鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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第13章 鉄の名誉
欺罔


▽△▽――――――▽△▽

 

 アンカレッジ。

 アーブラウ、アラスカ地方にある小都市の一つで、アーブラウ有数の港湾都市でもある。

 鉄華団を乗せたタンカーは、闇夜に紛れるように入港。

 繋留が終わり船のハッチが開かれた途端、団員やモビルワーカーが一斉に飛び出した。

 

「列車への積み込みだ! 急げ!」

「夜明け前には出発するぞ! どこの荷物をどこに持ってくか、リストをきちんと確認しろよ!」

「モビルワーカーはこっちだ! 弾薬類は手前の―――――」

 

 数刻前までがらんと静まり返っていた港は、瞬く間に日中の喧騒さを取り戻した。モビルスーツ、モビルワーカーが次々とタンカーから運び出され、年少組の子供たちも小さなコンテナなどを持ち出して駆け回る。

 満載したトラックから出発し、少し離れた地点にあるテイワズ・アーブラウ支社所有の操車場へ。投光器に照らされながら急ピッチで列車への積み込みが行われていく。

 

 そんな中、スーツを着た数人の集団が少年兵たちをかき分け、列車へと移乗しようとする蒔苗老の下へやってきた。

 

 

「蒔苗先生!」

「おお! アレジ君か、久しぶりじゃの」

「先生も、お元気そうで何よりです」

 

 

 アンカレッジ選出のアーブラウ議員、ラスカー・アレジだ。護衛の男二人が警戒するように周囲を見回している。

 

 

「せっかくこうしてお元気な姿を拝見できたというのに、私がこのまま先生を議事堂まで送り届けることができればよいのですが………」

「ふっ、何を言うアレジ。お前と儂が行動をともにしては、ギャラルホルンの思うつぼだ。お前には代表指名選挙までのロビー活動を任せてあるのだから。しっかり頼むぞ」

「お任せください。アンリ・フリュウは敵の多い女です。あとは先生に無事、代表指名選挙に間に合っていただければ」

 

 安心せい、儂にはこいつらがいる。と、蒔苗は周囲で慌ただしく駆け回る少年兵たちを顎でしゃくった。アレジも視線でそれを追いながら、

 

「いや、驚きましたな。護衛に少年兵を使うというので心配していたのですが………皆、それらしい眼をしている」

 

 

――――弔い合戦だからな。原作ではトロウがそう独り言ちながらアレジの背後を通り過ぎたのだが、

 

 

 

 

「ん? トロウの奴どこいった?」

「カケルさん、俺に用すかー?」

 

 小さなコンテナを抱えたトロウは、俺の背後にいた。

 

「いや別に」

「??」

「それより、品目と積み込み車列の確認は大丈夫か? 難しい表記の品目があったら、他の奴らに確認しろよ」

「うっす!」

 

 

 

 やがて、アレジ議員も護衛共々去り、鉄華団と装備物資、俺たちその同伴者を乗せた列車は、エドモントンへ向け出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「申し訳ありません、イズナリオ様! セブンスターズの一員として、なんという失態を………」

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊総司令官にしてセブンスターズの一家門イシュー家の一人娘でもあるカルタ・イシューは今、ギャラルホルン地球本部総司令官にしてカルタの後見人でもある男…イズナリオ・ファリドに対し、跪いた。

 イズナリオの意向を無視して地球外縁軌道統制統合艦隊を動かしたのみならず、投入した戦力の大半を喪い、さらには経済圏とギャラルホルンの関係をも悪化させたカルタに、イズナリオは横目で冷ややかな目を投げかける。

 

 

「詫びるなら私ではなく、偉大なる父上に対してだな………カルタ。君の行動はイシュー家の名に泥を塗ったのだ。さらには装備将兵の多くを失い、国際社会におけるギャラルホルンの信用をも大きく傷つけた」

「………ッ!」

 

 静かな叱責に、ただ拝跪し沙汰を待つより他ないカルタ。良くて地球外縁軌道統制統合艦隊司令官の地位を追われるか、イシュー家から勘当されても不思議ではない失態だ。

 だが、イズナリオは小さくため息をつき、

 

