結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました!

カードゲームの大会も徐々に解禁され、なかなか小説投稿に時間をあてるのが難しくなってきましたが、これからも頑張っていきます。

そして遅ればせながら、『結城友奈は勇者である』の3期制作決定、本当におめでとうございます!こちらとしても嬉しい限りで、2期でこのシリーズを完結させようとしていたのですが、また続編が書けそうで、ますます創作意欲が湧きます!(ゆゆゆいシリーズは継続して書こうとは思ったましたが)




40:激闘の果ての物語

……ふと目を開けると、見慣れた和風の天井が映り込んだ。

外からは小鳥のさえずりが聞こえ、日の光も障子越しに差し込んでいるのが確認できた。普段は日が昇る前に目覚めていた事を考えると、随分熟睡していたようだ。

友奈ちゃんはまだ寝てるのかな、早く身支度して起こしに行かないと。そう思って上半身を起こした東郷は、不意に下半身に違和感を感じ取った。その違和感を確かめるべく、両足を布団の中から木製の床につける。

そして足に力を込めると、勢いを少しつけて、上半身を浮かした。目を見開く東郷。それまでどれだけ力を込めても直立できなかったのに、今はしっかりと補助なしで、震えながらも二本足で立っている。さすがに長年立っていなかった事もあって、すぐに筋力に限界が来てベッドに腰を下ろしたが、彼女自身、驚くには十分だった。

 

「治癒が、始まってる……?」

 

誰ともなしに呟く東郷。

夢物語ではない。実際に大きな被害も出ている、人類の存亡をかけた戦いに一つの区切りがつき、その直後に起きたこの現象。無関係とは言えないだろう。原因は分からないが、身体の機能が、神樹に供物として捧げてきたものが、持ち主に返されようとしているのだ。

 

「……あ」

 

そして同時に、甦るものもある。依然として大部分が黒く塗りつぶされているが、失われたとされる、2年間の記憶。そしてそこに刻まれた、大切な人と過ごした、かけがえのない時間。ぼんやりとではあるが、その屈託のない笑顔が脳裏を支配する。

目頭から頬を伝うように、水滴が床に零れ、染み込む。そして今一度、彼の……最愛の人の名を呟く。

 

「晴人……君……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい戦いが終わっても、日課を怠る事はない。

台所でリズミカルに具材を切り、沸騰した鍋の中に入れていく風。味噌汁も完成間近となった頃、横手から足音が近づいてきた。2人暮らしである為、誰のものなのかは明白だったが、この日は珍しく自分から起きられたようだ。そんな妹のちょっぴりな成長ぶりに感心しつつ、声をかける。

 

「もうすぐ出来るからね。ちょっと座って待ってて」

「……お」

 

不意に、風の耳に掠れた声が届く。驚き静止する彼女。そして、ゆっくりと振り向く。

 

「……お、ね……、お姉……ちゃん……!」

 

最後に聞いたのはいつ以来だろうか。まだ本調子ではないとはいえ、彼女なりに必死になって、呼びかけているのがはっきり見えた。

 

「……!樹、声が……!本、当に……!取り戻した……!」

 

視界がボヤけ始めたが、慌てて火を止めた風は、そのまま樹に駆け寄り、精一杯抱きしめた。妹の声が治り始めた。それだけでも、今日一日が満たされたような気分だっただろう。

 

「良かった……!治るんだ、私達……!」

「……うん……」

 

樹もまた、風を抱きしめ返す。樹の声が戻りつつあるという事は、風の左目を初め、他の面々も散華によって失われた機能も治癒し始めている事だろう。後で全員に確認を取る予定を立てつつも、喜び勇んで朝食作りを再開する風であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちゃん。夏凜……、ちゃん」

「……」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきて、ゆっくりと目を開ける夏凜。右半分の視界がまだ暗く感じる。それでも視界には、涙目の真琴の姿が。

 

「真琴……」

「!良かっ、た……!」

「珍しくグッスリだったな」

「それはお前も同じだろ、銀。いつものように起こしに行ったらまだ寝てたし」

「あはは……」

 

上半身を起こした夏凜に抱きつく真琴。そこで夏凜は後方に、銀と巧の姿を確認した。彼らもまた、真琴と共に合鍵を使って部屋に入ってきたのだろう。

 

