結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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本年度最後の投稿となります。そして結城友奈・久利生兎角の章、真の完結となります。

今回は遊月の今後の進路の他に、オリキャラを含めた、あの人物達の名前が登場します。次の章から登場しますので要必見です。

では、どうぞ。


エピローグ③:勇者御記

「ふぅ……」

 

手元に開かれていた、如何にも古そうな書物を閉じた遊月は、椅子に座りながら天井を仰ぐ。その表情からは疲労困憊と言う四字熟語がピッタリと似合う。

休日の午後。換気の為に少し開けた窓から入ってくる風に身震いし出す遊月が今いる場所は、下宿先の漁師宿……ではなく、大赦の中にある施設の一角だった。

あの戦いが終わってから、遊月を取り巻く環境は、劇的とまではいかないが、それ相応の変化があった。

唯一変わらなかった事と言えば、現在の生活環境ぐらいだろう。供物が戻り、失われていた記憶も取り戻した事を受けて、遊月はその事実を世話になっている漁師達に包み隠さず打ち明け、本当の家族がいる事も伝えた。漁師達がその事で大いに喜んだのは言わずもがな。が、そうなると一つの問題が生じる。本当の家族がいるとなると、今いる宿を出て、元の実家に帰って、家族との時間を少しでも取り戻そう、という選択肢もある。が、そうなれば必然的に讃州市を離れなければならず、遊月としてはせっかく築き上げた『勇者部』という仲間を手放すのは惜しい、という考えもある。

悩んだ末、漁師達だけでなく、大橋市にいる家族を交えて話し合った結果、讃州中学を卒業するまでは宿で下宿し、以降は大橋市の高校に進学する為に実家に戻る、という方針で決着がついた。

遊月としてはまた生活面で迷惑をかけてしまう事に申し訳なさを感じているが、漁師達はそんな彼を快く受け入れてくれた。寧ろ、後1年ほどで別れてしまう事に早くも寂しさを感じている程だった。改めて自分がどれだけ周りに愛されてきたのかを痛感する。

そんな彼らの期待に応えるべく、そして自分自身がもっと強くなる為に、彼は生活スタイルを変える事に。

文化祭が終わって以降、遊月は毎日勇者部に顔を出す事はなくなった。時折大赦に出向いて、情報を収集しているのだ。本来、大赦に出入りする事自体、幹部に兄がいる夏凜や、地区の代表である藤四郎やその補佐役である風、そして大赦に仕えている一族の銀や巧、そして東郷……もとい須美ですら、容易には許されていない。しかし件の戦いを経て、市川家の地位は格段に上がり、遊月は特例として、大赦内部でもある程度融通が効くようになった。噂によれば、次期大赦代表にも候補として挙がっているのだとか。遊月としても、大赦のトップに立てば、自分の経験を活かして全人類が一丸となって困難に立ち向かう為の政策が作りやすくもなるし、西暦の情報も今以上に知る事が出来る。そういう意味では、最初は忌み嫌う面もあった大赦の代表となるのも、悪い話ではないと思い始めている。

事実、こうして大赦に出入りできるようになってからも、得られた情報といえば、以前源道と安芸が話してくれた、今後の勇者システム、武神システムの方向性ぐらいだ。それですら伝達であり、100%全てが真実なのかどうかは、遊月は元より、他の2人も懐疑的なのだ。

脳裏によぎる、灼熱の大地。あまりに突拍子もない光景であり、本当にあった出来事か疑いたくなる、壁の外の真実。何れは対策を講じ、解決しなければならない問題だ。それをどうやって公表するのか、遊月達としても気になる所ではある。

しかしそれらは本来、大赦の仕事であり、自分達は学生としての本業を全うしていれば良い、必要ならまた声がかかるだろう。だから無理に自分のハードルを上げなくても良いのではないだろうか。数日前、大赦からの帰りに実家に寄って、両親とお茶菓子を交えながらそんな会話をしていた事もあった。

だが遊月は苦笑混じりに答えた。確かに理屈は合っているだろうが、武神となり、世界を守る為に戦い、そしてあんなものを見てしまった以上、身体を動かさずにはいられない。何か出来る事があるはずだ。そう、両親に伝えた。息子の大人びた主張に驚いたものの、最終的には彼の意見を尊重してくれた。

