鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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鉄血と血統

▽△▽――――――▽△▽

 

 ドルト3を背景にした周辺宙域での戦闘は、既に佳境に差し掛かろうとしていた。

 おびただしい数の〝グレイズ〟や警備クルーザー……その破壊された残骸が宙域各所に浮かび、その向こうで、2機のモビルスーツが激しく激突を繰り返しながら、互いに斬り結んでいた。それは三日月の〝バルバトス〟とギャラルホルン・コロニー駐留部隊の〝グレイズ〟。

 

「………ッ!」

 

 今だ! 三日月は素早く機体を制御し、〝バルバトス〟が手持ちの巨大メイスを構え直す。そしてメインスラスター推力全開で突撃。

 長時間に渡る交戦で消耗していた〝グレイズ〟のパイロットはすぐに対応することができずに、次の瞬間、機体の胴体をメイスでぶち抜かれて終わった。

 だが敵はまだこれだけではない。三日月はすかさずメイスを撃破した〝グレイズ〟から引き抜くと、もう片方の手で構えていた滑空砲を撃ち放つ。

 

 コロニーのエアロックから続々湧き出てきた3機の〝グレイズ〟隊の1機に着弾し、隊形から吹き飛ばされる。残る2機がカバーに入るように前に出てライフルを撃ちまくったが………その時には既に〝バルバトス〟は急加速し、その射線から逃れながら〝グレイズ〟隊に肉薄する。

 さらに滑空砲が撃ち放たれ、姿勢を崩して怯んだ1機の〝グレイズ〟に三日月は〝バルバトス〟のメイスを突き出し、その質量と機体の加速を武器に敵機を轢き飛ばした。そしてさらに、気圧されたように動きを止めたもう1機目がけ、〝バルバトス〟は迫った。

 先ほどのような手ごわい相手ではなく、滑空砲を当てて怯ませた後、難なくメイスで胸部コックピットを打ち潰す。瞬く間に〝グレイズ〟3機が撃墜・戦闘不能に陥った。

 

「〝イサリビ〟から少し離されたか………」

 

 母艦である〝イサリビ〟周辺では、組合側のモビルスーツ〝スピナ・ロディ〟や武装ランチが次々に集まりつつあった。そちらにもギャラルホルンの〝グレイズ〟隊が攻撃を仕掛けているが、数で圧倒している〝スピナ・ロディ〟や〝イサリビ〟の対空砲火。それにシノの〝流星号〟の猛攻を前に攻めあぐねている様子だ。

 

「あれなら大丈夫だな。んじゃ、もう一仕事………ッ!」

 

 なおもコロニーから湧き続ける〝グレイズ〟隊に、三日月は向き直ってフットペダルを力一杯踏み込んだ。それに呼応するように〝バルバトス〟のメインスラスターが咆哮し、猛烈なパワーで〝グレイズ〟隊へと迫る。

 その勢いをそのままに、三日月は肉薄した〝グレイズ〟の頭部に、〝バルバトス〟のメイスを振り下ろした。

 

 

『もらったァッ! この間合いなら………ッ!』

 

 

 僚機を囮に〝バルバトス〟の背後に回り込んだ1機の〝グレイズ〟。

 だが次の瞬間、振り下ろされたアックスは半ばでその動きを止めてしまう。

 突き出した〝バルバトス〟の手が〝グレイズ〟の腕を掴み、ガンダムフレーム特有の大出力で受け止めていたのだ。

 

『な………マニピュレーターで受けただとっ!?』

 

 接触回線越しに明快に聞こえていくる敵パイロットの声。

 ギシギシ………と互いのパワーが相克し合い、両機のフレームが激しく軋む。

 しばしの膠着だが、パワーは〝バルバトス〟が優っている。三日月は一瞬口元を獰猛に歪ませて、マニピュレーターの駆動系に更なるパワーを………

 だがその時、敵機急速接近を知らせる警報が〝バルバトス〟のコックピットに鳴り響き、阿頼耶識越し、直感的に送られてきた索敵情報に、三日月はハッと顔を上げた。

 

「………ッ!」

 

 速い奴が来る!

