結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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コロナウイルスによるイベント等の規制が緩和されていくようですが、依然として油断は禁物です。手洗いうがいはしっかりしましょう。(それからこまめな水分補給も)


34:隣よりも前へ

「ウォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

乙女型の攻撃で、2年生一同と分断されてしまった風、藤四郎、樹、冬弥は、迫り来る星屑を相手に、武器を振り回し、薙ぎ払っていた。風は大剣を握る腕を一心不乱に動かし続け、藤四郎は大鎌で前進しながら切り裂いていく。樹はワイヤーを操作して、絡め取って潰しており、冬弥はハンマーで力の限りを尽くすように吹き飛ばして倒している。

 

「っ! キリがないな。どうすれば……!」

 

藤四郎が苦々しくそう呟くように、侵攻する星屑の総数は、肉眼でも把握しきれない。体力の消耗は、避けては通れぬ道である事は間違いない。

それに加え、彼らを脅かしているものは、精神面にもあった。その悪影響が最初に出てきたのは、風だった。

 

「(バーテックスは、何度倒しても、壁の外で再生を繰り返して、この世界を壊そうとしている……! 東郷の言う通り、満開を繰り返して迎撃するしかなくなってくる……! でもそれは同時に、私達の体の機能を失っていく。いつ終わるかも分からない戦いを、私達は真実を知らないまま、強要されていた……! 戦っていても、何も変わらない……! こんな事に、何の意味が……⁉︎)」

 

僅かな不安が垣間見えた事で、行動にも影響が。集中力を欠いた事で星屑の急接近に気づかず、咄嗟に剣を盾代わりに防ぐが、踏ん張りが利かず、そのままタックルを受けて後方の壁に吹き飛ばされる風。そのまま噛み付こうとする星屑達は、樹のワイヤー攻撃によって引き裂かれた。

 

「風! グアッ……⁉︎」

 

攻撃された風を見て叫んだ藤四郎も、別個体の攻撃を受けて地面を転がった。その隙を逃すまいと、星屑が藤四郎めがけて押し寄せてくる。打ち所が悪かったのか、すぐには起き上がれない様子の藤四郎。万事休すかと思われたが、冬弥が割って入り、眼前に迫ってきた星屑を叩き潰し、藤四郎を守るように立ちはだかる。

 

「兄貴に手を出させないッス!」

「冬弥……!」

 

持てる力の全てを出し惜しみなく発揮しているのか、いつも以上に回転を加えて、大量の敵に向かって果敢に攻めていく後ろ姿を見て、藤四郎の中で重荷が下されたような感覚を覚える。

 

「頼もしく、なったな……」

 

家庭事情で周りからバカにされ、心身共に傷つき怯え、その度に今は亡き友と共に、背中に押しやり、守ってきた存在。どれだけ苦しい時も、隣でハキハキとした姿勢を見せて、時として部活動のムードメーカーとして支えてくれた、弟のような男。そんな彼が今、自分の前に立ち、戦っている。

この戦いに終わりが見えない事を、彼は自覚しているのだろうか。否、そんな事は、彼にとって些細な事情でしかないのだろう。

助けたいから、救いたいから。大切な居場所を与えてくれた者を全力で守りたいから。それが、『日村 冬弥』という武神の原動力となっているのだ。

 

「ハァッ!」

 

そしてそれは、冬弥が討ちもらした敵を一掃する『浜田 藤四郎』も同じ。弟分の為、一族の為、部員を初めとした生徒達の為、そして先日の告白で誓った、愛する者を守る為。

彼らは戦場に立つ。例え『主人公』になれずとも。『脇役』として、武器を手に持ち、目の前の問題にぶち当たっていく。それが、今の彼らに出来る、最善の選択。

 

「このまま突撃するぞ! 気合い入れろ!」

「オッス!」

 

