結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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今回はいよいよ皆さんが気になっていたであろう、劇の内容が明かされます!

先に言っておきますが、アニメとは違った感じになります。


43:勇者

清々しい程の晴天に恵まれた、とある休日。

有明浜の近くに建てられた讃州中学では、待ちに待った文化祭が開催され、多くの家族連れで賑わっていた。模擬店を中心に大盛況となる中、午後に入って多くの人が、体育館に足を運ぶ事となる。

彼らが体育館に訪れる理由はただ一つ。勇者部の催しである演劇を見る為である。その校外活動は讃州市全域で注目の的となっており、必然と彼らの演目を楽しみにしている者達で、館内は溢れ返っていた。

単に勇者部員の姿を見たくてうずうずしている子供達もいるが、大人達が気になっているのは、演劇の題名が、校内で配られたパンフレットに記載されていない事だった。本番まで秘密にしている理由が気になり、大人達も期待の眼差しを舞台に向けている。

 

『大変長らくお待たせしました。只今より、讃州中学勇者部による演劇が、開演いたします。上映中は、携帯電話の電源を切っていただくか、マナーモードに……』

 

そうこうしている内にブザーが鳴り、辺りが暗くなり、一瞬の興奮で客席がざわつくが、司会の言葉が終わる頃には静まり返っていた。

再びブザーが鳴り、暗幕が上に昇った。天井には、自作の看板が垂れ下がっており、タイトルが記載されている。

 

『勇者と武神の記録』

 

遂に露わとなった題目に、期待と困惑が渦巻く中、物語は荒々しいBGMや照明と共に、ナレーションによる語りから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔々、そのまた昔。

 

その世界では、争いが絶えない日々が続いていました。毎日のように、何処かで人同士が喧嘩をしていました。

 

そんなある日。人間達が喧嘩ばかりしている事に怒った多くの神様達が、人間を滅ぼそうと、沢山の敵をその世界に送り込んだのです。多くの人々が倒されてしまい、絶望する中、人類の味方をしてくれた神様達が、無垢なる少年少女達に、力を与えました。

 

手強い敵に立ち向かう、勇ましい者達を、人々は『勇者』と呼び、褒め称えました。

 

長い戦いの末、多くの土地が敵によって滅ぼされ、とうとう村が一つしか残らなくなってしまいましたが、村に結界を張り、敵を退ける事が出来ました。しかし、いつまた敵が襲ってくるか分かりません。生き残った人々は、神様の指示を受けて、次の戦いに備えて、色々な準備を進めてきました。

 

最初の戦いから数百年が経ち、人々が忌まわしい出来事を忘れかけていた頃、再び敵が結界を通り抜けて、攻め込んできました。人類の味方をした神様を倒そうとしているのです。

そうして再び選ばれた、とある村の少年少女達は、懸命に敵と戦う事となりました。少女は『勇者』として、少年は更に強力な力を得た『武神』として、人々の平和を守る為に、戦う道を選びました。

 

けれど、敵は強さを増しており、戦いは、簡単には終わりませんでした。そうして力の限りを振り絞って戦っていく中、彼らは疲れ果ててしまい、ある者は目が見えなくなり、またある者は足が動かなくなったり、遂には、仲間がいた事さえ忘れてしまう程に、傷ついてしまいました。

そうして勇者と武神は離れ離れになり、人知れず皆の前から姿を消してしまいました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2年が経ち、村に再び平和が戻ってきた頃。

 

『さぁ!今日も世のため人のために、頑張るわよ!』

『オォ!』

 

村では、ゴミ拾いや猫の里親探し、その他いろんな事を頑張っている子供達が、脚光を浴びていました。リーダー格の男女2人を中心に、その妹や弟分、物静かな少年、天真爛漫な少女、優しい少年、穏やかな表情の少女、冷静沈着な少年など、様々な個性に満ち溢れたグループとして、12人の少年少女達は毎日のように、人々を笑顔にしてきました。

 

そんな平和に満ちた日々を過ごしていた子供達でしたが、ある日、神様からのお告げで、勇者や武神として、結界の中に入ってくる敵を倒すように命じられました。話を聞いたリーダー格の2人は、とても悩みました。私達は戦おうと思っているが、他のみんなまで、危険に巻き込みたくない。どうしようと悩んでいると、他のみんなは口々にこう言いました。

 

