結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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銀……、マジで勇者だったよあんたは。

せめて、この作品の中だけでも幸せにしてあげたいと、決意を新たに投稿します。(もちろん救いのあるものばかりとは言いませんが)

ですので、応援よろしくお願いします。


7:至福のひと時

「この合宿中は、訓練や入浴以外の場では基本的に6人で行動する事。1×6を6ではなく、100にするのよ」

 

合宿の開催にあたり、安芸が全体的な目標をそう位置付けたように、6人全員が集団行動を取る事になり、食事も就寝も男女隔てる事なく、共同での2泊3日となった。

出される食事は、大赦が本格的に勇者や武神をバックアップするようになった事もあり、豪勢なものが登場している。須美達は食べ慣れていると言うこともあり、上品な食べ方をしていたのだが、生まれも育ちも決して裕福とは言えなかった晴人にとって、目の前で燦然と輝いているように見えるカニには手が伸ばしづらいものであり、涎が滴り落ちかけた程である。

そんな中、合宿1日目の夜に話題となったのは……。

 

「わっしー。荷物あれだけ? 少なくない?」

「園子もそう思うだろ? なんか寂しいよな」

「それに比べて晴人の荷物ってさ……」

「トランプにUNO、携帯用の将棋に人生ゲーム……。みんなで遊べるものが目立ちますよね」

「市川君、遊びに来たんじゃないのよ。隊長なんだからもう少し自覚を……」

「細かい事気にすんなって。これも仲を深める為の一興だと思ってくれよ」

「にしても多すぎじゃん! そんなに遊ぶ時間あるかな? ……ってか、巧のカバンから見慣れないものが見えるんだけどさ、あれ何?」

「工具箱ですね。奥にはドライバーにペンチ……」

「まるで大工さんみたいだね〜」

「何かあった時に修理できるようにな。他にもこの部屋で不具合が起きた時に……」

「そんな機会絶対ないって! なんか、色々とズレてるぞ?」

「……銀も人の事言える立場か? そこに積まれている、袋に入った菓子箱は何だ?」

「ミノさん、お土産買うの早すぎ〜」

「うっ……。そういう園子の荷物は何だ?」

「これは、何というか……」

「どこからどうツッコめば分からない……」

「……何で臼がここに?」

「臼でおうどん作るんよ〜」

「そんな時間あるんですか?」

「「ないでしょ(だろ)」」

「ショボ〜ン……」

「それと引き換えにパッとしないのは、昴のやつだな」

「へっ?」

「これといって特徴なし……」

「折角だからもっとこう、みんなを沸かせるようなオチが欲しかったんだよなぁ」

「えぇ⁉︎ 僕、なんか悪い事しました?」

「そ、そういうわけではないんだけど……」

 

そんなこんなで合宿1日目は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日は更に内容の濃いスケジュールとなった。勇者達は昨日達成できなかった課題に挑み、武神達は更にハードな演出となっているアクション映画を観せられ、特訓が始まる。

 

「そうじゃない! 腰を据えて踏ん張れ! 拳に雷を宿して思いっきり打つんだ! そんな調子では、擦り傷にもならんぞ!」

「か、雷ですか⁉︎ というより、僕は防衛担当ですし、バーテックス相手に殴りかかる機会なんて早々……」

「そんなの現場に出ないと分かんないだろ? ほら、俺が見本見せてやるからさ! 頑張ろうぜ、昴!」

「は、はい……」

「うむ! 気合いが一段と入ってるな晴人君! なら俺も、スイッチ入れるとするか! ついてこいよ!」

「はい!」

「……(こんな事に意味あるのか? まぁ、これだけ筋力がつけば武器を振るうのも楽になる、か)」

 

心の中で首を傾げつつも、真横でより一層激しいスパーリングを始める晴人を見て、負けじと巧もグローブをはめた腕を振るうスピードを上げた。

と、このようにみっちりと鍛錬を重ねる一同。訓練中はずっと弱音を吐く事なく歯を食いしばっていた晴人だったが、そんな彼が唯一頭を抱える事があった。

 

