結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回は新たな戦力が参戦です。

それはそうと、本日からゆゆゆいでは、同じ制作会社である『刀使ノ巫女』とのコラボイベントが始まりますね。リリフレ以来のコラボですから、どんな物語になるのか楽しみです。


4:不思議な再会

約300年前の西暦の時代において、巫女として当時の大赦を統べていた、上里ひなたからの依頼で、造反神を鎮める為の戦いに身を置く事となった讃州中学勇者部。

造反神が占領していない地域……即ち自分達が暮らす土地を防衛しつつ、占領された土地の奪還に出向いたりと、毎日がその予定でびっしり詰まっていた。とはいえ、これまで何度もバーテックスが星屑を連れて侵攻してきた事があったが、神樹の配慮によってデメリットがなくなった勇者や武神は、アクセル全開と言わんばかりに躊躇う事なく敵を薙ぎ倒していく。

その甲斐あって、順調に事は進んでいっているようだ。無論、敵は力を温存しているようにも見受けられる為、こちらから不用意に攻め上がる事は難しい。焦らず慎重に、自分達のペースで取り戻していく日々が続いていた。

そんなある日の事だった。

 

「ひなたー。勇者部全員、集合してるわよ」

「話があると聞いたんだが……」

 

勇者部恒例行事として、地域の清掃活動に赴く予定が、ひなたからの緊急招集という事で、顧問達を含めた全員が部室に集められたのだ。

 

「これから戦いも激しくなってくると予測されます。新型の敵もどんどん出てくるかと」

「成る程……」

「あ、そういえばその新型……何て呼ぼうかしら。新型バーテックス?普通に新型?」

 

不意に夏凜が、造反神が創り出したバーテックスの呼称について考え始めたが、すかさず風がざっくばらんに答える。

 

「もー面倒くさいから、全部一括りで、バーテックスでいいわ」

「あたしも風に賛成!これから新しい敵も出てくるかもだし、その方が気楽でいいや!」

「お姉ちゃんらしい、スパッとしたまとめ方だね」

「まぁ、俺も風の考え方に異論はない」

「……オホン。それで上里さん。何か進展でも?」

 

途中で脱線しかけるも、安芸先生の咳払いで再び注目はひなたに向けられる。

 

「はい。皆さんの頑張りが、早速身を結びました」

「というと……?」

「神樹様の力が、少し戻ったんです。なので、前に話していた、別の時代からの援軍を呼ぼうと思います。それで、全員でお迎えしようかと」

「おぉ、いよいよか!」

 

兎角を初め、皆が色めき立つのも無理はない。土地を奪還する事で神樹は力を取り戻し、更には強くなっていく敵勢力に対抗して、過去や未来から援軍として勇者や武神らを呼び寄せられる。神樹が創り出した世界に召喚された日に、ひなたから説明された事がいよいよ実行されようとしているのだ。

 

「別の時代の勇者がここに来るんだね、ヒナちゃん!うわぁ、楽しみだなぁ!」

「とても不思議な体験をすると思います。深呼吸してくださいね」

「不思議な体験、ねぇ……」

「何だか凄い事が起きる予感がするね〜。このドキドキはむねの高鳴りだ〜」

「では、呼びますよ」

「そ、そんな唐突に⁉︎」

 

真琴が慌てる中、一瞬部室内を光が包んだかと思えば、すぐに収まった。あまりの速さに何人かが困惑する中、彼らの目の前に、先程までいなかった筈の場所に、こじんまりとした人物が3人ほどいる事に気づくまでさほど時間は掛からなかった。

見た所、樹と同じ背丈ではあるが、讃州中学とは違う制服を身につけている。薄黄土色の後ろ髪をリボンで纏めている少女に、男勝りの活発そうな見た目の少女、そして背丈に似合わず大人びた雰囲気の少女。何れも小学校高学年と思しき3人が、呆然とした表情で立っていた。

 

