結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました!

引越し等で忙しく、気がつけば新年を迎えてました。本年度もよろしくお願いいたします!

先日、人生初のコミケに、カードゲームの大会で知り合った方と共に行って参りましたが、ゆゆゆ関連の同人誌やグッズがある並んでいて、感激しました!まだまだ、ゆゆゆブームは続きそうですね!


31:始まりの地と再会と明かされる真実

東郷の実演により真相の一部が暴かれ、風の暴走を阻止してから、数日経ったある日の午後。

この日、勇者部の面々は電車に乗って讃州市を離れ、大型ショッピングモール『イネス』がある事で有名な、大橋市に訪れていた。無論こ、の日は、イネスに観光しに来た訳ではない。真の目的地は、イネスからさほど離れていない場所にある。

 

「そろそろッスかね?」

「まさか、普段から通い慣れてるイネスの近くにあるなんてね……」

「神樹館小学校……。どんな感じなんだろうね?」

 

友奈がそう呟くように、彼女達が目指すべき場所は、この世界の恵みである神木の名が付けられた小学校。大赦に仕える一族の者でなくても、勇者と呼ばれる者達でも、その威厳溢れる雰囲気に圧倒されそうだ。

そんな中、その勇者部の設立に携わった上級生組の間では、こんな会話が。

 

「風。お前の気持ちも分かるが、これから会う相手だって大赦に利用され続けてきた立場だ。あまり取り乱したり、一方的に捲し立てたりするなよ」

「わ、分かってるわよ……。あたしだってそれくらい……。そ、それに、何かあっても、側にいてくれるんでしょ?」

「えっ……?」

「えっ、じゃなくて……。あ、あたしにあんな事して、それで……。せ、責任取りなさいよね……」

 

風の声が段々と萎み、それに比例して顔を赤く染め上げる。藤四郎も気まずくなったのか、恥ずかしげに顔をそらす。

先日、2人の間で唐突な口づけが交わされて以降、互いに目を合わせる度に顔を赤くする傾向が見られていた。あの日以来、樹から見ても、上の空になる回数が増えており、藤四郎の背中ばかりをボーッと見つめている時間が増えているように見えた。

一方で藤四郎も、突発的とはいえ我ながら凄い事をしてしまった、という自覚があるのか、段々と羞恥心が芽生え、彼女と目線が合い辛くなってしまっていた。

とはいえ2人の距離が一気に縮まっているのは事実らしく、こうして隣り合い、手を繋ぐ寸前までに至っているところを見るに、互いに抱いている好意は薄れていないようだ。兎角達も徹底的に彼らの進展を見守る事に決めていた。

そんなこんなで歩いている内に、一回り大きくて目立つ建物が視界に飛び込んできた。

 

「ここが神樹館小学校……」

 

かつてこの小学校の生徒……だったとされる遊月がそう呟く。彼だけでなく、東郷、銀、園子、巧、昴もしっかりとその事を再認識する。彼らにとって始まりのルーツとなる場所。そこで真実を知る事が、彼らの最大の目的である。

下調べによれば、セキュリティシステムも万全らしく、警備員が門を見張っているらしいが、この日は休日という事もあり、そこに警官姿の者はいなかった。代わりに、スーツに身を包んだ2人の青年が会話している姿が。彼らも学校の関係者だろうか。そう思いながら近づいていったその時。突然、夏凜と昴の目が見開かれる事に。

 

「? どうかしたの、夏凜ちゃん、昴君」

「そ、それが、その……」

「! 夏凜ちゃん! あれって春信さんじゃないですか⁉︎」

「ばっ……⁉︎ あんまり大きな声出さないでよ⁉︎」

 

その会話に反応したのか、2人の目線は勇者部の面々に向けられた。彼らを見るが早いか、真っ先に反応を示したこの2人に挨拶を交わす。

 

「よう夏凜! 元気にしてたか? 真琴君も久しぶり」

「こうして会うのは久々だな、昴」

「に、兄さん⁉︎」

「兄さん……って、昴の?」

「ひょっとして、夏凜ちゃんのお兄さん⁉︎」

「何でここにいんのよ⁉︎」

 

当然ながら慌てふためく2人。さも当然な反応だと言わんばかりに苦笑しつつ、2人の青年は自己紹介を始める。

 

「ここにいるほとんどは知らないだろうし、先ずは俺からだな。俺は三好 春信。お分かりの通り、そこにいる夏凜の兄だよ。そしてこっちが」

「神奈月 織永です。弟の昴が世話になってるね。それに……」

 

