結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

85 / 127
お待たせしました。

先日、『リリカル大運動会』に行ってきました。みんな可愛いハッピ姿に包まれており、どのグッズを買おうか悩みました。現在は名古屋店が11月中旬までやってるそうなので、皆さんも行ってみてください!

さて、今回は新たな仲間として、あの2人が登場します。


42:新たな仲間

「……というわけで、小川遊月改め市川晴人、及び久利生兎角は、本日より復学いたします!」

「ご心配おかけしました」

「「「いえ〜い!」」」

 

兎角と遊月が目を覚ました翌日。退院の許可が下りて、早速部室に顔を出した8人。他の6人は2人の歓迎会の準備をしていたらしく、部屋を飾っていたり、パーティーグッズを揃えていたりしており、彼らの思わぬ登場に喜びと困惑が混ざり合う。

 

「あ!兎角さん、遊月さん!」

「相変わらず威勢良いな」

「ちょ⁉︎早すぎるわよ⁉︎」

「まだ準備できてませんもんね……」

「お帰りッス!」

「2人ともお帰りぃ!」

「痛い⁉︎ちょ、風先輩。まだ筋肉痛は治ってません……」

「あ、ごめん……」

「でも、これで勇者部全員が揃いましたね」

「そうだな」

「よぉし!今日はお祝いよ!」

『おー!』

 

風の号令に賛同する一同。

部室で菓子を摘みながらの歓迎会を済ませると、一同は自然な流れで、二次会と称して『かめや』に足を運ぶ事に。

 

「は〜。でも、みんな無事で良かったね!」

「あぁ、そうだな」

「心配したんだから。もう目覚めないんじゃないかって」

「兄貴も姐さんも、文化祭が近づくにつれてソワソワが増してたッスからね」

「そりゃあ、まぁな」

「ま、私は心配しなかったけどね」

「ははっ!そんな事言って、風以上にソワソワしてたのは誰だったっけねぇ」

「うんうん」

「ちょ、銀……⁉︎」

「フフ」

 

海岸沿いを歩きながら談笑する一同。兎角と遊月は、筋力が回復していない事もあって、車椅子に乗って、友奈と東郷に押してもらっている。そんな中、2人は当時の事を思い返していた。

 

「まぁ、正直な話、俺も無理なんじゃないかって思ってたんだけどさ。そこは……、えぇっと……」

「?どうしたんですか」

「いや、何で目覚める事が出来たんだろうな、って考えてたんだけど、その辺りがあやふやでさ……」

「きっと根性だよ!2人とも凄く頑張ってたんだもん!」

「また随分と便利なワードでざっくばらんに……」

「でも、友奈ちゃんの言う通りかもしれないですね!」

「もしかしたら、神樹様が助けてくれたんでしょうか?」

「……」

「遊月?」

「あ、いや。……ただ、声が聞こえたような気が」

「声?」

「……いや、多分気のせいだな。だとは思うんだが、今にしてみると、あの時の事、全然思い出せないな……」

 

曖昧そうに首を傾げる遊月。兎角も、意識を失ってからの事が、黒く塗り潰されたかのように思い出せないでいた。散華とは関係は無さそうだが……。

 

「多分、だけどね」

 

そんな中、それまで黙り込んでいた東郷が口を開いた。

 

「晴人君も兎角君も、きっと、自分の力で戻ったんだよ。奇跡や神の力なんかじゃない。2人は、2人の強い意志でここにいる。そんな気がするの」

「……そうかもな」

「うんうん!東郷さんの言う通りだよ!」

「だな」

 

2人も、取り敢えずといった様子でそう納得する。それから、遊月は首を傾けて、東郷に目線を合わせる。

 

「須美。ありがとな。俺を待っててくれて」

「どういたしまして。そしてこれからも」

「あぁ。これからもよろしくな」

 

互いに思いの丈を伝え合う事が出来たのがキッカケになったのだろう。双方が浮かべる笑みは、屈託のない、見るものを朗らかにさせるものだった。

そうして二次会は、風が例の如く大食感ぶりを発揮したり、ようやく味覚が戻ってきた友奈と銀がさも美味しそうに頬張る姿を堪能したりと、大いに盛り上がった。

ようやく勇者部に、明るみが戻ってきた、と後にその様子を見ていた『かめや』の店長はしみじみと呟いたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経過した。

