結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

73 / 127
お待たせしました!

今回は『祈りの歌』の準備をお忘れないように!

そういえば、シンフォギアが完結してしばらく経ちましたが、未だに終わった実感がないんですよね。ですが、敢えて言わせてもらいます!

俺達のシンフォギアは、まだ終わらない!!
『XD』がある限り、戦姫絶唱シンフォギアは永久に不滅です!




30:浜田 藤四郎は勇者である

四国内の山道や休憩所を転々と足場にして、鬼神の如く突き進む、一つの黄色い影があった。大剣を片手に、少女は覇気を震わせながら、足に力を込める。その左目の眼帯から、一筋の涙を零しながら。

 

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

そんな彼女の後方から、複数の人影が接近。いち早く、両手に斧を持った少女……銀が武器を振り下ろして、進撃を止めに入る。

 

「っ! 邪魔するなぁ!」

 

大剣で攻撃をいなし、風は再び飛び上がる。続けて夏凜が銀を追い越して、双剣を振るう。

 

「あんた、何するつもりよ! まさかとは思うけど……!」

「決まってるでしょ! 大赦を……潰してやるぅ!」

「……!」

 

やはりそうか、と途中から合流した面々が、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。正気の沙汰とは思えないような行動力だが、それだけ自分達を欺いてきた大赦に、怒りを隠しきれないのだろう。

それでもなお止めようとする友奈達を見て、風は腕に力を込めた。

 

「大赦は、私達をずっと騙してた……! 満開の後遺症は、治らない……!」

 

そう呟いた後、目を閉じて悔しさを滲ませる風の表情が、夏凜の胸の奥に痛みを生じさせた。そこで油断してしまった夏凜を振り切って再び大赦に向けて侵攻する風。

そして舞台はいつの間にか、2年前に大破した瀬戸大橋記念公園跡地へ。

 

「待ってください風先輩! まだ治らないと決めつけるには早すぎま」

「さっき見たでしょ⁉︎ 東郷が実演で、証明した! 大赦は、私達を無理矢理『死なない体』にして、体の一部を供物にして……!」

 

真琴の説得にも聞く耳を持たず、直接抑え込もうとする面々を振り払う風。

 

「大赦は初めから、後遺症の事を知っていた!なのに、何も知らせないで、私達を、生贄にしたんだ!」

「生贄……!」

 

その言葉が真琴に突き刺さり、ハンドガンを持つ両手から力が抜ける。その一瞬の怯みを見逃さず、風は右足を突き出して真琴を吹き飛ばす。

続けて、巧がバチに炎を宿して風と正面からぶつかり合った。

 

「だからといって……! こんな事をしたってしょうがない筈だ……! 大赦に歯向かった所で、事態は悪化するだけだ! だったら……!」

「……あんたが」

「!」

「その大赦に騙されたあんたが! それを言うかぁ!」

 

不意に怒りのボルテージが上がったのか、大剣を横一線に振るうと、巧は吹き飛ばされ、後方の壁に激突する。

 

「犠牲になった勇者がいた……!」

「!」

「勇者は、私達以外にもいた……!」

 

その目線は、目の前で起き上がろうとする巧を含め、彼を守るように降り立った銀や、後方から追いかけてきた遊月、昴、園子、そして東郷の6人(先代勇者)に向けられている。

 

「私達の知らない場所で、世界を守る為に戦って、満開して、ボロボロになって……! その果てに、大切な思い出や、繋がりまで消されて……! そんな勇者が、こうして私達の前にいる……! そして今度は、その勇者を含めた、ここにいる全員が、犠牲にされたんだぁ!」

 

刹那、風は見たこともないほどに俊敏な動きで、侵攻を妨害してくる者達を薙ぎ払い始める。

 

「何でこんな目に遭わなきゃいけない⁉︎」

 

園子の突きを回避し、回し蹴りで吹き飛ばし、昴の張ったバリアを正面から強引にねじ伏せて吹き飛ばす。

 

「何でまた生贄を作らなきゃいけない⁉︎」

 

巧と銀の同時攻撃を防ぎ、カウンターとばかりに押し倒す。

 