昴の兄……織永の目線が、遊月達に向けられる。

 

「もう覚えてないだろうけど、君達の事も知ってる。晴人く……失礼、遊月君は変わったけど、他の4人はあの頃の面影が残ってるね。色々と辛かっただろうけど、ここからは俺達も味方になるよ」

「兄さん……。兄さんもやっぱり、この事を知ってたんだね……」

「……あぁ。その節は色々とすまなかったな。また時間をとって話し合おう。そこで改めて謝るよ。取り敢えず、中に入って先生達と話し合うのが先決だ」

「そうですね」

 

そうして一同は、春信と織永の案内に従い、小学校の敷地に足を踏み入れる。グラウンドは見えなかったが、校舎へ続く一本道は綺麗に整備されており、友奈達は歩きながらも、周りの景色に目を奪われている。

また、後で分かった事だが、春信と織永は大赦の中でもトップクラスに属しており、ライバル兼親友なのだとか。それもあって、今回の案件をサポートする形で2人が弟や妹、その仲間の為にと、手を挙げたのだそうだ。

そうして目的の校舎が見えてきたところで、入り口の前に何人かの人影が見えてきたのを確認する。その中には、先日讃州中学の屋上に訪れ、真相の一部を明かした、屈強な男の姿があった。

 

「来たな!」

「源道、先生……」

「師匠……」

「遊月君から連絡は受けている。……ここに来た以上、ここから先は色々と辛い話にはなるだろうが、それでも良いのだな」

 

源道の目線は鋭く、そして厳しい。それだけショッキングな内容を伝えようとしているのだろう。だが、勇者達の態度は変わらなかった。それを無言で感じ取った源道は、1つ息を吐いてから、肩の力を抜く。

 

「分かった。君達の覚悟に従い、追って順に話そう。……だがその前に、この2人の事も話しておく必要がある」

 

そう言って源道は右隣に立つ2人の男女に目線を向ける。最初に自己紹介したのは、いかにも教師らしさを伺わせる、スタイルの良い女性だった。

 

「今はもう覚えていないだろうけど、私はかつて、6年1組であなた達の担任をし、同時に勇者のお役目をサポートする立場にいた、安芸よ」

「あたしらの、先生……⁉︎」

「あなたが……」

 

女性の正体は、遊月達が在籍していたとされるクラスの担任。

2年前、遊月達が最後のお役目を終えて、散華等の影響で離れ離れになった後、大赦の上役からの指示で密かに担任を辞めて、大赦の中で各部署を転々としながら、常にこの日のような機会を狙っていたのだという。

 

「私が……私達大人がしてきた事は、あなた達にとって、到底許される事ではないわ……。世界の為だと取り繕っているだけで、一番救われるべき子供達を幾度となく危険に晒してきたのは事実。……そんな無力な自分を否定する為に、私は今日、源道先生達と一緒に、真実を伝える事を約束するわ」

 

彼女もまた、大赦の歪さについて理解し、そしてそれに抗う術を探し続けているようだ。

続いてその隣にいた、スーツ姿の男性が一歩前に出る。

 

「蒲生だ。源道とは古い付き合いでな。勇者達のお役目を裏でサポートするのが俺の仕事だ」

「蒲生さん……。あなたも、2年前にどこかで……」

「いや、それはない。2年前も君達とは直に会っていない。今回が完全に初対面だ。だから今後何かの拍子に記憶が戻ったとしても、覚えていなくて当然だ」

「以前、俺が讃州中学を訪れる事が出来たのも、そして今回のような機会を設けてくれたのも、彼の手引きが大きく貢献していると言っても、過言ではない」

「そうだったんですか……」

 

改めて、蒲生の手引きに感謝する一同であった。

 

「それからもう1組……。遊月君」

「? はい」

「君に、会わせたい者達がいる」

 

そう言って源道が背後にあった扉を開ける為にその場を離れる。そこで一同は、3人の背後……扉の奥に誰かがいる事に気付いた。しかもその内の1人は東郷と同様に、車椅子に乗っている。

扉を開けて現れたのは、夫婦と思しき男女と、車椅子に座っている老婆。老婆は点滴をつけており、白髪が整っておらず、目も細く、ぐったりと背もたれに寄りかかり、今にも意識を失ってしまいそうな雰囲気だった。