 三日月は咄嗟に力づくで〝グレイズ〟を迫る敵機の予測軌道上に突き出し、その反動を利用して素早く回避機動を取る。つい先刻まで〝バルバトス〟が位置していた場所に〝グレイズ〟が突き出された瞬間、そこに一筋の鋭い閃光が駆け、〝グレイズ〟の胴体を一瞬にして引き裂き弾き飛ばした。

 その余りに速い〝閃光〟が1機のモビルスーツの形をしていたことに、三日月は一拍遅れて気が付いた。

 

 あと一瞬遅かったら………

 それに、あの機体は………!?

 

 わずか一瞬の交錯で、三日月は新手の敵機に〝バルバトス〟と似た『匂い』を、何故か感じ取っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 圧倒的な突進力で宇宙空間を縦横無尽に駆け巡り、閃光とも流星ともつかない凄まじい速度を見せつけるは、ナノラミネート装甲塗料で最も高価な紫色をふんだんに使った1機のガンダムフレーム。

 現行機では到底あり得ぬ非常識なパワーに、コックピットに座すガエリオは興奮を隠しきれなかった。

 

「この出力ッ、この性能………予想以上だ!」

 

 ま、それでなくては、骨董品を我が家の蔵から引っ張り出した甲斐が無いがな!

 ガエリオは、未だ余裕を残していたフットペダルを限界まで踏みつけた。

 その瞬間、ガエリオが駆るガンダムフレーム〝キマリス〟の脚部ブースターノズルが展開。更なる急激な加速によって、その機体は戦場を駆け巡る一筋の彗星と化した。

 目にも止まらぬ速度で突進する〝キマリス〟が〝バルバトス〟目がけ突き出す〝グングニール〟ランスの一閃。

〝バルバトス〟はすかさず巨大なメイスで受け止めたが〝キマリス〟の勢いを殺し切ることができず、押し飛ばされながらも辛うじて受け流す。反撃とばかりに滑空砲を撃ち放ったが、すでに一筋の閃光として、圧倒的機動力を見せつけ目まぐるしく宇宙空間を駆ける〝キマリス〟を捉えきることができない。

 敵パイロット………生意気な宇宙ネズミのクソガキの舌打ちが聞こえるような気がして、ガエリオはふふん、とほくそ笑んだ。

 

 反撃のため、翻って再度突進をかける。この加速力を前に〝バルバトス〟はただ受け身を取るより他ないことだろう。

 

 

 

「〝ガンダムフレーム〟。貴様なぞには過ぎた名だ………身の程を知れッ! 小僧ォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 遥か遠くで、その戦いを密かに見守っている一隻のクルーザーがいた。

 民間仕様のビスコー級多用途クルーザー。ギャラルホルンの艦艇がセンサーでそれを捉えれば、すぐに民間企業『モンターク商会』の所有船であることに気がつくだろう。

 そのブリッジで、風変りなメタリックの仮面で顔を覆う男……このクルーザーの所有者である商人モンタークは、メインモニター越しに繰り広げられる2機のガンダムフレームの戦いを見守っていた。

 

「………ASW-G-66〝ガンダムキマリス〟。ガエリオめ、ボードウィン家秘蔵の品を持ち出してきたか」

 

 その壮絶な突進力を活かし、立て続けにヒット・アンド・アウェイを繰り返す〝キマリス〟に対し、それを受け流しつつ滑空砲で動きを止めようとする〝バルバトス〟。だが〝キマリス〟の機動力の前に一発たりとも有効打を与えることができない。

 ガンダムフレーム2機によって繰り広げられる異次元の戦い。モンタークは一人、仮面の奥でニヤリと笑いながら、

 

「すでに風化した伝説とはいえ、かつてギャラルホルンの象徴として世界を守った機体同士が戦うとは………皮肉なものだな」

 

 とその時、ブリッジのドアがシュッと開かれ、一人の女性が姿を現した。ウェーブのかかった美しい金髪に、白磁のような肌に整った顔立ち。女性のとしての美を独占したかのような女のその気配に気づき、仮面の奥でにこやかな表情を作りながらモンタークは振り返る。

 女も、立ち止まってモンタークに恭しく一礼した。

 

「モンターク様。降下船の手配が整いましたわ」

「ありがとうエリザヴェラ。これでクーデリアの地球行きは滞りなく進むだろう」

 

「その前に、ここで潰れちまいそうですけどねぇ~」

 

 ブリッジ前方で戦闘を見やっていた中年の男……鉄華団から放逐されマクギリス・ファリドに拾われたトド・ミコルネンが眼前の戦闘に呆れたような様子で、

 