「しかし、病床の父上に代わり、君の後見人になったからには黙ってみているわけに行かぬだろう。名誉挽回のチャンスを与えようじゃないか」

「! それは………!」

「蒔苗は鉄華団と名乗る輩とエドモントンへ向かっているとの情報が入っている。ギャラルホルンとしては、何としても阻止せねばならぬ事態だ」

 

 その瞬間、バッ! とカルタは立ち上がり、「イズナリオ様!」と一歩進み出た。

 

「やらせてください! 鉄華団を討ち、蒔苗の企てを阻止する役目! どうかこの私に――――」

 

 イズナリオは、しばし冷めた横目でカルタを見やっていたが、

 

「本来ならば、カルタ。敗戦したばかりのお前には荷が重いと感じていたが………マクギリスが、是非お前にと言うのでな」

 

 マクギリスが………!? 思いもよらなかった名に、カルタはしばし言葉を失った。イズナリオは続ける。

 

「彼奴等の足取りを追わせている。詳しいことはあれに直接聞いてくれ」

 

 その後、イズナリオは何も語らず、外の大洋を黙って眺めるのみとなった。

 カルタは一礼してその場を辞し、通路に出、階段を降りていく。この辺りの区画はセキュリティが徹底されており、カルタのような者でなければまともに立ち入ることすらできない。

 そんな中カルタは階下の踊り場で佇む一人の男…マクギリスの姿を捉えた。こちらの姿に気が付いたのか、マクギリスは笑みを浮かべて振り返る。

 

「こうして会うのは久しぶりだな、カルタ」

「………惨めなわたしに、手を差し伸べてくれるなんてね。感謝するわ」

 

 ぞんざいな言いようにマクギリスは苦笑しつつ、

 

「惨めだなどと………」

「しらばっくれないで! 失態を犯したわたしを笑いたいのでしょ? そのこちらを馬鹿にしくさったにやけ面、本当に変わらない………っ!」

「君も、出会ったときから変わらない。セブンスターズの第一席、イシュー家の誇り高き一人娘」

 

 その碧眼に真っ直ぐ見上げられ、カルタは思わず頬を紅潮させてそっぽ向いてしまった。気まずさを紛らわせるために「き、貴様何を………!」と声を荒げるが。

 

「カルタ」

 

 真剣そのもののマクギリスを目の当たりに、カルタは思わず胸を高鳴らせた。

 

「君は私にとって、手の届かない、憧れのような存在だった。………卑しい出自である私を、哀れみでも情けでもなく平等に扱ってくれた」

 

 

 

 マクギリスは妾の子であり、その女の元から養子として呼び寄せられたと、カルタは教えられてきた。こんな卑しい身分の子供と付き合ってはならない、とも。

 だが幼いカルタは決してそのようなことを気にも留めなかった。カルタにとってマクギリスは、木登りで自分を負かせた好敵手であり、遊び仲間であり………気になる男の子でもあった。貴賤は生まれではなく、その振る舞いによって決められる。父がよく言っていた言葉を、カルタは心から忠実に守っていた。

 

 

 

「………感謝されるようなことじゃないわ」

「私の目に映る君は、いつでも高潔だった………今もそうだ」

「!」

 

 士官学校卒業後、配属が変わり、ボードウィン家の息女アルミリアとの婚約が内定すると――――マクギリスとは徐々に疎遠になっていった。鬱陶しくなって遠ざけているのだと、カルタは勝手に腐っていたが………

 

 マクギリスが眺める先、美しい澄んだ海洋がどこまでも続いている。

 

 

 

 

 

「――――君に屈辱は似合わない。そのためにも、私にできることがあれば、させてほしいんだ。カルタ」

 

 

 数時間後、マクギリスから鉄華団の位置を確認したカルタは、乗機と親衛隊2機と共にモビルスーツ輸送機カセウェアリー級に座乗。一路アーブラウを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 北米大陸の雪原を裂き分けるように、大型の複線貨物列車が進んでいく。

 朝、アンカレッジを発った貨物列車は、中継都市フェアバンクスを経由しアーブラウ首都エドモントン目がけ、疾走していた。鉄華団とその物資、モビルスーツやモビルワーカーを満載して。原作よりもはるかに長大な車列だ。

