結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回は部室にて交流を深める回ですが、元ネタとなる、『友奈が須美の頭を撫でて顔を赤らめる』シーンで、東郷の目からハイライトが消えたシーンが個人的に1番笑えた回です。

では、どうぞ。


5:頼もしき援軍

「みんな、お役目ご苦労様」

 

バーテックスとの戦闘を終え、部室に帰還した一同に、安芸が早速労いのの言葉をかける。

 

「無事に戻ってこられましたね」

「それでどうだったかな、リトルわっしー。連携しての戦いは」

「そつなくこなせました、えっと……園子、さん。皆さんも、とても強いので」

 

園子(中)から感想を求められた須美は、やや緊張した面持ちでそう答える。そこへすかさずフォローに入るのが、勇者部のムードメーカーたる彼女だ。

 

「そんなに堅い言葉遣いじゃなくても、いいんだよ?大変なお役目だけど、リラックスしていこうよ」

「す、すみません結城さん。でも、小学生と中学生の違いがありますし、あまり砕けようとしても、難しくて……」

「これが少し経つと砕けまくるんだから、人生分からないわね……」

「そう、だね……」

 

苦笑気味にそう呟く夏凜と真琴の目線が、2年後の須美に向けられているのは言わずもがな。

そんな須美の様子を見て、彼女の前に立った遊月は、少し膝を曲げて目線を合わせてから口を開いた。

 

「ははっ。それで須美が1番やりやすいってんなら、それがいいかもな」

「フワッ……」

 

須美が頬を赤らめるのも無理はない。唐突に、未来の晴人から頭を優しく撫でられては、真面目な彼女とて表情が緩んでしまうだろう。

 

「ほほー、須美。嬉しそうじゃないか。ん?」

「満更でもなさそうだな」

「そ、そんな事……!」

 

銀(小)と晴人にからかわれて、今度は顔全体を赤くして首を横に振る須美。その挙動がなんとも愛くるしい。

 

「……」

 

そんな中、須美の頭を撫でていた遊月の背後から、その様子を虚ろな目つきでジッと見つめている、東郷の姿が。そこから発する、無言のオーラを目の当たりにしてしまった何人かは、只ならぬその様子に内心震えが止まらない。

 

「お、お姉ちゃん……。もしかして東郷先輩は、自分で自分に嫉妬をしてるんじゃあ……」

「自分の敵は自分自身なのね。偉人で誰か言ってそうな言葉よね」

「全力で同意するわ」

 

犬吠埼姉妹と藤四郎が、彼女に聞こえないようにヒソヒソ会話している。きっとこの後、自分達の目が届かない場所で存分に遊月に寄り添って甘えるだろうな、と想像しつつ、場の流れは、全員の自己紹介へと移っていく。

 

「あ、改めまして自己紹介を。神樹館小学校6年、鷲尾須美です。今後ともよろしくお願いします」

「須美は相変わらず堅いなぁ。んじゃ次は俺だな!俺は市川晴人!一応武神の部隊長やってます!色々と頑張りますんでお願いします!」

「乃木園子です〜。そこの園子さんの小さい頃です。よろしくお願いします」

「僕は、神奈月昴と言います。こちらには同姓同名がいますので困惑するかもしれませんが、よろしくお願いします」

「三ノ輪銀、です!あたしにも同一人物がいますけど、よろしくお願いします!元気なら負けません!ほら、巧も挨拶」

「……鳴沢巧。まぁ、よろしく」

 

巧(小)の、少々ぶっきらぼうな挨拶が済んだところで、兎角ら讃州中学組やひなたも自己紹介を始める。

 

「では、6人がこの世界に召喚された理由もしっかりお話ししますね。東郷さんと昴君の手作りお菓子でも食べながら聞いてくださいね」

 

そうしてひなたから、友奈達がこの世界に初めて呼ばれた時と同じ説明を聞かされた6人の小学生勇者。

 

「……成る程。大体わかった。……それで、個人的に少し気になる事があるが、質問してもいいか?」

「?はい、どうぞ」

 

小さく頷いた巧(小)は、ひなたではなく、未来の自分に目を向けて、こんな事を話し始めた。

 