「あれあれ〜?ここは何処かな〜?」

「何だよこれ⁉︎突然ピカッと光って気づいたら教室の中って、不幸体質って域越えてるし⁉︎」

「知らない人達が沢山……?……あれ?そのっちの……お姉さん?」

「あれ?ホントだ」

「私、お姉さんいないと思うけど……、でも似てる?お姉さんなのかな〜?」

「私に、妹いないと思うけど、でも似てる?妹なのかな〜?」

 

リボンの少女に反応したのは園子だった。雰囲気や口調までそっくりな2人の会話を聞いて、早速何人かが目の前の少女達の正体に気づく。

 

「!これってもしかして、同一人物なんじゃ?」

「そ、そうですよ!間違いなく、小学生時代の園子ちゃんです!」

「て事はその後ろにいるのは……」

「「まさか、あたし⁉︎」」

 

昴も興奮したように叫び、銀はボーイッシュな少女とシンクロする。園子と銀。背丈は違えど同一人物である事は間違いない。つまりもう1人の少女の正体は……。

 

「て事は……。ゆ、ユア、ネーム、イズ東郷さん?」

「いや相手外国人じゃねぇだろどう見ても⁉︎しかも日本語まで混じってるしめちゃくちゃだな」

 

隣から兎角の鋭いツッコミが入るが、尋ねられた少女は友奈の質問に戸惑いながらも答える。

 

「?は、初めまして。今は東郷ではなく鷲尾です。後、私は英語があまり好きではありませんので……」

「素晴らしい意見だわ。護国思想を感じる……」

「いや、だからな……」

「あ、これも間違いなく東郷本人ね」

「成る程。今の勇者部には、小学生時代に勇者や武神として戦っていたから、援軍としては当てはまるわけだな」

「で、でもまさか過去の自分達が呼ばれるなんて思いもしませんでしたよ」

「こ、こんな事が……!」

 

珍しく、この摩訶不思議な現象を前にして、昴や巧も驚いた様子だ。

ところが、ひなたは現れた面子を見て首を傾げていた。

 

「あらあら?もう3人ほど呼んだ筈ですが……。もしかして同じ場所に転移されなかったのでしょうか?

 

ひなたの発言からして、他にも3人の援軍が来ているようだ。小学生の頃の東郷美森改め、鷲尾須美達が援軍として呼ばれたとなると、残る3人の正体は……。

 

「……おい、こっちから須美の声が聞こえてたよな!」

 

不意に、廊下の方が騒がしくなったかと思うと、数人の足音がこちらに近づいているのが分かった。そうして勢いよく開け放たれた扉の向こうに見えたのは、遊月達が予想した通りの人物達だった。

 

「あ、須美!」

「あ、晴人君、みんな。良かったわ……、はぐれたかと思ったわ」

「お前らもいたんだな!……あれ?師匠も先生もいるし。ってかさ。どこだここ?」

「それが、あたしらも急にここに立たされて、もう何が何だか……」

「ねぇねぇすばるん!何だか凄い事になってるよ。私は、自分と巡り合ったんだ〜」

「え、え?自分と?どういう事なの?もう少し分かるように説明してほしいな……」

「……また随分と面倒な事に巻き込まれたな」

 

部室に入ってきたのは、やはりと言うべきか、須美達と同じく小学生の頃に武神として肩を並べてきた3人。真っ先に須美に駆け寄ってきたのは、小川遊月の小学生時代の本名、市川晴人。その後を追うように入ってきたのは、園子の幼馴染みである神奈月昴と、やれやれといった表情の鳴沢巧。

つまり今回招集されたのは、2年前に勇者や武神として戦ってきた面々。同一人物が一同に会するというのはあまりにも非科学的だが、神樹が創り出した世界ではそういった諸々の事情は皆無なのかもしれない。

 

「!あ、あぁ……!園子、あれ……!」

「……うん。きっと、そうだよ……!」

「?銀先輩、園子先輩、どうしたんスか?」

 