 

〝ラーム〟が横たえられた貨物車両で。微細な振動に足を取られないよう踏ん張りながら、フェニーが〝ラーム〟脚部駆動系の調整に取りかかっていた。

 俺も、コックピットに潜り込んで各部システムをチェック。二重装甲の重量と重力、それとフレームの強度と駆動部出力を計算し、リアクターから最適な出力が引き出させているかを、駆動部毎に細かく確認していく作業だ。

 

 

「――――よし。これで大体、半分って所か」

『ああもう!〝ラーム〟の次は〝フォルネウス〟の調整にも入らないといけないのに。地上活動能力を上げるために水中専用装備の取り外しと………』

「そっちに行ってきてもいいぞ、フェニー。後のチェックと調整なら俺一人でも何とかなるし」

『こんな所で放り出せる訳ないでしょ!? そっちにはエーコが行ってるし、それに………』

「………それに?」

『い、いいから! ほら、さっさと済ませるわよ! 134番直結モーターは!?』

 

 

 問題なし、と返しながら手元の端末を叩き、チェックリストのボックスを一つチェックで潰した。

 戦力はモビルスーツだけではない。

 原作では〝イサリビ〟から降ろしたMWは5台だったが、モンターク商会から新型モビルワーカーが融通された結果、15台に増え、さらにはアンカレッジでテイワズを経由しユニオン型モビルワーカーを20台購入。雪之丞らが整備と組み立て、調整に追われていた。

 

 これだけ揃えても、ギャラルホルンは余裕でこの倍以上の戦力を投入してくるだろう。厳しい戦いになることはどうしても避けられない。

 今やるべきことは、自分の機体を最善な状態に保ち、考え得る限り最高の戦いができるようにすること。俺は余念なく、コックピットモニターの隅に表示されるシステムの表示コードを睨み続けた。

 

 と、

 

 

『あ、あの。すいませーん!』

 

 

 メインカメラを車両の出入口の方に向けると、スライドドアを少し開けてこちらを覗き込むアトラの姿が見えた。

 

 

『あら、アトラちゃん。どうかした?』

『あのっ。寒い中頑張ってる皆さんに一息ついてもらおうと思って。2つ前の車両で温かい飲み物配ってるんですけど、よかったらどうですか?』

『へぇ、気が利くじゃない。………カケル! ちょっと休憩にしない?』

「あいよぉ」

 

 

 コックピットシートをスライドアップさせ、開け放ったままのハッチから俺は外に這い出た。コックピットから一歩出ると、貨物車両の中にエアコンなどある訳もなく、エイハブ・リアクターのお陰でモビルスーツ周囲は多少暖かいとはいえ、外から染み込む寒気に思わず身をすくませた。

 

「確かに………何か温かいものでも飲みたい」

「あたしも同感。後ろの車両のも呼んでおいでよ」

「あ。私が呼んできますねっ! 三日月にも用があるし」

 

 そう言ってアトラはテテ………、と身軽に後尾車両へと駆け去っていく。

 

 俺のいる車両の後ろにあと2両ほど連結しており、クレストとペドロの〝ホバーマン・ロディ〟と三日月の〝バルバトス〟がそれぞれ収容されていた。1機ずつ交代で起動させて周囲の警戒に当たっている。モビルスーツパイロットに割り当てられた当番表を思い出し…今は前の車両のラフタやアジー辺りが当番だったはずだ。

 

「先行くか、フェニー」

「ん」

 

 肌寒い貨物車両を二つ抜けると、そこは昭弘の〝グシオンリベイク〟が格納された車両で、空いたスペースで既に何人か……昭弘と昌弘、ビトー、アストン、デルマ。年少組のタカキやライド、ダンジ。ラフタとエーコなど、それと名前が分からない団員数人が湯気の立ったカップを手に、思い思いの場所で一時の休息を取っていた。コーヒーやココア、ホットレモンの柑橘系のほのかな香りなど、ちょっとした喫茶店のようだ。

 

 テーブルの上にケトルが3つ、隣にココア、コーヒー、ホットレモンの粉が入った容器がそれぞれ置かれていて、セルフ式のようだ。

 

