鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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相棒

▽△▽――――――▽△▽

 

『――――おい!俺だ、聞こえてるか?』

 

 ミレニアム島内における拠点として蒔苗老より貸与された古い空港。

 旧式の端末に映し出されるのは宇宙にいるユージンらの姿。ギャラルホルンの包囲を抜け出して、無事安全圏まで離脱できたのだ。

ユージンから通信が入った。そう聞きつけ集まったオルガら鉄華団の面々が、通信端末のある管制塔まで押し寄せてきた。

 

「ユージン!」

「ユージン、無事だったのか!」

『ったりめーよ! チャドもダンテもこの通りピンピンしてらぁな!』

 

 オルガに代わり艦長席にふんぞり返るユージンとその左右に立つ得意げな表情のチャド、ダンテ。その通りの無事な様子に、オルガらの間で安堵や喜びの声が漏れた。

 

「ったく。さすがはユージン。しぶてぇじゃねえか」

『へ! 相変わらず無茶な作戦立てやがって。フォローしてやった俺らの身にもなってみろってんだ』

『ユージンの奴、阿頼耶識のやりすぎで途中で鼻血ブーしやがってよ~!』

『あー! ダンテてめ! それは言わない約束………』

 

 途端にモニターの中でダンテの口を塞ごうと暴れるユージンの姿に、管制塔に集まった誰もが吹き出してしまった。

 

「は、鼻血ブーだって………! ひひ、ひー! わ、笑い止まんね………!」

『し、シノてめー………人様が必死こいて囮役を引き受けてやってってのに………』

「ああ上出来だユージン。かっこ良かったぜ。やっぱここ一番って時はユージンじゃねえとな」

 

 オルガにおだてられて、『お、おう分かってるんじゃねえか………』と恥ずかしそうにモジモジするユージンの姿は、またしても地上の面々の小さな笑いを誘ってしまった。

 

『そ、そんなことよりもだ! 今俺たちはオセアニア連邦に匿われてるんだ。タービンズも一緒だぜ』

「オセアニア連邦に?」

『ああ。………すげぇぞオルガ。ここじゃ俺ら英雄扱いだ! ギャラルホルンに一発ぶちかましたってな!』

 

 英雄だって。すげぇ! とシノやライドらが顔を見合わせて、オルガもフッと表情を緩ませた。鉄華団として評判が上がるのも望ましいが、喜ぶべきはまずユージン達家族の無事だ。

 

 ビスケットやオルガも、

 

「本当によかった。無事で……」

「バカヤロウが……! もっと早く連絡しろってんだ」

 

『ハ。ざけんなよ、こっちの苦労も知らねぇで………』

『阿頼耶識の制御持ったまんまユージンの奴気絶しやがってよー!』

『どこに飛ばされるのかヒヤヒヤだってぜ』

『お、おまえらー!!』

 

 ユージンが口の軽いチャド、ダンテ両名をとっ捕まえようと身を乗り出すがヒョイ、ヒョイとあしらわれていくユージン。

 いつもの鉄華団のバカ騒ぎだ。オルガの傍らにいた三日月の口元にも自然と笑顔が浮かんでしまっていた。

 

 

『くそぉ………あ、そうそうオルガ。名瀬さんがそっちの状況を聞きたがってたぜ』

「分かった。こっちも相談があると兄貴に伝えてくれ」

『りょーかい。あぁ、それとよ………ビスケット』

 

 今度はビスケットが指名され、「ん?」と端末の前から退いたオルガに代わって顔を覗かせた。ユージンは妙に神妙な面持ちになり、

 

『ドルトからよ、サヴァラン………お前の兄貴からメッセージが来てるぜ。今からそっちにデータ送ってやるからよ』

 

 兄さんが? 意外な人物の名にビスケットは思わず目をパチクリさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「エーコ! 名瀬から連絡が来たってさ」

「マジ!? 行く行くぅ! ………あ、フェニーちゃん。ちょっとお願いね」

「お任せあられ~」

 

 ウキウキとアジーやラフタと共に、タービンズのメカニックであり鉄華団へ技術支援として訪れていたエーコは管制塔に向かって駆け去ってしまう。

 振り返ることなく〝バルバトス〟の駆動部の調整を続けたまま、格納庫に残り片手をヒラヒラさせただけで見送ったフェニーだったが………

 

