結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
遂に『シンフォギアXD』で奏のエクスドライブモードが手に入ったぜ!
「ほら、こういうのはいかがですか? ご当地限定のキーホルダー。家族の分も買っていっても安いと思いますよ」
「えぇ〜? そんなジジくさそうなの好きじゃないんだよな。ってかウチは菓子の方がお婆ちゃんも喜ぶしさ。ただ、饅頭かクッキーかで迷うんだよな。巧はどう思う?」
「知るか。自己判断だろ」
「っていうか、お前何も持ってないじゃん! お土産買いに来たんじゃねぇのかよ⁉︎」
「……興味ないし。部屋には銀達しかいないし、外に出て来ただけだ」
「せっかく遠くまで泊まりに来たんだぞ! ほら、俺も選ぶの手伝ってやるから、なんか家族用に買っとけよ! お駄賃は貰ってるんだろ?」
「あ、僕も手伝います」
「お、おい」
旅館のロビー付近に設置されている土産売り場で、晴人、巧、昴の3人は合宿最終日の夜という事もあって、家族に持って帰るものを散策していた。ああだこうだと言い合いながらも、土産売り場の一角に見える、男子3人の和気藹々としたその姿からは、中の睦まじささえ感じられる。
晴人と昴に後押しされる形で、渋々ながらも一つ一つの商品を手に取る巧。そんな光景を、遠くから安芸が気づかれないように見つめていた。
「……」
風呂上がりでもジャージ姿の安芸の目線は、武神のリーダーである晴人に向けられている。3人の輪の中心になって笑いながら後の2人を先導する立ち振る舞いを見て、安芸の口から安堵の息が出た。
「どうだね、あの3人……特に、晴人君を教師として観察してきた感想は」
そこへ後方から、旅館の浴衣姿の源道が、肩からタオルを垂らし、腕を組みながら近寄ってきた。
「源道先生。今風呂上がりですか?」
「おう、晴人君に背中を流してもらってから、しばらくゆっくりしててな」
「背中を……?」
「おう。あいつときたら、俺の指導法がよっぽど気に入ったらしい。俺の事を『師匠』とまで呼んでくるのだからな。これからの成長が楽しみだよ!」
「先生の趣味を、無理やり生徒に押し付けただけではないのですか……?」
「そんな事はないさ。おかげであの3人の身体も、ちょっとやそっとじゃビクともしないようにはなった。主に晴人君が中心となって、2人を励ましていたのが大きな要因だろう」
「市川 晴人……。確かに、色々と目につく所はあります。勉強面はまだ不安な所はありますが、クラスにはちゃんと馴染めてますし、何より性格の違う2人をあぁやってまとめているのも事実。リーダーとしての適性は高いと思います」
普段は滅多に人を褒めない安芸も、晴人のリーダーとしての資質をそれなりに評価しているようだ。
「鍛錬の方も、滞りなくこなしていたからな。この分なら次の実戦でも、何とかなるだろう。……で、勇者の方はどうかね?」
「そう、ですね……」
と、ここで源道が勇者組の経過を確かめようとする。安芸は先ほどと打って変わって険しい表情を浮かべる。
「やはり、女子は扱いが難しいといいますか。性格がバラバラなのは勇者も武神も同じ。あの勇者3人も最初は各自が突出しすぎて、とても連携が取れているとは……。段々とサマになって、何とか形には出来ましたが……。正直、まだ不安はあります」
「そうか……。俺もそっちの事情までは完全に把握はできていなかったが、やはり難しいか……」
源道も組んでいる腕に力を込めて唸る。3人の勇者の容姿を思い浮かべながら、こう語る。
「あの3人も勇者としてのセンスは決して悪くない。鍵を握るのは……。須美君だな」
「先生も、そう思われますか? 私も、あの3人の中で1番、連携の輪に支障をきたしているのは、申し訳ないけど、彼女だと思っています」
2人の共通認識として、勇者組の連携不足の原因が、最も真面目な少女にあると語る。
「お役目に取り組む姿勢は誰よりも高い。家柄も関係しているからか、勤勉で真面目な性格は、確かにチームの中では必要になる。……が、彼女の場合は少し度がすぎる面もある」
「えぇ。あの子達が真面目すぎても、お役目の重さに潰れてしまう事を考えると、鷲尾さんは苦労するかもしれませんけど、良いチームだと思っています。でも……、鷲尾さんはまだ、乃木さんや市川君がリーダーに選ばれた真意を理解していない」
「うむ。だがこればかりは、俺達が口出しする事で解決はしない。彼女自身が気づく事で、本当の意味で、勇者になれるはずだ」
鷲尾 須美が、本当の意味で勇者になる。
その為には、彼女自身が周りを見て己の役割に気づくべきだろう。そして、そのきっかけを作るであろう人物に、期待が寄せられようとしていた。
「好きな人の言い合いっこしようよ!」
同時刻、部屋にいた勇者組は、ちょっとした話題で盛り上がりかけようとしていた。