『俺達も、戦います!』

『頑張っちゃうよ〜!』

『ついて行くよ、何があっても……!』

 

多くの子供達が、一緒に戦う事を誓います。けれど、1人の少女だけは怖くて一緒に戦おうとは返事が出来ません。その少女は足が動かなくなっていましたが、未知なる敵と戦う事に恐怖を抱いていたのです。そんな彼女の支えになろうと、1人の少年が側に付き添いますが、それでも少女の心は晴れません。そんな中、一際注目の的となっていた少年少女が、こう叫びました。

 

『嫌なんだ……!誰かが傷つく事、辛い思いをする事!みんながそんな思いをするくらいなら、私達が、頑張る!私は、勇者になる!』

『そうだ!みんなが笑顔でいられる時間を、人生を、守りたいんだ!』

 

その言葉に突き動かされたのか、少女は意を決します。

 

『私はいつも、皆んなに守られてきた……!今度は私が、みんなを守る!』

『……そうだな。誰かを守りたい気持ちは、俺も同じだ。この力で、守ってみせる!』

 

側にいた少年も、彼女の隣に並びます。

こうして、12人の選ばれし子供達は、勇者として、武神として、人類の敵と戦う事となりました。最初は慣れない戦いに苦戦しますが、気合いと根性を見せつけて、力を合わせて、敵と一生懸命戦い続けました。

 

 

 

戦いが始まってしばらくすると、2人の少年少女が、援軍として彼らの前に現れました。彼らは人類の敵と戦う為に、幼い頃から訓練を受けていました。

 

『僕達は、み、皆さんの援軍として来ました!こ、これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!』

 

少年は深々とお辞儀をして、きちんと挨拶をしましたが、少女の方はというと、鼻を鳴らして、全く相手にしませんでした。自分1人で戦おうとしているようです。

 

『私はあなた達トーシロとは違って、戦闘の為の訓練を長年受けて来ているのよ!この私が来たからには、完全勝利よ!』

『うん!よろしくね!』

『……ッ!別に、あんたらと馴れ合う為に来たんじゃないんだからね……!』

 

などと、顔を赤くしながらそっぽを向くばかり。それでも、彼らは積極的に彼女と絡み、仲を深めていきました。その影響もあったのか、少女も次第に彼らに心を許すようになり、一緒に戦う事になりました。

 

 

 

 

 

そうして戦いは、日に日に激しさを増していき、遂に巨大な怪物が攻め込んできました。

 

『ちょっと⁉︎こんなの聞いた事ないわよ!』

『みんな避けろ!』

『耐えて、みせます……!』

 

さすがの彼らも、今までにない激しい攻撃を前に、苦しげな表情です。

それでも、勇者達は諦めませんでした。

 

『冗談じゃ、ないわよ……!みんなを巻き込んでおいて、さっさとくたばるなんて……!』

『まだ、だ……!みんなを残して先に逝くなんて……!』

『『できるわけ、ない!』』

 

リーダー格の2人は、武器を手に、再び立ち上がりました。それにつられて、他のみんなも立ち上がります。

 

『私達の日常を、壊させない!』

『勇者は、根性ぉ!』

『ブチ抜けぇ!』

『これ以上みんなを、傷つけさせない……!』

 

そうして彼らは、いつの間にか限界を超えた力を発揮し、巨大な敵を追い詰めていきました。

 

『繋げたバトンは、絶対に落とさねぇ!』

『みんなを守って、私はぁ!勇者になぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁる!』

 

そして遂に、2人の勇者と武神が敵にトドメを刺します。力の限りを振り絞った一撃が命中し、敵は消滅しました。

 

『や、やった……!』

『俺達の、勝ちだ……!』

 

みんなはヘトヘトになりながら、地面に転がり、辛くも掴んだ勝利の喜びを分かち合いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その先に待ち受けている、悲劇の序章の幕が、既に上がっている事など知る由もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、平和な日々が彼らを待っていました。

ですが、全てが元通りとはなっていません。殆どの者が、体の不調を訴えていたのです。ある者は食べ物の味が分からなくなったり、ある者は耳が聞こえなくなったり、ある者は声が出せなくなったり……。