そうして大赦に出向いて対抗策を練る事となった遊月だが、解明すべき謎が多すぎるのが難点だった。天の神が遣わしたとされるバーテックスとはそもそも何なのか。そして西暦の終わりと神世紀の始まりに、何があったのか。言い出したらキリがない。

今でこそ武神になる為のアプリは失われているものの、今後、もし万が一、再び戦いに赴くような事になったとしても、何も知らずにまたとんでもない目に遭うのは、遊月としても御免被る。大赦も以前よりかは説明してくれるとは思っているが、自らも動いて真実をある程度知っておく必要がある。とはいえ数百年続いた大赦の隠蔽体質を考慮すれば、調べるのに時間がかかるだろう。それでも根気よく情報を集めなければならない。そう自分を奮い立たせ、大赦の書庫を管理している司書に頼んで、倉庫に眠ったままとなっている書物から情報をかき集めようとしていたのだが……。

 

「さすがにこれはいささかやり過ぎたか……」

 

苦笑混じりに呟く遊月の目線の先には、部屋を埋め尽くすほどの、山積みの段ボールが。中身の全てが書物だと思うと、これを全部読み切るのにどれほどの時間がかかるか。元々読書が苦手だった事もあってか、冷や汗をかく遊月。今でこそ抵抗はないが、やはり1人では時間がかかってしまう。協力者が必要だ。それも、情報を共有できる仲間が。

 

「今こそ、勇者部五箇条、悩んだら相談、の出番だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうと決まれば、善は急げ。翌日、遊月は勇者部に顔を出し、部室で他の部員達に、書庫の整理を依頼した。無論全会一致で遊月の案は可決され、勇者部の日曜日のスケジュールは、大赦が管理している倉庫にて、本の整理と決まった。

 

「けど、珍しかったよな。遊月が依頼を持ってくるなんて滅多にないからどんなものかと思ったら、まさか遊月本人からの依頼だったとは」

「せっかくの休日に申し訳ないですね。でも、手伝ってくれて助かります」

「良いってもんよ!あたしらダチコーだろ?」

「そうそう!」

「私も小説のネタが欲しいからね〜。今は歴史の本があるといいな〜」

「歴史の本を読む……。素敵よそのっち」

 

東郷は感心したように頷く。園子の執事が運転する車で移動する道中では、兎角からこんな疑問が。

 

「……けどよ。手伝うのは構わないけど、今の遊月だったら、大赦の人に言えば手伝ってくれるんじゃないのか?遊月がダメでも、園子や昴を介せば何とでもなるだろ?」

「確かにね。そこん所、何かあったの?」

 

風のみならず、他の面々の同じ疑問を浮かべる。兎角の言葉の中にもあったように、元から格式の高い乃木家の娘や神奈月家の息子も、遊月と同等かそれ以上に大赦に出入りが効く。今の遊月の事情を知っている面々としては、腑に落ちない所がある。その疑問に、遊月はあっさりと答えた。

 

「まぁ確かに、大赦に頼めば重大な秘密を喋る事以外は基本的に何でもやってはくれるけど、今回はちょっとばかし事情があってな」

「ふぅむ。その事情って、まさか恋愛絡み?」

「何であんたはすぐに話を恋愛と直結しようとするのよ⁉︎」

「あはは。溢れる女子力故の悲劇ね」

「お、お姉ちゃん……!」

 

樹が声を震わせ、風が何気なく首を横に向けると、あからさまに殺気だった目線を、無言でナイフのように突きつける東郷の姿が。

 

「ふ、風……!」

「じょ、冗談よ⁉︎つい女子トークをしただけよ⁉︎ご、ごめんね遊月、続きを」

 

遊月に話の続きを催促した所で、すぐに東郷は何事もなかったかのように元の表情に戻し、遊月に聞く耳を立てる。

その変貌にたじろぐ中、当の本人は気を取り直して会話を続ける。

 

「じ、事情ってのは、まぁ……。もしかしたら書庫に保管されている本の中には、何か大赦の検閲を免れているものがあるかもしれなくて、それもあって、迂闊に大赦の面々に手伝ってもらうのは、危険だと思ってさ」

「なるほど確かに……」

 