源道に催促され、遊月は一歩前に出て、見知らぬ3人の前に立つ。やがて、遊月の容姿を見つめていた女性の目がウルウルとし始め、口元を手で覆い、目から水滴がこぼれ落ちた。

 

「晴人……! 本当に、晴人なのね……! こんなに、大きくなって……! 生きていて、くれたのね……!」

「先生から連絡を受けた時は心底驚いたぞ。もう二度と会えないとばかり思っていたからな……! お婆ちゃんもきっと喜ぶだろうと思って、病院の方々に無理を言ってここに連れてきたんだ……!」

 

2人は感極まったように、遊月に近づいてくる。最初は何の事だか分からなかった遊月だが、再び起き始めた頭痛が治り、次第に2人の言葉を受けて、ある推測を立てる。

 

「! まさか、2人は……! 父さんと、母さん、なのか……。俺の……!」

「えぇそうよ……! 私達の間に生まれてきた一人息子、『市川 晴人』よ!」

「市川、晴人……」

「……そうか。先生の話じゃ、記憶喪失で元の姓も覚えていないんだったな……。なら素直には信じられないかもしれないが、俺達は嘘をついていない。正真正銘、俺達の息子だ……!」

 

そうして2人は遂に、生き別れたであろう息子と抱き合う。突然の事に驚く遊月だったが、抵抗する事はなかった。

 

「正直、何も思い出せない……けど、何となくこうしてると、懐かしい感じがする……。俺にも、ちゃんと親がいたんだな」

 

その事を深く噛み締めて、抱き返す遊月。それから、両親から離れて車椅子の老婆の前に立ち、その皺が目立つ手にそっと触れる。老婆は僅かに目を開き、口元を動かす。が、何かしらの重い症状を患っているのか、言葉になっていない様子だ。それでも、目の前にいる少年が誰なのか、認識はしているようだ。

 

「お婆ちゃん……。ただいま。今、戻ってきたよ」

 

ただ一言、そう返すが早いか、老婆……遊月の祖母であろう人物の声が大きくなったかと思うと、大粒の涙と共に、嗚咽が大きくなり始める。慌ててその背中をさすりながらも、しっかりと祖母の手を取る遊月。祖母もまた、孫が目の前にいると分かっているのか、右手を使ってしっかりと握り返している。両親達も2人を囲むように寄って、感動の再会を噛み締めている。

その様子を後方で見ていた勇者部の何人かも、このドラマチックな情景に感涙している。そんな中、兎角はポツリと呟く。

 

「市川、晴人……。それが遊月の、本当の名前……」

「良かったね、遊月君……! 家族にまた会えて!」

「……あぁ」

 

涙を拭く友奈にそう言われ、遊月は小さく頷く。それは友奈の隣にいた東郷もまた然り。およそ5分間程度の情景ではあったが、他の面々にはそれが異様に長く感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した遊月達は、早速本題に入るべく、源道と安芸の案内で、校舎内を歩いていく事に。道中で、遊月の家族は別の部屋で待機してもらうため別れて、蒲生もそれに付き添う事に。そうして彼らがやってきたのは、『6年1組』のプレートが飾られた教室。どうやら、かつて東郷達が学んできた思い出の地で話をする事になるようだ。休講日という事もあって、中には人1人おらず、静まり返ってはいるが、埃が溜まっていない事から、今なお子供達の学び場として使われているようだ。元々この場所で話をする事が前提だったらしく、机とセットになっているはずの椅子が後方に設置されており、勇者部一同は安芸の指示で、適当な椅子に腰を下ろす。なお、春信と織永は教室の外で待機するらしく、すぐに教室を後にした。

 

「さて、ここでなら気兼ねなく話す事が出来るだろう。遠慮なく聞いてくれ」

「では、僭越ながら私から、報告も兼ねて確認を」

 

先んじて挙手したのは、東郷だった。

 

「源道先生。あなたから告げられた、『勇者は決して死ねない』という事実の件ですが……」

 

そうして東郷の口から、源道と会い、とても大事な過去があった事を理解したと同時に、悍ましい真実を予感してしまった事。調べていくうちにその予感が確信へと変わっていった事。

 

「精霊は、何が何でも私達を生かそうとしています。これが単なる緊急安全装置であれば、素晴らしい事でしょう。……でも、私は違う結論を導き出しました」

 

つまり、精霊が勇者のお役目を助けるためではなく、『勇者』という役目に縛り付けるものである事。如何なる方法でも必ず精霊が介入してくる事。そしてその疑問を解消する為に、この数日間、幾多もの死に方を行使し、その度に精霊に止められた事も明かした。