それでも、疲れが取れる頃には戻るだろうと、あまり気にする事はありませんでした。

そしてもう一つ、援軍としてやってきた少女も、大きな悩みを抱えていました。その少女だけは体に不調はなかったのですが、戦いが終わった事で、これから自分はどうすれば良いのかと、はた悩んでいたのです。そうして次第に彼らを距離を置こうと、みんなの前に姿を見せなくなってしまいました。

 

『探しに行こう!』

『そうだな。あいつはもう、俺達の仲間だ』

 

しかし彼らは、そんな彼女を放っておけるはずもなく、あちこちを探し始めました。ようやく見つけた時には、彼女は黙々と自主訓練を続けていました。

 

『やっと見つけた!さぁ、私達の所に帰ろうよ!』

 

しかし彼女は頑なに拒みます。

 

『私は、敵と戦う為にここに来たのよ!その敵をやっつけたなら、あんた達といる意味なんて、ないじゃない!』

『……ううん。そんな事ないよ。意味は、ちゃんとあるよ』

 

そう答えたのは、彼女と同じく援軍としてやってきた少年でした。

 

『僕も、最初にここに来た時は、みんなと仲良くできるのか、すごく不安だったけど、みんなのおかげで、ちょっとだけ自分に自信が持てたんだ。悩んだり迷ったりした時は、みんなからアドバイスをもらえるし、そうやって自分が自分らしくいられるから。戦いが終わったら居場所がなくなるなんて、絶対ないよ。僕は、君と一緒にいられる時間が楽しいし、1番大好きだから!』

『私も大好きだよ!』

『ッ⁉︎な、何よ急にそんな……!』

 

他のみんなからの説得を受けて顔を赤くする少女。遂には観念したかのように、早口で捲し立てます。

 

『しゃ、しゃーないわね!あんた達がどうしてもって言うなら……!』

 

こうして少女は、みんなと一緒に奉仕活動をするようになりました。

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経ちましたが、この頃になると、ある不信感を募らせるようになりました。

体が治る気配が、全くないのです。

 

『いつになったら治るんだろうな……』

『う〜ん……』

 

見兼ねた何人かの少年少女達は、自分達の体の不調が本当に治るのかを確かめる為に、調査を始めました。

 

すると、驚くべき事実が明るみに出始めました。

かつて、自分達以外にも勇者や武神として、人類の敵と戦っていた者達がいた事。その者達もまた、自分達と同様に体が治らないまま、この村で暮らしている事。そして、その先代の勇者、武神の正体が、自分達の仲間に含まれていた事を。

それを知った者達は、自分に隠された真実を目の当たりにして驚きを隠せませんでした。当時6人いた勇者、武神は全員、記憶を失くしていたからです。

かつて人知れず戦っていた者達の不調が、今なお治っていないという事は、彼らの体は、もう元には戻らないという事を、彼らは知ってしまいました。

そして遂に、リーダー格の少女が、怒りを露わにしたのです。

 

『神様を……!潰してやるぅ!』

 

自分のせいで、仲間を危険に巻き込んでしまい、挙げ句の果てに、妹や仲間が体の機能を失ってしまった事に腹を立てた少女は、怒りに身を任せて、自分達を欺いてきた神様を倒そうとしたのです。

 

『やめなさい!』

『こんな事をしたって、しょうがない筈だ……!』

『うるさい!神様は初めから、私達が敵と戦い続ければ、後遺症が起きる事を知っていた!知ってて、私達を、生贄にしたんだ!』

『生贄……!』

『犠牲になった勇者がいた……!勇者は、私達以外にもいた!私達の知らない場所で、世界を守る為に、ボロボロになって……!その果てに、大切な思い出や繋がりまで消された……!そして今度は、私達が犠牲にされたんだぁ!』

 

涙を流しながら、仲間達の静止を振り払う少女。

 

『何で私達が、こんな目に遭わなきゃいけないのよ!何で妹がこんな目に……!世界を救った代償が、これかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

そうして思いっきり武器を振り下ろそうとする彼女を受け止めたのが、同じくリーダーとして肩を並べていた少年でした。

 

『……ッ!何で……』

『冷静になって、もう一度自分を見つめ直せ!本当は分かっている筈だろ!こんな事をしても変わらない事を!自分がこれから何をするべきなのかを……!』

『そんな、事……!あんたに言われなくたって……!だから、邪魔するなぁ!』

 

そう叫んで攻撃する少女ですが、少年は力強くその一撃を逃げる事なく受け止めます。

 