「何にする? フェニー」

「カケルは?」

「ホットレモンだな」

「んじゃ、私もそれで」

 

 ホットレモン2人前入りまーす、とホットレモンの素粉を小さじ一杯2つのカップに放り込んで湯を注ぐ。スプーンで軽くかき混ぜて出来上がりだ。

 

「ほら」

「ありがと………あぁ~、五臓六腑に染み渡る」

 

 酒かよ………と内心突っ込んでやりつつ俺も一口。心地よい酸味を味わってから嚥下した。

 

「あぁ~。五臓六腑に染み渡る」

「酒かよ」

 

 フェニーに突っ込まれた。くそ………

 タカキ、ライド、ダンジはコンテナ下の床にあぐらをかいて、「あちち………」と少しずつホットドリンクを口にしながら、

 

 

「この後、俺ら見張りだろ? 外やべーぐらい寒いよな~」

「だからってサボる訳にはいかないだろ? ライド。ギャラルホルンがいつ来てもいいように………」

「わあってるって! タカキはうるせーなぁ。………禿げっぞ」

「はげ………!?」

 

 

 元デブリ組…アストン、デルマ、ビトー、ペドロ、昌弘は隅で固まっており、昭弘はラフタと何やら途切れ途切れに話を交わしている。アジーが今、モビルスーツに乗って見張りをしているのか、姿は見えない。

 

 

「アストンとデルマはモビルワーカー隊なんだよな?」

「ああ………」

「俺たちのモビルスーツ、船に入らなかったみたいだし、モビルワーカー隊も頭数がいるってさ」

「ふぅん」

 

「地球の都市部じゃエイハブ・リアクターの持ち込みは厳禁だからな。エイハブ・ウェーブの影響で電子機器が全部ダメになる。宇宙みたいにハーフメタルで加工されてる訳じゃないからな」

 

 遠くからそう合いの手を入れてやると、「はぁ?」と向こうでビトーが首を傾げた。

 

「何でエイハブ・ウェーブで電子機器がダメになるんだよ?」

「エイハブ・ウェーブの波動が電子機器の信号を阻害するからだ。宇宙で使われている機械は大抵が火星で採れたハーフメタルでコーティングされて守られているが、エイハブ・リアクター自体が身近じゃない地球ではそんな手間かける必要が無いからな。地球にある機械はエイハブ・ウェーブに対して無防備なんだよ」

 

「ダメになったらいけないのか?」

「都市部にはインフラ施設や病院が密集しているからな。そういった施設もエイハブ・ウェーブで止まったら大混乱になり、市民に犠牲者が出る。鉄華団の評判上それは良くないんだよ」

 

「………意味わかんね。ま、俺たちは上に従って戦えばいいだけだし」

 

 

 阿頼耶識システムでいっぱしに戦えると言えど、まだ子供。それに元ヒューマンデブリはまともに読み書きすらできない者がほとんどで、今日まで安上がりな消耗品として酷使され続けてきた。

 上に従って戦えばいい………ブルワーズにいた時から続くその意識に疑問を持つことなく、彼らは数日後、エドモントンで戦い、戦況によっては死ぬかもしれないのだ。

 

 ビトーらは別の話で盛り上がり始めたので、俺も手元のホットレモンに意識を戻した。

 

 

 隣に腰かけていたフェニーはしばらく黙ったまま見やっていたが、

 

 

「そういえば、団長がアンカレッジで新しいモビルワーカー買ってたよね」

「テイワズ経由で買い付けたユニオン型が20台だな」

「………小さい子もアレに乗って戦うのよね?」

「丸腰で突っ込ませるよりはマシだろ。もっとも、阿頼耶識システムのついてないユニオン型モビルワーカーの役割は専ら、遠くからの支援射撃ぐらいになると思うけどな」

 

 

 年少組も、読み書きができて一通り機械を扱える団員は、モビルワーカーに乗って戦うことになる。

 今頃、オルガとメリビットが似たようなやりとりをしているかもしれないな。

 

