結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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今回はひなたを中心とした日常回となってますが、そこそこカオスな状況に……(笑)

では、どうぞ。


3:上里ひなたの歓迎会

「お姉ちゃん、逃げたインコの捜索依頼が来てるよー?」

「老人ホームからも、作業の手伝いに関するものが届いてますね」

「メールで、落ち葉掃きの依頼も来ています」

「勇者が落ち葉掃き、か。はぁ〜……」

「何というか、こうして冷静に見ていると、別世界にいるような実感が湧かないというか……」

「それよね。なんだかんだ普通の日常を謳歌してるようにしか思えないのよ」

 

元いた世界と寸分変わらぬ雰囲気に、違和感を隠し切れない部員達。

造反神の侵攻を阻止し、元の世界を取り戻すべく、神樹が造り出した空間で過ごすようになって、早1週間が経とうとしていた。この1週間の間にも、バーテックスとの戦いは3度行われ、何れも勇者達の手で勝利を収めている。

一刻も早く異変を解決したい所ではあるが、敵の力は未知数。援軍が揃うまでは、迂闊に奪われた土地を奪還できない。その為、今はこうして普段通りの生活をしつつ、万事に備えなくてはならない。

が、土地が造反神によって奪われるかもしれないと聞かされて、気が気でない事も相まって、例の如く勇者部に押し寄せる依頼の数々に戸惑いを隠せない。

と、そこへ新たな勇者部員として籍を置いたひなたが、安心させるように口を開いた。

 

「それで良いんです。その方が、余計な精神力を削らずに、リラックスして戦えますから」

「……所でヒナちゃんは大丈夫?お友達と離ればなれで、寂しくない?」

「平気です。そのうち逢えると信じてますから」

 

友奈が心配そうに尋ねたのに対し、ひなたは即答。

 

「ひなたさんにも大切な人がいるんですね」

「えぇ。とても大切な人が。今はそばにいませんが、心はちゃんと繋がっています」

 

自信満々に答えるひなたを見て、園子は快調にペンを走らせていた。

 

「お〜、素敵な事言うね〜ひなタンは。メモしてこ〜っと」

「っておいおい。またお前はそうやって……」

「園子さん。時折そうやってメモをしている所を見かけますが、普段から言葉を書き留めておくんですか?」

「そー。いつか、ひなタンの想い人に遭遇したら、恋物語でも書くかもしれないから〜」

「ちょ、そんなの本人の許可なしに勝手に書くもんじゃ……」

 

銀がやんわりと注意しようとすると、ひなたが見た目からは想像もつかないような速さで、園子の前に立ち、その両手を握って興奮気味に叫ぶ。

 

「書いてください。是非、書きましょう。えぇそれが賢明です!」

「……僕、この方が時々怖く感じます」

「奇遇だな。俺もそう思った所だ」

 

ひなたに気づかれない場所で、ひそひそ話をする真琴と藤四郎。他の何人かも、ひなたから得体の知れないものを感じ取って身震いしているようにも見受けられる。

とそこに、そんなものを感じ取った様子を見せない友奈からこんな提案が。

 

「そうだ!風先輩、ヒナちゃんの歓迎会をしませんか?」

「あぁ、そういえば色々あって忘れてたわ。勇者部に入ったからには、歓迎しなきゃね。藤四郎もみんなも良いでしょ?」

「あぁ、今日はそんなに忙しくなさそうだから、今から準備しても日暮れには間に合うだろうしな」

「歓迎かんげい、大歓迎〜」

 

皆がこの後の予定を進めていく中、彼女だけは戸惑った様子で首を横に振る。

 

「いえ、私はそんな……」

「勇者部の事も色々知って欲しいし、パーティーしよう!」

「幸いこれだけ部員もいるわけだし、買い出しや軽い掃除にも時間はかからないからな。いきなりの開催には何ら問題ないぞ」

「そんなそんな。私はそんな立場では……」

「まぁ良いじゃないか。実際、俺や安芸君が入った時も、同じように歓迎会を開いてくれたしな。ある意味伝統みたいなものだと思えば、気が楽だろう?」

「そうそう〜。ひなタンだってリラックスしてて良いんだよ〜」

 

