結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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『真実なんて知りたくもないはずなのに、それでも追い求めずにはいられないなんて、つくづく人間の好奇心というのは、理不尽だね』(by QB)


……ゆゆゆが放送される1年前に使われたこの言葉の意味が、今なら分かる気がしますね。


32:真実はいつだって残酷

「なん、だと……⁉︎」

「まさか、そんな……!」

「本当、なのか……!」

 

憶測ではあるが、遊月と園子の口から語られた、この世界にまつわる真実。それを聞いた友奈達は、驚きのあまり会話が続かない。

 

「もちろん、これはあくまで俺と園子が、これまで得た情報を元に辿り着いた結論だ。確証がある訳じゃない。そりゃあ、俺だってにわかには信じ難い事だ。違っているなら、その方が気が楽だ。……でも、先生達には、いや、大赦にはその答えの正誤が分かっているはずだ」

 

そう言って遊月は目線を、源道と安芸に向ける。2人は見合い、しばらくの沈黙の後、僅かに肩に力を入れて、口を開いた。

 

「……真実は、君達の目で確かめてくるといい。それを受けてどのような結論を出すかは、当事者である君達に委ねる。このまま秘匿するのも良し、何らかの形で世間に公表するも良し。ただ、どんな結論を出しても、ここにいる俺達は最後まで、君達の味方でいる事だけは、忘れないでほしい」

「先生……」

「俺達の事を、止める気は無いんですね」

「止める気があったなら、初めから行使していたさ」

「? どういう事ですか?」

「2年前の『瀬戸大橋跡地の合戦』を経て、俺が大赦に事実上監禁されていたのは、今の勇者……つまり君達が、何らかの形で暴走した際に抑え込む、つまりはストッパー役を担ってもらうためだった。元々体力には自信があったからな。上の連中はその事を利用して、俺の行動に制限をかけていたんだ」

「そんな……!」

「それじゃあ先生はこの2年間、ほとんど外の世界に出た事がないんですか⁉︎」

 

真琴が素っ頓狂な声で問いかけ、源道は深く頷く。当時小学6年生だった東郷達がお役目を果たし、バラバラにされ、蒲生の手を借りて讃州中学に訪れ、隠された真実を兎角達に語るまでの2年間、どのような過酷な時間を過ごしてきたのか。兎角達は想像を絶する感覚に見舞われた。

 

「まぁ、分かっていると思うが、いかに大赦からの命令といえど、それで素直に従うほど、俺も冷徹じゃない。当然だ。今まで散々子供達を欺くような事をしてきたんだ。ましてや俺の教え子に手をかけるなど、言語道断だ」

 

その言葉は、誰が何と言おうと、兎角達の味方であり続ける事を確固たる構えで示すものであった。先代勇者を除く面々は、どことなく安心感を覚えた。

 

「分かりました。それじゃあ、これからの事を話し合う前に、ちょっとだけ時間をください。気持ちの整理をするのもあるんですが、それ以上に……。今まで会えなかった、俺の父さん達と、少しだけ、話がしたいんです。それで少しでも思い出せる事があるのなら……」

 

遊月の案件を快く受け入れた源道は、対談を終え、遊月を両親と祖母に会わせる時間を作る事に。東郷や銀、園子、巧、昴も、供物として失われた思い出を少しでも取り戻したいのか、彼についていく事に。他の面々は、せっかくの再会に水を差すような事はしたくないと思い、外で待機する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び勇者部が一同に介したのは、それから30分ほど経過した頃だった。

 

「そっちの方は済んだみたいだな」

「東郷さん、みんな。どうだった?」

「……うん。遊月君のご両親は、やっぱり私達と面識があって、色んな話を聞けたわ。ただ……、どれも今となっては全く思い出せない記憶だった……」

「そうか……」

「遊月は、記憶の方はどうだった?」

「思っていたほど、思い出す事はありませんでした。ただ、家族と過ごした時間を断片的に、ぐらいです。期待だけさせてしまって、申し訳ありませんでした……」

「し、仕方ないわよ。いきなり生き別れた親と再会して、そう簡単に記憶が戻れば苦労しないだろうし……」

 