これには流石の大人達も眉間に皺を寄せた。

 

「随分と思い切った事をしたものだな……。あの段階ではまだ信用を勝ち得ていなかった俺にも不備があるが、精霊システムを試すためとはいえ自分の身を削るとは思わなかったぞ。気持ちは分かるが、今後はなるべくそのような自殺行為は避けて貰いたいものだな」

「そうね……。何でものめり込む姿勢は、やっぱり昔から変わっていないようね、鷲尾さん」

「俺達も最初に実演された時は驚きましたよ」

 

藤四郎が当時の事を思い返す。東郷も一応は反省しているようだ。

 

「それで……。結局のところ、東郷の推測は当たってるって事で良いんですか?」

 

兎角からの問いに、源道と安芸は深く頷く。やはりそうか、と苦々しげに顔を歪める者達がいた。

と、ここで友奈から素朴な疑問が。

 

「あ、あの。さっき安芸先生……でしたっけ? 先生が言ってた『鷲尾』って、誰の事ですか? 私達以外にも勇者がいるんですか?」

「ううん、友奈ちゃん。ずっと黙ってたんだけど、私にはかつて、『東郷 美森』の他に、別の呼び方があったの。……『鷲尾 須美』という名前がね」

「なっ……⁉︎」

「東郷さんの、本当の名前……?」

「本当の名前……というよりかは、養女になった際にその名が付けられたの。2年前のお役目が終わった事で、元の『東郷 美森』に戻された、という事よ」

「……そうね。今は元に戻されていたわね。ごめんなさい。昔の名前しか馴染みがなくて……」

「鷲尾でも構いません。記憶は飛んでいますが、その2年間、私は鷲尾の苗字で暮らしてきたのですから」

「よく分かったな」

「あれから、遊月君と園子ちゃんに手伝ってもらいながら、色々と調べていくうちに、判明したまでの事です」

「そうなのか?」

「えへへ〜。待ちきれなくて、役所とかを回ってみたんよ〜」

 

園子がそう語るように、3人はこの数日間、両親のコネを使ったり、自ら役所に出向いて戸籍等を調べた上で、この話し合いの場に立っているのだ。てっきり大赦の手でそういった事実関係は抹消されているものだと思い込んでいたが、個人の尊厳まで脅かすには至っていないようだ。

 

「適性検査で勇者の資質を持っていると判断された私は、大赦の中でも力を持つ鷲尾家に養女として入る事となり、そこでお役目についた。……そうですよね?」

「鷲尾家は立派な家柄。高い適正値を出したあなたを娘に欲しかったのよ」

「それで、東郷さんのご両親は、それを承諾したんですね。神聖なるお役目の為に」

 

真琴からの問いかけに、2人の大人は深く頷く。

更に、この男からもある事実が告げられた。

 

「なら、俺もこのタイミングだな。俺の苗字である『大谷』は、東郷の時と同様に本当の苗字だ。だが、俺が小学生の時に実の両親が、お役目とは無縁の事故で亡くなって、そこへ鷲尾と同等の権限があった『鳴沢』家が、俺を養子に引き入れた。武神としての資質が高いのも事実だったが、子供が欲しかったのも事実らしい。こっちで暮らす叔父さん達が、電話でそう明かしてくれた」

「じゃあ2年前は、鳴沢 巧って呼ばれてたのか?」

「そういう事だ、銀。お役目が終わって事実関係を違和感なく抹消させる為に、名前を元に戻して、親ではなく支援者の立場に回ったとされている」

「他の3人に関しては、名前は一切変えられていない。横の繋がり等は大赦の手で断ち切られているがな」

 

次第に明らかになっていく、6人の先代勇者、武神達の関係性に、兎角達が困惑するのも無理はないだろう。が、少なくともこの6人が、人知れず壁の外から侵攻してくるウイルスと命がけで戦ってきた先代の勇者、武神である事は確信したようだ。

 

「前にも触りだけ伝えたが、バーテックスとの戦いは、文字通り命がけだった。分かっていても、神樹の力を宿せない以上代わってやれないという事実だけが痛感させられていた……」

「怪我をするのは当たり前。酷い時は命に関わる程の大怪我もあった……でしたよね」

「そうだ。その結果が、晴人君の全身の怪我、昴君の右腕の損失、巧君の左目の負傷だ」

「「「!」」」

 