「何で樹が声を失わないといけない⁉︎」

 

銃撃を繰り出す真琴との距離を詰めて、タックルで吹き飛ばし、後方にいた東郷と遊月を巻き込む。

 

「夢を諦めなきゃいけない⁉︎」

 

振り下ろされた大剣を、2本の刀で受け止める夏凜の腕は震えている。そして遂には勢いに押されて、刀が手元から弾かれて、尻餅をついてしまう。

そして、夏凜は見た。お節介過ぎて疎ましく思いながらも、一人ひとりと真剣に向き合って、皆を引っ張っていってくれて、心を許せるようになった相手である部長が、最愛の妹が受けた苦しみを代弁するかのように、そして大赦からの命令で創り上げた部活動に快く入ってくれた部員達に重荷を背負わせてしまった事に対する自身への怒りを表すかのように、その瞳から透明な液体を流し、これまでに見たこともないような、歪んだ形相で自分を見下ろす、その姿を。

 

「世界を救った代償が……! これかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

その、殺気にも似た気迫を目の当たりにして、夏凜は初めて風に対して畏怖を覚えた。辛うじて目は閉じられたが、大剣が振り下ろされるが咄嗟のことで足が動かない。背中越しに真琴が何か叫んでいるが、それすら耳に届かない。

……が、いつまで経っても、衝撃が襲ってこない。恐るおそる目を開けると、ピンクと白の光が夏凜を守っていた。正確には、牛鬼と因幡の主人が、風と夏凜の間に割り込む形で攻撃を防いでいた。

 

「友奈⁉︎ 兎角⁉︎」

「どきなさい!」

「嫌です!」

「どきなさいって言ってるのよ!」

「だからって素直に引き下がれるか!」

「風先輩が人を傷つける姿なんて、見たくありません!」

「こんな事が許せるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

尚も重い一撃を与える風だが、兎角もレイピアで直撃を避けて、足の力だけで踏ん張っている。

 

「分かってます……! 風先輩の気持ちが分からない程、俺達だって……!」

「だったら!」

 

続けざまに連撃を試みる風だが、友奈は両腕を曲げてガードの体勢に入り、その攻撃をバリアで受け止めた。

 

「でも! もし後遺症の事を知らされてても、結局私達は、戦っていた筈です!」

「……!」

「友奈の、言う通りだ……! もし、それしか世界を守る方法がないのならば、選択肢が初めからないのなら……! 俺達は迷う事なく、その一本道を突き進んでいた! 悪者なんて、この場には誰1人としていないんだ!」

「だから、これ以上風先輩が自分を責める必要なんて!」

「それでも!」

 

友奈の説得を上塗りするかのように、風の叫びが辺りに響く。

 

「それでも……! 藤四郎を通じて知らされていたら……! 私はみんなを、巻き込んだりは、しなかった! 知ってたら……! 分かってたら……!」

 

大剣の面に涙が一滴当たると、再び猛攻が2人に襲いかかる。バリアで防御する度に、満開ゲージが溜まっていくのが、後方にいる東郷達からも確認できた。

 

「そしたら……! 少なくとも、みんなは……! 樹は……! 無事だったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

さらに勢いをつけて突進する風。本気で倒しにかかっている。そう肌で感じ取った2人は身構える。このままゲージを溜めた後、満開を行使して、風を止めようと言うのか。

 

「友奈ちゃん逃げてぇ!」

「兎角! よせぇ!」

 

後方にいる面々がそれに気づいて止めようとするが、3人が激突する方が遥かに早い。

……が、実際には、そうはならなかった。

 

「「!」」

「なっ……」

 

3人の間に割って入る、一つの影があった。風の大剣を大鎌で受け止め、友奈の拳と兎角のレイピアによる突きを、精霊バリアで受け止める、武神の姿がそこにあった。

 

「藤四郎先輩……!」

「悪いが、ここからは俺のステージだ」

 

そう呟いて、大剣をいなす藤四郎。当然、風は困惑を隠せない。

 

「なん、で……! 何で、あんたがそっち側にいるのよ! あんただって、大赦に騙された1人でしょ⁉︎ ましてや讃州市の代表だったあんたが、この状況で、何で怒らないの⁉︎ あんたの弟分だって巻き込まれたのに……! 大切な友達を失ったのに……! どうして……!」