「はぁ………」

「どうした嬢ちゃん。カケルのことが心配か?」

「まあね………って、そうじゃなくてっ!」

 

 何の気なしについつい本音が出てしまったフェニーに、ふらりと現れた雪之丞はニッと笑ってコーヒーが注がれたカップを一つ、差し出してきた。

 

「モンターク商会の船に拾われていずれ合流するんだろ? 心配いらねえよ」

「そりゃ、カケルは作りが雑だから真っ二つになっても補修テープでくっつければいいかもしれないけどさ。でも………」

「でも?」

「もし〝ラーム〟の方が重力圏に捕まった衝撃でフレームにヒビでも入ってたらと思うと………」

「おめ………。カケルの心配もしてやれよ」

 

 

 アイツなら大丈夫よ。いざとなったら補修用テープでくっつければいいし。

 などと強気に思いながらフェニーはカップになみなみ注がれたコーヒーに視線を落とし、

 

「ねぇ、おやっさん。砂糖とミルクとレモンとシナモンは?」

「あ? んな贅沢なモンあるわけねえだろうが」

「え? 無いの………?」

 

 生でコーヒーを飲めと。

 4歳の頃、父親に勧められて飲んだコーヒー(と思しきクソ苦い真っ黒な液体)のことを記憶の底から思い起こしてしまったが、眠気を取るのにコーヒーが一番いいのは経験上知っている。特に徹夜が必要な時は。

 フェニーは、熱いコーヒーに軽く息を吹きかけて少し冷まし、一口飲んだ。

 

「………あ~、ニガ」

「それがいいんだろうが。〝バルバトス〟はどんな感じだ?」

 

 先ほどまでモビルワーカー組み立ての応援に行っていた雪之丞は、メンテナンス用台車の上に寝かせられたガンダムフレーム〝バルバトス〟を見上げる。フェニーも顔を上げながら、

 

「8割方は仕上がった感じね。重力下での活動に対応できるように脚部の接地圧プログラムと運動管制システム、駆動部の接続をちょっと弄って。後は阿頼耶識システムとのマッチングエラーが無いか軽く………」

 

 と、格納庫に誰かが入ってくる足音が聞こえ、フェニーと雪之丞はそちらへと振り返った。エーコが戻ってきたにしては早すぎるが。

 

「あの………」

 

作業台に寝かせた〝バルバトス〟の足元に、目元が少し隠れた少年団員が一人、いつの間にか頼りなげに佇んでいるのが見えた。確か………

 

「ああ。筋肉モリモリマッチョマンの弟の」

「………昌弘です。あの、俺の〝マン・ロディなんですけど」

 

 その問いかけにフェニーはようやく、外で横たえられたままの〝マン・ロディ〟のことを思い出した。持って降りたはいいが〝マン・ロディ〟は脚部が完全に宇宙仕様になっている上、装備している装甲が重すぎて地上で全く活動できないのだ。モンターク商会からロディ・フレームに適合する地上用換装パーツが卸される予定になってるが、まだ届いていなかった。

 

「ごめんねぇ。地上用換装のパーツ交換はすぐできるんだけど、肝心のパーツがまだ来てないから。天下無双のフェニー大先生を以てしても、モノが無かったらどうしようもないんだよね」

「そうですか………」

 

 それだけ言うと昌弘はトボトボと格納庫から立ち去っていった。

 メカニックにとってパイロットの機体が用意できないほど無念なことはない。フェニーとしても早く何とかしてやりたい気持ちはあるのだが………

 

「ま、パーツが来るまでは〝マン・ロディ〟のパイロット組も、陸戦か、モビルワーカー隊に入れるしかねーわな」

「ですよね。とりあえずはこっちの調整。ちゃっちゃと片付けちゃいますか」

 

 後は最終チェックだけだし。フェニーは端末にコマンドを手早く叩きながら、〝バルバトス〟の駆動部に指令を送る。

 それに応じた反応を直に見て確認し、パイロットの操縦データと照らし合わせた上で齟齬が無いのか一つ一つ確認していくのだ。阿頼耶識システムと実際の操縦、それに期待の反応差が少なければ少ないほど良い。技術的なスキルはもとより根気強さが求められる地味な作業だが、フェニーは案外こういった地道な作業の方が好みだった。

 

「うーん。このセッティング、ちょっと敏感すぎやしませんかね? システムの誤操作サポートをここまで削られると、いざって時に操縦ミスしたらリカバーが………」

「いや。三日月にとっちゃあ、そっちの方が色々やりやすいみてーだ。結構、器用な奴だしよ」

 