先代の武神達が身を引き締めた。どうやらこれらの負傷は事故が原因ではないようだ。

安芸は当時の事を思い出したのか、辛い表情が伺える。

 

「遠足が滞りなく終わったあの日、敵が3体同時に攻め込んできた時があったの。その時の詳しい戦況は、映像も残っていないから分からなかったけど、連絡を受けて駆けつけた時には、あなた達3人は多量の血を流して倒れていたわ。それに付き添うように、鷲尾さん達も必死に呼びかけて……。それはもう、酷い惨状だった。胸がとてつもなく苦しかったのは覚えているわ。特に鳴沢君は、手遅れになる寸前だったから、尚更ね」

「そういう事、か……」

 

右手で開かない左目に軽く触れながら、巧は納得する。かつては今のように精霊がおらず、当然バリアで守ってくれる事もない。正真正銘、命がけであったと源道は補足した。

 

「すばるん達の大怪我がキッカケで、大赦は急ピッチで今みたいに精霊システムや満開システムを取り入れたんだよね〜」

「これ以上の犠牲はあってはならない。皆の要望もあって取り入れられた訳だが、結果としてこのような形に歪められてしまったのだ……」

 

大人達の表情はやるせない。

 

「そして俺達は6人で一緒に戦って、散華して、敵を殲滅できる力の代償として各々が体の機能の一部を供物として神樹様に捧げられた……。恐らく俺以外の5人は、その散華で共通して記憶を……」

 

遊月は1つひとつ、その事実を確認していく。そうして東郷は両足、銀は右耳、巧は両手の痛覚、園子は右目、昴は左耳の機能を失い、外へ出歩けるようになるまで、隔離さながらの生活をさせられてきたのだ。因みに大赦の記録によれば、遊月は嗅覚と心臓の機能が供物となっており、心臓が止まってもなお生きていられるのは、システムの恩恵があってこその事だと源道は語る。更に遊月は、2年前の最後の戦いを機に、行方をくらませてしまったのだという。戦いで負傷して海に放り出され、そこを偶然通りかかった漁師達に見つけてもらい、今に至るのだろうと推測する遊月。

 

「なるほどね〜。精霊の数に個人差があるのもこれで納得したよ〜。私達6人は、前の戦いで満開を使ってただろうから、3体いた事を考えると、2回は使ってるね〜。そして今、夏休みに入る前にあった決戦でみんながワァ〜って咲いたから、また1体増えたんだね〜」

「そっか。だからあの時満開を使わなかった私には、新しい精霊が支給されなかったのね」

 

夏凜も、ようやく合点がいったような表情を浮かべる。

 

「そうして俺達6人は時期をずらす形で、次なる戦いに回された……」

「敵が再び侵攻してくる事は予測していた。しかし身内だけでは足りなくなってしまい、その結果、勇者の資質を持つ者を、全国で調べた」

「そういえば最初にお役目があった時も、風がそんな事言ってたな……」

「私は東郷の家に戻されて、両親も事実を知ってて、黙ってた……。事故で記憶喪失と嘘までついて、引越しの場所が友奈ちゃんと兎角君の家の隣であった事も、全て仕組まれていたもの、ですよね」

「えっ⁉︎」

「そう、なのか……?」

「それは間違いないかもな。現に俺は大赦から、検査で勇者や武神としての適正値が一番高かったのがお前達2人だと聞かされていた」

「じゃあ大赦側も、ゆーゆととっくんが神樹様に選ばれるって分かってたんだろうね〜」

 

藤四郎は兎角達が住む地域の担当であり、大赦からもそういった事前情報をもらっているのだろう。更に言えば、勇者部を設立していざという時にすぐにでも戦える場を設けたのも、夏凜と真琴を援軍として讃州市に送り込む事も、全ては大赦が裏で動き、仕組んでいたものだと考えるのが妥当だろう。そのやり方に不満を露わにする者達は決して少なくはない。

更に、東郷から別の疑問が。

 

「満開してからは、家の食事の質が上がったわ」

「あ、それ私もだよ、東郷さん!」

「俺も同じだな。みんなもそんな感じか?」

「あたしの家の場合は、食事というよりかは、生活費の支給が前よりかは増えたって感じね」

「あたしもそんな感じ」

 

犬吠埼家は両親がおらず、また銀は一人暮らしの為、大赦からの支援で生活が成り立っている為、そういった形で質を上げているのだろう。

 

