鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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新たなる閃撃

▽△▽――――――▽△▽

 

 完璧な降下。

 完璧な先制攻撃。

 完璧な着陸。

 完璧な整列。

 そして………ここ最近では最もノリのいい、完璧な唱和。

 

 だったというのにあの火星の宇宙ネズミ共はッ!!

 カルタは〝グレイズリッター〟のコックピットで、憎々しげに向こうの敵機………〝バルバトス〟と鹵獲された〝グレイズ〟を睨み据えた。この無作法、その命を以て償わせる!

 

「――――圏外圏の野蛮人に鉄の裁きを下すッ!!」

『『『『『『鉄拳制裁ッ!!!』』』』』

 

 全〝グレイズリッター〟が、滑走路に突き立てていた剣を抜き放ち、完璧な所作で構えた。

 汚らわしい宇宙ネズミを葬るならば………イシュー家伝統のあの陣形こそが最も望ましい。

 

「鋒矢の陣ッ! 吶喊―――――ッ!!」

『『『『『『一点突破!!』』』』』』

 

 かつて初代イシュー公はこの陣形であまたの戦場を駆け抜け、いくつもの華々しい戦果を上げてきたという。

 この陣形ならば、宇宙ネズミを葬り去ることなど、容易ッ!

 

 カルタ機を先頭に7機の〝グレイズリッター〟が一糸乱れぬ機動で〝バルバトス〟、鹵獲〝グレイズ〟目がけて突撃していく。

 

 

『へ! いい的だぜそりゃァ!』

 

 

 無作法な宇宙ネズミが操る鹵獲された〝グレイズ〟がライフルを乱射。だが元より銃火でモビルスーツを撃破するなどほぼ不可能。各機に着弾するも受け身の姿勢を取ったまま突っ込む〝グレイズリッター〟隊相手に、怯ませることすらできない。

 

『な、こいつら………お、おい三日月っ!?』

 

 それまで沈黙していた〝バルバトス〟が、手持ちの巨大なメイスを引きずりながら〝グレイズリッター〟隊へと飛びかかってきた。

 数の計算すらできないか! カルタは内心〝バルバトス〟のパイロットをせせら笑った。こちらは7機連携で突っ込んでいるというのにそちらは骨董品のモビルスーツが1機。ならばバトルブレードを突き出したままこのまま突っ込み、轢き潰して終わらせるまで。

 

「アハぁっ! 踏み潰してあげるわっ!」

 

 急速に間合いが詰まってくる。

 もう〝バルバトス〟に逃げ場はない。カルタは勝利を確信した。やはりイシュー家秘伝の陣形に火星の宇宙ネズミが叶うはずが――――――

 が、その時、〝バルバトス〟は機体を大きく沈み込ませ、カルタの視界から一瞬消えた。そして陣形右翼を駆ける〝グレイズリッター〟の懐へと飛び込む。

 

 

 

 振り返る暇も無かった。

 

 

 

 先の砲撃で損傷を受け、反応が一瞬出遅れたその〝グレイズリッター〟は、次の瞬間、〝バルバトス〟の巨大メイスを食らい下から突き上げられ、姿勢を回復する間もなく今度は振り下ろされたメイスによって地面に沈み潰された。

 

 地が揺れるほどの衝撃と凄まじい土煙。

 

 それが晴れた時………そこにいたのは静かに屹立する〝バルバトス〟と、胸部を無残に破壊されその足下に横たわる〝グレイズリッター〟の姿だった。

 

「な………!?」

『カルタ様! 我らの陣がっ!』

『………うわっ!?』

 

 カルタ同様驚きを隠せない部下。

 それに、

 

『オラオラァ! 足が止まってんぞォッ!!』

 

 不躾な火星人の〝グレイズ〟が陣を破られ怯んだ親衛隊の〝グレイズリッター〟へと襲いかかる。すかさずバトルブレードを抜き放って〝グレイズリッター〟は迎え撃つが、激しく打ちつけられるバトルアックスの斬撃を前に徐々に押されてしまう。

 

『こいつ………ぐあっ!?』

 