「こうして神樹様は、ウイルスから人類を守る為に壁を創り……」

「(さ、最悪だ……! 教科書持ってこいって言われた時点で嫌な予感してたけど……! なんで学校じゃないのに勉強なんてするんだよ⁉︎)」

「(合宿中なら勉強しないで済むと思ったのにぃ〜⁉︎)」

 

よく見ると、晴人の二つ隣にいる銀も苦々しい表情で、目の前で教科書を読み上げている担任の話を聞いていた。巧、昴、須美は真面目に授業に取り組んでいるのに対し、1番奥に見える園子は誰の目から見ても分かる程に、鼻提灯を膨らませている。

 

「ところが何があったのか……乃木さんは答えられるかしら?」

 

不意に質問をする安芸。ちょうどそのタイミングで鼻提灯を割り、目をうっすらと開けた園子が口を開く。

 

「……はい〜。バーテックスが暴れて私達の住む四国に攻めてきたんです〜……」

「正解ね」

「「「「「(……え。あれで聞いてたの(か)?」」」」」

 

ますます園子の事が分からなくなる5人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な苦労がありつつも、ようやく最終目標に到達し、全ての課題を終えた勇者や武神にとって、食後の入浴タイムは至福そのものだった。彼らの自由時間は入浴時間から始まるのだ。

疲れが癒えてとろけそうな感覚に陥る中、銀が不意にボヤいた。

 

「毎日毎日、バランスの摂れた食事、激しい鍛錬、そしてしっかりと睡眠。勇者というか、運動部の合宿だよねコレ。なんかこう、バーンと超必殺技を授けるようなイベントとかないのかね、須美!」

「そうね……。今回は連携の特訓だから、仕方ないわね」

「なんだか私、更に筋肉ついてきたかも〜」

 

園子が二の腕をプニプニしながらそう呟く。それを見て銀の口からため息が洩れる。

 

「強くなるのはいいけどさ。これから成長する女の子がこなすには、色んな意味で厳しいメニューだよな。悲しー」

「はいはい。文句言わないの」

「ミノさん、ずっとボールにぶつけられてばかりだったもんね? その傷とか、痛くないの〜?」

「あたしは平気。園子は?」

「どっちかっていうと、こっちの方が沁みる〜」

「あぁ……。あれずっと握ってたらそうなるもんな」

 

園子が手のひらを見せると、5つほど豆ができていた。強く握り続けていた事で生じたものだろう。

 

「でもそうなると、晴人とか巧も同じだよな。園子みたいにずっと武器握ってるんだし」

「そうかな〜? すばるんから聞いてるけど、合宿中はほとんど変身してないんだって〜」

「は? じゃあどんな特訓してたらあんなに傷だらけになるんだよ……?」

「何だろうね〜。私達より、凄く疲れてたみたいだったよ〜(すばるんはグテ〜ってなってたけど、大丈夫かな〜?)」

「へぇ……(巧のやつ、あんな涼しい顔して、結構大変な目にあってるんだな)」

「……(そういえば市川君の方は、竜巻に巻き込まれた時の傷、まだ開いてるのかしら……。後でこっそり聞いてみようかな)」

 

須美が晴人の怪我の具合を気にしてボーッとしていたが、不意に粘り気のある視線を感じ、顔を向けると銀が意地悪そうにニヤついていた。本能的に嫌な予感しかしない。

 

「……それはそうと、鷲尾さん家の須美さんも、体を見せなさいな」

「な、何で……?」

「これも良い機会だし、クラス1のデカいお胸を、拝んでおこうかなっと」

「⁉︎ ちょっと何言って……⁉︎」

 

反射的に、小学生の体つきに似合わない箇所を腕で覆い隠す仕草を見せた事で、銀の中で何かが吹っ切れた。

 