園子だけでなく、同じく部室にいた、副顧問の源道にも催促され、ひなたも観念したようだ。

 

「そ、そうなんですか……。あぁ、園子さんの顔で言われたら断れません」

「何でですか?」

「中身はまるで違いますが、この声、この顔があの人を思い出させるのです。ほぅ……」

「そんなに似てるのか、乃木若葉って人と園子は……」

「ま、まぁ良いわ。とりあえず買い出しなら私が出るわ!」

「あ、私も!」

「僕は一旦別荘に戻って作り置いてあったお茶菓子を持ってきますね」

「それじゃあ、俺達は……」

 

などと、部員達が自主的に役割分担をする中、東郷がひなたに近寄り、意味深な表情で語りかける。

 

「……分かるわ」

「は?」

「その切ない気持ちが、痛いほど分かる。私がそうだったから。もしもまたあんな事になったら、耐え切れないかもしれないから」

 

その言葉は、約2年前にお役目を果たすべく勇者として戦い、結果的に大切な仲間達と生き別れてしまった彼女だからこそ、深い意味が込められている。その事に薄々気づいたのかは定かではないが、ひなたは少し言葉を詰まらせながらも、感謝の意を述べる。

 

「……ありがとうございます、東郷さん。そのお言葉が、私の心の支えです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約2時間後。部屋を軽く掃除し、買い出しで揃えたジュースやお菓子、そして東郷や昴が家に戻って用意してきた手作り菓子をテーブルに並び、職員室で仕事を切り上げてきた安芸を呼んで全員が揃った所で、風が代表して乾杯の音頭を取る。

 

「それでは皆の衆、グラスを持てぃ。上里ひなたの入部を祝して、かんぱーい!」

『乾杯!』

 

ジュースが入った紙コップを全員が掲げ、一口含んだ後、夏凜がふと思った事を口にした。

 

「そういえばさ。今更野暮な事かもだけど、巫女なのに勇者部って、変じゃない?」

「あいすみません。何分、今は根無し草の身ですので」

「まぁ細かい事は気にするなよ」

「細かい事かしら?」

「あの、そもそも巫女さんって、何をするんですか?」

「あ、ちょっと聞いてみたいかも?」

「特にこれといってお話しするような事は……。強いて言えば、神樹様の声を聞く事ですね」

「神樹様の声を⁉︎それスッゲェ事じゃん!」

「そういえば、安芸先生の家系でも代々巫女を輩出しているって聞きますけど、どうなんですか?」

「そうね。私自身にはそんな素質はないし、先祖がそうだっただけで詳しくは答えられないけれど、上里さんの返答で概ね合ってるわ」

 

聞くところによれば、ひなたが生きていた時代では、安芸先生の先祖はひなたと同じく、巫女を務めていたらしく、かなり位の高い所属だったらしい。

 

「ってか神樹様って、どんな声なんだろな?」

「わ、私も気になります!」

「おぉ、樹が食いついてるわ」

「実際に音声として聞こえるわけではなくて、意識が伝達される感じなんです」

「じゃあ、テレパシーみたいなものという事ですか?」

「そうかもしれません」

「成程ねー。それってさ、例えば……、不摂生してたら怒られたりする?」

「え、どうでしょうか……」

「おいおい、神樹様が食べ過ぎ注意やら早く起きろやら、一々注意するはずがないだろ?」

「お姉ちゃん、神樹様はお母さんじゃないんだよ?」

「うっ……。彼氏と妹にマジ顔で諭される私……」

 

密接関係な2人からの一言に、流石に堪えたのか、若干凹んだ様子の風。

 

「ささっ。折角だし、お菓子食べようぜ」

「牡丹餅も沢山あるわよ?」

「手作り和菓子もあります。お口に合えば良いですけど」

「ありがとうございます。東郷さんの牡丹餅も、昴君の手作り和菓子も、大好物になりそうです。流星君のご子孫が作ったとあれば、とても気にいるでしょう」

「そうね。ひなたさんの大切な方々も、気に入ってくれると思うわ」

「えぇ。……えぇきっと。東郷さん。あぁ……、その日が待ち遠しいです!」

「ねぇ、あの2人どしたの?ちょっと様子が変っていうか、急に距離感近くなったっていうか……」

「俺に聞かれてもなぁ……」

 