『まだ、間に合う筈だ。そりゃあ、俺にはお前みたいにみんなを引っ張っていく力もないし、ここにいるみんなと違って、大した力もない。……ただ、この瞬間だけでも良い。俺を、信じてくれ。俺は勇者として、お前に寄り添う。それを邪魔だと思うなら、俺を一生憎めば良い』

『……!』

『それでも、俺は……。お前の事を、ずっと愛している』

 

そうして少年は、武器を下ろして少女を抱きしめ、その背後からは、妹が悲しげに、されど泣く事なく、姉に寄り添いました。少女は泣き崩れ、ようやく落ち着きを取り戻す事に成功しました。

 

 

 

 

そして彼らは遂に、世界の真実を知るべく、結界の外に出る事を決意しました。結界の外に出てはいけない。大人達からずっと教わってきた事ですが、どうしても知りたいと、大人達に黙って、外に出ました。

 

『何、これ……!』

 

みんな、言葉を失いました。外は、人が住める土地では無くなっており、自分達が今まで倒してきたはずの敵がウヨウヨと蠢いていたのです。

敵は、何度倒しても再生を繰り返し、その度に私達の世界にやってくる。そして勇者達は、自分達の体を犠牲にしながら、戦い続けなければならないのです。

それを知った一同は、元の世界に慌てて引き返し、頭を抱えていました。

 

『こんな世界、私が終わらせる!』

 

するとどうでしょう。1人の少女……かつて勇者として戦っていたとされる少女が、突然立ち上がり、武器を使って結界を破壊し始めたのではありませんか。

 

『何のつもりよ!あんた、自分が何したのか分かっているの⁉︎』

 

皆が驚く中、少女は涙ながらに語ります。

 

『私だけが生贄なら、まだ良かった。それを、みんなまで巻き込むなんて、許さない!もうみんなを苦しめない!神様さえ倒せば、この苦しみから解放される!生き地獄を味わう必要も、ない!』

『だ、ダメだよ!そんな事したら!』

『どうして止めるの⁉︎みんなも見たでしょ⁉︎これが世界の真実なのよ!結界の中以外は全て滅んでいる!そして敵は、無数に襲来し続けるの!もう私達に、未来なんて、ない!』

『そんな……!』

『だから決めたの!もうこれ以上、大切な友達を犠牲にはさせない!私が、この負の連鎖を断ち切ってみせる!』

『や、やめろ!』

『止めないでよ!私の周りで、友達も、大切な人も、また失うなんて、もう、耐えきれない……!』

 

そう言って、他の勇者達に攻撃する少女。動揺していた為、攻撃をまともに受けてしまい、一同は倒れてしまいます。その間にも、結界を突き破って、敵がこちらの世界に攻め込んできました。

 

『私、友達失格だ……!大切な友達を、止められなかった……!』

『ッ!俺は、どうすれば良かったんだ……!』

 

親友を、大切な人を止められなかった事を深く後悔する者達が出始める中、立ち上がったのは、援軍として仲間に加わった、2人の少年少女。

 

『友達に、失格も合格も、ないっての。だから、私は戦うわ。みんなの為にね。誰の泣き顔も、見たくないから』

『僕も、戦います。間違っている事を止めてあげるのも、友達の役目だから』

『!待て……!』

 

みんなの静止を振り払って、2人は敵と戦います。

 

『これが、完成型勇者の力ぁ!』

『全力で、みんなの明日を、繋げるんだぁ!』

 

2人はボロボロになりながらも、一心不乱に戦い続けます。そして遂に結界の中に入ってきた敵を全てやっつける事が出来たのです。

そしてそのまま結界を破壊し続けている少女の所へ向かおうとする2人でしたが、限界が来てしまい、その場に倒れてしまいました。

 

『!大丈夫か⁉︎』

『無茶しやがって……!』

『……ねぇ、見てた?この私の、大活躍を……』

『うん!見てたよ!凄かったよ!でも、こんなのって……!』

 

涙を流しながら、倒れている2人を囲み、手を繋ぐ一同。

 

『私はここまでだけど、最後に、伝えたい事が、あるの……。……ありがとう。私は、戦うだけが生き甲斐だった。けど、みんなのおかげで、私は……』

 

そうして少女は最後に、励ましの言葉を送ります。

 

