結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

87 / 127
お待たせしました。

前回も話した通り、エピローグを3つほどやっていきます。年内に全て書き終えた後、新章に突入します。


エピローグ①:思い出巡り

「大赦の人達、相当狼狽えてたらしいよ〜。まさかあんな形で真実がお披露目されるなんて、思わなかっただろうし〜」

「兄さんも言ってましたよ。今回の件を検閲すべきか否かで、今も上層部の間で揉めているらしくて」

「子供達とか、大赦とは無関係な親達には何のこっちゃって話だけどな。普通の演劇だと思ってるだろ?」

「だから、大赦としても迂闊に私達に物申せない訳ね」

「ま、これまであいつらがしてきた事を考えれば、当然の報いと言うべきか」

 

有明浜の海岸にて、海を眺めながらそう語らっているのは、讃州中学勇者部に所属する、2年生一同。

 

「ふっ!ハァッ!」

「そこっ!」

「おっと!」

「おぉ!凄いね夏凜ちゃん!まだ全部治ったわけじゃないのに!」

「当然!いつお呼びがかかるか分からないから、ね!」

「へへっ!ならあたしも負けてらんないな!」

 

夕日をバックに、木刀を用いて模擬戦を繰り広げている夏凜と銀。そしてその様子を間近で感心した表情で観戦する友奈。それをさらに遠くで見ているのは、遊月ら7人。

派手に散華した事もあって、完治もしておらず、まだ自在に動けるわけではないが、壁の外を見てしまった以上、ジッとしていられずに、こうして一心不乱に、特訓を続けているのだろう。

 

「んんっ!良い汗かいたぁ!」

「お二人とも、お疲れ様です」

「はい、風邪引いちゃうから、これで汗を拭いてね」

「ん。ありがと」

 

しばらくして、特訓が終わって引き上げてきた2人を労うように、昴がスポーツドリンクを、真琴がタオルを差し出す。2人は礼を言って受け取り、疲れた体を癒す。

 

「ふぅ……。やっぱり銀を相手するのは、骨が折れるわ」

「ま、戦い方が似てる所もあるしな!」

「えぇっと、こういうのって確か……。そう、『類は友を呼ぶ』だっけ!」

「友奈の口からその言葉が出るとは思わなかったけど……。けどこの場合はちょっと違うかもな。性格とか資質とかが似通ってた所があるから、夏凜が援軍の勇者として抜擢された所もあるだろうし」

「確かに、似てる所あるもんね、ミノさんに」

「散華した時も、自分よりも真琴や俺達の事を心配してたしな。確かに、銀とよく似ている」

「そ、そんなにか?」

「な、何恥ずかしがってんのよ⁉︎こっちまで妙に緊張しちゃうでしょ⁉︎」

 

2人同時に顔を赤らめる様子を見て、やっぱり似ていると、笑いを堪えきれない一同。

後に安芸から教えられたのだが、夏凜が持っていた端末は、2年前に銀が持っていた端末であり、瀬戸大橋跡地の合戦が終わった後に、3人いた勇者の中で最も戦闘データが取れていた銀のものを、複製する形で性質が近い夏凜に引き継がれていたのだという。故に、夏凜のパートナーでもあった精霊の義輝は、元々は銀の精霊でもあったのだ。

その事を聞かされた当初、夏凜と銀は、驚きよりも納得の感情が勝っていた。出会った時から感じていた違和感も解消されたのだから、より一層特訓にも磨きがかかっているようだ。

そんなこんなで談笑していると夕日が沈みかけてきたので、帰宅が遅くならないように、一同は横並びに歩き始める。

 

「けど、劇が大成功して良かったね!」

「しばらくは校内でもその話で持ちきりだったもんな」

 

文化祭における勇者部の演劇が大成功を収めてから、早10日が経とうとしていた。各々が供物に捧げた箇所には個人差があり、難儀している所もあるが、根気よくリハビリを続ければ、完治は約束されている。

兎角と遊月は、復活が遅かったからか、退院後も検査する機会も多く、時折立ちくらみもあった。劇の最中でも、立ちくらみする時があり、その度に周りが心配していたが、気力を振り絞って、平気だと告げて劇に挑んでいた。