「巻き込まれた……か。そいつは違うな、風」

「なっ……⁉︎」

 

冷静にそう言い返す藤四郎に、驚きを隠せない風。一瞬呆けたが、すぐに目つきを鋭くさせて、藤四郎に襲いかかる。対する藤四郎も素早い動きで対処していく。

 

「何が……違うって言うのよ⁉︎」

「冬也は……いや、俺達は皆、自分の意思でこの戦場に足を踏み入れた。危険だと分かっていても、大切なものを守る為に、俺達は戦う事を選んだ。キッカケは半ば強制的に与えられたが、その後にどの道を選ぶかは個人の自由だった。事実、東郷も最初は戦う事を恐れ、関われなかった。それでもあいつは、遊月と共に、戦う道を選んだ。それを『巻き込んだ』とは言わないだろ?」

「っ! それは……」

「冷静になって、もう一度自分を見つめ直せ! 本当は分かっているはずだ。こんな事をしても変わらない事を! 自分がこれからするべき事が、本当は何なのかを!」

「そんな事、何でも完璧なあんたに言われなくたって……! 私は、自分自身が許せないから……! 全部に決着をつける為に、大赦を……! だから……! 邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

あらん限りの咆哮と共に、一歩下がった風が、勢いをつけて大剣を突きつけながら走ってくる。身の危険を感じる一同だが、藤四郎は逃げなかった。

 

「……まだ、間に合う筈だ」

 

そう呟いた直後、藤四郎も駆け出すと同時に、隣に夜叉が現れ、光に包まれていく。

 

『!』

 

一同が驚く中、光に包まれた藤四郎が頭を突き出し、風の額とぶつかり、後方に吹き飛ばされた。大剣は遠くに吹き飛ばされ、膝をつく風は困惑していたが、煙が晴れると同時に、目を見開く事に。

最初に目に付いたのは、その全体像の変化だった。従来の武神服がより一層神々しくなり、両手に2本の巨大な鎌、そして髪の毛が、鬼のツノを連想させるかのように逆立っており、気迫が桁違いに上がっていた。

 

「まさか、先輩……! 精霊降ろしを……!」

 

経験者である兎角がいち早く、藤四郎の変化の正体に気づく。

その直後、藤四郎の中で何かが胎動し、膝をついて鼻を抑え始めた。見れば、顔を上げた藤四郎の表情はやや苦しく、鼻からは血が数滴、地面にポタポタと落ちているではないか。

 

「……っ。真琴の言う通り、精霊降ろしは、不用意に使うものでは、ないな……」

「藤四郎……! あんた、どうして……!」

「お前を止められるなら、これくらい、どうと言う事はない」

 

そう言って、光が解けると、元の武神服に戻った。兎角の時と違って、精霊を体内に長く維持する事は出来ないようだ。心配する一同の視線を浴びながら、藤四郎は笑みを浮かべ、体を震わせながら、立ち上がろうとする。

 

「結局俺は、風のようにみんなを引っ張っていく力もないし、友奈や、兎角のように、話題の中心になる事もままならない。誇れるような特技もなければ、ここにいるみんなの苦しみを背負い切れるほどの力もない。言うなれば、物語における脇役にしかなれない。……ただ、この瞬間だけでもいい……!」

 

そうして真っ直ぐと、道を迷いかけている同級生にその眼差しを向けて、ハッキリとした口調でこう告げる。

 

「俺はお前に、これからも、救いの手を、差し伸べる。それが、俺にとっての勇者だ」

 

血を流しながらも、ゆっくりと前に進む藤四郎。その堂々たる姿勢に思わず下がってしまう風だが、藤四郎の進むスピードの方が早い。

 

「お前を見ていると……、かつての俺を見ているみたいだ。あの頃の俺も、自分1人だけが背負う事で、事が全て上手く運ぶものだと思っていた。他人を巻き込まない。それが最善の選択だと、自分に言い聞かせてきた」

 

だが、それは違った。藤四郎は確信めいたように呟く。

 