『あんた達なら、きっとあいつの心を変えられる。だって、一番の親友で、仲間で、大切な人、なんでしょ……?』

『……あぁ、その通りだ!』

『分かったぜ!後は任せろ!』

『行っくよ〜!』

 

その一言を受けて、一同は、再び立ち上がりました。そして結界を破壊し続けている少女と対峙します。

 

『あんたを止める!』

『どうして、どうして分かってくれないの⁉︎』

『この世界には、何も知らずに暮らしている人達がいます!その人達の明日を、僕達の勝手な都合で奪ってはいけないんですよ!』

『そうだよ!私達が諦めたらダメだよ!』

『それが勇者だって言うの⁉︎そうやってずっと他人の為に、自分の幸せを犠牲にし続けるの⁉︎』

『違う!そんなの、犠牲だなんて言わない!俺達の努力が結果としてみんなを守れるのなら……!』

『他人なんて関係ない!1番大切な人を守れないのなら、勇者になる意味なんて無いよ!頑張れないよ!』

 

尚も少女は彼らを拒み続けます。

 

『戦いは終わらない!生き地獄は終わらない!こんな酷い仕組みの言いなりになってる事が、地獄なんだよ!』

『地獄なんかじゃねぇ!この世界が、神様が守ってくれた時間があったから、俺は、お前やみんなと巡り会えた!そしてこれからも、お前と一緒に生きていきたい!』

『大丈夫なわけないよ!戦い続ければ、忘れちゃいけない事だって忘れてしまう!どうしてそれを、地獄じゃないって言い切れるの⁉︎』

 

その問いに対し、勇者達はキッパリと答えます。

 

『忘れるわけないだろ!俺達がムチャクチャそう思ってるからな!』

『そうだよ!だから……!』

『自分に、負けないでぇ!』

『私だって、いつかきっと、戻ってくるって、そう思ってた……!今はただ、「悲しかった」ことしか覚えていないの!自分の涙の意味が分からないの!もう、嫌だよぉ……!怖いよぉ!みんなきっと私の事を忘れちゃうんだ!だから、こんな世界……!』

 

そうして攻撃しようとする少女でしたが、間一髪で阻止する一同。そして武神の1人が、彼女の事を大切に想っていた少年が、彼女を抱きしめます。

 

『もう、離さない。絶対に、忘れない』

『嘘よ!』

『嘘なんかじゃない!俺はずっと、お前のそばにいる。そうすりゃ忘れないさ』

『……ッ!怖いよ……!離れたくないよ!忘れたくないよ!私を、1人にしないでぇ!』

 

遂に泣き崩れた少女。少年は優しく彼女を抱きしめます。

 

『あぁ、約束だ』

 

その時、彼らの前に、一度倒したはずの敵が現れました。そう、まだ戦いは終わっていません。

 

『後は、あいつをどうにかするだけか!』

『私、とんでもない事を……!』

『お前のせいじゃない。みんなで力を合わせて、あいつをやっつけるぞ!』

『なら、私達も混ぜてもらうわよ!』

『僕達も、戦えます!』

 

そう叫びながら駆けつけたのは、先ほどまで倒れ込んでいた援軍の2人でした。14人の勇者と武神は、力を合わせて、最後の戦いに挑みます。

 

『行くぞみんな!』

『オォ!』

 

激しい攻撃を繰り出す敵。それでも、勇者達は諦めませんでした。何度傷ついても、諦めませんでした。彼らは知っているからです。諦めない限り、希望が終わる事がない事を。

 

『世界は嫌な事だらけかもしれない!辛い事だらけかもしれない!』

『現実の冷たさに凍える事だってある!』

『でも、それは気の持ちようです!』

『他人でも大切だと思えば、友達になれる!』

『そして互いを思えば、何倍にでも強くなれる!』

『無限に根性が湧いてくるんだぁ!』

『自分1人じゃどうにもならない事なんて、沢山あります!』

『けど、大好きな人がそばにいてくれるなら、挫けるわけがない!』

『諦めるわけがないのよ!』

『みんながいるから、みんなを信じているから〜!』

『何度だって、立ち上がってみせます!』

『だから勇者は、絶対に諦めない!』

『これが、俺達の答えだぁ!』

『絶対に、負けるもんかぁ!』

 