 フェニーよりもずっと長く三日月の相手をしてきた雪之丞の言葉だ。そっちの方がいいのだろう。フェニーは操縦プログラムを三日月の操縦データを反映させたまま設定し、次の作業に移る。

 

 夜明けには、いや、もしかしたらもうすぐにでもギャラルホルンの襲撃が始まるかもしれない。それまでにこの〝バルバトス〟に最高のセッティングを施さなければ。

 

 

 

 フェニーたちメカニックにとって、長い夜は始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「―――――ああもうっ! 早く〝ガンダムラーム〟を重力下仕様に弄り回したいのに………。カケルの奴、もし〝ラーム〟の基礎フレームにヒビでも入れてたら、承知しないんだからっ!」

 

 それと………あんたも絶対、五体満足で戻ってくるのよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 もう時刻は既に深夜を回っているにも関わらず、周囲の景色は仄かに照らされている。頭上の三日月が淡く、周囲の景色を照らしているのだ。

 ビスケットはひとり、浜辺へとふらりと立ち寄って手近な倒木へと腰を下ろした。わずかな息遣いと、寄せては返す波の音以外、しばらく何も聞こえない。

 

 

「………話ってのは何だったんだ?」

 

 

 ふと、気が付くとオルガが背後で立っていた。鉄華団にとって兄貴分である名瀬との話はすっかり終わったようで、その表情には一片の曇りも迷いも無い。その表情をいつも見てきたビスケットにはすぐに分かった。

 オルガは、このまま突き進むつもりなのだ。

 

「………ビスケット?」

「え? あ、いや………サヴァラン兄さんがね。もしかしたら火星に来るかもしれないって」

「いいじゃねえか。よかったら鉄華団で働いてみないかって言ってやれよ」

「はは………何でも、ドルトカンパニーが火星に支社を作るつもりなんだって。クーデリアさんの、火星ハーフメタルの規制解放を見込んで」

 

 サヴァランから送られたメッセージ。

 そこには火星で働くことになるかもしれない、という報告と、火星でまた一緒に暮らせるかもしれない、と喜ぶ姿。

 それに、

 

 

 

 

『―――――またお前に会える日を楽しみに待っているぞ。それとビスケット、お前が今、とても危険な仕事をしていることも知っている。死と隣り合わせの危険な仕事をしていることを。お前の仕事の邪魔をするつもりは無いが………無いがどうか、自分の手に余るものを背負い無理をし過ぎないでほしい。お前と再会するまでの俺がそうだった。自分がやっていることは、必ず仲間のため、みんなのためになるそう信じて俺は俺なりに動いていたが………あんな奇跡でも起こらなければ結果は無残なものになる所だった。

 

 もし、お前が今している仕事が成功すれば、大きな幸せが待っているかもしれない。だが小さな幸せだって見出すこともできるんだ。一度大きなうねりに飲み込まれてしまえば、そこから抜け出すことは………おそらく難しい。

 

 それでもどうか、他人に振り回されることなく、自分の人生を自分でしっかり見つけて、歩んでいってほしい。家族や仲間を大切に、堅実で幸せな人生を送るよう、心から願っている。また、火星で会おう』

 

 

 

 

 倒木の上に座るビスケットは、メッセージを思い起こし、ふいにギュッと膝の上で握り拳を作った。

 その小さな異変に気付いたオルガが少し怪訝な表情を向けてくる。

 

「どうした?」

「ねえオルガ。俺たち………このまま進むしかないのかな?」

「あぁ?」

「もう、本当ならここで仕事を終わらせてもいいはずなんだ。テイワズの後ろ盾もあるし、何とか火星に戻って………」

 

 それじゃ駄目だ。オルガは一歩前に進み出て、顔を上げて夜空を見上げた。

 

「火星で細々やってるだけじゃ、俺たちはちょっと目端の利いたガキでしかねぇ。いずれまたいいように使われるだけだ。でっかい上がりが、もうすぐそこで待ってんだ。俺たちはそいつを………」

 

「そんなこと! そんな危険なことを続けて、また誰かが死んだりしたどうなる!? 火星で細々やったって、平和に、小さな幸せを見出すことだって………!!」

 

「昔、まだCGSだった頃………つい最近のことなのに、もう大昔のことに思えるよな」

 