そして。彼らの近くで戦っていた姉妹達にも変化が見受けられた。

先ほどの攻撃で上手く立ち上がれず、息を荒げている風は徐々に戦意を失いつつあった。終わりの見えない戦いに対する不安が、彼女の足に力を入れなくさせている。

そんな中、風の耳に激しい戦闘音が響いてきた。目線でその発信源を辿ると、緑色の勇者が、ワイヤーを駆使して星屑を倒していく後ろ姿が。

彼女は後退しなかった。勢いに押されて吹き飛ばされ、地面に叩きつけられても、真っ直ぐ前を向いて前進し、次々と迫り来る敵を、着実に倒していく。

本当なら、弱音を吐いていてもおかしくないはずだ。それが姉のよく知る、妹の性格だったはずだから。しかし、目の前で必死に戦っている彼女は、そんな素振りを一切見せていない。確かに声帯を失ってはいるので弱音など聴こえてはこないのだが、そもそもが違うようだ。それに気づいた時には、星屑が、地面に座り込んでいる自分に一匹も向かってきていない事にも気づき、そして理解した。彼女は、敵を姉に近づけさせまいと、最前線で戦ってきていたのだ、と。

 

「(……どうして。どうして、そこまで……。樹は……、何の為に……)」

 

だからこそ浮かんでくる疑問もある。終わりなき戦いだと知ってもなお、彼女は何故戦う事から降りないのか。

 

『ありがとう』

『お姉ちゃんにばっかり、大変な思いさせて』

 

ずっとコンプレックスだったのだろう。姉だから、上級生だから、勇者部の創設者だから。それだけの事が、彼女に想像も絶するような重圧を与えており、それを軽くさせたくても、臆病な性格が前に出て、一歩下がってしまい、結果として何も出来ない自分が嫌いだ。あの朝食の席で樹が言いたかったのは、つまりはそういう事だったのだろう。風にとっては何の変哲も無い事情だったが、他の人から見れば、そうも割り切れないものに違いない。

 

『本当は私、お姉ちゃんの隣を歩いていけるようになりたかった』

 

だからこそ、自分の殻を破ろうと、自作の曲を作り、オーディションを受けたのだろう。それは、家族と決別して自分だけの道を歩もうとするのではない。きっかけを作り、自分に自信を持ち、自慢の姉の隣で生涯ずっと支え合う為に。そう思ったからこそ、『歌を歌う』夢を諦める事なく、こうして今も、明日への道しるべを繋げる為に、彼女は戦っているのだ。

 

「隣どころか……」

 

目尻に涙を溜め込み、風は呟く。今の樹の堂々たる姿勢をまざまざと見せつけられては、こう思わずにはいられないのだ。

 

「(いつのまにか、前に、立ってるじゃない)」

 

『犬吠埼 樹』は、とっくの昔に目標を越えていたのではないだろうか。もう、自分が知っている妹の面影はなく、犬吠埼家の一員として、立派に成長している。

 

「……っ!」

 

星屑の体当たりに晒され、精霊バリアで耐えてきた樹に、限界が迫ってきていた。体勢を整えようする樹に対し、反撃の隙を与えさせまいと、大群が押し寄せてくる。この数はワイヤーでは対処しきれない。驚き固まる樹の眼前で、黄色い斬撃が映り込んだ。大きな一閃は、星屑を次々と巻き込み、消滅させていく。それほどの斬撃を放てる者が誰なのか、樹にはハッキリと分かっていた。

 

「姉として、これ以上妹に頼りきってるわけにはいかないわね!」

 

今までのように……否、今まで以上の気迫に満ち溢れている『犬吠埼 風』が、隣に並んでいる。その事が、樹を安心させていた。

 

「もう大丈夫よ、樹。本当に、私の自慢の妹だ!」

 

樹の頭を撫でながらそう賞賛する風。

いつの日か、部員達に言われた事がある。先輩は樹に対して少し過保護すぎる、だったり、このままでは先輩の影から出られなくなる、守るだけでなく、もっと頼りにしてあげたら良い、と言われ続けていた。そう指摘される度に軽く受け流してきたつもりだったが、これからは違う。これからは色んな事を教え、その上で互いに支え合ってもらおう。

そしてその決意を現実のものにする為にやるべき課題が、目の前に広がっている。

 

「「ハァッ!」」

 

犬吠埼姉妹に向かってきた星屑は、その真上から合流した藤四郎と冬弥の攻撃で一掃される。

 