「あ~んな派手にドンパチやっちゃって、ありゃ全滅は必至ですなぁ」

「それはどうかな?」

 

 んへ? とすっとぼけた表情を見せるトドに、モンタークは、

 

「何も銃を撃ちあうだけが戦争ではないのだ。それはお前だって分かることだろう?」

「そりゃあ………俺はどっちかっつーと荒事以外が専門ですからねぇ」

「せっかくの見世物だ。最後まで見届けようじゃないか。クーデリア・藍那・バーンスタイン主演の革命劇を」

 

 

 激しく砲火が撃ち交わされるドルトコロニー群に、アリアンロッド艦隊が迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「行くぜェおらあァッ!!」

 

〝イサリビ〟の周囲で繰り広げられる激闘。

 シノの〝グレイズ〟改造機…通称〝流星号〟もまたその狂乱の中を鋭く飛び回り、〝スピナ・ロディ〟目がけてライフルを撃ちかけていた1機のグレイズに急迫してバトルアックスを振り下ろした。

 相手の〝グレイズ〟もまたバトルアックスを振り上げてそれを防ぎ、同性能の機体同士の拮抗によってわずかな膠着状態がもたらされる。

 接触回線越し、ギャラルホルンのパイロットがハッと息を呑むのが聞こえてきた。

 

『その機体は………ギャラルホルンの〝グレイズ〟!?』

「コイツはそんなダセェ名前じゃねぇっ! このシノ様の………〝流星号〟だッ!!」

『我ら誇り高きギャラルホルンの〝グレイズ〟をそんなお下品な色にッ!!』

 

 許せん! と〝グレイズ〟が〝流星号〟の鼻先にライフルの銃口を突きつける。

 だが銃口から火が噴く寸前、〝流星号〟は俊敏に身を翻し、紙一重のところでそれを避けきった。

 

『な………この反応はっ!?』

「へ………っ!」

 

 お返しとばかりにシノはトリガーを引き、〝流星号〟のライフルから撃ち放たれた弾丸は、正確に〝グレイズ〟の胴体を激しく殴打した。

 

「どりゃあ!!」

 

 敵機が怯んだその一瞬を逃さず、〝流星号〟は鋭くアックスを振るい、〝グレイズ〟の胸部コックピットを正確に裂き潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「くっ………!」

 

 いくら照準を定めても、敵モビルスーツの目まぐるしい機動に〝バルバトス〟は十分に対応することができなかった。

 滑空砲を撃ち放ったその時には、速い敵機は遥か彼方。紫の閃光を残し〝バルバトス〟の周りを目にも止まらぬ速さで飛び回られ、そして時折撃ち放たれる銃撃。〝バルバトス〟の照準システムではとてもじゃないが追いきれない。

あまりに鬱陶しい敵に、三日月は苛立ちを禁じ得なかった。

 

「こういう相手は相性が悪い………!」

 

『………た? 阿頼耶識とやら………か……?』

 

 敵機のパイロットからの途切れ途切れの通信。それすらもこちらを挑発しているように聞こえて、三日月の苛立ちを余計に強める。

 その時、目まぐるしく周囲を飛び回っていたその敵機が鋭く軌道を変えてこちらへと突っ込んできた。続けざまに撃ち放たれる銃撃に「ぐ……っ!」と三日月は一瞬機体の制御を失う。

 

『………トドメだぁッ!!』

 

〝バルバトス〟のコックピットモニター全体に映し出される紫のモビルスーツと、こちらを貫かんと突きつけられる鋭いランス。

 

「………!」

 

 だが………この瞬間を待ってたんだ。

 刹那、三日月はわずかにスラスターを制御して機体を右にずらした。瞬間的な挙動に敵機はすぐに対応することができず、突き出されたランスは〝バルバトス〟の左脇をわずかに裂くだけに終わる。

 それでも手持ちの滑空砲を失ってしまったが………問題ない。

 

『なにっ!?』

 

〝バルバトス〟は紫の敵機が持つランスを掴み、その上に半身を乗せた。

 これで目障りに飛び回られることもない。

 

「捕まえた………っ!」

『離せ! この宇宙ネズミが!』

 

 紫の敵機からの接触回線通信。何となく聞き覚えが………

 三日月は振り落とされないようランスを掴むマニピュレーターにパワーを注ぎ続けながらも、

 