各々が供物として捧げた箇所に多少の難儀はしているものの、根気よくリハビリを続けていれば、文化祭当日までには完治するとの事。もっとも、兎角と遊月は復活が遅かったからか、検査の回数は比較的多かった。が、遅れを取り戻そうと、2人はリハビリを兼ねて、車椅子生活を早々に切り上げて、徒歩で通学していた。無論時たまに立ちくらみする事もあるため、必ず友奈と東郷が、時折他のメンバーがサポートに入っている。

そんな、ある日の事だった。

担任からの指示を受け、生徒達は体育館に集められ、臨時の全校集会が行われた。週の初めに開かれるならまだしも、金曜日に開かれるのは、この学校では極めて珍しい。校長の話や、間近に迫った文化祭に関する話が流れ作業のように進む中、不意に司会進行を務めていた教頭が話題を変えた。

 

「それでは、ここで皆さんにもう一つお知らせがあります。急ではありますが、本日より我が讃州中学に、新しい先生を2人ほど迎える事となりました。壇上で軽く自己紹介をしてもらいますので、お二人は所定の位置へ」

 

そうして教頭に案内される形で、友奈達からは見えない位置にいた、男女2人が、教壇があるステージに向かって歩き出す。

1人は見るからに屈強な肉体を持つ男性。もう1人はスタイルの良い、眼鏡をかけた女性。一同はそのルックスにざわついているが、その中にいる14名の生徒は、驚いた表情を浮かべていた。そんな彼らの視線に気づいているかは定かではないが、堂々とした様子で、自己紹介を始める。

 

「本日付けで、讃州中学に赴任しました、安芸と申します。以前は大橋市の小学校を担当していた事もあります。久々の教員生活ではありますが、頑張ってまいります」

「おはよう諸君!俺は源道!安芸先生と同様、以前は大橋市で体育教諭を務めていた。教諭として、何より1人の社会人として、皆を導けるようにしていきたい!気軽に声をかけてくれれば、大歓迎だ!」

 

そうして生徒達から温かい拍手が送られる。一方で2人の事をよく知る者達は、このサプライズを目の当たりにして、終始口が開きっぱなしだったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、改めて自己紹介からだな。皆も急な事で驚いたと思うが、俺達2人は、今回の案件を皮切りに教師として復帰する事となった。そして今後は勇者部の顧問として、君達のサポートを万全なものとしていきたい。まだ慣れない身ではあるが、よろしく頼む」

「あなた達2人だけでは色々と大変だったでしょうからね。これからは私達も、2人の負担を減らせるように立ち回るわ」

 

放課後の部室。お馴染みの面子に加えて、今朝自己紹介した2人の教師……2年前まで神樹館小学校を担当していた源道と安芸の姿が。黒板の部員リストに、新たに顧問、副顧問の枠が設けられていた。

 

「こ、これはまた……」

「まさかのサプライズでしたね」

「でも、師匠達が顧問なら、心強いな!」

「な、なんか遊月がこんなにもテンションアゲアゲなのが違和感ありまくりね……」

「2年前は、誰よりも慕っていましたから、嬉しい事この上ないと思いますよ」

「またこの面子で揃うなんてね〜」

 

遊月は勿論の事、先代勇者であった6人としては、嬉しいサプライズだったと言えるだろう。

 

「全校集会でも話した通り、源道先生は2年前と同様に体育教諭として全校生徒を受け持つ事になって、私は鷲尾さん……失礼、東郷さんだったわね」

「先生、お構いなく。呼び易い方が良いと思いますので、昔の名字で呼んでいただければ」

「……そう。ならそうさせてもらうわ。話を戻すけど、私は鷲尾さん達のクラスの副担任となったわ。何かあったら、相談してね。でも、勉強面だけは極力自分の力で解く事。特に三ノ輪さん」

「な、何であたし⁉︎」

「まぁ2年前の事を考えれば自ずとな……」

 

すると樹が前に出て、ペコリと頭を下げる。

 

「あ、改めまして、い、犬吠埼樹です!い、色々と大変かもしれませんが、私達と一緒に、ゆ、勇者部活動、頑張りましょう!」

「!えぇ、こちらこそ宜しくね、犬吠埼樹さん」

「⁉︎い、今の見た⁉︎あ、あの樹が、自分から挨拶に行った⁉︎ねぇ見たでしょ⁉︎」

「はいはい。いちいち騒ぐなっての。樹に失礼でしょ、それは」

「こ、こうして妹は知らず知らずのうちに大きくなっていくのね……!よよよよ……!」

「今夜はお赤飯ですね〜、ふーみん先輩」

「そこまで大事なのか……?」

 