「大丈夫ッスか⁉︎」

「えぇ、お陰様でね!」

「その様子じゃ、問題なさそうだな」

「ロチのモン! ……それに、未来の旦那候補の前で、カッコ悪い所は見せられないわ!」

「……! あぁ」

 

突然の告白に面食らう藤四郎だったが、すぐに気持ちを切り替え、再び押し寄せてくる敵を見据える。

 

「隣は任せたわよ! ……さぁ、犬吠埼姉妹の女子力、見せつけてやるわ!」

「俺達も負けてられないな。こいつらを倒して、東郷の元へ向かうぞ!」

「根性見せるッス!」

「……!」

 

彼らの目に、もう迷いはない。大切な日常を守るべく、明日へと向かうべく、4人は凛々しい顔つきを見せながら、武器を手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ! この、このぉ!」

 

その一方で、2年生組は最悪の状況下に置かれていた。依然として意識が回復していない、夏凜、真琴、銀、巧、園子、昴。そんな彼らを星屑から守るべく奮闘しているのは、レイピアを構える兎角ただ1人。一心不乱に突きを入れて星屑を倒している彼の後方では、2人の男女が、端末の画面をタップし続けていた。

 

「クソッ……! こんな、時に……!」

「何で、なんで……! どうして変身できないの⁉︎」

 

何度やっても、異様な音を放つアプリは反応せず、戦う為に必要な力を纏う事が出来ない。遂には端末を地面に落としてしまう2人。

 

「(……つまりは、もう。武器を持つ資格さえ、無いって言うのか……? 俺も、友奈も)」

 

胸の奥が、これまでに感じたことのない痛みに包まれていく。

友達を、大切な人を助けたい。でも、どうすれば助けられるのかが分からない。あの表情の東郷を止めるなんて、出来ない。

そんな無力な自分達を戒める為に、神樹は2人に変身させないようにしているのだろうか。つまりは、東郷を救う価値などないと、神樹が、そして自分自身がそう判断してしまったのだろうか。

 

「だと、したら……!」

 

ただただ悔しい。その一言だけが、遊月の、友奈の全てを支配する。堪えられず、嗚咽を始める友奈。

 

「わ……私……! 友達、失格だ……!」

 

友1人守れない自分に、何の価値があると言うのか……?

 

「俺は、何の為に……!」

 

大切な人との約束を守れずに崩れ落ちている自分に、何の価値があると言うのか……?

こんな事なら、真実を知るべきではなかった。或いは東郷達に内緒で、自分1人で真実を確かめるべきだった。そうすれば、彼女は傷つく事なく、そばにいてくれたのではないだろうか……。

後悔しても、時の流れは止まらない。全ては、最悪のシナリオを着実になぞっているのだ。

 

「グハッ……!」

 

星屑の猛攻に押されて、地面に倒れる兎角。その隙に星屑は兎角の頭上を越えて、地面に倒れこむ、幼馴染みらに向かって大きな口を開けていく。無防備な彼らに、成す術はない。

 

「やめろぉ!」

 

無駄だと分かっても、間に合わないと分かっても、人はどうしても、その言葉を叫んでしまう。兎角は腕を伸ばす。やがて友奈達の周囲を白い球体が貪ろうと囲み、ほぼ同時に襲いかかり……。

 

「「ハァァァァァッ!」」

 

目にも留まらぬ斬撃と銃弾の嵐が、内側から星屑を破壊する。

目を見開く兎角の視線の先には、その両手に双剣を構えるサツキの勇者と、同じく両手にハンドガンを構えるオシロイバナの武神が、間一髪間に合ったと言わんばかりの表情で、友奈達を守るように佇んでいた。

 

 

 




次回はゆゆゆ1期における名シーンを題材とします! 2人の勇姿をとくとご覧あれ!


〜次回予告〜


「最期まで付き合いますよ」

「まさか……!」

「凄い……!」

「どうして、そこまで……!」

「あたしらには、止められない……!」

「これが勇者部の!」


〜三好 夏凜と一ノ瀬 真琴は勇者である〜



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