真琴は納得したように頷いた。大赦の隠蔽体質は、真琴のみならずこの場にいる者達は嫌というほど味合わされているので、説得力がある。

 

「しかし、検閲を免れた本が、大赦の中に残ってるなんてびっくりだけどな」

「確実にあるわけじゃないだろうけど、見つかれば、何か良い手掛かりになるだろうから、手伝うだけの価値はあるか」

「なんだか宝探しみたい!」

「よぉし、とりま深い事は考えずに、本の整理を手伝うとしますか!」

 

そうこうしている内に、リムジンは大赦の施設内に到着。車を降りて、遊月の先導で目的の倉庫まで徒歩で向かう。最初に述べた通り、大赦の中を中学生が本来なら出歩いて良い場所ではないが、遊月や、更には園子や昴の申請があって、友奈達も大赦に入る事を許される。ましてや彼女達は最前線で戦ってきた勇者である以上、そう簡単に門前払いは出来ない。

そうしてたどり着いた倉庫の扉を開け、部屋を埋め尽くす程に積まれた段ボールの山々を目の当たりにした友奈達は、開いた口が塞がらなかった。

 

「うわぁ!一杯の段ボール!」

「いや何よその頭の悪そうな感想⁉︎」

「部屋の中を埋め尽くしてるな」

「予想外すぎるッスよ遊月先輩⁉︎」

「いやまぁ、俺もまさかこんなに置きっぱなしになってるとは思わなくてな。一応最初の列にあった中身は引っ張り出して全部閲覧はしたんだが……」

「まぁこれは無理があるよな……」

「それでは、早速整理しましょう」

「なら、分担して作業に取り掛かるか」

 

藤四郎の提案で、二手に分かれて段ボールから本を取り出し、ある程度分類別に固めてから、空いている本棚に本を入れていく。

最初は山のようにあった書物も、14人もの人員がいれば、力仕事といえど、さほど時間はかからない。12時を少し回る頃には、本棚にズラリと文献が並べられており、入りきらない本は棚の上に積み上げられていた。

 

「あー、いい汗かいたわ!」

「これで一通り整理が出来たな」

「ありがとうございます。おかげで一気に片付きました」

「なぁに、この2日間、うどんを食べ過ぎた気がしてたし、丁度良いダイエットになったわよ!」

「そんじゃあ、昼飯にするか」

「仕事終わりのすばるんのお弁当は格別なんよ〜」

 

一旦外に出て休憩スペースに腰を下ろした一同は、昴が持参した手作りの弁当やざるうどんに舌鼓を打つ。

1時間後。東郷がおやつとして持参していたぼた餅も腹の中に収まった所で、一同は倉庫に戻って次の作業に取り掛かる。作業といっても、並べた本の中から各々気になるものを手に取り、それらしい情報を得る、といったものだ。

 

「おぉ、東郷さんもう熟読してる……」

「うーん、どの本も難しそうだな……」

「何て書いてあるか、チンプンカンプンッスよ」

「あたしの苦手分野だなこれ。夏凜って、読書とかする?」

「家見てりゃ分かるでしょ。あんまりしないわよ」

 

実際、勇者部の中でも、遊月を除けば、園子や昴、巧、樹、真琴、東郷が、よく本を読む派だ。風や藤四郎は園子達に勧められた本を片っ端から手に取っており、友奈や兎角は読む事に抵抗はないが、その速度は遅い方だ。銀や夏凜、冬弥はタイトルだけ見て興味のあるものだけに絞ってスラスラ読んでいる。

しかし手に取って開いてみると、やはりといった反応が返ってきた。

 

「わっ!見てこの本!真っ黒だよ!」

「こっちの本もです。検閲済みになってます」

「ここまでするものなのか、検閲って……」

「神世紀は、100年から先は資料が豊富だけど、それ以前となると、急に少なくなっているな」

「西暦も、2015年以降が殆どないわね」

 

遊月としては、どうしても知りたかった時代の情報に関するものが見当たらない事に、項垂れていた。

その後も粘り強く文献を手に取ってみたが、黒の塗り潰しばかりが目立つ資料ばかりで、肝心な情報は分からなかった。中には検閲されていない資料もあったが、そういったものは大抵、当時流行していた商品のカタログや、タレントの写真集など、大赦とは無関係なものの類だった。歴史的に価値のあるものは全て、大赦の手で隠蔽されているようだ。