例の如く妹愛を爆発させる姉を見て、和やかな雰囲気が漂う。源道と安芸も、勇者部の騒がしくも学生らしく謳歌している姿勢を見て、ある種の安心感を覚えたようだ。

 

「さて、折角また会えたわけだからな。今のうちに聞いておきたい事があれば、何でも答えてあげるぞ!無ければ、俺のオススメのアクション映画について……」

「あの……、でしたら、私の方からお伺いしたい事があります」

 

自分の趣味について熱く語ろうとした矢先、東郷が手を挙げる。

 

「全員の供物が戻ってきている明確な理由。先生方は何かご存知ではありませんか?」

「「!」」

 

表情を見ても分かるようなリアクションを見せる2人。今回の一件の裏側について、情報を持っているような顔つきだ。

 

「やっぱり、何か知ってるんですね」

「そこそこは、ね。やはり当事者としても知りたいわよね」

「そういえば、あれ以降大赦からの連絡はなかったわね。藤四郎、あんたは?」

「俺の所も、事件の詳細については語られてはいないな」

「私の方にも、接触はありませんでした。あれだけの事をしたのですから、何かしらの動きがあると思ってはいたのですが……」

 

東郷の言う『あれ』とは、真実を目の当たりにし、自棄になって壁を攻撃して穴を開け、世界を滅亡寸前に追いやった事を示しているのは、全員が容易に想像できた。

そんな東郷を気にかけつつ、2人の大人は目線を合わせて頷き、そして語り出す。

 

「……結論から言えば、神樹様は、俺達人間の勇気というものを信じてくれたのかもしれない」

「……へ?」

「銀もそうですが、俺達にも分かりやすく説明していただきたい」

 

巧がそう呟くように、源道の一言に首を傾げる者が多数。

 

「……なら聞くけど、このままあなた達がバーテックスと戦い続けたら、どうなっていたと思うかしら?」

「俺達にとっては生き地獄のような日々が続くが、世界の平和の均衡はまだ保たれていたに違いない。……が、外があんな状態だからな。何れは……」

「そうだ。君達はあの日、真実を目の当たりにした。だから感覚的に分かるはずだ。君達の犠牲を払って、バーテックスを倒し続けても、奴らはそれを上回る再生力で再び侵攻する。その状態が続けば、何れは敵の物量で押し切られ、神樹様は保たなくなる」

「篭城戦の辛い所ね……」

 

東郷はしみじみとそう呟く。戦に例えるのは須美らしいな、と思いつつ、安芸は重要な事を語り始める。

 

「でも神樹様は、あなた達の頑張りを見て、人の勇気を信じてくださった。更に、あなた達の戦闘データからは数多くの情報を得る事ができた。それを受けて、勇者システム及び武神システムは、次の段階へアップデートするような動きが、大赦の中で見受けられるわ」

「次の段階に……?」

「アップデートって……」

「大赦は、準備が整い次第、大発表を行うかもしれないって事よ」

「!まさか……!」

 

先生達の言いたい事を理解したのか、思わず腰を上げる遊月。

 

「壁の外の真実を、公に公開する。そういう事なんですね」

「そう、全人類にな。西暦の時代に人類を脅かしたのは、ウイルスではない事も、君達6人が経験した、瀬戸大橋跡地の合戦も、そして今回の戦いも語り継がれる事となるに違いない」

 

これを聞いて慌てふためいたのは他でもない。真実を知って誰よりも絶望し、耐えきれずに破滅の道を選んだ東郷だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!大混乱の火種になりかねないわ!私だって、あの壁の外を見てしまって、絶望に取り憑かれた……!当事者である私でさえ恐れ慄いた事を、何も知らない人達が聞いたら、大混乱は元より、暴動が起きかけないわ!そんな事……!」

「と、東郷さん落ち着いて!」

 

慌てて彼女を落ち着かせようと、友奈や遊月が必死に肩を押さえつける。ようやく落ち着きが戻った所で、源道が口を開く。

 

「須美君の考えもよく分かる。だが、対処法さえはっきりしていれば、話は別だ」

「えっ?」

「それはどういう……」

「進化した勇者システム及び武神システムを公に公表する事だ。聞くところによれば、次のアップデートは、『量産化』によるものらしい」

「量産化⁉︎そんな事が出来るの⁉︎」

「という事は、散華はあるのでしょうか?」

「それはない、と断言する。量産化の時点でバリアは実装不可だ。つまり満開システムも、精霊降ろしも使えない、という事だ。供物を求めなくなった分、戦力の弱体化は免れないだろう」