 すかさずもう1機が鹵獲〝グレイズ〟の背後に回り込もうとしたが、その背にもろに砲撃を食らい吹き飛ばされてしまう。

 いつの間にか、高台の〝グシオン〟がこちらに砲口を向けてきていた。

 そして援護射撃によって生まれてしまった隙を〝バルバトス〟は逃さなかった。砲撃でバランスを崩した親衛隊〝グレイズリッター〟目がけ、〝バルバトス〟がメイスを叩き込む。

逃れる間もなく、さらに1機の親衛隊機が、無残な鉄塊へと変わり果ててしまった。

 

 家柄、美貌、技量共に優れ、カルタと共に日々厳しい鍛錬をこなしている親衛隊がこうもあっさりと………。

 

『か、カルタ様………!』

「ええいっ! 何をしているの!? 散開して各個撃破なさいッ!!」

『りょ、了解っ!』

 

 だがここで退くわけにはいかない。

 イシュー家の誇りにかけて、そしてガエリオの仇を討つためにも――――――!!

 

「海上部隊は! 何をやっているかッ!?」

『所属不明機と交戦中の模様!』

 

 わずかな敵勢で浜辺で足止めを食らっている海上部隊に、カルタは舌打ちを隠せなかった。

 だが、まだ数の上ではこちらが有利だ。勝機は十分にある。

 カルタはキッと、眼前で親衛隊相手に鋭い剣戟を交わす〝バルバトス〟を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 海岸線ではアジー、ラフタの〝漏影〟と昭弘の〝グシオンリベイク〟が押し寄せる敵モビルスーツ隊を抑え続けていた。

 上空から降ってきた敵部隊も、ミカの〝バルバトス〟とシノの〝流星号〟が迎撃し、1機、また1機と敵機を潰していく。

 

 そしてそれまで静寂を保っていた蒔苗邸周辺でも―――――

 

 

 

 

『くそっ! ギャラルホルンのお出ましだ!』

『まだ近づけるなよ! 撃ちまくれェッ!!』

 

 蒔苗邸に強引に乗り付け、屋敷の構造を盾にするように鉄華団の新型MWが展開。対岸に集結し砲撃を始めるギャラルホルンMW相手に果敢に撃ち返していた。

 

『団長からの連絡まだか!? 予想より数が多いじゃねぇか!』

 

 5、いや6機のギャラルホルンMWが対岸に並び、その砲火は浅瀬上に建つ蒔苗邸の周囲に着弾。激しい水柱をいくつも噴き上げた。そしてその至近弾から徐々に精度を増していき、屋敷の木造構造の一部が砲撃を食らって激しく破壊される。

 このままでは………

 

『どうすんだよ!?』

『まだだッ! 文句言ってないで撃ちまくれ!』

 

 そう言い返す団員の手もぐっしょりと汗で滲んでいた。眼前でいくつも水柱が上がるせいで射線の修正もままならず、闇雲に撃ち続けるしかない。数でも装備でも、遥かに劣っているのは間違いなかった。

 と、蒔苗邸で籠城する鉄華団MW隊にオルガの通信が飛び込んできた。

 

『よく我慢したお前ら、敵の誘い込みは成功だ。退くぞ!』

『よっしゃァッ!』

『了解!』

 

 待っていたとばかりに、サブ兵装発射ボタンを押し込む。

 モビルワーカー側面に装備されていたランチャーから円筒が二つ、弧を描いて撃ち出され、島と蒔苗邸を結ぶ橋の上にコロンコロンと落下。そして次の瞬間、激しく煙幕を吐き出してギャラルホルンMW隊を覆い隠してしまった。

 

 その隙に、蒔苗邸を守っていた鉄華団MW隊はさっさと後退。

 一時の混乱に見舞われたが直ちに立ち直ったギャラルホルンMW隊は、兵士を随伴しながら橋を突破して蒔苗邸に突撃。だがその時には既に鉄華団の抵抗は影を潜めており、ギャラルホルン部隊は無抵抗で屋敷に殺到することができた。

 

 

 

 

 

 

 次々とギャラルホルンMWや兵士が蒔苗邸へと押し入る光景を、木々に埋もれた小高い山の上からオルガも見ることができた。

 今オルガが乗っているのは指揮官用MWの後席で、前席で操縦しているのはユージン……の代わりにビスケットだ。元CGSの少年兵として阿頼耶識システムを持っているビスケットもまたモビルワーカーを自分の手足のように動かすことができた。