ひなたの様子の変貌ぶりに首を傾げる上級生2人であった。

 

「んじゃ、こっちから聞いてばかりじゃアレだし、ひなたは何か、聞きたい事とかはないのか?」

 

続いて兎角が、ひなたから質問を催促する。

 

「そうですね。それでしたら、ずっと思ってた事があるのですが……」

「?」

「勇者部の皆さんは、精神的にしっかりしていて、落ち着いている方ばかりですよね」

「まぁね」

「そ、そうでしょうか?」

「この勇者部は、設立時はまだ安芸先生や源道先生がいなかったそうですから、風さんと藤四郎さんが基盤を作り上げた事になりますが、お二人が敢えてそういう人選をしたんですか?」

「いや、それはないな。そればかりは見抜けられないし(流石に大赦から半ば強引に指名された、なんてひなたには伝えられないしな)」

「第一、夏凜なんて全然落ち着いてないし」

 

風の一言が、夏凜の癪に触ったらしく、ムッとなって立ち上がる。

 

「はぁ?私ほどどっしり構えてる人がいる?落ち着きといえば、この私でしょーが」

「「「「「それはないな」」」」」

「ちょ、何で頑なに否定するの⁉︎」

「そりゃあお前のこれまでの言動を見てたら、落ち着きなんてないだろ」

「な、何を根拠にそんな……!」

「あれれ〜?バーテックス倒した後で、私ここにいて良いのかしら〜、なんてパニクってたのは誰だったっけな〜?」

「そ、そんな事言ってないでしょ銀!それを言うなら、私を探しにきた挙句、顔面から砂にダイブした……」

「わぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎それは言いっこなしだよー⁉︎」

「いえ、あの……」

 

ひなたが困惑した様子で声をかけようとするが、脱線した話題は更にヒートアップし……。

 

「パニクってるって言ったら、真琴なんかだと、夏凜絡みは大抵アタフタしてるイメージがあるけどな」

「ぼ、僕がですか⁉︎ひ、否定はしづらいですけど……」

「な、何顔赤くしてんのよ⁉︎否定しなさいよそこは!こ、こっちまで恥ずかしくなるじゃない!」

「まぁ私が知る限りでは、落ち着きがなかったのは小学生時代、毎朝遅刻ギリギリで教室に駆け込んでた……」

「ちょ、先生⁉︎いきなしその話はナシでしょ⁉︎」

「でもパニックといえば、わっしーの右に出る者はいないよね〜。だってあの時壁を……」

「?壁を?」

「(お、おい⁉︎それはさすがに大赦の最高権力者に教えたらマズいだろ⁉︎須美、否定しろよ!)」

「ちょっとそのっち!い、今のは何でもないから!ぱ、パニックの話だったら、樹ちゃんが歌のテストで……」

「あぁ、教科書を逆さまにしてたアレッスね!」

「あ、あれは!あの時は、その……すみませんでした」

「……まぁ見ての通りだ。誰一人として落ち着いてないだろ?」

 

藤四郎が、咥えていたチュッパチャプス(マスクメロン味)を外して苦笑しながらそう結論づける。

 

「いえ、あの。そう言う意味ではなく、私は……。突然こんな異世界に召喚されたにも関わらず、あまりにも平然とその事を受け入れ、敵に対処しているのが凄いと……言いたかっただけです」

「?そぉ?だってそうするしかないもんねぇ?」

「そうですね」

「それに、勇者部は人の為になる事を勇んでやる部活だもん。当たり前だよ」

「成程……」

 

友奈の言葉を聞いて、ひなたは改めて、現代を生きる勇者、武神達の強さを実感したようだ。

 