「ギャラルホルンも、私たちにちょっかいかける暇があったら海賊退治でもしてればいいのに。テイワズが無かったら圏外圏は滅茶苦茶よ」

「ギャラルホルンにもメンツってのがあるんだろ。火星、ドルト、地球と顔を潰されっぱなしだからな。鉄華団を倒して、手っ取り早く世界の治安維持組織としての評判を戻したいんだろうさ」

「何それ。結局圏外圏で仕事できてないことには変わりないじゃない。ギャラルホルンの評判は最悪よ」

 

 口を曲げるフェニー。俺はふう、と熱々のホットレモンに息を吹きかけながら、また一口飲んだ。

 

「文句ならエリオン公に言ってくれ。圏外圏の治安を統括する月外縁軌道統制統合艦隊アリアンロッドはそいつが治めてるんだから。ちなみに今、俺たちにちょっかいをかけてきてるのは地球外縁軌道統制統合艦隊な」

 

 振り返れば、ギャラルホルンのほとんど全派閥を敵に回してるわけだ。これだけ怒らせればテイワズもおいそれと庇ってはくれないだろう。鉄華団が生き残るためには、是が非でも蒔苗老に復権してもらい、経済圏とのコネクションを得る必要がある。

 

 気づけば、コップの中のホットレモンはほとんど飲み干してしまっていた。残り数滴を、コップを煽って口の中に垂らして終わる。フェニーも、最後の一口を飲み干した所だった。

 

「………何にせよ、俺たちは前に進むしかない。全員が無事に仕事を終えて火星に戻れるように、俺は俺のできることをやる」

「私もそのつもりよ。鉄華団の子たちって、みんないい子ばっかりだから。誰にも死んでほしくない」

 

 

 その気持ちは俺も変わらない。

 別の未来を見るために、俺はここまでやってきたのだから――――――――。

 

 

「そろそろ戻るか」

「そうね。まだ調整しないといけないこともあるし。まだまだ頑張らなきゃ」

 

 

 

 おそらく、陽が落ちてしばらくしたらギャラルホルンとの戦いが始まるだろう。

 名誉挽回のため、鉄華団との決闘を望むカルタ・イシューとの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 すっかり日が沈み、夜になった。

 だが、列車のライトが無くとも、頭上から照らされる月の光で、周囲の光景をはっきり確認することができる。目視で周囲の状況をすぐに確認できるのは、見張りとしても有難かった。

 

 三日月は今、〝バルバトス〟を貨物列車から起こし、周囲に敵影がいないか鋭く見回していた。ギャラルホルンの監視を避けながら移動しているというが、オルガが言うには地球はギャラルホルンの本丸。いつ襲いかかってきてもおかしくない。

 敵がモビルスーツで来ればセンサーがエイハブ・ウェーブの反応を捉えてくれるが、モビルワーカー、歩兵の場合はその限りではない。こちらのモビルスーツの影響でエイハブ・ウェーブ探知以外のセンサーがまともに機能しない以上、目視での監視が頼りだ。

 

 アジーと交代してすでに3時間ほど。エイハブ・ウェーブの反応も無ければ、その他の敵影も見えない。

 と、コックピットモニターに通信ウィンドウが開かれた、相手は〝漏影〟のラフタ。

 

 

『三日月ー。そろそろ交代の時間だよ~』

「うん、分かった」

 

 ここまで異常なし。もしかしたら自分たちの動きに気付いていないか、もしくは目的地で罠を張っているのかもしれない。

 何にせよ、三日月の仕事はここまでだった。これまでの監視データを〝漏影〟に送信しつつ、機体のシステムをオフラインに………

 その時、

 

 

 

【CAUTION!】

【AHAB WAVE SIGNALS】

 

 

 

「………!」

『エイハブ・ウェーブの反応っ!?』

 

 位置は列車の前方。小さな影が見えるが、遠すぎて何なのかがよく分からない。だが、敵であることには違いない。ギャラルホルン機のエイハブ・ウェーブを発しているのだから。

 

 そして画像を拡大すると、―――――遥か遠くで線路を跨ぎ、3機のモビルスーツが待ち構えているのが見えた。

 その姿を見、三日月はギリッと歯ぎしりした。

 

 

 

 

 

 

 

「島でやった奴らだ………!」

 

 

 


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