そんな中、兎角が検閲済みの本を棚に戻してから、次の資料をどれにしようか、手探りで選んでいたのだが、ふと、ある本が目についた。

 

「随分大きな本だな……」

 

図鑑のような本が目に止まり、兎角はまるで引き寄せられるかのように、その本を手に取る。どうやら旧世紀の用語辞典らしく、自分達でもよく知っている言葉ばかりが記載されており、当然ながら、検閲された形跡はない。これもハズレか、と思いつつも最後のページまでパラパラとめくる。

と、その時だった。

 

「(?何だ?本の中に、また本が?)」

 

図鑑の途中のページに、本が挟まっていたのだ。本、というよりかは、自分達が普段使っているノートぐらいの大きさの冊子だった。本を段ボールから取り出して棚に入れている時に気づかなかったのは、その小ささ故に、図鑑のページの間に隙間なく挟まれていたからに違いない。

その冊子を手に取り、中を開く兎角。黒の塗り潰しで一杯だ。これも大赦が検閲し、そして真実を隠す為に塗り潰したのだろう。やれやれと思いつつ、ふと気になって、その冊子の表紙を見てみる事に。

そこには……。

 

「な、何だこれ⁉︎」

 

不意に声を張り上げた兎角に、皆が注目する。兎角がその冊子を持って、皆に集まるように指示する。全員の注目が集まる中、兎角が先ずその古びた冊子のタイトルを提示する。そこには漢字4文字で、

 

『勇者御記』

 

と記されていた。

当然ながら、一同は困惑する。

 

「何スかこの本⁉︎」

「これってつまり、勇者が書いた日記って事よね。……けど、勇者ってあんたらが初代じゃなかったの?」

 

風が確認の為に、6人の先代勇者に問いかけるが、全員首を横に振るばかり。

 

「よく分からないです……。僕達も西暦の頃の一族に関しては知らされて無くて……」

「内容は〜……?」

「うわ、見事に塗り潰されてやがんの」

「検閲されたのは、神世紀99年、か。この日記の始まりは2015年7月30日から始まっているとなると……」

「じゃあこれは、神世紀に入る前の、日記って事か!」

「凄いもの見つけたな、兎角!」

「何だかドキドキしてきた……!」

「塗り潰されてない、具体的な記述部分はないのかしら?」

「殆ど黒ね……。日記が書かれた時の日付はちゃんとあるけど……」

 

夏凜がそう呟きながらも、兎角はページをめくっていく。最後のページをめくると、そこにはこの冊子の著者と思しき人物の名前が、写真付きで載っていた。友奈達と同い年くらいの、凛とした美形の少女だった。その風格からは、男勝りのようなものを感じさせる。

 

「この写真の人……とっても綺麗ですね」

「なんか……園子にオーラ似てない?」

「!その通りですよ。ほら、見てください、この人の名前」

「『乃木(のぎ) 若葉(わかば)』……か」

「じゃあ、私のご先祖様〜?」

「この人が日記を書いたって事は、園子のご先祖様は、勇者だった事になるな」

「そんな昔から勇者がいたのか……。驚いたな、兎角」

「……」

「……おい、兎角?」

「……」

「兎角?どうしたの?」

 

藤四郎に話を振られるも、兎角は何も答えず、ずっと写真に見入っていた。まさに『心ここに在らず』といった表情だ。友奈に肩を叩かれて、ようやく兎角は我に返る。

 

「!あぁ悪い。いや、さ……。この乃木若葉って人、どこかで会ったような気がしてさ……」

「えっ?この人とですか⁉︎」

「ちょっと待て、この人は明らかに旧世紀に生きた人だ。幾らなんでもそんな事は……」

 

巧が眉間に皺を寄せながら訝しげに口を開く。兎角も、はっきりとは確信を持てないのか、小さく唸るばかり。

そんな中、東郷が目線を横にやり、兎角と似たような表情を浮かべている者がもう1人いる事に気づいた。

 

「晴人君?どうしたの?」

「兎角の言ってる事、あながち間違いじゃないかもな」

「へっ?」

「実は、俺もその写真を見て違和感があってさ。あの戦いが終わって、意識を失ってた時……だったかな?その時に会ったような……、それでもって、声をかけられた……ような」