「とは言ってもな。ここに至るまでは、俺達も色々あってさ……」

「一朝一夕に出来上がった空気ではない、と?」

「まぁね。先生方が入るまでは、そりゃあ色んな事があったわ……」

「と、言うと?」

「そもそも、勇者部の成り立ちはというと、あれはかれこれ、あたしや藤四郎が1年生だった頃……」

「はぁ」

「……これは長くなりそうなパターンだな」

 

巧が早速、この後の展開を予測して呟く。

 

「すばるん。お菓子はまだあるよね?」

「あ、俺も食いたいな」

「沢山あるのでどうぞ」

「牡丹餅も沢山あるわよ、晴人君」

「お、サンキュー」

 

他の面々がお菓子に夢中になる中、風はひなたに勇者部設立のルーツを語り始めた。

 

「……というわけなんだけど、そもそもその考えは、樹が産まれた時に遡り……」

「はぁ」

「更に昔の話になってないか……?」

 

巧が懸念する中、他の面々は気にせずお菓子を堪能する。

 

「私もおかわりいいですか?」

「どうぞお構いなく」

「幾らなんでも、もうすぐ終わるよね……?」

「いや、風君の事だから、これは……」

 

源道の予想通り、そこから10分ほど、風が一方的に説明する展開となり、更に……。

 

「言葉にしてそう教えてくれたのは、私が通ってた幼稚園の園長先生であり……」

「はぁ」

「更に長引くわね、これ」

「さすがに止めた方が良いでしょうか……?」

「東郷さんと昴君のお菓子があって助かったね〜。もう一つ貰っちゃおっと」

 

そう言って友奈が皿の牡丹餅に手を伸ばしたその時、側に置かれていた友奈の端末から、湧くように飛び出してきた牛鬼が行く手を遮る。

 

「わっ、牛鬼が出てきちゃった!って、私の牡丹餅食べないでよー!」

「あ、それは精霊、ですよね」

 

と、ここでひなたが友奈と牛鬼のやりとりに気づき、ようやく意識がそちらを向いた。

 

「ちょっと友奈!牛鬼のせいで話の腰が折れちゃったじゃない!」

「すいません!すぐ引っ込めますから!」

「(牛鬼……。ナイスタイミングだ。後で何か奢ってやるからな)」

 

内心、牛鬼の介入にホッと胸を撫で下ろす兎角であった。

 

「あ、ちょっと待ってください。……へぇ、人間の食べ物を食べるんですね。興味深いです」

「そういえば、ひなたさんの時代の勇者には、精霊ってついてなかったんですよね?」

「えぇ。実際には神樹様とアクセスして、体内に取り込む仕組みだったらしいですけど、私は実態そのものは拝見した事がないので……」

「体内に取り込む……。!精霊降ろしか……!」

「昔はそれが主流だった訳だな。相当負担がかかる訳だし、かなり大変な戦いだったんだろうな」

「あの……。宜しければ皆さんのも見せていただけますか?」

「それは構わないけれど……」

 

一瞬躊躇う面々だったが、新入部員のお願いとあっては無碍にも断れないので、早速一同は端末を操作し、久々に全員の精霊を外に出す。

東郷の調教で一列に並んだ精霊達を見て、ひなたは目を輝かせている。

 

「凄い……、壮観ですね。それに、どれも可愛らしい」

『百花繚乱』

「まぁ!喋った⁉︎」

「へへっ。あたしの鈴鹿御前はこんな風に喋れるんだ」

「因みに、私の義輝もよ!」

「いや、喋るったって……」

『諸行無常』

「それぐらいしかないでしょ。それに引き替え、あたしの犬神はモフモフなのよ〜ん」

「私の木霊はポフポフです」

「おぉ、モフモフのポフポフ……。良いですね。何というか、心が和みます」

 

関心しているひなただったが、不意に声のトーンが変わったように、源道は感じとる。

 

「こんな存在が有れば、私達の時代も、何か変わっていたのかもしれません……」

「ひなた君……」

 

その様子を見て、どんな言葉をかければいいか思案していた源道だが、不意に悲鳴が聞こえて、その思考は遮られる事に。

 