当初、中々寝ようとしない、発言者である銀を教育しようと口を開きかけた須美だったが、意外な一言を前に、闘志は消え去り、代わりに頬を赤らめた。園子も興味津々だった。
「す、好きな人って……。三ノ輪さんは、どうなの?」
「敢えて言うなら、弟とか!」
「家族はズルいよ〜」
「うっ……」
園子に抗議され、息を詰まらせる銀。
真面目な須美やのほほんとした園子には、案外縁のない話題だったかもしれない。このままでは会話が尽きて、本当に寂しい、ただの厳しい特訓ばかりの合宿として終える事になる。彼女なりに必死に頭を働かせ、やがてパッと思い浮かんだ代案を示した。
「じゃ、じゃあさ! 好きだって言う人はさすがにいなくても、誰か1人くらい、気になってる奴はいるだろ? クラスの同級生とか、近所のあの子とか!」
「気になる人……ね」
「それも面白そうかも〜」
「だろ! それなら言いやすいし」
思いのほか、この案に須美も園子もくいつき、銀は満足げに笑みを浮かべる。
「じゃあ、先ずは三ノ輪さんね」
「……は?」
「当然でしょ? こういうのは持ち出した本人から語るものよ」
「ミノさんが気になる人か〜。どんな人なんだろ〜」
「ほら、乃木さんもこう言ってるんだから。今度はいないなんて言わせないわよ」
「うぅ。そこまで言われると……。……まぁ、一応あたしから話すか」
発案者であるにもかかわらず、今度は段々と羞恥心が芽生え始める銀。いざ気になる人物の事を話そうと思うと、気恥ずかしさが滲み出てしまうが、
「(こうなったら覚悟決めるしかないよな! 勇者は根性!)」
心の中で腹をくくった銀は、一度深呼吸してから口を開く。
「えっと、その……。あ、あたしの気になる人はだな……」
「うんうん」
「ドキドキ〜」
2人の興味満々の視線を前に、心臓がバクバクと高鳴っている。それに連動して頬も紅くなりつつある。
そして銀は、意を決してその人物の名を呟く。
「気になってるのは……。た、たく、巧……かな?」
「あら?」
「ミノさん、たっくんが好きなんだ〜!」
「ちょ、ちょっと待てよ園子! 話聞いてたか⁉︎ 好きとかそういうのじゃなくてだな!」
「落ち着いて三ノ輪さん! 落ち着いたら、どうして鳴沢君なのか教えてくれないかしら?」
須美にフォローされ、恥ずかしさMAXの銀は一旦落ち着きを取り戻す。そしてこう語り始める。
「く、クラスのみんなとは男とか女とか関係なしに、仲良くしていきたいとは思ってたし、もちろん2人ともちゃんと話したいって思ってたよ。昴も含めてな。……けど、巧だけは、最初から上手くいかなくてさ。クラスのみんなとは全然馴染まないし、こっちが話しかけても相手にしてくれないし。なんか、周りに全然興味がない感じがしてたんだ。誰も相手にしなくなったのも事実だし」
「言われてみれば……、そうね」
「たっくん、一匹狼みたいだった〜」
須美と園子も、クラスで一緒になった当初の、巧の雰囲気を思い出す。
「その時は、初めて不安になったな。あたしもそれなりに頑張ってはきたけど、このまま相手にしてくれなかったら、ちょっとモヤモヤしっぱなしのままになっちまうかもって。それにあいつ、なんか淋しそうって感じがして……」
「ミノさん……」
「でも、席が隣になってしばらくあいつと一緒にいるとさ、何となく分かったんだ。消しゴム落とした時も、何も言わずにすぐに拾ってくれたりとか、教科書忘れた時は貸してくれたり、分からない所は色々とフォローしてくれたりとか。そん時ピンと来たんだ。巧って、案外いい奴で、そういうのは表に出さずに生きてきたんだなって。そう考えると、見た目は怖くても、根は優しい奴だって思えたんだ」
「たっくん、凄くツンデレ屋さんなんだね〜」
「本人の前で言ったら一蹴されそうね」
須美は苦笑しながらそう呟く。
「要は、気配りが出来る所が良いのね。そういえば、今朝も三ノ輪さんと乃木さんを起こしたのは、鳴沢君だったわ」
「ま、まぁそういうわけだからさ。あたしはこれで言い切ったわけだし、次は須美だな!」
「え、えぇ⁉︎」
「ほら、優等生の鷲尾さんが今気になってる人、今ならそいつには内緒にしといてやるからさ!」
「わっしー、言っていって!」
2人にそう急かされ、為す術のない須美。銀が巧の事を語った以上、逃げ道はないな等しい。観念して須美は今現在、気になる人を語る。
「そ、そうね……。私から強いて言うなら、その……。市川君、かな……」
「おっ! 最近会ったばかりの転校生とは……。このパターンか!」
「イッチーのどういう所が良いの〜?」
園子がパジャマに付いている羽を広げながら質問をする。対する須美は少しばかり顔を下げて口を開いた。
「良い所、というか……。ちょっと、不安なのよね……、彼の事」
「不安って……?」
「どうして〜?」