「あんたが未来の俺……か」

「……あぁ」

「その左目……。今の自分にはなくて、未来の俺にはその傷がある。……一体、元いた世界で何があったんだ?」

「あ!そういえばあたしもそれビックリしたんだよな!こんな事言っちゃ失礼かもしれないですけど、なんかカッコいいっすよ!きっとそれだけ巧もお役目に頑張れたんだなって!」

「あぁ〜。努力の勲章ってやつだね〜」

「勲章か……。いい響きだな!」

「ちょ、ちょっとあなた達……。すみません巧さん。気分を悪くしてしまっていたら、私からも謝ります」

「……、いや気にするな。この2年間で色々あってな。大した事はない」

 

巧(中)は肩をすくめてそう呟く。が、銀(中)の表情は複雑そのものだ。そんな中、昴(小)も、未来の自分を見て気になる点が。

 

「(そういえば未来の僕の右腕だけが、みんなと違って丈の長い手袋をつけている……。日焼け防止という線も無さそうだし、よほど見られたくない何かがあるのかな……?)」

 

今からでも本人に直接尋ねてみようとも考えたが、大勢の前で相手の機嫌を損ねてしまっては宜しくない。晴人や銀と違ってこういった配慮には良識的な昴(小)は、機会を見て聞いてみようと心に決めた。

皆の様子を見ていた源道も、このままではいけないと直感が働き、口を開いた。

 

「兎にも角にも、今は造反神を鎮め、分裂する事を阻止しなければならない。そうしなければ、ここにいる全員、元の世界に戻る事もできない。そうだったな、ひなた君」

「え、えぇ。なので現実のお話は、その後という事にしませんか、巧君?」

「……まぁ、無理して聞き出す事でもないからな」

 

巧(小)の口調からして、もしかしたら未来の自分の左目が潰れているのには、思った以上に深い事情があるのでは、と勘づいているのかもしれない。だが、今はその事で討論するわけにはいかないだろうと、自ら身を引いてくれたようだ。

 

「あ、ならあたしからも質問!現実に戻っても、時間は経過してないんですよね?」

「はい。そこは大丈夫です。あなた達が遠足の前に召喚されたのなら、遠足の前に戻る事になります」

「成る程……」

「良かったー。みんなはもう知ってるかもですけど、ウチには金太郎っていう赤ん坊の弟がいるから、それが気になっちゃって」

「そうですね。僕らの時代ではまだ歩けない年頃ですから」

「クラスのみんなも、こっちの世界にいるのかな?ちょっと聞いてみたいな!」

 

などと、小学生組が和気藹々と話し始め、中学生組の何人かがその話題に食いつく中、銀(中)が、ひなたの裾を少し引っ張り、小声で話しかけてきた。側には、東郷と園子(中)もいる。

 

「……なぁひなた」

「?何でしょうか」

「いやさ……。もし、もしもだよ。あたしらがこの世界で何かやった事で、現実の歴史とかが変わったりとかする?」

「!そうね。私も気になってたわ。起こった事が無かった事になる、なんて奇跡は……」

「そ、それは……」

「いや、無理なら無理でもいいんだ。ただ、何となく、さ……。未来は、変えられるのかな、なんて……」

 

乾いたような苦笑いを浮かべる銀(中)。平気を装っていても、内心に渦巻く期待と落胆は隠し切れていないようだ。押し黙るひなたを見て、東郷も何処となく諦めがついたようだ。

 

「……そう、よね。分かったわ。とにかく今は、お役目に集中しましょう。2人もそれでいいわよね?」

「……あぁ」

「みんなには、機会を見てゆっくりお話をしようね〜。……何にせよ、あの頃のすばるん達に会えて、私も嬉しいから〜」

 

未だ拭えぬ罪悪感を、胸の内に押し込めた3人は、友奈達に続いて会話の中に入る事に。

何れは話さなくてはならない、あの一件をいつどのタイミングで話せば良いのか、という葛藤に苛まれながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、小学生組と中学生組で打ち解けあっていく中、須美が、歳が近い樹と冬弥に話しかけてきた。

 

「これからこの世界で暮らしていくうえで、質問があるのですが、宜しいですか?」

「な、何かな?何でも聞いてね、須美ちゃん」

「おいらは構わないッスけど」

 