風の労いの言葉に続いて、声が出ない樹も深く頷く。

続いて、夏凜がこんな事を語り始めた。

 

「それと、壁の外の事だけど、どうやら兄貴達も全部知ってたみたいよ。あんた達がいない間にそれとなく聞いてみたのよ」

「というよりも、大赦に属している人達の中で、その事を知らない人はほとんどいないそうですよ」

「まぁ、世界の成り立ちという、根本に関わる話だからな。内容が内容だ。下手を打てば混乱を招くだけだから、他の人達には、ウイルスによって旧世紀は終わりを告げた、と認識させられている」

「情報は、時として強力な兵器よりも強いものだから、全部オープンすればいいわけじゃないもんね〜」

 

園子は苦笑まじりにそう呟く。

とはいえ彼らは、世界の命運をかけた戦いに、最前線で活躍する当事者だ。どんな事情があるにせよ、その戦いの真実を知る知らないでは、戦いに対する意識も大幅に変わってくる。それを、世界の恵みを管理する組織の、上層部の利己的な判断で捻じ曲げられるなど、本来ならあってはならない事だ。

知る権利を奪われた事が、遊月達にとって最も納得のいかない事実でもあった。

 

「……で、これからどうするんスか?」

 

冬弥からの問いかけに、遊月は並々ならぬ意思を持って答える。

 

「取り敢えず先ずは、俺と園子が出した仮説や、師匠達が語ってくれた内容を立証する事から、かな。ああ言ったけど、やっぱりこの目で確かめておきたい」

「それってつまり……」

「壁の外に出るって事だな! あたしはOKだ!」

 

銀に続いて、先代勇者達もその気であったらしく、頷く。

 

「俺も行くぜ。俺達だけ仲間外れにはさせないからな」

「私もついていくよ!」

「ありがとな、兎角、友奈。先輩方もそれでいいですよね?」

「あぁ。元はと言えば俺達が巻き込んだ事だ。確かめる必要はある」

「そうね。……で、あんた達はどうするの?」

 

風が、大赦から派遣された勇者、武神に顔を向ける。サツキの勇者は、やれやれといった表情を見せながらも口を開いた。

 

「一応、壁の外には絶対に出るなって教えがあるんだけど、今のあんた達に言っても、聞くわけないわよね。良いわ。私もついていくから」

「ぼ、僕も、同行します!」

「……よし、行こう!」

 

決意を固め、一同はその場でアプリを起動させると、勇者や武神に変身し、神樹館小学校を後にした。目指すは、世界を覆う壁。勇者になれば身体能力は格段に向上する為、どれだけ目的地が遠かろうとも、途中の陸地を経由すれば、たどり着くのは造作もない。

そんな彼らの後ろ姿を、源道や安芸、蒲生、そして遊月の家族はジッと見つめていた。こうなる事を分かっていたのか、止める素ぶりは見せない。

彼らの願いはただ一つ。勇者や武神に選ばれた無垢なる少年少女達が、無事に戻って来てくれる事だけだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからものの数分もしないうちに、遊月達は壁の上に足をつけていた。奥には、山々が立ち並ぶ陸地らしきものが見えている。

 

「へぇ……。壁の向こうの景色って、こんな感じなんだね」

「こうして見ると、綺麗な景色だけれど……」

「でも、遊月達の話が本当なら……」

 

そこに見えているのは、全て紛い物。誰かがゴクリと息を呑む。無理もないだろう。彼らは今日まで、神樹が造り上げた防御結界でもある、壁の外へは、加護を受けられないから出てはいけないと、両親らを通じて口酸っぱく教えられてきたのだ。それを無視して実行しようと思うと、未知の領域を前に、どうしても足が竦んでしまう。事実、先ほどまで強気だった夏凜も、前に出るのを躊躇うほとだ。

 

「それでも、俺は、知りたいんだ……!」

 

失われた記憶を取り戻すべく、今日まで戦ってきたであろう遊月は、一つ息を大きく吸い、落ち着きを取り戻すと、一歩前へ進んだ。それを見て、銀も一つ気合いを入れる。

 