 

曖昧そうに呟く遊月。2人とも、その時の事を思い出そうとしても、黒いモヤがかかったように、思い出せないでいるのだ。

 

「声……か。もしかして、過去の勇者が励ましてくれたのかもしれないわね」

「うん!きっとそうだよ!園ちゃんのご先祖様だから、それくらい出来そうだもんね!」

 

ただ、東郷と友奈だけは遊月の言ってる事が本当だろうと信じて発言する。過去の勇者が未来の勇者を励ます。側から見れば非現実的な夢物語のようにも捉えられるが、そもそも勇者の力は、人智を超えた力の象徴だ。ならばそのような事があっても、不思議ではないのかもしれない。

 

「何だか、ドラマチックですね」

「樹は特にそういう話が好きそうよねぇ」

「お、お姉ちゃんからかわないでよぉ……」

 

からかわれて恥ずかしそうにする妹を見て、たまらず抱きつく姉であった。

もっと詳しく調べてみようと、表紙から順にページをめくっていく。他の面々も興味津々に覗き込む。

 

「どのページも塗り潰しばかりだな……」

「でも、まだ文字が残ってる部分もありますね。ほら、この辺り……」

「もっと詳しく調べれば、意味のある文章になるかもね〜。パズルゲームみたい〜」

「そのっちはそういうの得意そうよね」

「……あ、この御記、一人で書いてたわけじゃないのね。ほら、この日記の部分を書いた人の名前、乃木じゃないわよ」

 

夏凜が指さした先には、確かに著者とは別の名前が記されている。検閲を免れているようだ。それらをピックアップしてみると、乃木若葉を除けば、次の8人が判明した。

 

『神奈月 流星』

 

『久我 照彦』

 

『高嶋 友奈』

 

『三ノ輪 紅希』

 

『鳴沢 調』

 

『土居 球子』

 

『西園寺 司』

 

『伊予島 杏』

 

「神奈月……。僕のご先祖様もいますね。乃木家と今尚親交が深いのは、この頃の事が関係してるのでしょうか?」

「おっ、あたしのご先祖様も発見だ!」

「鳴沢……か」

 

中にはこの場にいる面々と同じ苗字もあり、先祖が同じように勇者だった事も明らかとなった。ここに記されている苗字は、何れも今尚大赦の中で名を馳せている一族だ。

そんな中、違う意味で驚く事が判明したのもまた事実。

 

「友奈ちゃんの名前が、ここにも……?」

 

思わず東郷が本と隣の人物を見比べる。御記に記されていた人物の1人、高嶋友奈と同じ名前である事に、本人も驚いた様子だ。

 

「私と同じ名前だね。偶然かな?」

「違うと思うな〜」

「?」

 

園子の発言に、皆が首を傾げる。

 

「えっとね〜。昔、聞いた事があるんよ〜。『友奈』って名前は特別で、ずっと昔から、生まれてきた時にこ〜んな事をした人にあげられる名前なんだよ〜って」

 

そう言って園子は両手を打ち合わせるような所作をする。

 

「赤ん坊が戯れて手遊びした時に、偶然そんな動作をする……って感じ?それが縁起が良い事って事で、結城家ではそれが採用されたのね」

「うんうん、そういう事〜。にぼっしー、冴えてるね〜」

「なるほど。生まれた時に特別な所作をした赤ちゃんには、かつての勇者から取った名前を与えられるわけですね。これも一種の縁起担ぎなんでしょうね」

「『友奈』という名前は、この高嶋友奈という勇者から端を発し、神世紀の長い歴史の中で受け継がれてきた名前なのね……」

「案外、性格も似通ってたりしてな」

 

東郷が歴史に思いを馳せ、兎角が想像で高嶋友奈という人物像を描く中、風が片目を押さえながら、無駄にポーズを取りながら呟く。

 

「そうか……、お主は、結城友奈とは……、友奈因子を持つ、友奈の1人であったか……」

「ちょっと何言ってるのか分からない」

 

藤四郎の的確なツッコミに、一同は吹き出すように大爆笑。

更に調べてみると、気になるものが発見された。

 

「!おい、この写真の裏、何か変だぞ」

 