 オルガ………? 遮るように発せられた言葉の意図がよく分からず、ビスケットは思わず首を傾げた。オルガは、フッと俯いて笑って、

 

「マルバの野郎も一軍の野郎も、俺たちに食わせるのは安い栄養バーかコーンミールばかり。そんな大きくねえ鍋に入ったそれをよ、皆で分け合ってやりくりしてきたじゃねえか。お前が上手くやりくりして、アトラの差し入れがあって、たまに一軍の奴らからちょろまかしたりしてよ………」

「うん。懐かしいね………」

 

 マルバや一軍にとって、少年兵は使い捨ての道具でしかない。動けるだけの食糧とボロの制服、装備だって一軍が使っていたものより古く壊れかけのものばかりだった。それを、皆で知恵や力、技術を持ち寄って何とかやってこれたのだ。

 

「んでもって、マルバの一軍どもも追い出して鉄華団を旗揚げしてよ。………ガキどもにもしっかりしたモン食わせられるようになったじゃねえか。………お前の言う小さい幸せってのは、言わせてもらえばコーンミール一杯分のじゃないのか? 

そんなんじゃ全然足りねぇ。俺は、鉄華団の奴ら全員に、もっとしっかり食わせて………幸せにしてやりてぇんだ。そのために、のし上がってやる。テイワズからも、蒔苗のクソジジイからもな」

 

「オルガ………」

 

 そうかもしれない………いつの間にか立ち上がっていたビスケットは、また倒木に腰を下ろし直した。

 確かに、小さな幸せだけでは………鉄華団の全員を幸せにすることはできないかもしれない。CGS時代だって、制服はボロでいつも殴られて、捨て駒同然の扱いだったが、食事と寝床はあったのだ。オルガたちのようなストリートチルドレン出身者やビスケット以上の貧しい家で育った者にとっては、あんな環境でも幸せだったのかもしれない。

 

 でもそれは本当の幸せじゃないかもしれない。

 

「でも………こんな危険なことを続けなくたって、俺たちが、俺たち皆が幸せになれる方法はきっとあるはずなんだ」

「ああ。………いつかはこんな稼業から足を洗って、まっとうな商売だけでやっていく」

 

 オルガはビスケットに振り返った。嘘偽りのない強い決意を湛えた瞳が、ジッとビスケットを見据えてきた。

 

「そのためには………このままじゃ駄目だ。もっと名を上げて、力もつけねえと。あいつらを幸せにしてやれねえ。守ってやることもできねぇ」

 

 だからよ………。オルガは一瞬、夜空の〝三日月〟を見上げると、続けた。

 

「火星でハーフメタルが商売になるってんなら、俺たちも一枚噛んでやろうじゃねえか」

「え………?」

「ハーフメタル採掘・加工・流通を取り仕切る会社を作ってよ。鉄華団の今の稼ぎで土地も資材も全部揃える。んでもってドルトみたいな工業コロニーに売って金にする。船の護衛は、俺たちの得意とする所だからな。そこにコストはそうかからねぇ。他の会社よりもずっと有利だ。どうだ?」

 

 

 一見突拍子もない。だが、それでいて現実味に満ちたオルガの提案に、ビスケットは一瞬思考が止まってしまった。まさか、オルガがここまで考えていたなんて………

 

 

「す………すごいねオルガ。そんなこと考えてたんだ」

「いや………クーデリアの話と、カケルとの雑談でな。ハーフメタル産業は金になるんじゃないかってアイツ、しつこく勧めやがるからよ。悪いが今のも全部カケルとクーデリアの受け売りだ」

 

 

 ふん、と気まずそうに顔を逸らしたオルガ。

 だがビスケットは、今度は顔を輝かせて立ち上がった。

 

 

「それでもすごいよ! 確かに………これから火星ハーフメタルの規制解放が始まれば一気に需要は高まるはず。俺たちは火星のことをよく知ってるし、何より戦闘力だって持ってるから、流通の安全面で他の会社よりもずっと有利で………何よりもテイワズが後ろ盾にあるし、おそらくテイワズがそういう仕事をさせてくれるはず………うん! これならっ!」

「その会社の社長は………ビスケット、お前に頼みたい」

「ええっ!?」

 

 

 俺が!? 唐突な提案に思わずビスケットは耳を疑ってしまう。上に立つならユージンとか、それこそオルガが兼任した方がいいに決まってるのに………

 そんな思いを察したのか、オルガはニッと笑って、

 