「あんた達……」

「みん、な、夏凜ちゃんを、心配して、見に来て、くれたんですよ」

 

そう説明する真琴の声は、樹と同様に掠れていた。あの戦いで声帯を失った為、回復に向かってはいるものの、思うように出せないでいるのだろう。そして銀と巧、先代勇者である2人は3ヶ月ほど前に失った機能に加えて、2年前の記憶や、その時に失ったものも取り戻しつつあるようだ。

 

「さぁてと。夏凜はまだ本調子じゃないしさ。今日は軽めの朝食を作ってきたんだ!ほら、おにぎり!」

「!これ、あんた達が……」

 

銀が差し出したのは、ラップに包まれた、不格好な三角おにぎり。今朝起きて慌てて作ったのだろうか。普段はサプリで済ませる朝食が、ちょっぴり豪華になった気がする。それだけ、足や目が不自由になった自分を気遣ってくれているのだろう。

夏凜は無言でそのおにぎりを受け取り、ラップを剥いで一口頬張る。丁度良い塩加減で、口いっぱいに旨味が広がる。夏凜は小さく何かを呟いたようだが、夏凜に代わって支度の準備をしていた面々には、その声は聞こえなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。

藤四郎を初め、冬弥、園子、昴、銀、そして夏凜が、有明浜の一角に腰を下ろしていた。夕日が色鮮やかに彼らを照らしていた。

 

「あれから、大赦からの連絡は一方通行のままよ」

 

夏凜が、大赦からのメールを皆に見せながらそう呟く。

 

「変身も出来なくなってるッスね。アプリが消えてるんスから」

「だが欠損したものが、徐々に戻りつつあるのも事実だ」

 

藤四郎が、握力が戻りつつある左手に目を向ける。

 

「それじゃあ、僕達は神樹様に開放してもらえた、と捉えても良いのでしょうか?」

「というより、もう私達が戦う必要ないって事かもよ、すばるん〜」

「そっか……」

「おろっ?目的が無くなってまた不安になったか?」

「そ、そんな事ないわよ銀!全然そんな事思ってないし!」

「へへっ。相変わらずチョロいな、夏凜は」

「わ、笑うなし!」

 

などと喚きつつも、互いに笑みを浮かべる銀と夏凜。やはりこの2人は戦い方を初め、性格面でも似通っている所がある事を改めて感じる藤四郎。

 

「……けど、外の世界があんな事になってるのは変わらないんスよね」

「そうね。私らの戦闘データが役に立ってればいいけど」

「そうだね〜。けど、あの戦いは無駄じゃなかったのは間違いないよね〜。神樹様も供物を求めないようにしたわけなんだから〜」

 

そう呟く園子を含めた全員の視線の先には、肉眼では確認できないが、壁のある方に向けられていた。あの壁を隔てた向こうでは、依然として地獄のような光景が広がっている。全てが解決したわけではない事を、彼らは改めて再認識する。

そしてそれを代弁するかのように、昴が呟いた。

 

「戦いは、これからも続く……」

「あぁ。けど、その役目は、俺達の代から、未来の勇者、武神に受け渡される事になるだろうな。大赦からの神託では、当分の間、敵の襲来はないとの見解だ。ここからは、後輩達を信じて任せるしかないだろう。それが、あの戦いを生き抜いた俺達の使命でもあるんだ」

「でも、勇者部は不滅、でしょ」

「おっ、言うようになったな夏凜!」

「夏凜ちゃんからその一言が聞けるなんて、嬉しいですね」

「お前も成長したな」

 

そんなこんなで談笑を続けていた6人だったが、不意に夏凜の沈んだ声が、その場の雰囲気を一変させた。

 

「……ねぇ」

「「「「「?」」」」」

「どうして、あの2人だけ目を覚まさないの?何で、あの2人だけ……」

 

2人、というのが誰を指しているのかは、全員分かっていた。雑草の生えた地面に横たわり、チュッパチャプス(ジンジャーエール味)を舐めながら、呆然と呟く。

 