その様子を目視した風が、突然涙腺を緩ませた。

 

「……ッッッ!樹が!小学生に対して!歳上であろうと、振る舞っているわッ!」

「ふ、風先輩が泣いている……⁉︎」

「お、おめでとうございます……?」

「いやいや、過保護すぎるでしょ」

「まぁ良い傾向だとは思いますけどね。冬弥君も」

 

とまぁ、部室の片隅で一悶着ある中、彼女からこんな質問が。

 

「ここは中学校のようですし、私達は普段何処で勉強すれば良いのですか?」

「し、しっかりしているね……!そして鋭い質問……!」

「さ、さすがは東郷先輩の小学生時代ッス……」

 

2人の1年生がたじろぐ中、アナフィラキシーショックの如く、ゾクリと体を震わせたのは、晴人と銀だった。

 

「ちょ、須美⁉︎勉強って」

「こ、こんな特殊な世界に来てまで、ベン=キョウ?おいおい鷲尾さん家の須美さんや。それ本気かい?」

「わっしーはこういう時、冗談言わないよね、ミノさん」

「こらこら、小学生園子のセリフを取らないの」

 

小学生よりも早く口を開いた中学生の園子は、夏凜の手で別方向に連行される。

 

「良いじゃん勉強なんてさ。今は元の世界に戻れるようにするのが1番ですし。そうですよね樹さん、冬弥さん?」

「いいえ、勉強は大事よ。勉強と鍛錬は常に欠かしてはならない。そうですよね樹さん、冬弥さん?」

「「はうぅ……」」

「ほらほらお2人さん答えなさいな!歳上の威厳を見せつけちゃいなさい!」

 

部長が2人に(というよりも妹に向けて)催促する。言葉を詰まらせた2人だったが、やがて観念したように答えを述べる。

 

「え、えぇっと……。勉強は、大事だと思うよ。少しぐらいは、うん、やった方が良いかな……。冬弥君も、そうでしょ?」

「へっ?ま、まぁそうッスよね。やらないよりはやった方が良いと思うッスよ」

「グゥ……。言ってる事は合ってるんですけど……」

「何というか、ある意味夢の世界なのに、夢がない……」

 

上級生2人にそう言われてしまっては成す術なし、と観念したかのように、引き下がってしまう晴人と銀(小)であった。

 

「勉強は大事……よく言ったわ2人とも。今度、2人の勉強、私が見てあげようかしら?」

「当然、冬弥も勉強するんだよな?」

「そ、それは、まぁ……」

「中学生の三ノ輪さん。あなたも、自分は無関係だなんて思ってないわよね?」

「ヒェ……!ろ、ロチモンですよ!」

 

東郷と藤四郎、そして安芸に挟まれ、元から小さい方の冬弥と銀(中)は更に縮こまったように見受けられる。

 

「ともあれ、この世界でも大赦は滞りなく機能している。差し当たって、明日からこの地域の小学校に通えるように手配しておく。住む場所は、ひなた君と同じ寄宿舎で構わないか?」

「あそっか。大橋までわざわざ帰れないっていうか……」

「そもそも、この世界では大橋は依然として敵に占領されたままだからな」

「お〜。家を出ての生活、何だかワクワクするよ〜。私に出来るかな〜」

「園子なら大丈夫だろ!まぁ何かあったら俺達でサポートすれば良いしさ」

「おぉ、小学生の遊月君も頼りになるなぁ〜!」

「寄宿舎って、何だか懐かしい響きだね〜。羨ましいなぁ小学生の私」

「今いる別荘と同じ場所に居座ると、色々と混乱しそうだからね」

 

昴が苦笑いを浮かべると、園子(中)のボヤきを聞いていた園子(小)が、こんな提案を。

 

「時々入れ替わりましょうか園子先輩。案外気づかれませんよ〜きっと〜」

「「いや気づくだろ」」

 

返す刀で反応したのは、隠れたツッコミ役を担う、2人の巧だった。そんな事はお構いなしにと、2人は腕を組んでグルグル回り始めたかと思うと突然立ち止まって、互いにしばらく見つめあった後にこんな事を言い出した。

 