『外道メ!』

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!友奈!牛鬼がまた義輝を食べてるぅ!」

「うわぁ!牛鬼ダメだよぉ!」

「そういえば、西暦の勇者達が来たら、その時は精霊も追加されるのか?」

「えぇ。この時代に合わせて最新式に強化されると思いますので、皆さんのサポート役として召喚されるかと」

「……」

「東郷先輩?どうしました?」

「いえ……。ただでさえ今のままでも、外に野放ししてても空間が圧迫されるのに、更に増える可能性があると思うと……はぁ」

 

軽く頭を押さえる東郷。

 

「またかじってるッス⁉︎」

「うわーん!牛鬼もうやめたげてぇ!」

『外道メ!外道メ!諸行無常……、外道メ!諸行無常……外道メ!』

「いやおかしいおかしい!義輝がディスコバージョンみたいになってるし!」

「これ割とマジでヤバいんじゃ……」

「き、救出しましょう!」

 

さすがにこれ以上は義輝の身が危ないと思ったのか、他の精霊達と協力して事にあたろうとする勇者部一同。そんな様子を見て、ひなたは一言。

 

「皆さんの自信や落ち着きは、精霊という存在にも守られているからなんですね、きっと」

「いやこの騒ぎの中でどんなオチの付け方⁉︎」

「ひなた……、恐ろしい子!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そんなこんなで義輝を救出後、精霊達を端末に戻し、一息ついた所で、時間を確認する。まだお開きにするには早いようだ。

と、ここで園子がひなたにこんな質問を。

 

「ね〜ね〜。ひなタンは、隠し芸とかはないの〜?」

「隠し芸……私がですか⁉︎」

 

突然の催促に驚くひなたに対し、園子は小声で話しかけた。

 

「勇者部に新人さんが入る時には、必ずしなきゃいけないんだよ〜?」

「そ、そうだったんですか……」

「いやサラッと嘘言ってるし!コロッと騙されてるし!」

 

勿論、園子の耳打ちが全員に丸聞こえだったのは言わずもがな。が、ひなたは相当困り果てている様子だ。

 

「困りましたね。私は写真を撮るぐらいしか、芸がないものですから」

「写真を?ちゃんとあるじゃん、芸が」

「じゃあ、みんなで写真撮ろうよ!」

「賛成だな」

「分かりました。それでは、皆さん並んでください」

 

そう言われて、自然な流れで一旦席を立つ一同。

 

「それでは撮りますよ。月並みですが……、はい、チーズ」

「ひなた、入ってないし!」

 

風のツッコミが炸裂するが、時すでに遅し、シャッターは切られていた。

もう一度撮り直そうとするが、その前にひなたから質問が。

 

「皆さんも、特技や隠し芸をお持ちなんですか?」

「特技と自慢できる程ではありませんが、料理を作るのは当てはまりますね」

「分かります!このお菓子の美味しさは、コツコツと積み上げてきたものでしょうから」

「巧は、物作りとかが特技だな!偶に勇者部に依頼でくる備品の修理とかは巧の専門だし!」

「まぁ、そんな凄い特技をお持ちで……!」

「何で銀が鼻高々なのかは分からんが、まぁそれぐらいしか取り柄がないからな。だが最近は真琴にも教えているがな」

「は、はい!まだまだ未熟者ですが……」

「樹の隠し芸といえば、やっぱり歌よね!」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」

「後、占いも得意ッスね」

「う、うん一応」

「それは素敵ですね」

 

と、ここで遊月から提案が。

 

「折角だしさ、ひなたの事、占ってやったらどうだ?聞いた限りじゃ、巫女の仕事も占いと似通ってる部分もあるしさ」

「そうですね。お願いできますか?」

「は、はい!即興で歌うよりはそっちが良いです」

「樹頑張れー!古代の巫女に、占いパワーを見せつけておやり!」

「古代って……」

 

的外れな応援に項垂れる夏凜。その間にも、樹は占いの準備を進めていく。

 

「私は、いつもタロットカードを使ってます。このカードをこうして並べて、捲ると……、はうぁ⁉︎」

「えっ」

『……あぁ』

 