 

「でも、東郷さん達も記憶が戻ってきて、本当に良かったね!」

「えぇ。でもまだ朧げな部分があるんだけどね……」

 

中でもリハビリに難儀していたのは、2年前にバーテックスと戦っていた、遊月、東郷、巧、銀、昴、園子ら先代勇者。脚力や聴力、視力などといった面はほぼ完治したと言っても過言ではないが、どうしても記憶という部分は、依然としてモヤがかかったかのように、はっきりと思い出せない部分がある。何かきっかけがあれば、思い出せる事もあるかもしれない。

小川遊月改め、市川晴人がボソリとそう呟いた後、不意に友奈が口を開いた。

 

「じゃあ、一緒に思い出を見つけに行こうよ!私も東郷さん達の事、もっと知りたいから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして友奈の突発的な案は、結果として受理され、計画は週末に実行へと移った。

具体的には、東郷達が住んでいたとされる大橋市を中心に、各々の実家や、少しだけ取り戻した記憶を頼りに、印象深いスポットを巡るものであり、当初は2年生達だけで行おうかと思われていたのだが、これを聞いた3年生と1年生が便乗して、この思い出巡りの旅に参加する事となった。

 

「すいませんね。折角の休日なのに、こっちの都合に付き合わせる事になって」

「いいってもんよ!あたし達も何だかんだで興味あるし」

「オイラもッス!」

「それに園子の所がこうして車を出してくれるのもありがたい。お陰でそれほど旅費もかからないし、礼を言いたいのはこっちの方だ」

 

藤四郎がチュッパチャプス(ミルクティー味)を舐めながらそう呟くように、現在、勇者部一同は園子の使用人が運転するリムジンに乗って、目的地に向かっている。大人数での移動という事もあり、公共交通機関を使うよりもこっちの方が良いだろうと、園子が手配したのだ。安芸や源道も誘おうかと考えたが、2人は教員としての仕事がある為、今回は参加を見送った。

そして彼らが最初に訪れたのは、駅前で友奈達もよく利用していたイネスから少し離れた、閑静な住宅地。大きめな平家の前にリムジンが止まり、真っ先に銀が降りると、家に向かって声を張る。

 

「おーい!帰ってきたぞー!」

 

その声に反応したのか、廊下の奥からドタドタと足音が近づいてくるのが分かる。皆が車から降りて玄関前に立つと同時に扉が開いて、2人の男の子の姿が目に映った。

 

「!姉ちゃん!」

「ねっちゃ!」

「よっす!元気してたか?」

 

満面の笑みを浮かべている銀に頭を撫でられているのは、彼女の弟である、長男の鉄男と、次男の金太郎。夏凜達も、三ノ輪家の家族構成は本人から聞かされていたし、写真も端末を介して見せてもらっている為、見たまんまの姿があるわけだが、実際に対面するのは、先代勇者を除けば、初対面のメンバーがほとんどだ。

無論、記憶を取り戻しつつある先代勇者達も、久々に弟2人を見て、懐かしさを感じた。

 

「そういや、俺達が最後に会ったの、あの最後の戦いが始まる前の日に遊んだ時だったよな」

「そうですね。あの日も、銀ちゃんや巧君を中心に、金太郎君の子守りに夢中になってましたね。思い出せますよ」

「わぁ〜。2人とも大きくなったね〜」

「えぇ」

「金太郎も立って歩ける年頃になったか」

 

巧がそう呟いた直後、鉄男と金太郎は、銀の後方にいる面子を、特に懐かしい人物を目の当たりにして、目を見開いた。

 

「!巧にーちゃんだ!それにみんなもいる!」

「にーちゃ!にーちゃ!」

 

そう言うが早いか、2人は銀から離れて、巧に擦り寄ってきた。2人にとって、巧は実の兄のように慕っていた為、久しぶりの再会に、喜びを爆発させていた。巧自身も、2年ぶりに2人に会えた事に、喜びを感じているようにも見受けられた。

 