「あいつら、それなりに張り切っていたからな。今はとにかく、しっかりと休ませるしかない」

「……友奈ちゃんから、後で聞いたんです。あの時、御霊に触れる寸前で、2人に弾き飛ばされて、結果としてあの2人だけが御霊に触れて破壊したそうです。それで、友奈ちゃんは助かったけど、2人だけに影響が及んで……。園子ちゃん達に慰めてもらうまで、彼女、ずっと自分を責めてましたよ。あの時、自分の力だけで御霊を破壊できていれば、2人とも無事で済んだのに、って」

「自分を犠牲にしていいなんて、そんな考えはダメだって、その時は友奈に叱ってやったんだけどね……。あの落ち込みようは、見てるこっちが辛いわよ、ホントに」

「そうだったね〜」

「けど、あいつらがいたから、頑張ってくれてから、今の俺達がいる。そう考えると、な」

「先輩達、大丈夫ッスかね……?」

「……明日にでも、みんなで行ってみよっか。友奈と東郷……じゃなくて須美の2人だけにずっと任せっぱなしじゃアレだしさ」

 

銀の提案に、当然ながら全員が賛同する。

夕日が、地平線に沈もうとしている。今日も時間いっぱいまで、2人がいる病室に通って見舞いに行っているであろう、友奈と東郷の姿が、すぐに想像できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の夕方。

市内の大きな病院に、讃州中学の制服に身を包んだ、2人の女子生徒の姿があった。言わずと知れた、結城 友奈と、東郷 美森改め鷲尾 須美である。通い慣れたように院内に入り、目的の病室まで足を運ぶ。

扉の前に立ち、一度お互いに顔を見合わせて頷いてから、勢いよく扉を開ける。

 

「こんにちはー!結城友奈、入りまーす!」

「東郷美森、入ります」

 

……が、僅かに淡い期待をしていた返事はなく、静まり返った室内が広がっていた。

 

「「……」」

 

2人は少し気を落としながら、その病室のベッドに横たわっている、2人の少年の側に寄った。そして友奈は、赤ん坊の頃から行動を共にした幼馴染み、久利生 兎角の。東郷は、2年前に同じお役目に選ばれ、共に戦い、誰よりも想いを寄せていた小川 遊月改め市川 晴人の、今はピクリとも動かない手に触れた。温もりはあるものの、意識は感じられない。こうして会う度に、胸の奥が痛くなる。

医師の話では、呼吸こそ正常に出来てはいるが、それ以外の機能はほとんど働いておらず、植物状態に近いとの事だった。当然ながら、回復の兆しは見えてこない、との判断だった。それでも2人は諦める事なく、こうして毎日、学校が終わってから病院に足を運んでいるのだ。

この日は久々に、2人を外に連れ出す事に決めており、医師の許可を得て、寝たきりの2人を車椅子に乗せて、広場の休憩スペースに腰をかけ、普段と変わらないトーンで世間話を始めた。

 

「でねでね!風先輩、そこでまたおかしな事を言い出したんだよね!」

「そうだったわね。そうしたら藤四郎先輩が……」

「おーい!」

「悪いな、遅くなった」

 

話している内に、他の勇者部の面々が到着し、あっという間に輪が広がった。

 

「あ、その栞……」

「うん!綺麗な葉っぱが見つかったから、昨日のうちに作ったんだ!兎角に気に入ってもらいたくて……。……それにね、さっきも兎角が大好きなマッサージをいっぱいしたんだよ。少しでも体の具合が良くなるように頑張ってね、それで、ね……」

 

樹が指差した、兎角の手に握られている友奈特製の、押し花の栞についてや、友奈が押し花と同等に得意だと豪語するマッサージについて勢いよく語り始めるが、次第にその声は萎んでいく。依然として、2人の反応はない。その光景に、大半の面々は思わず目を逸らしたり、小さく舌打ちをする。

やがて沈黙を破ったのは、東郷の悲痛な声だった。

 

「私は……、一番大切な人を、犠牲に……!」

「東郷、さん……」

「私が、あんな事をしなければ」

「言うなっ!」

 

風の一喝が、東郷の言葉を遮る。

 

「誰も悪くないって、みんなで話し合ったでしょ」

「そうだよわっしー」

「だからもう、自分を責めるのはやめましょうよ。遊月君も兎角君も、そんな事望んでないですよ」

「分かっています。けど……!」

 