困惑するひなたを他所に、周りで様子を見ていた面々からはため息が。

 

「出たな、樹名物」

 

巧がボソリと呟くその視線の先には、恒例(?)の『死神』のカードが。

 

「私、死ぬんでしょうか……?」

 

不安げにカードを見つめるひなたに、樹は慌てふためきながら次のカードを捲る。

 

「ち、違いますちがいます!も、もう一枚……」

 

そうして次に捲れたカードはというと……。

 

「今度は……『戦車』だな」

「戦車……」

「死神に戦車という事は……」

「私、戦車に轢き殺されるんでしょうか……?」

「あわわわ……!ち、違うんですちがうんですこれは……!ご、ごめんなさ〜い!」

 

遂には涙目になる樹。が、巫女であるひなたは、カードの意味を直接的に捉えているわけではないようだ。

 

「うふふ。冗談ですよ樹さん。きっと解釈があるのでしょう?」

「そ、そうなんです!よくご存知ですね」

「神樹様の御神託も、ある意味では解釈次第な所がありますから」

「えぇ、そうね」

 

安芸もひなたの意見に同意する。

 

「それで、戦車のカードにはどんな意味が?」

「はい。色々と意味はありますが、行動力や開拓精神、負けず嫌い。また、援軍という意味もあります」

「おっ、援軍は当たってるかもな。俺達の努力次第で、新しい勇者が呼べる訳だし」

「それは実に素晴らしい結果です」

 

ホッと一安心するひなただったが、ここで園子が横槍を入れるような発言をする事に。

 

「それで、死神さんの意味は〜?」

「そ、園子ちゃん……!」

「し、死神は……。終末、風前の灯火、全滅、ゲームオーバー……」

「ってそれ、援軍が来て全滅って暗示か⁉︎」

「……」

「それは、ちょっとヤバくないか……」

「ちょっ、調子が悪かったのよ今日は!ね?樹、あんた昨日食べすぎたから!」

「あ、そ、そうなんです!プリンを3個も食べちゃって……ぇ」

 

どうにかして弁明する樹。しかしそんな事は気にしてないのか、ひなたはカードに手を触れる。

 

「私もカードを引かせてもらって良いですか?」

「どうぞどうぞ!そういう占い方もありますので」

 

そうして一度カードをシャッフルし、裏向きのまま、ひなたは1枚のカードを引く。出たカードは……。

 

「これは、『恋人』のカードね。樹ちゃん、意味は?」

「えっと……。誘惑と戦う、自分への信頼、情熱、絆、深い結びつきと……、結婚」

「まぁ……」

 

最後の樹の発言で色めき立つ部室内。

 

「成る程……。んで、全部のカードを合わせたら、どんな意味になるのさ?」

「援軍が来て〜、風前の灯火で絆が深まって〜、結婚する、とか〜?」

「あっ……。それはなんて……、なんて素晴らしい結末でしょう!」

「良かったわね、ひなたさん」

「ありがとうございます!私は誘惑と戦いながら、情熱的に待ち続ける事にします!」

「うぉ、めっちゃ目がキラキラしてるな」

「……こんな解釈で良いのか?」

「ま、まぁよく分からないが、助かった……かもな。色んな意味で」

「凄いね、占いの力って」

「はい、盛り上がってる所で悪いけど、そろそろお開きにしましょう。下校時間も迫ってるし、私と源道先生も仕事に戻らないと」

「そうだな。では最後に集合写真を撮ろう。無論、タイマー設定で全員が写るようにな」

 

先生達の一言で、一同は最後に、集合写真を撮って締めに入る事に。

その集合写真は、現在も黒板の横に、額縁の中に飾られている。

 

 




『死神』のカードが名物扱い……(笑)

……さて、次回は新たな戦力が登場!


〜次回予告〜


「いよいよか!」

「不幸体質って域越えてるし⁉︎」

「そのっちの……お姉さん?」

「どこだここ?」

「こ、こんな事が……!」

「不思議な体験、ねぇ……」

「園子、あれ……!」

「きっと、そうだよ……!」


〜不思議な再会〜


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