「久しぶりだな。それに、大きくなったな」

「うん……!あのね巧にーちゃん!俺、本当は巧にーちゃんにずっと会いたくて……!でもとーちゃんに、大赦からダメだって言われてるから、連れてけないって言われてて……!ホントにごめん!巧にーちゃんの力に、なってあげられなくて……!」

「鉄男……」

 

この事は銀も知らなかったらしく、弟の吐露を前に、唖然とした表情を浮かべている。友奈達も戸惑う中、巧は優しく彼の頭を撫でる。

 

「心配かけてすまなかったな。でも、これからは時間があれば会う事も出来る。俺達をずっと待っててくれて、ありがとな。またプラモを使って遊ぼう」

「うん……!」

「にーちゃ!」

 

涙を拭う鉄男に対し、手を伸ばして抱っこをせがむ金太郎。相変わらずの甘えん坊だ、と思いつつ、巧は要望通りに抱き上げる。キャッキャと嬉しそうにする金太郎を見て、銀や巧のみならず、他の部員達も自然と表情が緩む。

その後は立ち話もアレだという事で、その場に居合わせた銀の両親に案内されて、母屋で会話を弾ませる。と言っても、2年前に関する内容はそれほど出ず、ほとんどが鉄男との遊びや、三ノ輪家が用意してくれた早めの昼食を交えての、普段の学校生活における近況報告などがメインとなっていた。それでも当事者達は懐かしい様子で、2時間ほどの濃密な時間を堪能していた。

それから三ノ輪家を後にして、次は遊月にとって大切な場所とも言うべき、彼の実家に立ち寄る事に。

 

「懐かしいな……」

 

そう呟く遊月の表情からは、嬉しさが込み上げているようだと、東郷は感じ取る。家に着くと、前もって連絡を入れていた事もあって、すぐに晴人の両親が彼らを出迎えてくれた。家に入ると、居間には車椅子から降りて、ソファーに腰をかけている晴人の祖母の姿もあった。祖母も、孫と再び会えて嬉しい様子だ。この3人とは、神樹館小学校に出向いて源道らから真実を聞き出す際に紹介を受けていた為、それほど緊張する事なく、肩の力を抜いて語り合う事ができた。

しばらく話をした後、遊月の要望で、2階にある彼の自室に立ち寄る事に。入ってみると、2年前に使っていた時と寸分変わらない、どこか懐かしさを匂わせる雰囲気が、部屋に広がっていた。彼が行方不明になって以降も、掃除をしつつも教科書や小物等は、なるべく動かさないように心がけていたのだと、彼の両親は語る。それだけ、一人息子が戻ってくるのを信じて待っていたのだろう。改めて、自分がどれだけ愛されてきたのかを実感する晴人であった。

 

「!これ……」

「あぁ!あたしも知ってるぞこれ!」

 

中でも部屋を見て1番印象に残ったのは、部屋の壁いっぱいに飾られた、大きな横断幕。園子愛用の枕『サンチョ』の絵や、花のイラストが描かれており、その中心には、大きな文字で『わたしたちの勇者がんばれ』と明記されている。

 

「あの戦いがあった日……だったよな。クラスのみんなが俺達の為に作ってくれて……」

「へぇ、これが……」

「みんな、遊月君達の事、応援してたんだね!」

「本当に、懐かしいわね……」

 

しみじみとそう呟く東郷。

聞くところによれば、行方不明になった晴人が所持していたランドセルの中から発見された後、大赦がしばらく管理した後、市川家に返上されたのだと、両親は語る。その横断幕を見る度に晴人の事を思い出し、母が泣き崩れる事が多々あったらしく、そのまま飾るかどうか、かなり悩んでいたらしい。よくみると、幕の端に透明な液体が染み込んだ跡がある。

今でも思い出す。これを受け取って、自分達が、周りの支えがあったから辛い戦いをこうして乗り越えてきた事を実感したのだ。同時に、気になってしまう事も増えてしまう。

 

「あれから2年……。みんな、今頃どうしてるんだろうな……」

「……」

 