 

「よし、皆無事みたいだな」

『良かった………。後は仕上げだけだね』

 

 やがて、数台の鉄華団MWが到着し、ハッチから馴染みの団員の顔が飛び出してきた。

 

「団長! いつでもOKだ!」

「派手に行こうぜ!」

「おうよ!………滅多に見れねぇショータイムだからな、しっかり目に焼き付けとけよ!」

 

 オルガは取り出したリモコンのスイッチを押し込んだ。

 その瞬間、島と島の間で静かに佇んでいた木造の邸宅が、一瞬にして凄まじい連鎖爆発に飲み込まれた。屋敷の構造のあらかたが破壊されて吹き飛び、残りも激しく炎上して崩れ落ち始める。

 飛び込んでいたギャラルホルンMW隊と数十人もの敵兵士を道連れに。

 

 だが炎上し崩壊する屋敷の中から、辛うじて生き延びたMWか1機、ヨロヨロと炎を振り切るように姿を現した。桟橋から岸に逃れようとしている。

 

「くそ。生き残りだ!」

「団長っ!」

 

 オルガはもう一つのリモコンを手に取り、先ほどと同じように押し込んだ。

 刹那、ギャラルホルンMWが走っていた桟橋の構造が小規模な爆発で吹き飛び、MWの重量を支えきれなくなった桟橋が崩落。浅瀬とはいえ優にMWが沈むだけの深度がある海中に、そのMWは投げ出されてしまった。

 

 団員たちがガッツポーズを挙げ、オルガもニッと笑いかけた。これなら何とか無事島から脱出できそうだ。

 

「お前たちはタカキたちと合流しろ!」

「「了解っ」」

 

 鉄華団MW隊は、蒔苗を護衛しているタカキたちと合流すべく坂を駆け下りていく。

 それを見送りながら、オルガのMWは反対方向へと進んでいった。

 

「あとは揚陸艇だけだな」

『ああ………! でも、油断は禁物だ』

 

 

 いつの間にかミレニアム島の上空は、分厚い雨雲に覆われつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 浜辺に乗り上がった3隻のギャラルホルン揚陸艇。

 搭載していたMWや主だった戦闘員はすでに出払った後のようで、数人の兵士がぼんやりと周囲を見回しているだけだった。

 

「………数は7人。ライフルを持ってない奴が1人いる」

「どうする、アストン」

「いつものやり方で行こう。合図するから、散らばって」

 

 アストン、デルマ、昌弘ら元デブリ組からなる鉄華団の小部隊が、足音もなく茂みに隠れながら少しずつ揚陸艇を守るギャラルホルン兵士との間合いを詰めていく。

 足音を完全に殺し、茂み越しにもう敵兵同士の会話すら聞こえる距離にまで近づいたにも関わらず、向こうはこちらに一切気が付いていない様子だった。アストンが指示し、昌弘と数人が向こうに回り込む。

 

 敵兵は大きく2つの集団に分かれていた。一つ目のグループが3人で揚陸艇の近くに、もう一つのグループは4人で森の手前に陣取っていた。

 昌弘らが近づくのは、揚陸艇を守るグループの方だ。

 

 

「ったく宇宙ネズミ共がよぉ」

「捕まえたらさ、小さいガキは売っぱらって小金稼ごうぜ。いい業者知ってんだ」

 

 

 こちらに気付いていない兵士の下卑た会話が昌弘らの耳に飛び込んでくるが構わず、向こうのアストンたちと目配せする。アストンが小さく頷いて3本指を挙げるのが見えた。

 3、2、1………

 

 その瞬間、コロコロ………と兵士たちの足元に球状の何かが転がってきた。

 

「ん? 何だこ………」

 

 言い終わる間もなく、次の瞬間その球体から煙幕が吹き上がる。「ぶあっ!?」「何事だぁっ!?」と敵兵らは瞬く間に大混乱に陥った。

 

 

「………今だッ!!」

 

 

 アストンが号令を張り上げた瞬間、昌弘らすでに忍び寄っていた鉄華団団員がライフルを構えて飛び出し、まだ武器も構えていない敵兵を至近距離で次々撃ち殺していった。

 