「おっしゃあ! 勇者部五箇条、成せば大抵なんとかなる! いくぞぉ!」

「そこでその文言を使うとか卑怯じゃないの⁉︎」

「まぁな。けど、銀の言う通りだ。俺も向かうぞ」

「そ、そうですね。頑張ろう、夏凜ちゃん!」

「ったく、しょうがないわね……!」

「よぉし……!」

 

巧も銀に続き、夏凜も渋々前へ出て、友奈達もそれに続く。そうして決心した一同は横に並び立ち、壁の外に向かって歩き出す。

4、5歩ほど歩いたときだった。不意に肌周りを、何とも言えない奇妙な感覚が撫で回し、空気が変わったような気がしたかと思えば、目の前の景色は一変した。

そして彼らの目に映ったそれは、あまりにも衝撃的なものであった。

 

「なっ……⁉︎」

「何、これ……」

「……え?」

「くっ……! 出来れば外れてほしかったが……!」

「う、嘘だろ……⁉︎」

「これが、真実……!」

「……あぁ〜。やっぱりね〜……」

「こんな、事が……」

「こんなのって……!」

「アワワ……!」

「……!」

「な、何スかこれぇ⁉︎」

「そんな……!」

「まさか、壁の外で、こんな事が起きていたとはな……!」

 

1秒前まで、陸地が見えていたはずの景色は、壁の外へ出た瞬間、その全てが反転しているような情景だった。

どこを見渡しても広がっているのは、灼熱の大地。所々で火柱が上がり、人がそこで暮らすには、あまりにも無謀すぎる事だと一目で分かるほど、生命を感じさせない別世界。

 

「なんてこった……!」

「これが、本当の世界……⁉︎」

「マジかよ……!」

 

『壁を越えれば、神樹様が見せていた幻が消えて、真実が姿を現わす』

 

「師匠の言った通りだった……! 世界は、宇宙規模の結界の中なんだ……! 俺達の暮らす土地は、四国以外は、もう……!」

 

ここに来る前、源道から語られた真実を頭の中で思い返し、愕然とする遊月。そして同時に、自分達の推測が当たってしまった事に、ある種の嘆きを覚えてしまう。

だが、呆然とする間も無く、さらなる脅威が彼らに迫ってきた。

 

『!』

 

彼らの前にウヨウヨと姿を見せたのは、白い体に口だけを生やした、不気味な生命体。この灼熱の世界に堂々と居座っている以上、敵とみなすには十分だった。そして彼らはその生命体が小型のバーテックス、通称『星屑』と呼ばれている事も、事前に源道から教えられていた。それがどこを見渡しても漂っているのだから、畏怖するのも無理はない。

 

「あれが……!」

「! マズい、来るぞ!」

 

友奈達を発見した星屑達が、彼らを捕食するべく、大きな口を開けて、一斉に襲いかかってきた。

 

「! 散らばれぇ!」

 

藤四郎が叫ぶよりも早く、一同は武器を構えて、その場から離れる。そして迫り来る星屑達と交戦する兎角達だったが、咄嗟の戦闘で体がついてきていない事、そして真実を目の当たりにしたショックで本調子が上がらない事が作用して、連携どころか、個々における本来の力を発揮できていない。

 

『人類を滅亡寸前に追いやったのは、ウイルスなんかじゃない。天の神々が、人類を粛清するべく遣わせた、生物の頂点。つまりバーテックスだ』

 

人類の粛清。つまりこの世界でも、遊月が例に挙げた『バベルの塔』や『ノアの箱舟』と同じような事が起きたのだ、と遊月は確信する。約300年以上前の世界の歴史については、遊月も知らない事が多いが、今と違ってよほど醜い事象が起きていたのだろう。それに怒った神々が、バーテックスを使って人類を滅ぼそうとしたのだ。

 

『西暦の時代、世界は奴らに突如として襲われ、蹂躙され、遂には四国以外にいた全ての生命は滅びを迎えた』

 