 

「お前なら頭も回るし、何よりドルトとのコネがある。なんせ、ドルトの重役様が兄貴なんだからな。モノと流通がしっかりできりゃ、すぐにでものし上がれるぞ。そのためには、頭の回る奴が頭張らねえとな」

「そ、そんな俺なんかが………オルガみたいに人をまとめられる訳でもないし………」

「何言ってやがる鉄華団一の秀才様がよ。こいつはでけェ商売になるぞ。それこそ、ドンパチで食ってくのがバカらしくなるぐらいにな。………だがその前に、やらなきゃならねぇことがある」

「火星ハーフメタルの規制解放。そのための蒔苗氏の復権、だね」

 

 オルガはこくり、と頷いた。

 そう。それが実現しなければ絵に描いた餅だ。現状はハーフメタルの算出は大昔の経済協定で徹底的に制限され、産業としてはさほど振興していない。

 その制限を撤廃させる方法はただ一つ。今、このミレニアム島に身を潜めている蒔苗東護之介氏を無事アーブラウ首都エドモントンまで送り届け、数週間後に開催される代表指名選挙に再選させること。蒔苗老はアーブラウ政財界のフィクサー的人物であり、議会に一大派閥を築いている。ギャラルホルンを後ろ盾にした対抗馬、アンリ・フリュウ氏の武力のせいでここまで落ち延びざるを得なかったが、鉄華団が蒔苗老にとっての武力となれば、戦闘力の面ではフリュウ氏やギャラルホルンに対抗できるかもしれない。

 

 でっかい上がりが、もうすぐそこで待っている。オルガの言う通りだった。自分たちを取り巻く世界が一変するかもしれない。その瀬戸際に、今の鉄華団は立っているのだ。

 でも………

 

「でも………そのためにはギャラルホルンと真正面からやりあうことになる。誰かが死ぬかもしれない。それこそ、俺やオルガだって………」

「死なせねぇために、やるべきことは全てやる。テイワズ、名瀬の兄貴、モンターク商会………取れる援助は全て取る。ユージンたちも地上に降ろして、鉄華団の全力で戦わねぇとな。ギャラルホルンに取り囲まれる前に、一気に突き進む。作戦は任せるぜ、ビスケット」

「責任重大だね」

「勘違いするんじゃねえ。全部の責任を負うのはこの俺だ。そして鉄華団の全員で………ギャラルホルンの奴らにもう一発ぶちかましてやる」

 

 将来を掴み取るために。邪魔する奴は、全て潰す。

 オルガのそんな心持ちが、ビスケットには手に取るように理解できた。

 

 

「………ねぇオルガ」

「ん?」

「この仕事が終わったら、話をしよう。俺たちの、これからについて」

 

 

 俺たちが、危険なことなどせずに、まっとうに生きていくために。

 此処ではない、未来に辿り着くために。

 

 オルガは、いつものようにフッと気取った笑みをビスケットに投げかけた。

 

「ああ。約束だ」

 

 

 その時、ガサガサ! とオルガの背後の茂みが激しく動いた。

 何事かと振り返ると、次の瞬間、血相変えたタカキが茂みから飛び出してきたのだ。

 

「おう。どうしたタカ――――――」

「団長っ! 今、蒔苗さんのところから連絡があって、緊急の要件って!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

『――――何だよ爺さん。荷造りでも終わったのか? 悪いが出発は………』

「違う。ギャラルホルンが勧告してきた。明日正午までに鉄華団とクーデリアの身柄を引き渡せとな」

『何っ!? 話が違うじゃねぇか………!』

 

「ギャラルホルンの中にも独特の指揮権を持つ者がおってなぁ。オセアニア連邦でも押さえ切れん」

『………誰なんだよソイツは?』

 

「指揮官の名は――――――――」

 

 

 

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊司令官にしてセブンスターズが一家門イシュー家の娘、カルタ・イシュー。

 地球軌道上での雪辱を晴らすことを誓うカルタは、ヴィーンゴールヴの意向を押しのけ、自らの権限において展開可能な部隊を動かし、独自の行動を開始する。

 

 オルガやビスケットの思い、願いに関わらず戦いの足音は一歩一歩、鉄華団の少年たちへと、にじり寄りつつあった。

 

 

 




次話より、原作「還るべき場所へ」の辺りに突入したいと思いますm(_)m

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