞こえてきた。
『貴様! まさか………子供か』
「ああそうだ! あんたらがさっきまで散々殺しまくったのも! そして………これからあんたを殺すのもなッ!!」
バーニアスラスター全開。ガンダムフレーム特有の大出力で、先ほど同様〝ラーム〟は一気に押し返し始める。
『な……お、押し負ける………っ! く………!』
『クランク二尉ッ!!』
照準警報。横か?
いや………後ろだ!!
だが一拍遅く、脚の関節部分にアイン機からの100ミリライフル弾が着弾。脚部の出力が低下し、次の瞬間〝ラーム〟はクランクの〝グレイズ〟に対し、アックスをナイフで防ぎつつ跪くような姿勢になってしまう。
まずい………!
『今だ! 背中ががら空きだぞッ!!』
『! 待てアイン!』
こちらが年端もいかない少年と知ってか、クランクがアインの行動を留めようとする。
だがすでに頭に血が上ったアインには聞こえなかったようで、『ウオオオオオオォォォッ!!』と発破と共にアックスを振りかざしたアインの〝グレイズ〟が、無防備な背中を晒す〝ラーム〟へと肉薄する。
その間、数秒。
もう、逃げることはできない。
………ここまでなのか? ここで、俺は終わってしまうのか? 俺の願いは………?
まだだ。
まだ終われない。
こんな所じゃ………終われねェッ!!!
『だろ!? ミカアァァァッ!!!』
「そうだろ!? 三日月いいィッ!!」
地面が、激しく爆ぜた。
爆風と土煙が、一瞬にして〝ラーム〟の背後に迫った〝グレイズ〟を包み込む。
一瞬後、視界がクリアになった時………おそらくアインが見たのは、コックピットモニターいっぱいに映し出される、巨大なメイスだったはずだ。
『な!?』
轟音。
金属がぶつかり合い、ひしゃげる嫌な音。
地面から突如として飛び出した〝ガンダムバルバトス〟が、眼前の〝グレイズ〟目がけて巨大なメイスを振り下ろし、その大質量によって〝グレイズ〟の頭部、そして胸部があっけなく潰される。
全てが再び晴れ渡った時、そこにあったのは頭部と胸部を押し拉がれ、無残に倒れる1機の〝グレイズ〟。
そして、先ほどの激しい動きが嘘であったかのように静かに佇む〝バルバトス〟。
それはまるで、一枚の絵画であるかのような荘厳さを………思わず感じさせた。
『バカな………アイン!?』
悲痛さを滲ませるクランクの声。アインの生死は不明だが、あのコックピット部分のダメージだ。無傷とは思えない。
「2対1だ! どうする!?」
『くっ………モビルスーツが2機もいるとは………!!』
原作では1機だったけどね。
だが、元から推進剤を大して充填されていない〝バルバトス〟に、スラスターの使い過ぎでもうさっきから【FUEL FUEL】の警報が鳴りっぱなしの〝ラーム〟で、どこまで戦えるか。
『………緑のが敵でいいの? オルガ?』
『ああ、ミカ。青いのは味方だ。助けてやれ』
『分かった』
交わされる三日月とオルガの通信。
その瞬間、(三日月はまだ気づいていないだろうが)燃料残り少ないスラスターを全開に〝バルバトス〟がこちらへと迫る。
『くそ………っ!』
鍔迫り合いを中断し〝グレイズ〟がこちらを蹴飛ばし、脚部スラスターで土塊をまき散らしながら急速離脱していく。
だが、タダで逃がすつもりはない。
ガトリングキャノンの残弾、200発と少々。バックパックで弾薬が製造中だが、少し時間がかかる。
数秒で使い切る弾数だが………問題ない。
ガトリングキャノンを構え、重力偏差修正を完了し、狙う。
この戦い最後のガトリング砲の噴火。
トリガーを引いた瞬間、数秒で撃ち放たれた200発の弾丸は撤退しようとする〝グレイズ〟の下胸部や脚を捉え、着弾により制御を失った機体は硬い地面へと打ち付けられた。
『ぐお………!』
残り少ないスラスターを噴射し、〝ラーム〟は起き上がろうとする〝グレイズ〟に組み付き、胸部コックピットにコンバットナイフを突きつける。
少しでもこれを動かせば、装甲の合間に突き刺し、中のクランク二尉の身体を真っ二つにすることができるだろう。
『く………殺すなら殺すがいい! 俺も武人として恥を知っているッ!!』
「あんたを殺すつもりはない。少なくとも俺は。………CGSに投降してくれないか?」
『何………? だが俺に人質としての価値は………』
「何でここで少年兵が戦っているのか、その理由と背景を知りたくないのか?」
沈黙するクランクの〝グレイズ〟。
コックピットで自害するつもりなら、止めることはできないし、三日月たちが殺す気なら、止めるつもりはない。
数分の時が流れる。
『ねぇ。アンタ………』
〝バルバトス〟が近づき、三日月からの通信が飛び込んできた。
と、その時。
『分かった。俺の身柄、しばらくそちらに預けよう』
ぎこちない動きと共に〝グレイズ〟のコックピットハッチが開き、中から精悍な中年男……クランク・ゼント二尉が両手を挙げて出てきた。
ニヤリと笑いかけ、コックピットモニター越し、〝バルバトス〟へと振り返った。
「ギャラルホルンの士官が投降するそうだ。受け入れはそっちに任せていいか?」
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一方その頃………
「ああああぁぁぁあ~っ!!」
「おやっさん………?」
「ヤマギやべぇ! スラスターのガス補給すんの忘れたぁ!」
「えええぇ~っ!?」
「どうしよ………」
「いやどうしようったって………」
「やべぇ! 起動するのでいっぱいいっぱいでよぉ。残ってた分だけでどれだけ動けるか~!」