兎角が目をつけたのは、最後のページにあった、著者『乃木若葉』の写真の裏。少し浮かしてみると、裏に雑誌の特典にあるような、奇妙な袋とじがある事に気づいた。一見では気づかないように細工されているようだ。中に何か入っているかもしれない。そこで巧が持参したハサミを使って、その袋とじを切って中身を取り出す事に。

中には、乃木若葉の写真と同じサイズの写真が1枚だけ。

 

「!この佇まい!これは丸亀城ね!」

 

いち早く、歴史に詳しい東郷が声を上げる。写真には、複数人が並んで立っており、その背後には、教科書で見た事がある城が聳え立っていた。東郷の言う通り、丸亀城で間違いないだろう。写真には乃木若葉が写っている所から推測するに、これは集合写真。そして若葉を囲むように少年少女達が立っている事から、ここに映る人物達こそ、あの日記に書かれていた名前の人物なのだろう。残念ながら、どれがどの人物名に該当するのか、判断する事は出来なかったが。

しかしここである違和感を感じる者が。

 

「あれ?でも、この写真に写っている人数と、日記にあった名前の数が一致しませんよ?」

 

樹がそう指摘する通り、写真には11名が写っているにも関わらず、日記には9人の名前しかない。後の2人の名前はどこにあるのか。その答えは、新たに発見された写真の裏にあった。そこには11名分の名前が記載されている。日記に記されていなかった人物名は、すぐに判明した。

 

「乃木若葉、神奈月流星、……で、『上里 ひなた』。って、上里⁉︎」

「上里って、まさか大赦の巫女の中でも最高の発言力を持つって言われてる、あの上里家じゃ⁉︎」

「あ〜、どこかで聞いた事あると思ったら〜」

「何呑気な事言ってんのよ園子!大赦の中じゃ、乃木家とツートップでしょうに!」

「まさかこんな形で上里家の先祖を知るとはな……」

 

そしてもう1人の名は、『三ノ輪紅希』の次の欄に記載されていた。

 

「『郡 千景』……か」

「郡……?聞いた事ない苗字ね」

「この方も勇者……だったのかしら?」

 

日記には無く、隠してあったとされる写真には載っていた、『郡千景』という名前。後から調べてみると、それぞれの日付の日記の中には、名前そのものが黒く塗り潰されているものも所々見つかっており、巫女である上里家を選択肢から除外すれば、恐らくその塗り潰された人物こそが、この『郡千景』という者なのだろう。何故彼女だけが記録から消されてしまっているのか、よく分からなかったが、彼女もまた、何らかの事情を抱えながら、勇者として世界を守る為に戦っていたのだろう、と考えられる。

それから一同は、色褪せた勇者御記の表紙を眺める。

 

「恐らく、この本は隠して残そうとしてくれたのかもしれませんね。時を経て、僕達のような人がこの日記を読んで、当時の事を伝える為に」

「でも結局は見つかっちゃって、検閲されてる辺り、お茶目な初代様ね」

「とはいえ、残っている僅かな記述だけでも、西暦の時代にも大変な事があったのは分かったんだ。それがこの日記を介して伝わっただけでも、今回の依頼にはそれなりに収穫があった訳だ」

 

藤四郎がチュッパチャプス(パッションフルーツ味)を舐めながら、しみじみとそう呟く。彼が語るように、かつての勇者達も、悩み、苦しみ、傷つき、……それでも、一生懸命生きてきたのだろう。

 

「私達の今があるのは、ずーっと昔からの、沢山の人達の積み重ねのおかげなんだね。……一杯感謝しないといけないね」

「……そうだな」

 

友奈が自分の手を見つめ、兎角がその手を優しく握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

大赦を後にした勇者部一同は、讃州中学で解散となった訳だが、遊月ら先代勇者6人だけは、再び園子の執事が運転する車で、あの倉庫に向かった。ただし今度は、源道と安芸の姿もあった。

あの勇者御記を見つけた以上、大人の意見も聞きたいという事で、無理を承知で2人にも事情を説明した。2人はそれならば、という事で、仕事を切り上げて大赦の倉庫に出向き、勇者御記を閲覧する。

一通り見終え、大人達が意見を述べる。

 