遊月の小さな呟きを聞き取れたのは、隣にいた兎角だけだった。

市川家を後にした一同は、鳴沢家に向かった。当主や婦人は仕事の都合でいなかったが、使用人に案内されながら、巧が使っていた部屋に入り込む。

 

「ははぁ……。やっぱお金持ちなだけあって、広いわね」

「凄ーい!ここの壁一面、全部工具でいっぱいです!」

 

犬吠埼姉妹は、見た事のない間取りを前に、興味津々だ。

 

「そういや、巧って確か元々はこの家の生まれじゃなかったよな?」

「あぁ。前にも話したが、7歳の頃に実の両親が蒸発して、それでこの家に引き取られた。あの頃は、この家とは距離を置いて生活をしていたな……」

「えっ?そうなの?」

「どうしても、家族からの愛情ってやつを受け入れられなくてな……。でも、そんな俺を変えてくれてのが、銀や、晴人達だった」

「へへっ。ここだけの話、あたしが巧の家の事情を知ったの、全部源道先生から教えてくれた事がきっかけなんだよな」

「先生が……」

「先生に頼まれたんだ。巧の力になってくれるように、ってな。そのおかげで、巧の事、よく知れたよ」

「そういう事か。あの人も、色々と気にかけてくれたんだな」

「そういえば、僕達がこの部屋に初めて入った時は、確か父の日のプレゼントを作ろうってなって、それで色んな工具があるこの家を拠点にしたんですよね」

「そうそう〜!手作りのブローチを作ったんだよね〜」

「巧の技術には色々と舌を巻いたな」

「へぇ!凄いね巧君!」

 

友奈達が感心する中、巧はただ1人、物思いに耽っていた。ここでの作業がきっかけとなり、園子からのアドバイスで手紙を添えて、両親に感謝の思いを伝える事が出来た。そして家族の大切さを知り、その事を教えてくれた銀に近づく事が出来、そして守りたいと思うようになった。

そしてその気持ちは、今でも変わらない。これから先、何があっても、銀の夢を叶える為に、そして大切な日常を守り抜く為に、自分も精進していかなければならない、改めて決意を込めて胸の内にしっかりと刻む巧であった。

そうして鷲尾家、神奈月家を巡った一同は、乃木家に到着し、今までよりも何倍も広い部屋に案内されて、思い出巡りに浸った。ここでは主に、園子が自主的に集めていたであろうアルバムをめくりながら、当時を懐かしむ事となった。

 

「お、懐かしいなこれ。国防仮面……だったか?」

「えぇそうよ!あぁなんて凛々しい……!」

「と、東郷先輩が変な方向に振り切れてます……!」

「写真に向かって敬礼してますもんね……」

「……東郷はこの頃から東郷だったか」

「こっちはすばるんがご飯を作ってくれた時だね〜」

「な、何だか恥ずかしいですね」

「こうして見ると、色んな思い出が詰まってるんだな」

「あぁ、ここまで濃密だとは思ってなかったな」

 

銀が持ち前のトラブル体質を発動させ、人助けをしている姿や、花提灯を膨らませた園子の昼寝姿、夏祭りでの須美の着物姿など、様々な記録を目の当たりにして、6人も少しずつ失われた記憶を取り戻しつつあるようだ。

 

「……」

 

そんな中、友奈がアルバムを眺めながらも、黙り込んでいる事に気づいた兎角が声をかける。

 

「友奈?どうした?」

「えっ?あ、ううん。何でもないよ。……あ!銀ちゃんの家族の写真も載ってる!」

 

何かを言いたげな友奈だったが、話題を逸らしてしまい、兎角も聞く機会を逃してしまう。どれも生き生きとした様子が写し出されている。

……が、中には思い出して後悔している様子もしばしば。

 

「うぉっ⁉︎こんなの残してたのかよ⁉︎」

「わぁ!銀ちゃんのドレス姿可愛い〜!」

「素敵です!」

「な、なななななななななななな⁉︎」

「随分とレアなものが撮れたな」

「そ、そのっち⁉︎どうしてこんな非国民の格好をした写真が残ってるの⁉︎あの時消したはずでしょ⁉︎」

「な、なんてインパクト……!」

「完全に大人の格好ッスよ東郷先輩!」

「こ、こんな事もしてたんですね……」

「アイドルっぽさがあるな」

「はっはっは。そういやそんな事もあったな」

 