「まるで果物屋だな! 親父! その桃くれ!」

 

いうが早いか、銀は須美めがけて飛びかかる。須美はウネウネと動く銀の両手を掴んで応戦する。

 

「ちょ、ちょっとダメ〜!」

「事実を言ったまでだね! むしろ大きいくせして照れてるとか、贅沢いうなー!」

「ま、まさか反対に怒るなんて……」

 

戸惑いながらも必死に抵抗する須美と、3人の中で人一倍隆起している2つの塊に触れようと力を込める銀。そんな2人のやりとりを、「サンチョも入れてあげたいな〜」といって全く介入せずにのんびりと湯に浸かる園子。2箇所での温度差が激しくなる中、突然入り口が開き、湯船に入ってくる人物がいた。

3人は同時に振り向き、そしてギョッとした。

 

「三ノ輪さん、鷲尾さん。温泉で騒ぎすぎです」

 

2人に注意する安芸の一糸纏わぬ裸体は、あまりのインパクトに、先ほどまで言い争っていた2人の熱を一気に冷ます。

言うなれば大人の体つき、というものを間近で目の当たりにした銀がボソリと呟く。

 

「……いや〜、大人の体って凄いな。服着てるとあんまそういうのって分かんないけど……」

「着痩せするって事ね……。でもあれは別格よ。例えるなら、戦艦長門……」

「何それ?」

 

聞き慣れない単語を聞いた銀が尋ねると、須美は先ほどの銀以上に目をギラつかせ、得意げに語り出す。

 

「旧世紀の我が国が誇る戦艦よ! 詳しく教えてあげる!」

「へっ? あぁ、うん……」

 

それから小1時間ほど、興奮している須美の解説に耳を傾ける事となった銀はすっかりとのぼせ上がり、また、不用意に質問するのはよそうと、この時決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……楽しそうですね。あちら側は」

「どうする? ここはセオリー通りに、覗きに行ったりとかする?」

「……俺はまだ死にたくない」

 

女子達の間で繰り広げられるトークに耳を傾けていた武神一同は、小声でそう会話する。女子と比べると大人しく湯に浸かっている晴人達には、湯船で年相応にはしゃぐだけの余裕はなかった。それだけ源道直伝の鍛錬に気力を削がれている証拠である。

すると、扉が音を立てて開き、ガタイの良い男性が堂々とやってきた。

 

「あ、源道先生」

「おっ、ちょうど入ってたところか。随分疲れてるようだが……。もう少しぐらいはしゃいでいても良いんだぞ? 大概の事は目を瞑っておいてやるさ」

「教師としてその発言はどうなんですか……?」

「ハッハッハ! 青春を楽しむのも人生の勉強だぞ!」

 

豪快な笑い声をあげる源道。そんな彼の体つきに目をやりながら、晴人は口を開いた。

 

「そういえば先生。先生ってどうやってそんな風に体がデッカくなるんですか? やっぱりアクション映画の影響とか?」

「それもあるが、まぁ、大人になれば自然とこうなるさ。要は、そこに至るまでにどれだけ体を鍛えていくかで決まる。若いうちは発育の速度も大人と比べて遥かに早いからな」

「大人かぁ……」

 

3人は自分が源道と同じ年ぐらいにまで成長した自分を各々想像した。

 

「大人は良いぞ。大人になれば、大概の事は自分でできるようになるし、子供の頃に夢見ていた事も現実になり得る事だってある。将来の夢も、自ずと叶いやすくなるのさ」

「将来の、夢……」

 

その言葉を呟きながら、昴は俯く。それに気づく事なく源道は話を続ける。

 

「今はこういった事態で大変かもしれないが、何れはお役目を果たして、日常に戻る。そうなれば君達の将来の選択肢は幾らでも増える。今のうちに考えておくのも良いぞ。夢があるという事は、それだけ人生を満喫しているんだからな!」