力の限りを尽くし、大切なものを守る為に全力で戦うその姿は、まさに勇者そのものであったに違いありません。

そして遂に、敵を倒す事に成功しました。ようやく戦いが終わりだけどホッとする一同でしたが、2人の武神が倒れ込みました。ずっと最前線で戦っていた2人でした。

 

『!大丈夫⁉︎』

 

慌てて一同は2人を囲みます。まるで息をしていないかのように、目を閉じて倒れていました。

 

『そんな……!ねぇ起きて!』

『こんな事って……!』

 

力を使い果たしてしまったのでしょうか。何度呼びかけても、返事がありません。

 

『嫌だ……!嫌だよぉ!寂しくても、辛くても、ずっと一緒にいてくれるって、言ったじゃない……!お願いだから、目を開けてぇ!』

『起きてよ……!また、声が聞きたいよ……!』

 

泣き叫びながら、倒れている少年に抱きつく少女達。

すると……。

 

『ずっと、聞こえてたぜ、みんなの声』

 

少年達は、ゆっくりと目を開けて、起き上がったのです。みんなはとても驚き、そしてとても喜びました。

 

『約束、したからな。約束は、いっぺん決めたら最後まで守るもんだからな』

『あぁ、そうだな』

『良かった!良かったよぉ!』

『やっと、会えたな』

『……うん!やっと……!』

 

こうして、本当の意味で日常へと戻った少年少女達。

しかし、戦いが終わったわけではありません。外の世界には、敵が今なお潜んで、いつこちらの世界にやってきてもおかしくありません。

それでも、大丈夫です。

大好きなみんなと一緒なら、何だって、乗り越えられるのですから。

さぁ、今度はみんなで力を合わせて、困難に立ち向かいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(本当に、成長したわね)」

 

エンディングとして、樹を中心に作曲した『Aurora Days』を部員全員で歌い上げ、会場から溢れんばかりの拍手喝采を受けて、満足げに喜ぶ14人の無垢なる少年少女達を、後方の客席から源道や、一般客として参加した蒲生と共に並んで見ていた安芸の目から、溢れんばかりの水滴が零れ落ちていた。

今回の劇の内容は、言ってみれば、これまで友奈達が、ひいては先代勇者である晴人達が歩んできた軌跡を表したものであり、大赦が近いうちに世界の真実を公表する、といったものを先駆的に行ったものに他ならない。最初に園子が作成した台本を見た時は源道と共に驚いたものだが、敢えて口を挟まずに、子供達の意見を尊重したのは、間違いではないだろう。

無論、賛否両論はあって当然かもしれない。現に、今なお大赦に属している蒲生は若干頭を抱えているようだし、周りの観客の中には、満足げに拍手を送っている者が多数を占める中で、この内容を観て複雑そうな表情を浮かべている者もいる。

 

「(でも、それでも……)」

 

この劇をキッカケに、皆にも真実を知ってもらいたい。その上でどのような選択をするかは分からないが、少しでも可能性があるのなら、奴らに、人間の底力をしらしめたい。それが安芸の率直な気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人ひとりが、かけがえのない色を纏い、この大地を染め上げていく。それぞれが違う色を持ち、輝いていける。

 

 

神世紀300年。

新たなる一歩は、そうやって始まろうとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

勇者部の部室には、新聞部が作成した、勇者部の劇を称賛する記事が新たに飾られた。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

アニメでは結果として、壁の外の真実に関しては2期の終わりまで語られなかったわけで、このままでは勇者部員達が頑張ったのに報われないなぁ……と思った結果、このような展開にしました。

ともあれ無事に、『結城友奈・久利生兎角の章』に一区切りつけたので、個人的にはホッとしております。様々な事情で投稿が延びてしまい、皆様にはご心配、ご迷惑をおかけしましたが、少しでもこの小説を読んで感動した方がいれば、私としても感無量です。
もちろんまだ物語は終わってませんので、今後ともよろしくお願いいたします。
次回からはエピローグとして、前回同様、3話に分けて投稿する方針です。



また、前回の章の最後の方でもやったのですが、もしよろしければ、今回の章の中で、『特に1番良かった話』を、コメントを介して教えていただけたらと思っております。因みに今回の章では、『第30話』に、それなりに力を入れた感じです。

それでは、新型コロナウイルスで大変な時ではありますが、健康に気をつけて、みんなで困難に立ち向かいましょう!

勇者部五箇条一つ、『成せば大抵何とかなる』!

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