いつの日か、6人が園子の家で着せ替えごっこをしていた当時の写真を発見し、東郷と銀は辱めに遭って絶賛後悔中。遊月も笑いながらアルバムをめくっていく。そして次に開いたページに載っていたのは……。

縮こまった様子で、丈が合っていないセーラー服を着た、若干涙目の昴。

明らかに苛立った表情を見せながらも、モデルのような立ち振る舞いで、際どいロングスカートが特徴的なメイド服を着こなす巧。

胸元がはだけている、レッドワイン色の薄手のドレスを着ている、放心状態にほど近い晴人。

 

「「「……」」」

 

バンッ!と勢いよくアルバムが遊月の手で閉じられ、広い室内を沈黙が支配する。

そして首だけを向けて、不自然な笑みを浮かべながら口を開く。

 

「……じ、じゃあ次のスポットに行ってみるか。あまりここに長居してても、思い出せる事なんて何も」

「いやいやいや!そこでスルーできるわけないだろ⁉︎」

「ちょ何よ今の⁉︎もいっかいよく見せなさいよ!」

「わぁぁぁぁっ⁉︎こ、これだけは絶対にダメなんですよぉ⁉︎」

「やめ、ろ……!」

 

3人の抵抗も虚しく、不意をついた園子の手で遊月からぶんどると、なんの悪びれもなくその中身を公開する。3人の武神の女装姿を見て、興奮やら悲鳴やらが飛び交い、いつの間にか予定していた滞在時間をオーバーする事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ようやく3人の気力が戻ってきたのは、乃木家を後にし、次のスポットに到着したときだった。ご愁傷様と労いつつも、3人を立たせて、車を降りる。

次に彼らが訪れたのは、大橋市から少し離れた県庁所在地に位置する、国内最大級の庭園や裏山のアスレチックコースがある観光地だった。6人にとってここは、遠足で訪れた思い出の地として記憶に残されていた。

 

「結構広いねぇ」

「懐かしいなぁ!この辺のアスレチックとか結構余裕で渡れたよな!」

「あの頃は訓練漬けで、それなりに鍛えられてましたからね」

「へぇ。ま、私ならこれくらい朝飯前だけどね!」

「何でムキになってるのよあんたは……」

「あ、このコース!確か銀がこの上から落ちたんだよな」

「そうだったわね。あの時は心臓が止まりそうだったわ」

「あの時はたっくんに抱き抱えてもらって、命拾いしたんだよね〜」

「そ、そういやそうだったっけ……」

「それがきっかけでしたよね。クラスの皆さんが、それまで距離を置いていた巧君と話すようになったのは」

「……そうだったな」

 

などと話しているうちに、舞台は高台付近にある庭園に。そこから見える街の景色に、一同は目を奪われる。

 

「綺麗だね!」

「時期的にも、ピッタリのスポットなのかもな」

「そうそう!ここであたしら、お互いの印象とか話してたっけ」

「あぁ、それなら俺も覚えがある」

「こうしてみると、色々と思い出す事がありますね」

「うんうん〜。工芸品も作ったし、お土産も沢山買ってたし、後は〜……」

 

そこまで話した直後、不意に園子のトーンが沈み、遂には口を閉ざしてしまう。

 

「?園ちゃん?」

「どうしたのよ、急に黙り込んじゃって」

「何かあったのか?」

 

園子だけではない。東郷と銀もまた、彼女と同じ表情になるまで、時間はかからなかった。首を傾げる面々だが、次の瞬間、園子の声色は変わっていた。

 

「……その後だったんだ。遠足が終わった後に、バーテックスが3体出てきて、死にかけた私とわっしーに代わって、ミノさんが闘って、その後に、すばるん達が……」

「「……」」

 