「大赦が手当として、各家に十分な援助をしている、という事ですね」

「思えば、合宿での料理も豪華なものでしたよね。あれは労っていたのではなくて、僕達を祀っていた……という事なんでしょう」

「昴……」

「そして親達は、事情を分かってて、今も黙ってる……」

「神樹様に選ばれたんだから、喜ばしい事だって、納得したんだろうね〜」

 

各々がそう呟くものの、納得のいかない表情ばかりだ。確かに自分達の頑張りで食事の質も上がり、生活も豊かになってきて、恩恵を受けているのは間違いないが、真実を知った今となっては、素直に喜べない話だ。

 

「呆れたものだな……。ここまでして真実を隠し、俺達に戦いを強要させるとは……。大赦は、俺達が想像していた以上に歪な存在なのかもしれないぞ」

「そうね……。あたしらが勇者になるって最初から分かってたなら、騙してるって言葉、全然その通りね……」

 

勇者部を設立した上級生組も、責任の一端を感じつつも、大赦のやり方に憤りを覚えているようだ。それは源道や安芸も同じらしく、小さく頷いている。

そんな中、東郷は両拳を握りしめながら、悲痛な声色で叫んだ。

 

「どうして私達が、こんな……! 神樹様は、人類の味方じゃなかったの……⁉︎」

「東郷さん……」

「味方ではあるけど、神様だからね〜。そういう一面もあるんよ〜」

「園子?」

 

不意に園子が、皆の注目を集めるような事を語り出す。

 

「神様だって、人間みたいに良い面と悪い面があるからね〜。色々な神話があるんだけど、そこに出てくる神様は欲深くて、ズル賢い人ばかり。例えばゼウスっていう、ギリシャって国の神様も、今時の女子目線からすれば、浮気ばっかりしてるし〜」

「うへぇ……。そいつはなんかやだな」

「あたしの中の神様のイメージがガラガラと崩れたわ……」

 

銀と風が気味悪がりながらそう呟く。

 

「ちょ、ちょっと園子⁉︎ あんた、神樹様もそんな神様と同じだって言うの⁉︎」

「お、落ち着いてください夏凜ちゃん……! あくまで、そういう神様もいるってだけの話ですから……」

「早い話が、園子からすれば、神様は完全には信用できない、という事か」

 

巧が問いかけると、園子はコクリと頷く。

 

「神様が人類に悪い事を……」

「そういえば、こういう話、『ノアの箱舟』にもあったよな……。ほら、神様が地球規模の大洪水を起こして、人類を文明ごと滅ぼして、唯一生き残った人や動物が船だけで生活するってやつ」

「ノアの箱舟……」

「他にも『バベルの塔』とかもね〜。人類が自分達と同じ目線に立たれるのが嫌で、自分達のいる所へ向かう塔を壊して、統一言語を勝手に奪ったりして〜……」

「でもあれは人類が神様を怒らせた事も要因だよな。図書館の資料で見た事があるよ。それが結果として人類の滅びへと繋が……」

 

そこまで呟いた直後、言葉を詰まらせた遊月の体がピタリと止まった。そしてそれは園子も同様に。

 

「遊月君?」

「園子ちゃん、どうかしたんですか?」

 

隣にいた面々が呼びかけるも、返事はなく、何かを考えているのようにブツブツと呟いている。よく耳を澄ましていると、遊月の様子がおかしい。体が微かに震えている。何かを察したような顔つきだ。

 

「まさか……! でも、そんな事って……」

「多分、ゆづぽんと考えてる事は、私と同じかも〜。ゆづぽんも気づいたんだね。……この世界の成り立ちを」

「「!」」

 

これには大人達も、目を見開く。

 

「い、一体何の話なんだ⁉︎」

「そうよ! 勿体ぶってないで説明しなさいよ!」

「多分、だけどな……」

 

そうして遊月と園子が、憶測のみで語り始めたのは、今の自分達がいる世界の成り立ち……壁の外に関する、残酷な真実であった……。

 

 

 




最後の方の謎は、次回明らかになります。あれは初見の時は震えあがりましたね……。同時にタカヒロさんの凄さを実感した瞬間でもあります。


〜次回予告〜


「本当、なのか……!」

「兎角、あれ!」

「大赦がひた隠しにするわけだ……!」

「地獄絵図だな……!」

「何のつもりだ⁉︎」

「私が、終わらせる!」


〜真実はいつだって残酷〜


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