拳を握る東郷からは、後悔の念がひしひしと伝わってくる。

 

「……大丈夫だよ!」

 

そんな暗い雰囲気を払拭したのは、やはりと言うべきか、我らが讃州中学勇者部のムードメーカー、結城 友奈。

 

「兎角も、遊月君も、きっと起きるよ!また一緒に部活動をしたり、一緒にうどんを食べたり出来るよ!私がめちゃくちゃそう思ってるから!だから!きっと、大丈夫……!」

 

立ち上がってそう宣言する友奈の手は震えていたが、彼女なりに前を向いてはいるようだ。そのおかげもあってか、淀んだ空気も少しばかり払拭できたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それからひと月が経過したが、依然として変わらぬ日常が続いた。否、変わったといえば、勇者部の部室に顔を出す面々の体の機能は、ほぼ全快に向かっているといった所か。それでもまだ、兎角と遊月に目覚める気配はなかった。

2人の事も心配ではあるが、他の面々にとって、それと同じくらい重要な事が間近に迫ろうとしていた。

文化祭の出し物である。

 

「……今年の文化祭まで、もう間も無くだ」

「そろそろ本格的に稽古を始めていかないと、ヤバいかもな」

「そう、ですね」

 

部員2人の事も気がかりだが、こちらも疎かに出来ない。小道具も巧を中心にほぼ全てが完成しており、後は園子が中心となって作り上げた台本の読み合わせをしながら、劇を仕上げていくしかない。

 

「それで、今後の事なんだけど、配役は……」

「あの……」

 

部長である風が、言いにくそうな雰囲気で配役について説明しようとした矢先、彼女の考えを読んだのか、東郷が挙手をする。

 

「晴人く……遊月君と兎角君の役は、そのままにしておきたいです」

「!私も!」

 

東郷に続いて、友奈も勢いよくそう告げる。それにつられて、他の面々からも似たような声が。

 

「そうだよ!あたしだって耳とか、味覚とかも治ってきてるんだしさ!きっと2人だって……!」

「俺も同意見だ」

「銀の言う通りだよ。なんか割り切っちゃうの、私だって、嫌だ……」

「ぼ、僕、も……!」

「そうですね。僕も、配役の変更は無しという事にしたいです」

「わ、私だって!……私だって、割り切ってなんか」

「……(正直、俺だって変えたくない。だが、このまま平行線を辿っていては、当日には間に合わない)」

 

部長と副部長も、配役の変更には抵抗があるが、今後の全体の活動の事を考えれば、どうしても対応せざるを得ない。そこへ来て部員からの多数の反対が挙がり、ますます唸ってしまう2人。

 

「お、お芝居を、練習、頑張りましょう!」

「そ、そうッスよ!先輩達なら、きっと……!」

 

1年生組の後押しを受けて、ようやく3年生組も覚悟を決めたようだ。不安要素は多々あるが、目覚める事を信じて、準備を進めるしかない。

と、その時だった。それまで黙り込んでいた少女が、唐突に口を開けたのは。

 

「ねぇねぇ〜」

『?』

 

一同の視線が、普段はこういった会議の場でも、ノホホンとした印象しかない園子に向けられる。

 

「私ね、あれから色々考えたんだけど〜、思い切って劇の内容をね〜。変えてみようと思うんよ〜」

「えっ?」

「それでね〜。みんなに、提案があるんよ〜」

 

そうして園子が語った、新たに創り上げようとした劇の内容を聞いて、一同は目を見開いた。が、彼らにも思う所はあったようで、結果として誰一人反対する事なく、園子の新たな案が受理された。

果たして園子が打ち出した、新しい劇の内容とは如何なるものか。それは後に、明らかになる事だろう。

 

 

 

 

 

 





依然として目を覚まさない兎角と遊月の今後は……?
園子が提案した、新たな劇の内容とは……?

そして次回、全視聴者が涙したであろう、あの瞬間が……!


〜次回予告〜


「サプリはたっぷり用意してるわよ」

「信じてますよ」

「全然覚えてないけどな」

「無理はするなよ」

「一緒にいてくれるって、言ったじゃない……!」

「聞きたい、よ……!」


〜ずっと一緒に、これからも……〜

















「聞こえてたぜ、みんなの声」

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