「ならその分を、量で補うんだね〜。基本的には誰でも変身できるようになるのかもしれないね〜」

「無論、あくまで憶測によるものだ。具体的な案は出されていない」

「でも、外の世界があんな状態で、どうやって……?」

「俺達も詳しくは聞かされていない。今回の件で大赦とは疎遠になりつつあるからな。一応の対策は見つけ出しているようだが、その時に発表するらしい」

「種がどうとか、言っていたわね……」

「種、ですか……」

 

安芸も首を傾げる辺り、本当に具体案は知らないようだ。だからこそ疑ってしまうわけだが、ここで論議が停滞していては拉致があかない。

 

「人類の粛正をした天の神々が、そんな俺達を見てどう判断するかは予測できない。バーテックスに関しては、依然として謎が多いからな」

「色々とややこしいなぁ……」

「う〜ん……」

 

友奈と銀も、小難しい話が飛び交い、ショート寸前だ。

 

「でも、こういう風にも考えられるのではないでしょうか」

 

そうして再び、東郷が意見を述べる。

 

「勇者システム及び武神システムを量産化するのは、極々一部の人間……無垢なる少年少女に突出した力を与えるのは危険だと判断したから。そう思えるんです」

「危険……」

「そっか。あたしも散華で樹の声が戻らないと思った時には、怒りで我を忘れてたっけ。それで大赦を潰そうとしたし」

「私の場合は神樹様をなぎ倒そうとして、世界の危機に陥った訳ですから」

「東郷さん……」

「ま、これだけ大規模な反乱が起きた後じゃあね。システムを変更しようとするのは当然ね」

「……結果的に、私のしてきた事が、国民を戦場に駆り出してしまう事になるのね」

 

ブツブツと呟く東郷。そんな彼女を元気付けようと、遊月が少し強めに彼女の肩を叩く。

 

「ゆ、遊月君?」

「そう落ち込むなよ須美。無関係な人まで戦いに巻き込んだような言い方してるけど、後ろ向きに捉える必要はないと思うぜ。さっき師匠が語ったように、このまま変化がなければ、いつかは全員揃って滅亡を迎える事になったんだろうし」

「晴人君の言う通りだ。物事を悪い方向に考えるのは、昔からの、君の悪い癖だ、須美君。この2年間を通して、君達の頑張りがあったからこそ、緩やかに滅ぶよりも、過酷な道を歩む強さが人間にはあると神樹様は信じてくれた。故に供物を返してくださった。そしてシステムを量産化して、全人類が奮起し、生き残りに賭ける道を選んだ」

「そうだね〜。一人ひとりが違う花を纏うって考えれば、それで良いと思うな〜」

 

園子も納得したように頷く。

 

「なるほど……。供物が返ってきた理由、何となく分かった気がするな」

「とはいえ、治るのには個人差がある訳だしな。足の方はともかく、両手の痛覚と記憶はまだ完治したとは言い難い」

「おいらもまだ匂いが感じられない時があるッス」

「そう考えると、いつ治るか分からなかった兎角と遊月が、ここまで回復しているのは、凄い事なのかもしれないな」

「「?」」

 

藤四郎の呟きに、首を傾げる兎角と遊月。安芸も藤四郎の言葉に同情する。

 

「私も最初は驚いたわ。聞いた話じゃ、強引に精霊降ろしを行使して、敵の体内に突撃し、御霊に直接触れたそうじゃない。当初は大赦内でも、システムに何らかのバグが発生したのか、バーテックスに意識を持っていかれたのか、で意見が割れたそうよ。バーテックスがらみなら、今の大赦の医療技術はおろか、神樹様の力でどうこう出来る問題では無くなってきてしまう訳だから……」

「或いはその両方かもしれません。とにかく酷い状態でした。それでも、2人は根性で、私達の声を聞いて帰ってきてくれた。銀がいつも言っている、『勇者は根性』が、身に染みて分かったわ」

「だな!」

 

銀は大きく頷く。因みに2年前の記憶が戻りつつある東郷は、銀の事を呼び捨てにしていた事を思い出しており、その方がしっくりくると互いに意見が一致したため、昔の呼び名を採用している。

 