不意にどこからか、東郷の悲鳴が聞こえてきた。見れば、地面に潜んでいた星屑が彼女に襲いかかってきている。乱射しているが、対処が間に合っていない。ほぼ反射的に遊月が前に出て、近くにいた星屑達を一気に弓で殴り倒した。遅れて友奈と兎角も、拳とレイピアで周りの星屑を薙ぎ払った。

 

『その中で、人類に味方してくれた地の神々は力を集約させ、一本の大樹となり、四国に防御結界を張った。それが、今なお俺達が息をしていられる理由だ。そして一本の大樹……即ち神樹様が作られた際に、神々の声を聞いた者達がいた。それが今の大赦……つまりは神樹様を管理している人達なのだ』

 

これまで戦ってきた12体のバーテックスと比べても、噛み付き攻撃にだけ注意すれば、倒す事はさほど難しくはなかった。が、何よりも厄介なのはその数だ。倒しても倒しても、湧くように出てくる星屑の存在は、勇者達の体力を徐々に消耗させていった。

 

「これじゃキリがないぞ……⁉︎」

「地獄絵図だな……!」

 

背中合わせになって息を整えながら、現状を確認する銀と巧は口々にそうボヤく。昴も園子と連携してバリアを張っているが、押し返されるのも時間の問題だ。

そんな中、星屑を次々と倒していた友奈と兎角が、ある事に気づく。

 

「兎角、あれ!」

「バカな⁉︎ あれは、俺達が倒したはず……!」

 

2人の目に飛び込んできたのは、星屑が集まって共喰いしながら、徐々に形のある物体になっていく光景だった。しかもそれは、最初にお役目を迎えた際に、友奈と兎角がトドメを刺したはずの、乙女型のシルエットそのものだった。

 

「た、食べあってるッス⁉︎」

「共喰いして、大型に再生しようとしているのか……!」

「あいつだけじゃない、その周りにも……!」

「ゲッ⁉︎ 他のバーテックスまで……!」

「また生まれようとしているの……⁉︎」

 

まだ不完全な状態ではあるが、乙女型以外にも、これまで戦って倒してきたはずの、12体のバーテックスが再生しようとしているのが遠目でもはっきりと見て取れた。

絶望が、彼らの精神を侵し始めていた。

 

「無限に再生し続ける生命体……! これじゃあ、いつまで経っても終わりが見えてこない……!」

「確かに、これじゃあ何れは押し切られるぞ……!」

「大赦がひた隠しにするわけだ……! こんな残酷な真実、そう簡単に公表できるわけがない……!」

 

藤四郎は、大赦が執拗に隠蔽工作を働かせる理由を察し、地団駄を踏む。

 

「こいつらがまた次々と攻めてくるのを、私達が迎え撃つの……⁉︎ 何回も体の機能を失いながら、何回も……⁉︎」

 

そう呟く東郷の顔は青白い。このままでは正気を失うのも時間の問題だ。

満開を繰り返せば、その度に散華によって体の機能を供物として捧げ、やがて全ての機能を捧げた体は樹木のように動かなくなり、そして最後は神樹のように祀られ、そして……。

 

「っ! 撤退だ! 結界の中に戻れば、奴らも入っては来れないはずだ! 急げ!」

「ガッテン承知の助ぇ〜!」

 

これ以上の戦闘は危険と判断した藤四郎がそう指示を出し、園子を初めとした面々が、向かってくる星屑達を倒しながら、力を振り絞って壁の中へと逃げ帰る。藤四郎の推測通り、壁の中へと消えていった勇者達の姿を確認した星屑達は、追いかける事なく、その場を漂い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命辛々、という言葉が似合うほどに息を荒げている一同は、ようやく見慣れた景色が広がっているのを確認し、その場に腰をおろした。誰一人、立っている者はいない。

しかし、元の世界に戻ってきた彼らに、安堵の表情は生まれなかった。全員が表情を歪ませながら、息を整えている。特に東郷はあまりのショックに、その場で膝をつきながら嘔吐しており、友奈と遊月が隣に並んで背中をさすりながら介抱している。

 

「そん、な……」

 

戻ってきて最初に口を開いたのは、風だった。

 