「この勇者御記には、黒い部分での検閲と、赤い部分での検閲が確認された。つまり、この日記は最低でも2回検閲されている」

「2回も、ですか」

「そしてこの2回目で、殆ど消されているのは間違いないだろう」

 

何ともやるせない話だ、と源道は呆れた表情で呟く。続いて安芸が、あの写真を持って口を開く。

 

「それと、貴方達が見つけた、『郡千景』についてだけど……。調べてみたけど、大赦には郡家という一族は存在していなかったわ」

「えっ?この人も勇者なのに、何で大赦に何も手掛かりが残ってないんだろ?」

 

銀の疑問に対し、安芸は淡々と答える。

 

「あくまで推測だけど、この郡家は、既に大赦からその存在を消されている可能性があるわ」

「消されてる……⁉︎」

「私もそこまで詳しく調べたわけじゃないけど、かつて大赦には、今以上に多くの一族が仕えていた。けど、時代の流れと共に、その数は減少の一途を辿り、その中で、その存在を抹消された一族も少なからずいたと考えられるわ。勿論、かつての市川家のように、衰退こそしたけど、その低い地位の中で大赦と繋がっている一族が殆どでしょうけど」

「じゃあ、この郡千景さんって人も、その……。大赦から、何らかの理由で存在を消された、という事ですか」

「じゃあ、もう郡家はいない、という事か」

「それは分からないわ。記録から消されてるからと言って、その一族が滅んだとは、一概には言えない。今もどこかでひっそりと暮らしているかもしれない……」

「何れにせよ、ここから分かる事もある」

 

源道の一言で空気がピリッとなり、遊月が口を開く。

 

「……大赦の隠蔽体質は、年々強化されていった。そういう事ですよね、師匠」

「大きな秘密を守らなくてはいけない、という鉄の掟が、100年、200年と長い年月を経て、錆び付いてしまい、そして歪な形で受け入れられてしまった、という事でしょうか」

「その極め付けが、散華のだんまりだったんだね〜」

 

300年。その時間は、気が遠くなるほど長いものだ。乃木家と上里家。即ち乃木若葉と上里ひなたが中心となって作り上げた『大赦』。彼女達がいた時代……それは今よりも健全な組織だったのだろう。……が、何事も不変永遠なんて事には都合よくいかない。代を重ね、時を経る内に、摩耗し、変容してしまった。それが積み重なった結果が神世紀298年、そして今の神世紀300年の出来事に繋がってしまった。

 

「けど、これからはちゃんと話してくれるって約束だっただろ?ならそれでオールオッケーじゃん!」

「それは楽観視しすぎだと思うが……。まぁ、一歩前に進んでくれているとは、考えたいがな」

「そうだな」

 

遊月……もとい晴人は、暗くなった空を見上げる。星が点々と瞬いている。

 

「俺達の戦いは、これからなんだ」

 

遊月の静かな、されど決意のこもった一言に、東郷達は自然と強く頷く。

その決意は、この場にいない、他の勇者部員も同じであるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、神に認められた少年少女達の、戦いの記録。

 

いつだって、神に見初められるのは無垢なる少女であり、重荷を背負うのは、うら若き少年である。

 

そして多くの場合、その結末は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人身御供を廃して、真実と立ち向かい、かりそめではなく、本当の平和を取り戻す。そんな英雄譚となるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜』

 

〜結城友奈・久利生兎角の章〜

 

〜完〜

 

 

 




というわけで、かなり長引いてしまいましたが、第2章、完結となります。

前章と違って登場キャラも倍以上に増え、各キャラの口調の書き分けに苦労こそしましたが、個人的に執筆してて楽しい内容でした。

そして次回からは、大人気アプリゲームをベースとした、『花結いの章』を展開して参ります!当然ながら登場キャラも更に増えて、いよいよお祭り騒ぎ(笑)になるかと思いますが(そもそもあの部屋に収容出来るのかな?)、読者が少しでも読みやすいように頑張って参りますので、応援よろしくお願いいたします!

それでは、これまで以上に大変な年末年始となるわけですが、彼女ら勇者を見習い、困難に挫ける事なく、互いに可能な限り手を取り合って、バーテッk……じゃなくて新型コロナウイルスに立ち向かいましょう!
来年度もよろしくお願いいたします!

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