不意に激しく動揺する、中学生の銀と園子。一体どうしたのかと声をかける冬弥だが、2人の視線は小学生の巧と昴に向けられていた。まるで、久しぶりに見かけたような顔つきだ。園子に至っては涙腺が緩みかけている。

それもそのはず。2人が着目したのは、彼らの容姿だ。

巧の左目には、『傷』は何一つついておらず。

昴の右腕は、『人肌』のまま。

後からそれに気づいた東郷も息を呑む。つまりここにいる小学生の自分達は、あの遠足が終わった後の、彼女達にとって忌まわしい惨劇が起こる前の段階の存在なのだ、と理解する。中学生の遊月達もそれに気づいた事だろう。遠目で見ていた源道と安芸も、言葉を失う。

と、その時。部室内に端末を通じてアラームが鳴り響いた。敵襲だ。

 

「詳しい自己紹介は後ね。敵が来たわ」

「突然ですまないが、敵を退けるのが俺達の役目だ。手伝ってもらえるか?」

「っ。こんな時に……」

「……」

「どうしたのよ銀!シャキッとなさいよ!」

「っと、そうだな。行こうぜ須美。細かい話は後だ!」

「……そうね。同じ勇者同士、私達と国防しましょう」

「……!お役目、国防……!了解です!」

 

同一人物という事もあって、先程まで困惑していた須美も、そのワードを聞いて気持ちを引き締めたようだ。動揺していた銀達も、夏凜に叱咤されながらも、気持ちを切り替えて仲間と共に樹海へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、最後だぁ!」

「ふんっ!」

 

長い薙刀を大きく振り下ろした晴人の一撃が星屑を両断し、その後方から遊月が奥の敵を射抜き、敵影が見えなくなったところで、一同は肩の力を抜いた。

 

「どうやらこの世界では、僕達が戦っている大型とは別で、あの白いバーテックスや変異体とも戦う事になるようですね」

「でもぶっちゃけ、数ばっか多くて、大した事ない奴らだったな。イェーイ」

「イェーイ。お疲れ様でした〜」

「私ともハイタッチしよう!イェーイ!」

「あ、俺もおれも!イェーイ!」

 

銀、園子、晴人の輪の中に早速友奈が入り込み、ハイタッチする。友奈の、人柄の良さが垣間見えた瞬間である。

 

「……それにしても、同じ樹海とはいえ大橋が見えなかった所を見ると、俺達がいるのは、大橋市とは別の土地のようだな」

「そう、ですね。一体何処なんでしょうか?」

 

小学生の巧と昴が、戦闘中に気づいた事を話しているのを聞いた樹が苦笑する。

 

「あぁ、ろくに説明しないまま、戦いに来ちゃったもんね」

「それじゃあ俺の方でかいつまんで説明するぜ。実はかくかくしかじかで……」

 

そうして遊月の口から、この世界で起きている異変や、自分達がこの世界で成すべき事を簡略的に話し始める。

 

「……とまぁそんな感じだ。大変かもしれないが、頑張れば大丈夫な話だ。安心しろよ」

「成る程……、よく分かりました、イッチー先輩。イッチー先輩が言うなら大丈夫〜」

「イッチー先輩か。フフフ。なら私はわっしー先輩かしらね。私は、園子ちゃんって呼ぶわ」

「そういえば、呼び名の事も考えないといけませんね」

 

昴が今後の事を視野に入れる中、説明を受けた須美がオロオロとしているのが、彼らの目についた。

 

「じ、時代を超えて……神樹様の中……街の人達……。そ、そんな不思議が次々と……。あ、頭の処理が……」

「だ、大丈夫か須美?」

 

晴人が心配する中、東郷が優しく彼女に語りかける。

 

「もっと柔軟に物事を考えるのよ、須美ちゃん。大丈夫だから。周囲には仲間が、大好きな人がいるでしょ?」

「だ、大好き……?」

「うーん。いい事言ってるのは間違いないんだけど、自分で自分を説得とか、どこかシュールな光景だわ」

「それな」

 