「終わって、なかった……。あたし達の戦いは、何も……! そればかりか、こんな事って……!」

「くっ……!」

 

風は蹲り、藤四郎は拳を固めている。

 

「クッソォ! こんなのってアリかよ……!」

「ミノさん……」

 

銀は悔しげに、地面……もとい神樹が造り上げた壁の上を殴りつけており、隣にいた巧は何も言わずに、地面を見つめていた。

しばらくの沈黙の後、突然泣き声が響き渡った。胃の中の物を全て出し終えたであろう東郷が、ショックのあまり半狂乱になっているようだ。

 

「この苦しみを、一つひとつまた味わう……! それもみんなが……!」

「東郷……」

「……絶対」

「?」

「絶対ダメよそんなの……! どうすれば、どうすればいいの⁉︎ ……ううん、私がどうにかしないと……!」

「お、おい東ご」

「考えなきゃ……! 考えなきゃ、考えなきゃ! みんなを、みんなを助けなきゃ……!」

「ね、ねぇどうしたの東郷さん⁉︎」

「お、落ち着け東郷!」

 

東郷の様子がおかしい。その事に気付いた一同の目線が彼女に向けられる。向けられた視線に気づいていないのか、頭を抱えながら考え込む素ぶりを見せる東郷。

 

「……あ」

 

不意に、涙の川を作っていた両目が見開かれる。何かを思いついたように見えるが……。

 

「……あった」

「えっ?」

「たった一つだけ、みんなを助けられる、方法が……」

 

そう呟いた東郷は不意に立ち上がり、皆から少し離れた位置に飛んだ。そして一度霧散させたスナイパーライフルを右手に持つと、その銃口を壁に向け、右の人差し指で引き金をひっかけ、そして……。

 

『⁉︎』

 

大きな音が、その様子を見ていた13人の耳に響き、壁に一際大きな穴が空いた。不意の出来事に唖然とする一同だったが、スマホから『特別警報発令』という表示と共に、これまでに聞いた事もない、明らかに非常事態を匂わせるアラームが鳴り響いた事で我に返った。

 

「! お、おい!」

「何のつもりだ⁉︎」

「どういうつもりよあんた、自分が何したのか分かってるの⁉︎」

 

夏凜が刀を向けて咎めるが、東郷は振り向かない。神樹が造り上げた壁は、人類を守護する最後の砦のような存在だ。それが壊れればどうなるかなど、先ほど壁の外で星屑に襲われた時の事を思い返せば、すぐにわかるはずだった。

 

「……私一人だけが生贄なら、まだよかった」

 

彼らの声が聞こえていないのか、東郷は独り言のように呟く。

 

「……それを、遊月君達まで供物にするなんて。……許さない。もうみんなを、苦しめない!」

 

その怒りに満ちた表情を見て、遊月は察してしまった。これから東郷が何をやろうとしているのかを。

 

「まさか東郷、お前……!」

「待ってて遊月君、みんな……! 神樹様を倒してしまえば、この苦しみから解放される! 生き地獄を味わう事も、ない!」

 

そう言って壁から飛び降りると、銃口を壁に向けて引き金を引き、また新たな穴を形成する。

 

「神樹様を、破壊するつもりなのか⁉︎」

 

遊月の言葉を受けて、驚く一同。神樹の破壊。それを本気でやろうとしているのは、彼女の目を見れば一目瞭然だった。

彼女は、選択したのだ。例えその選択が人類を滅ぼす事になったとしても、同じ志を持って戦ってきた者達を、自分を支えてくれた、大切な男がこれ以上苦しまずに済むのなら……。

 

「こんな世界……! 私が、終わらせる!」

 

 




放送当時は無茶苦茶な選択だと思っていたのですが、何度も見返すうちに、東郷がその選択をする気持ちが、分からなくもない気がしてきました。大切な存在がそんな苦しみに苛まれているなら、尚更……。皆さんはどうでしたか?


〜次回予告〜


「私が、断ち切る!」

「危ないッス!」

「また、失う……」

「樹海化した……!」

「しっかりしろ!」

「どうして、変身が……」


〜涙の理由〜


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