「? この声……アンタ、チョコの隣の………」

『ガエリオ・ボードウィンだ!』

「………ガリガリ?」

『貴様っ! わざとか!?』

 

 まあいいや。と、三日月は破壊すべき敵機の胸部コックピットに狙いを定めた。

 

「どうせすぐに消える名前だ」

 

 メイスを振り上げる〝バルバトス〟。武器を持った敵機の片腕を封じている今なら………

 

『………甘いッ!』

 

 だがその時だった。

 敵機の肩部が突然せり上がったかと思うと、次の瞬間、小さな円盤状の何かが〝バルバトス〟の頭部目がけて撃ち出される。

 

「………!?」

 

 見たことも無い兵器の攻撃に、三日月はすかさず〝バルバトス〟の頭部をよじらせて回避しようとするが、間に合わずに機体頭部の一部を引き裂かれてしまう。そしてその衝撃で、瞬間的に敵機の武器を封じる力が弱まってしまった。

 そしてそれを、ガリガリとかいう敵機のパイロットは逃さない。

 

『うらあああああぁぁぁッ!!!』

 

〝バルバトス〟同様の大出力を持つ敵機は、ランスを強引に上方へと振り上げ、瞬間的に力及ばず〝バルバトス〟は思いっきり振り飛ばされてしまった。

 そして吹き飛ばされた〝バルバトス〟の背後には巨大な影………漂流するギャラルホルンのクルーザーが。

 回避すら間に合わずにしたたかに背部から打ち付けられ、その衝撃で「ぐ………っ!」と三日月は表情を歪ませた。

 さらに悪いことに、〝バルバトス〟のメイスも衝撃で取り落としてしまい、慣性で遥か彼方へ………

 

 形勢は完全に敵機の側へと傾いてしまった。

 

『ふ………ネズミ相手に大人気なかったかなァ? 許せよッ!』

「………っ!」

 

 全スラスター全開で、ランスの鋭い切っ先を突き出し〝バルバトス〟へと襲いかかる敵機。

 回避はもう………!

 

 

 

『………待たせたな!』

 

 

 

 だがその時、迫る敵機の残影が割り込んできたもう1機のモビルスーツによって遮られた。

 その機体が前面に突き出したシールドと敵機のランスが激突。

 突然の乱入者によって受け流されたランスは当初の軌道から大きく逸れ、〝バルバトス〟背後のクルーザーをぶち抜くに終わった。

 そしてクルーザーが、武器か燃料に引火したのか爆散し、紫の敵機を飲み込んで明後日の方角へと吹き飛ばした。

 

 間一髪のところで三日月を庇った……すらりとしたベージュ色のフォルムをもつその機体は、

 

 

 

「昭弘………それ、できたんだ」

『ああ。ガンダムフレーム………〝グシオンリベイク〟だッ!!』

 

 

 飛び込んできた昭弘の乗機………〝グシオンリベイク〟は、なおも飛びかかろうとした紫の敵機にライフルを撃ちかける。それは正確に敵機の胴を直撃。敵機は態勢を立て直そうとするが、

 

 

『こいつっ!!』

 

 

 さらに飛び込んできたのは、1機の〝マン・ロディ〟。手持ちのマシンガンを撃ちまくり、一発一発が低威力であってもそれが重なればタダでは済まない。

 紫の敵機はこちらへの攻撃を一旦諦め、凄まじい加速で飛び去っていった。

 

「それって、昭弘の弟の………」

『昌弘です! 援護しますっ!』

『無理はするなよ』

『兄貴だって! まだ阿頼耶識に慣れてないのに………!』

 

 そんな兄弟のやり取りに、三日月は思わず頬を緩めつつも遥か敵機の軌跡を見やり、

 

「助かった。でも速いよあのガリガリ」

『え………ガリガリ?』

 

 何だそりゃ、と返しながら、昭弘は手持ちのライフルを、丸腰となった三日月へと流した。

 態勢を立て直した敵機がまた迫ってくる。

 

『俺はまだ阿頼耶識に慣れてねぇ。………三人がかりでやるぞッ!!』

 

 シールドに格納してあったバトルアックスを手に〝グシオンリベイク〟が勢いよく飛び出し敵を迎え撃つ。

 三日月は、思わずフッと笑みをこぼしながら、手にしたライフルを敵機へ向けた。昌弘の〝マン・ロディ〟も、マシンガンを撃ち放つ。

 