「先生……! カッコいいです!」

 

源道の言葉に感銘を受けた晴人の中で、目の前にいる大男の偉大さが更に拡大する。

そして、意を決して晴人が立ち上がってこう言った。

 

「あの、先生!」

「ん?」

「これからは、その……! 師匠と呼ばせてください! 師匠のおかげで、なんかこれからの毎日が楽しく思えるんです! お役目もそうですけど、こんなに良い人達に出会えたのが嬉しくて楽しくて……! もし、先生で良ければ、師匠って呼びたいです!」

「俺が、師匠……?」

 

意外な頼み事に面食らう源道。巧と昴も同じように目を丸くしている。その一方で晴人は目を輝かせている。やがて源道は大きく頷いて口を開いた。

 

「まぁ、好きに呼べば良いさ」

「! ありがとうございます、師匠! あ、背中流しますね師匠!」

「おっ! 気が効くねぇ!」

「父さんと偶に入る時はよくやってるんです! 結構自信ありますよ!」

 

早速湯船からあがる源道の後に続く晴人。弟子が師匠の背中を流す様子を見て、巧は呆れ、昴は苦笑いを浮かべる。とはいえこの2人も、先生の存在がある意味で頼もしく、そして隊長の前向きな姿勢が羨ましく、最後までついていきたいとさえ思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂からあがり、就寝までは自由に過ごせる。もっとも、朝は5時起床の為、過度な夜更かしはできないが。

 

「ふっふっふ。合宿最後日の夜に、簡単に寝られると思うなよ?」

 

夜も更けて、いよいよ就寝時間となってからも、銀はすぐに皆を寝させようとはしなかった。なお、現在部屋にいるのは須美、銀、園子の3人だけであり、武神組は売店で土産を買いに出ている。

 

「自分の枕を持ってきてるから、簡単に寝られるよ〜」

 

そう呟くのは、猫型の枕に頭を乗せて今にも眠ろうとしている園子。普段からスローライフを送る彼女を寝かせまいと、銀が尋ねる。

 

「それタコスだっけ?」

「サンチョだよ〜。よしよし〜」

「……で、園子さん。その服は……」

「鳥さ〜ん! 私、焼き鳥好きなんよ〜!」

「うん、美味いよね〜」

 

鳥のようにバタバタと腕を振り回して興奮する園子と、それを苦笑いしながら受け入れる銀。そこへ優等生の須美が口を開く。

 

「とにかくダメよ、夜更かしなんて」

「マイペースだな須美」

「言う事聞かないと、夜中迎えに来るよ〜」

「む、迎えに来る⁉︎ ヒィ〜⁉︎」

 

単なる脅かしのつもりで発言した須美だが、園子が予想以上のリアクションを見せた。須美が想像していた以上に恐怖心を感じさせる何かを想像させてしまったようだ、と須美は思った。

 

「そんなホラーはなし! もっと合宿らしい事話そうよ」

 

そこへ銀が割り込んで、別の話題に移そうとする。

 

「合宿らしいって何よ? そんな事よりもう寝ましょう。もうじき市川家達も戻って来るでしょうから」

「だから! あいつらが戻って来る前に、ガールズトークに相応しい事を語り合おうじゃないかって事」

「どんな事話すの〜?」

 

園子が聞き返すと、銀は何故か胸を張ってこう言った。

 

「好きな人の言い合いっこしようよ!」

 

 

 




そろそろ忙しくなりつつあるので、次回以降の投稿ペースが少し落ちるかもしれませんが、ご了承ください。

次回は、告白タイム(?)です。


〜次回予告〜

「あ、あたしの気になる人はだな……」

「……興味ないし」

「何ですかこれ⁉︎」

「先生も、そう思われますか?」

「私はいるよ〜」

「ちょっと、不安なのよね……」


〜気になるヒト〜


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