手すりを掴む力が強くなる。一点を見つめる園子の横顔は物悲しげなものとなる。苦々しい表情を浮かべる東郷と銀を見て、一同も俯く。

園子が何を言いたいのかは、大方想像はついた。遠足が終わった後に、どんな悲劇が待っていたのかは、源道や安芸の口から語られていたので、園子もそれ以上は語らなかった。自然と、遊月は側からは見えないが服の上から傷のついた腹を、昴は義手となった右手を、巧は潰れて縦に傷がついた左目を、静かに抑えつけていた。

記憶を取り戻したからこそ、思い返してしまう。あの日、世界を、そして何より大切な人を守る為に、文字通り命がけで敵を退けた、3人の漢。その代償に、彼らは体に、そして守られた少女達は心に、深い傷を負った。目を背けてはならない事実ではあるが、思い出すと、生きた心地がしない。

そしてその屈辱を糧に、連日となる戦いに挑んだ事も忘れてはいない。武神を、大切な人を傷つけられた怒りが肉体を支配し、勢いだけでバーテックスを退けた事も。

意識不明だった巧が目を覚ました時は、本当に嬉しかった。そして、2度とこのような悲劇を繰り返さない為にも……。

 

「……強くなろう。そう、決めたのよね」

「……あぁ」

「……うん」

 

風に吹かれ、髪がなびく。その後ろ姿からは、勇ましささえ感じていた。そしてそれは隣に並び立つ先代の武神も。改めて、先代勇者として戦場を駆け抜けてきて、多くのものを守ってきたのだ、と感じさせる。

 

「……さてと。それじゃあ次に向かいましょうか。暗くならないうちに、どうしても行っておきたい場所があるの」

 

振り返ってそう呟く東郷。一同は特に何かを述べる事なく、思い出巡りは最終目的地へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、ここか……」

 

そう呟いた兎角の目線の先には、無惨に破壊された、瀬戸大橋が。

彼らが最後に辿り着いたのは、瀬戸大橋記念公園。遊月ら6人にとっては、戦いの舞台となった場所であり、最近では、大赦を潰そうとした風を、藤四郎らによって阻止した場所というのが記憶に新しい。現在は大赦の関係者しか立ち入る事が出来ないのだが、相手が勇者だった事もあってか、すんなりと許可をもらえた。

 

「改めて見ると、凄い事になってるわね」

「あの時は周りの景色に目をやる余裕なんて無かったしな」

 

敷地内にある祠の前で、大橋を見上げながら、誰ともなしに呟く藤四郎。

祠を離れ、辺りを散策する一同。草むらが広がる、開けた場所で立ち止まる遊月。

 

「そういや、戦いが終わった後はここに戻されてたんだよな」

「何となくだけど、記憶を無くした後も、ここで倒れてたのは覚えてるな」

 

口々に呟く中、園子は思い返す。あの日も、血だらけの武神達を抱き抱え、必死に名前を呼び続けていた。2年経った今となっては、その痕跡すら残されてはいないが、どうしても忘れられないが故に、胸を締め付けられる。

それを察したのか、昴は左手でそっと彼女の手に触れた。少しでも安心させたかったのだろう。園子は小さな声で礼を告げる。

しばらく歩いていくと、ドームに覆われた建物が見えてきた。

 

「!これは……」

 

そこは、コンサートホールにも似た施設だったが、そこに立ち並んでいたのは、椅子ではなく、墓石がびっしりと連なっている。そこに刻まれていたのは、多くの人の名前。どれも友奈達にはピンとこなかったが、場所が場所なので、大赦に携わった者達を追悼する為の施設なのかもしれない。

 

「!お姉ちゃん!これ!」

「これってまさか……」

「お父さんと、お母さんの名前だ……」

 

ふと、ある墓石の前に立った犬吠埼姉妹が、そこで今は亡き両親の名前が刻まれているのを発見する。さらにもう一方で……。

 

「竜一の兄貴ッスよ⁉︎これ!」

「……そうか。ここには、2年前に亡くなった者も刻まれていたのか」

 

犬吠埼家の両親、そして藤四郎の唯一無二の親友である竜一。どちらも、2年前の瀬戸大橋跡地の合戦にて、現実世界に影響が出た際、災害に巻き込まれて命を落としている。お墓は讃州市にも存在しているが、この地でも、弔う形でここに刻まれていたのだ。