 2機の正確な射撃に〝グシオンリベイク〟の格闘能力を前に、紫の敵機はただ圧倒されるしかない様子だった。

 

 

 三人がかりなら、ギャラルホルンにも、ガリガリとかいう変な機体のパイロットにも負ける訳が無い。

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「ぐ………くそぉッ!」

 

 アックスを手に襲いかかるベージュの敵機の斬撃を〝キマリス〟のランスで受け止める。

 だが動きが止まったその瞬間を逃さず、背後に回り込んだ〝バルバトス〟や見慣れぬずんぐりとしたモビルスーツがライフルやマシンガンを撃ち放ち、磨き上げられた〝キマリス〟の胴体や背面を容赦なく削り取った。

 着弾による衝撃が何度もガエリオに襲いかかってくる。そしてわずかな間も置くことなくベージュの敵機が矢継ぎ早に近接戦を挑んでくるのだ。しかもどちらも、ツイン・リアクターによる大出力を誇るガンダムフレームときた。

 

 3対1の状況に追い込まれ、次々襲いかかる着弾の衝撃に、ガエリオは歯ぎしりした。

 

「ぐうう………っ!」

 

 周囲には味方機もいない。駐留部隊や、ガエリオの座乗艦〝スレイプニル〟から発進した〝グレイズ〟隊は、鉄華団の母艦や集結しつつある労働者組合のモビルスーツやランチへの応戦で手一杯。しかも押されつつある。

 このままでは………

 

 わずかな逡巡すら逃さず、〝バルバトス〟ともう1機は軽快に立ち回りながら〝キマリス〟へとライフルを撃ち続ける。加速して距離を取りたい所だが、ベージュの機体が〝キマリス〟の進路をふさぎ続け、思うように機動することができない。

 そうしている間にも、さらに一発のライフル弾が〝キマリス〟を突き上げ、コックピットのガエリオに少なくない衝撃とダメージを与えた。

 

 そしてさらに追撃を食らい、機体の制御を失ったその一瞬、

 

『もらったァッ!!』

 

 ベージュのガンダムフレームがバトルアックスを〝キマリス〟目がけて投擲した。

 すかさずガエリオは〝キマリス〟のランスでそれを防ごうとするが、バランスを崩した状態では間に合わず、次の瞬間投げつけられたバトルアックスの刃が、ランスを持つ〝キマリス〟の右腕部に激突。装甲を突き破ってその構造を深々と抉りぬいた。

 

「ぐぐうぅっ!!」

 

 直撃による凄まじい衝撃、コックピットモニターに次々表示される警告表示。

 そのどれもが、〝キマリス〟にこれ以上の戦闘が不可能であることを無情に映し出していた。

 そして衝撃に全身をしたたかに打ち据えたガエリオ自身も………

 

 だが、このまま終わる訳にはッ!

 

 その時、コックピットモニター右側で通信ウィンドウが開いた。〝スレイプニル〟の艦長だ。

 

『………特務三佐っ!』

「あ? 何だ!」

『アリアンロッドの本隊が、そちらに向かっています。これ以上の作戦への介入は、いくらセブンスターズといえど、問題になります!』

 

 

 見れば、先ほどまで猛攻を繰り返してきた2機のガンダムフレームが沈黙し、迫るギャラルホルンの大艦隊に気圧されたように沈黙している。

 このまま戦えば、悔しいが敗北は確実。

 退くなら今しかない。

 だがここで退けば、奴らを討ち取る戦果がアリアンロッドの手に………!

 

 

「………ここまでか」

 

 ガエリオは一旦退くことを選んだ。

〝キマリス〟を翻らせ……仇敵へと背を向けて、ガエリオは乗機を駆り母艦目がけて飛翔する。追撃は無かった。

 急激な加速が満身創痍の身体に響き、ガエリオは思わず表情を歪ませる。

 瞬く間に遠ざかる敵機をモニターウィンドウ越しに睨みつけながら、

 

「次こそは必ず………ッ!」

 

 仲間であるギャラルホルン・アリアンロッド艦隊には悪いが、自分の手で仇を討つべく、今は彼らがこの場を切り抜けることを祈るより他なかった。

 

 

 

 

 


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