「最初は、2人が全員の供物を肩代わりしてくれたんじゃないかって思ってましたからね……」

「でも、それはそれで2人が本当に戻れなくなるからな」

「そうだね。私も東郷さんも、みんなも、凄く悲しむよね」

「……『勇者』は、他の人に勇気を与える人の事を指し示す言葉なのかもしれないわね。神に対して人間の底力を見せつけ、考え方を改めさせた。……本当に立派だと思うわ、あなた達」

「えへへ〜。先生から褒められた〜」

「……とはいえ、俺達人類の戦いは、まだ終わっていないのは事実だしな。寧ろ、ここからが本当の戦いになるのかもしれない」

 

巧の一言で、その場にいた全員が窓の外に顔を向ける。夕日が差し込む中、東郷はポツリと呟く。

 

「私達もまた、選ばれる可能性はあるのかもしれない。特に私は、一連の事件でお咎めがないと言う事は、そういう事なのかもしれないわ」

「……鷲尾さんは、巫女であり、勇者でもある。神の声が聞けて、尚且つその力を発揮できる。そういう人の事を、昔から『救世主』と呼んでいたそうよ」

「救世主……、須美が」

「……恐れ多いわ。救世主がこんなんじゃ、ね。それなら、もっと心を強くしないと。今度、滝打ちが出来る場所を探しておかないと」

「どうしてそうなるのよ⁉︎」

「やっぱりわっしーはブレないなぁ〜」

「てか痛そうだよな、あれ……」

「性格は死ぬまで変わらないと言うが……。まぁ、必要以上に抱え込まないようにするんだぞ。その為の俺達だからな」

「……はい。ありがとうございます、先生」

 

いつしか、場は和やかになっていたと言っても過言ではない。

いつか終わる世界の中で、真実を発表する。この国は危機に瀕している、と。それを自覚したら、今度は皆で力を合わせていく。黙っていつか滅ぶくらいなら、やるだけやってみよう。それが今回の件を経て、人類が導き出した結論、という事なのだろう。

人はそれぐらい強いのだと、可能性を示したのが他でもない、結城友奈ら『讃州中学勇者部』なのだ。

 

「以上が、俺達が大赦から聞いた事の全てだ」

「はい。ありがとうございます」

「……よぉし!湿っぽい話はこれくらいにしといて、早速次行くわよ!本番まであと僅か!兎角と遊月も台本のセリフ覚えてきたみたいだし、このまま一気に駆け抜けるわよ!」

『おぉ〜!』

 

そんなこんなで源道と安芸からの説明を切り上げると、部長の合図で一同は気持ちを切り替える。

 

「そういえば、君達の今年の出し物は演劇だと聞かされていたが……」

「どんな内容なのかしら?」

「えっとですね〜」

 

脚本家の園子が、持っていた台本を2人に見せる。その内容を目で追っていた2人は、次第に食い入るように目を見開いたり、頷いたりしていた。やがて台本を一通り見終えた2人は……。

 

「……正直、驚かされてばかりだ。まさかここまで画策していたとは」

「でも、これはある意味で私達がやろうとしている事の、人類が前に進む為の第一歩とも捉えられます。この台本通りに進めてみても良いかもしれません」

「無論だ。子供達が自主的にやろうとしている事に口を出すほど、俺達大人もカッコ悪くないからな!」

 

そうして2人の顧問からの許可も下りて、一同は熱を入れて演劇に取り組む。兎角と遊月も、他の面々と比べて練習量の少なさから若干の不安を抱きつつも、皆のサポートを借りて、自然な動きを出せるように精を尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、新たな人手が加わった事が幸いして、練習は予想以上に順調に進み……。

 

 

 

 

 

 

今年の讃州中学主催の文化祭が、幕を開けた……。

 

 




次回でいよいよ、結城友奈・久利生兎角の章が完結します。
……といっても、前回の章と同じように、エピローグを3つほど執筆しますのでそれが終わった後に新章に突入します。
予定としては、年度内にエピローグを書き終えて、年明けに新章を、という流れでいきます。


〜次回予告〜


「私は、勇者になる!」

「繋げたバトンは、絶対に落とさねぇ!」

「私を、1人にしないでぇ!」

「聞こえてたぜ、みんなの声」

「勇者は根性ぉ!」

「あいつはもう、俺達の仲間だ」

「いっくよ〜!」

「耐えて、みせます……!」

「あんたを止める!」

「それでも、俺は……」

「ついて行くよ、何があっても……!」

「ブチ抜けぇ!」

「これが、完成型勇者の力ぁ!」

「傷つけさせない……!」

「絶対に、負けるもんかぁ!」


〜勇者〜


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。