「が、ガキど………ぐあ!」

「だ、脱出だ! 脱しゅ……ぐおぇッ!」

「ま、待ってくれ! 降伏するっ!」

 

 わずか十数秒のうちに、揚陸艇を守っていた兵士のうち5人が射殺され、2人を捕虜にすることができた。その捕虜を尋問して揚陸艇に罠が仕掛けられてないことを確認し、機械に強い団員が揚陸艇のエンジンを動かすためにそれぞれ乗り込んでいく。鉄華団に死傷者は一人も出なかった。

 

 アストンはヘッドセットを起動し、無線に呼びかけた。

 

「こちらアストン。揚陸艇は手に入れた」

『こちらタカキ。了解。今から蒔苗さんを連れていくから周囲に気を付けて』

「分かった。――――デルマとアランズは3人連れて周囲の見回りを頼む! 生き残りがいるかもしれないから気を付けろよ」

「了解!」

 

 

 

 

 

 かくして、無事揚陸艇は確保され、その様子を目の当たりにした蒔苗老はその働きぶりに「結構結構」と満足げに頷く。

 

「子どもばかりだというのに、大した手際だなあ」

「あれで沖に出れば、わたしが手配した船が待っています。行きましょう!」

 

 クーデリアに先導され、蒔苗老や同行するアトラ、護衛のタカキたちも揚陸艇に向かって進んだ。

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「おのれ………おのれェ………ッ!」

 

 呻くカルタは、2機の親衛隊機が次々打ちかかって動きを止める〝バルバトス〟の背後に回り込み、一気呵成にこれを撃破しようと飛び込んだものの、既にその姿を気取っていた〝バルバトス〟が片腕に装備された機関砲を撃ち放ち、すかさずカルタは防御姿勢を取らざるを得なくなった。その間にも〝バルバトス〟は2機の親衛隊機相手にメイスを振るい、その刃を水際で弾いていく。

 

 その周囲には積み上がった〝グレイズリッター〟の残骸。胸部コックピット部分や頭部が潰された無残な姿を晒し、――――カルタ率いる地球外縁軌道統制統合艦隊の苦境を如実に示していた。

 上空から強襲した7機のうち、すでに3機が斃され、残る機体も、1機は鹵獲〝グレイズ〟と対峙。残る3機で〝バルバトス〟を包囲しているものの、重量のある武器を振るっているにも関わらずその俊敏な挙動に対処しきれず、三方から包囲しても尚撃破しあぐねていた。

 

 海上部隊は浜辺で迎撃され、未だ敵の防衛線を突破できていない。

 島の後背から潜行し、蒔苗邸に突入した上陸部隊は………罠にはまって全滅した。

 敗北――――このままでは受け入れざるを得ないその事実をカルタは必死に脳裏から振り払って、

 だが………

 

 

 

『か、カルタ様ぁ―――――――――!!』

 

 

 

 通信に飛び込んできた断末魔の絶叫。見ると鹵獲〝グレイズ〟と戦っていた〝グレイズリッター〟が、爆破され陥没した地面に足を取られ………その一瞬を見逃すことなく鹵獲〝グレイズ〟がバトルアックスを振り下ろし、その胸部を潰した所だった。

 だがそれではすぐに死に切れず。『ぐお………ぉ……』苦悶しながら事切れていく様子を通信越しに聞いてしまったカルタだが、ギリギリと機体のコントロールグリップを握りしめ、悔恨と憎悪に打ち震えるより他なかった。

 

 その間にも〝バルバトス〟の動きは止まらない。2機の親衛隊〝グレイズリッター〟をメイスの一振りで吹き飛ばし、今度はこちらへと迫りくる。突き出されるメイスが唐突に左右に割れ、カルタはすかさず後退しようとしたが間に合わない。

 

 バトルブレードを構えるカルタの〝グレイズリッター〟の両手を、〝バルバトス〟のメイスが挟んで動きを封じ、ギリギリと締め上げてきた。振りほどこうともがくが、パワーの差で全く身動きが取れない。

 このままでは………

 

「おのれ………おのれぇ! またわたしのかわいい部下がッ!」

『だから何だよ。うるさいなぁ』

 

〝バルバトス〟に乗る、憎たらしい宇宙ネズミの声が、接触回線越しにカルタの耳に飛び込み、それがさらにカルタの怒りを増大させた。こんな有象無象どもに、誇り高き選び抜かれたギャラルホルン地球外縁軌道統制統合艦隊が………ッ!!