「私達の体が」

「入れ替わってる〜?」

「ちょ、だからいきなりややこしい漫才を持ち込まないでくれる?」

「……パロディ」

「ん?なんか言った巧?」

「いや、なんでも……」

「にしても自分が2人いるのに、混乱するどころか早速ネタに走るとはな」

「やっぱり底知れない才能を持ってるわね、そのっちは」

 

兎角と東郷がそう呟くと、銀(小)はいやいや、と口を挟む。

 

「東郷さんも動じてないと思いますけどね。……あ、これ須美とごっちゃにならない為の呼び方です、一応。もしかしたら勢いで、須美とか晴人とか言ったり、敬語じゃなかったりするかもしれませんけど」

「それは構わないぜ。自分が呼びやすいようにしてくれれば良い」

「えぇ。須美と呼び方が変わらないのも嬉しいし、今の呼び方をされるのも嬉しいし。とりあえず私は、小学生の方は『銀ちゃん』って呼ぶ事にするわ。……そういえば晴人君の方は、どう呼ぼうかしら……?」

「そうだな……。ならこの世界にいる間は、『晴人』じゃなくて『遊月』の方で呼んでくれよ。俺も東郷の姓で呼ぶからさ。それなら問題ないだろ?」

「そうね。慣れるまで時間がかかるかもしれないけど、そうしましょう」

「な、なんだか晴人君も須美ちゃんも、2年でこんなに大人っぽくなるなんてビックリしました……」

「確かに。未来の俺ってのは雰囲気で分かったけど、何で名前がごっそり変わってるのか、まだ分かってないしな」

 

昴(小)と晴人は、未来の自分達の変わりように、未だに驚きを隠せていない様子だ。

 

「自分が2人いると、大変だよね。私ばっかり嬉しがって、ごめんね」

「友奈ちゃん?」

「嬉しい……ですか?」

「だってほら、両手に東郷さん!うーん、ムテキだね!」

「隣に友奈ちゃんがいれば、私もムテキよ」

「は、はぁ。ムテキ、ですか」

 

東郷と須美の間に入った友奈は手を繋ぎ、興奮したようにそう叫んでいる。

 

「次は、両手に銀ちゃん!これは最強だね!」

「ヘヘッ。この三ノ輪銀様がいれば」

「なんだってやれるから!」

「それでもって今度は園ちゃん!わーい幸せ!」

「ゆーゆってば欲張りさんだ〜。でもね〜良いよ〜ガンガンいこうね〜」

「早速あいつらの輪に入って……。やはり友奈には色々と敵わないな」

「そうね。それにあたしも樹が2人いたら、更に幸せだものね」

 

と、ここでひなたが思い出したように口を開く。

 

「あ、そういえば6人に、精霊の事を説明するのを忘れてましたね。実は、かくかくしかじか……」

 

そうして精霊の事を聞いた6人の反応は様々だった。

 

「へぇ、そんな機能がついてるなんてな!」

「この世界じゃ、あたし達もその精霊ってやつをつけて戦えるわけですね。良いねイイネ!」

「神樹様の中の世界では、勇者システム及び武神システムの基礎能力は、まとめて最新のものに統一されています。本来、結城さん世代と須美ちゃん世代では、性能に差があると思うのですが」

「2年くらい開きがあるからな」

「その辺りが、この世界の中では差別化されず、均等に解決されているわけか」

「はい。つまりどれほど古い時代の勇者でも、ここでは性能は最新鋭のものになっています。西暦時代の皆は喜びますね〜。早く呼びたいです。もう間も無くの筈ですから」

「更なる援軍か……。心強いな!なら俺達もすぐにそのご先祖様を迎え入れられるように、力を合わせて頑張るぞ!」

『おぉー!』

 

晴人の掛け声で、一気に士気が高まる一同。

新たに解決すべき点は出たが、新たな援軍は、それだけ頼もしさを醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 




私事ですが、本日で25回目の誕生日を迎える事となりました。ゆゆゆと出会って早7年。まだまだ縁がありそうですので、今後とも頑張って参ります!


〜次回予告〜


「ホームシックってやつだね」

「オチ言うなし」

「面白い展開になってきたわね」

「牡丹餅食べる?」

「あんまり似てないような……」

「あったかいなぁ……」


〜精一杯の幸せを〜


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