一同は自然と墓石の前に立ち、手を合わせる。戦いの裏においても、勇者や武神のような、神に程近い力が無くとも、人々を守る為に駆け抜け、そして命をかけて人々を救ってきた者がここにもいた。その事を改めて胸に刻む一同。とりわけ、東郷ら先代勇者は、深くその事を意識する。

神樹は、捧げられた供物を元に戻せても、失った命を戻せるわけではない。災害から皆を非難させ、逃げ遅れた犬吠埼姉妹の両親や、竜一。失われた命は、あまりにも重い。

 

「先輩……」

「?どうしたの?」

 

帰り道。遊月が不意に風と藤四郎に声をかけた。何事かと思った2人が立ち止まると、遊月が頭を下げた。

 

「……2年前、俺達がバーテックスと戦って、でも、守りきれなかったものもあった。俺達の不手際が、結果として、先輩達にとって、そして樹や冬弥にとっても、大切な人を失う悲しみを、背負わせてしまった……。正直、こんな事で償えきれるとは思ってません。でも、みんなも必死に戦ってきたのも事実です。だから恨むなら、せめて俺だけを、恨んでください」

「は、晴人君⁉︎」

「待て晴人。お前ばかりが背負うものじゃないだろ。責任なら、俺達だってある」

 

巧がそう呟くのと同時に、銀達も頭を下げる事に。そんな6人を見た上級生達はと言うと……。

 

「んもう、水臭いわよあんた達。あんた達の頑張りがあって、今があるんでしょ?そりゃあ環境の変化にはちょっと……っていうか結構大変だったけど、そのおかげでこの勇者部が出来たわけだし、あたしはちっとも恨んじゃいないわよ」

「右に同じく、だな。そもそもそんな事で恨むほど、俺は心の狭い人間だと思うか?竜一だって、きっとそう言ってるさ」

「そうよ!ここでネチネチしてちゃ、女子力の名が廃るってね!」

「その擬音、正しい使い方なの?」

「夏凜ちゃん、シー」

「ま、まぁともかく!そんなに自分が許せないなら、その分幸せになりなさいよ!あんた達が苦労してきた分、今度はあたし達にガンガン頼ってくれて良いのよ!」

「そうだよみんな!勇者部五箇条、『悩んだら相談』!」

「……ふふ。友奈ちゃんの前向きな姿勢には、敵わないわ」

「はい、じゃあシリアスはここまで!向こうに戻ったら、あたしの家でうどんパーティーよ!もちろん、1人5人前は茹でるわよ!」

「やったー!風先輩太っ腹!」

「ちょ、作りすぎよ!私はそんなに食べないんだからね!」

「とか言いつつ、10杯ぐらいはいきそうだよな、夏凜の場合は」

「そ、そんなわけないし!」

 

自然と話はパーティーへと流れていき、暗かった雰囲気は笑いによって払拭された。遊月はフッと笑みを浮かべてから、改めて海に目をやる。

眼前には、相変わらずそびえ続けている壁がある。最強最大とも呼ばれる獅子型を倒した事で、バーテックスの侵攻はぴたりと止んだ。その間に、神樹と大赦は、東郷が破壊した壁の修復作業に勤しんでいる。源道によれば、暫くは侵攻の手が休まる事が神託で確認されているのだとか。

休息の期間は1年か、2年か。それはハッキリとは分かっていない。が、確実なのは、必ずまた、バーテックスが攻めてくるという事。何度も復活を繰り返しながら、人類の脅威となって、この世界に侵攻する。

 

「(だとしても、俺達は屈しない。必ず困難に、打ち勝ってみせる。戦う力が無くなったから、それで終わるんじゃない。この戦いを生き延びたからこそ、やるべき事がある。それだけは、忘れちゃいけない)」

 

 

 

 

 

 




というわけで先ずは前章のおさらいという形を進めてきました。

最近、急に寒くなってきたので、このご時世ですので、体調管理には気をつけて、頑張って参りましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。