 

 と、接触回線越しに別の声が入ってきた。

 

 

 

『ミカ、船は押さえた。あとはソイツらだけだ』

 

 

 

 誰だ?〝バルバトス〟のパイロットではない。

 その時、モニター越し、〝バルバトス〟の遥か向こうにモビルワーカーが1機、止まっているのが見えた。半身を乗り出し、何やら通信機に喋っている男の姿も。

 あいつが―――――!?

 

 

「そうか。………あれが賊の頭目かァッ!!」

 

 

 その瞬間、カルタの動きは素早かった。

 端末を叩いて締め上げられていた腕の装甲をパージ。一瞬の空隙を逃さず引き下がってメイスから逃れ、そしてメインスラスター全開。

 

『無駄な………!』

 

 再度打ちかかってくると踏んだのだろう。身構えた〝バルバトス〟だが………カルタは一顧だにせずその脇をすり抜けてしまった。

 雑兵などいつでも始末できる! 頭さえ潰してしまえば………!

 

『しまった、オルガ!! ぐ………!』

 

 事態を察した〝バルバトス〟がこちらを追いかけようとするが、そこで態勢を立て直した2機の親衛隊〝グレイズリッター〟が殺到。2機の連携で動きを封じ込めた。

 そこでようやくモビルワーカーはカルタに狙われていることに気が付いたようで、こちらに背を向けて逃げ出そうとする。が、モビルスーツの速力に叶う訳がない。

 

 カルタは勝利を確信した。

 

 

「よくも私の可愛い部下を――――――――ッ!?」

 

 

 

 だがその時だった。

 カルタの〝グレイズリッター〟、その刃がモビルワーカー目がけ突き出される寸前………

 突然、横から突っ込んできた〝何か〟が〝グレイズリッター〟の腹部に直撃。その凄まじい衝撃に、カルタの意識は瞬間的に吹き飛んだ。

 

「ぐああぁっ!?」

 

 ノイズの走った側面モニターに映し出されているのは、一本の長大な〝槍〟だった。

 それがカルタ機に突き刺さっており、姿勢制御を回復する間もなく、カルタの〝グレイズリッター〟は硬い滑走路上に叩きつけられた。その間にモビルワーカーは森の中に逃げおおせてしまう。

 

「な、何が………!? ぐぅ………!」

 

 怒りに任せて突き刺さった槍を機体から引き抜くカルタ。無数の警告表示がコックピットモニターに走るが………重要な部分のダメージは最小限。まだ戦える。

 

 

 そして新たなエイハブ・ウェーブの反応。

 

 

次の瞬間、深い森から飛び上がった1機の新たなモビルスーツが、カルタ機目がけて襲いかかってきた。

 

「何だ………うぐぅっ!」

 

 すかさず立ち上がって迎え撃とうとするが、上から飛びかかってきたモビルスーツに〝グレイズリッター〟の両腕部を掴まれて、またしても動きを止められてしまう。

 振りほどこうともがいても、眼前でこちらを掴む敵機の腕は揺るぎもしない。

 

 

 アクアブルーのボディ。

 両肩を覆う、甲羅のような盾状の構造物。

〝グレイズ〟や圏外圏で使われるモビルスーツのどれとも異なるフォルム。

 そして―――――頭部カバーを左右に展開して〝グレイズリッター〟の眼前に姿を現した、ツイン・アイ。

 

〝グレイズリッター〟のシステムが自動的にエイハブ・ウェーブの反応からデータベースを検索し、ようやく1機のモビルスーツの名を映し出す。

 その名は―――――――

 

 

 

『笑止!〝グレイズ〟など、そんな陳腐なモビルスーツで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――この〝ガンダムフォルネウス〟の相手ができるとでもッ!?』

 

 

 かつて、ギャラルホルン火星支部実働部隊二尉だった男………傭兵、クランク・ゼントは、咆えた。

 

 

 

 

 




ガンダムフォルネウスの解説は次話にて掲載したいと思いますm(_)m

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