「彼も彼なりに、みんなを守ろうって気持ちで毎回お役目に挑んでるのは、ある意味で尊敬するわ。私に出来ない事を、彼やみんなはやってのける。でも……、その度に彼は傷ついてく。それが、私は心配なの……。だから、どうしても余計に気になっちゃうのよ、彼の事」
須美は布団を握る手を強くする。それを見ながら、2人はうんうんと頷く。
「成る程な。須美がそういうなら、あたしらも頑張っていかないとな!」
「そうだね〜。イッチーだけに頼りっぱなしじゃダメだもんね〜。私達、6人で勇者だもん」
「6人で勇者……。そうね。今度こそ、みんなの足手まといにならないように、私も頑張るわ」
決意を新たにする須美。
銀と須美が、各々が気になる人を発表し、残すはあと1人となった。
「フッフッフ。私はいるよ〜」
無言で視線を向ける2人に対し、園子は得意げに胸を張る。しかしこの時、2人の中では園子が誰を言おうとしているのかを、薄々察していたのだ。が、念の為にと須美が質問をする。
「えっと、誰かしら……? クラスの人とか?」
「うん! すばるんだよ〜!」
「(……あ、うん)」
「(やっぱ園子は期待を裏切らないよな〜)」
予想通りの展開に、須美も銀もテンションが少し下がる。
「んじゃあちなみにさ。昴のどういう所が気になるとかはあるか?」
「ん〜とね〜。すばるんは優しくて、可愛くて、頼りがいがあって〜。一緒にいると、寝てる時と同じくらい楽しいんだよ〜」
神奈月家と乃木家は西暦以前から交流があったらしく、その関係は深い。家柄の関係で、昴と園子は赤ん坊の頃からずっと一緒にいる事が多かったのだ。故に園子は昴の事なら何でも知っており、逆もまた然り。園子にとって昴は欠かせない存在になっているようだ。
これで全員が気になる人を述べた事になり、一周回ったところで、銀が口を開く。
「……まぁ、アレだな。お互い苦労してるって感じで」
「そ、そうね。私もあぁやって言っておいて恥ずかしくなったわ」
「だな。この事はみんなには内緒だな。特に園子。絶対あいつらにはこの事を話さないでくれよな」
「えぇ〜? 良いと思うんだけどな〜。わっしーはイッチーが、ミノさんはたっくんが好きなんだって言っても、みんな分かってくれるよ〜」
「それが恥ずいって言ってんだろ⁉︎」
「そ、そうよ! もしも露見してしまったら、明日から市川君の事をどう見れば良いのやら……!」
「俺がどうかしたのか?」
「「⁉︎」」
不意に扉の奥から、須美の気になる人物が声をかけてきて、そのまま扉を開けて入ってきた。奥からは巧、昴も付いてきており、丁度キリのいいタイミングで売店から戻ってきたようだ。
晴人は首を傾げながら、買った土産を自分の鞄のところに置いて、須美に近づいた。
「ってか須美。顔赤くね? 熱でもあるのか?」
「ヒャッ⁉︎ ち、違うわよ市川君! 別に何でも……!」
「銀も赤いな。 具合が悪いなら、先生でも呼ぶが」
「だ、大丈夫だ巧! あたしはこの通りピンピンしてるって!」
須美と銀が慌てて2人を引き離す。3人の武神はますます首を傾げ、園子は微笑みながらその光景を見守る。
さすがにこれ以上は限界だと言わんばかりに、須美が締めくくる。
「と、とにかく! 市川君も戻ってきたんだし、布団を敷いてあるから、明日も励む為にもう寝るわよ! 家に帰るまでが合宿よ!」
「お、おう」
「じゃあ、消灯しますね」
電気のスイッチに1番近い昴が合図を送り、5人が布団に潜り込んだところで、スイッチを切って部屋を暗くする。昴もまた、布団に入って目を閉じようとする。
因みに、同じ部屋とはいえ男女で分かれて寝る為に、勇者と武神が向かい合った状態で、屏風に仕切られている状態である。
そして6人は、朝の5時に起床する為に早めの就寝についた。
……かに思われたが、それを遮るかのように、突如として旅館の一室に、煌々と輝く星々が天井を覆い尽くした。
当然その場にいた面々は、何事かと起き上がる。
「えっ⁉︎」
「な、何ですかこれ⁉︎」
「星が⁉︎ 星がいっぱい見える⁉︎ これって何だっけ?」
「プラネタリウム〜」
「そう、それ! ……じゃなくて!」
「なぜここに……?」
「綺麗だから持ってきたの〜!」
「やっぱお前かぁ!」
「消しなさい!」
「ってか、寝させろ」
「ショボ〜ン……」
……園子が仕方なしに、予め設置していた簡易型プラネタリウムの電源を切り、今度こそ6人は寝息を立てて眠りについたとさ。
……薄々勘付いている方もいると思われますが、それぞれの乙女の想い人は……、そういう事です。
次回は銀に着眼点を当てて話を進めます。
〜次回予告〜
「ピンポンダッシュ〜?」
「話って何だ?」
「偉いぞマイブラザー!」
「働き者ですね」
「私達が力にならないと」
「見ちゃおれんな……」
「今度こそ私が……!」
〜三ノ輪 銀の秘密〜