風や藤四郎が指摘する通り、東郷と須美は同一人物な為、東郷の事をよく知る面々からすれば、どうしてもその発言に違和感を覚えてしまう。

そんな2人とは対照的に、大赦のトップに立つ一族の少女は、のほほんとした顔つきですぐに受け入れた様子だ。

 

「不思議な事は起こり得るよ。神樹様は神様だもん。そういう事も出来るんだよ、わっしー」

「さすがの神樹様だよ。あたしも尻尾をまくね。……へへ、難しい言葉知ってるだろ」

「知ってるからと言って使い所を間違ってたら意味ないだろ……」

 

鼻を高くする小学生の銀に対し、同じく小学生の巧は軽くため息をつく。

 

「けど、こんなに仲間が増えるなんて頼もしいな!しかも未来の俺達までいるんだし、こいつは百人力だな!須美、安心してみんなで戦おうぜ!」

「頑張ろうね、わっしー」

「そ、そうね。落ち着いたわ。ありがとう、晴人君、そのっち」

「纏まったようね。遊月も園子もやるじゃない。……っと、向こうは小学生だから、晴人君と、園子ちゃんか」

「わぁっ!夏凜ちゃんの君とかちゃん付けって何だかとっても新鮮だね!ねぇ、もう一回言って!」

「な、何でよ⁉︎別にいいでしょ⁉︎」

「へいへいにぼっしー。恥ずかしがらずに言っちゃいなよ〜。せーの」

「そ、そんな事言って、どうせメモして小説のネタにするつもりでしょ⁉︎その手には乗らないんだから!」

「アハハ。でも夏凜が言うと耳に新しいわね。真琴もそう思わ」

「大変です!敵の第2波が確認できました!」

 

不意に、昴と代わって高台から見張りを続けていた真琴の声を聞き、一同は蔦を伝って彼と合流する。

 

「本当だ。レーダーを見ると、例の新型が3体いるようだな」

「ヘヘッ。敵が何体こようが、刺身にしちゃえばいいってもんよ!板前はこの三ノ輪銀様にお任せってな!」

「おぉ、さすが未来のあたし。なんかカッケー!」

「どっちの先輩も、中々に頼もしいじゃない」

「へ?何で先輩?」

 

夏凜の一言に首を傾げる小学生の銀。小学生の身分としてはまだ知る由もないだろうが、銀の勇者システムは、夏凜の勇者システムにも引き継がれている部分がある為、夏凜の発言はあながち間違いではないのだ。

そうこうしている内に、2人の昴が敵の進行を把握する。

 

「敵影が見えました!」

「前方から約20キロ。1分ほどでドッキングするかと」

「はっはーん。またあれか。あれなら1度戦ってるから、3体こようが文字通りお刺身ね」

「見た目が同じだからって、同じパターンで攻めてくるとは限りません」

「そうだね〜。相手は知性を持ってるみたいだから、気を緩めちゃダメだよ〜」

「油断は禁物です、風先輩」

「はいすいません……」

 

速攻で謝る風。2人の園子と東郷。特に中学生2人の口調はどことなく険しさを匂わせる。そうなるのも無理はないのかもしれない。小学生時代の記憶が戻っているからこそ、油断している時が最も危険だという事を身に染みて理解している。

それもあってか。その後の新型バーテックスとの交戦も、大きな損害を出す事なく、戦いは勇者部の勝利に終わった。とりわけ、同一人物同士の連携の取れた戦い方が一際目立つ一戦だったのは間違いないだろう。

 

 

 

 




同一人物の参戦で、私個人の1番の悩みとしては、セリフの増量よりも、キャラの書き分けなんですよね……。誰が発言したか分かりやすくなるようには精進しますが、どうか温かい目で見守ってください。


〜次回予告〜


「満更でも無さそうだな」

「あんたが未来の俺……か」

「全力で同意するわ」

「どう呼ぼうかしら……?」

「お、おめでとうございます……?」

「未来は、変えられるのかな、なんて……」


〜頼もしき援軍〜


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