「2年前、竜一を失い、闇を抱え込もうとしていた俺を引きずり出してくれたのが、冬也だった。……その時気付いたのさ。俺が本当にするべき事は、他人を信じ、自分に出来る事と出来ない事を理解した上で、互いに手を取り合い、前に進む事だと言う事を。誰よりも周りで寄り添う者を子供扱いし、守るべき対象としてしか見ていなかった事が、間違いだと気づいたんだ。冬也となら乗り越えられると信じていたから、俺は道を間違えずにここまで来れたんだ」

「道を……」

「風。お前は俺を完璧だと言っていたが、それは買い被りだ。何であれ、完璧なんてものは、1つも存在しない。だからこそ、補うものが引き寄せられていって、側で対を成して、そうやって少しずつ良い方向に流れていく。それこそが、『繋がり』なんだ。俺に出来ない事が、冬也や風、そしてみんなには出来る。この2年間で、その事を学べたのは、風、お前と共に設立した、この『勇者部』があったからなんだぞ」

「……」

 

再び、大粒の涙が地面に染み込む。既に張り詰めた空気が霞んでいる。そうしている間にも、藤四郎は着実に風との距離を詰めている。

 

「……本当なら、お前とも、ちゃんと目線を合わせて、向き合っていれば、お前を泣かせずに済んだかもしれない。過去に失敗した俺が今さら説いた所で、お前は変わらないだろうな」

「あ……アァ……!」

「だから、今度こそ、お前に伝えたい」

 

そして。

目の前に立った藤四郎が膝を曲げて、その目線を、彼女に合わせる。

 

「お前はまだ、大赦を恨んでいるだろ? みんなを困らせてしまった自分が許せないだろ? ……今は、それでもいい」

「⁉︎」

「その時は……、お前が道を間違えようとしているなら、俺はお前を止める。それが嫌なら、俺をずっと憎めばいい」

「と……し、ろ……」

「それでも俺は、お前を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ずっと、愛し続けるからな。〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈みかけた夕日をバックに、少女は抵抗する間もなく、少年は躊躇う事なく、その唇は音を立てずに、重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『⁉︎』

 

突然の事に、驚きを隠せない面々。園子ですら、囃し立てる事なく、その場の成り行きを見守っている。夏凜と真琴は当然の事ながら、顔を真っ赤に染めている。

そして当事者である風は、ずっと目を見開き、ただジッと、目を閉じている藤四郎を真正面から見つめていた。

おおよそ数秒間の出来事だったが、一同にはそれが何時間も長く続いたように感じていた。唇が離れ、一本の筋が口から地面に滴り落ちた。

しばらく呆然としていた風だったが、突然、背中に抱きしめられる感触が伝わった。

 

「樹……」

 

振り向いた先に見えた少女の両目は、悲しげではあったが、腫れていなかった。その向こうには、冬也の姿もあった。影で、自分達の会話を耳にしていたのだろう。そう気付いた時、風は地面に座り込み、両手を地面につけた。既に戦意は喪失しているようだ。再び、しゃっくりと同時に嗚咽が響き渡る。

 

「……っ。うっ……。ゴメン……。ゴメン、みんな……!」

 

すると、スッと横手から樹がスマホの画面を見せてきた。スケッチブックが手元にない為、端末で心情を伝えようとしているのだ。

 

『私達の戦いは終わったの。もうこれ以上、失うことはないから』

 

「……でも。でも……! 私が、勇者部なんて、作らなければ……!」

 

尚も後悔の念に駆られる風に対し、樹は首を横に振る。

すると、スマホを仕舞った代わりに、あるメモ用紙を広げて、風に見せた。風のみならず、その用紙は、この場にいる全員に見覚えがあるものだった。

 

 

『テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう!』

『自分に正直になれよ』

『周りの人はみんなカボチャ』

『成せば大抵何とかなる!』

『勇者は根性!』

『頑張れ』

『いっつんの歌は癒しのリズム〜!』

『気合よ』

『人前で緊張する気持ちは僕にも分かります! そんな自分を受け入れて、前に進みましょう!』

『仲間を忘れるな』

『ファイト一発!』

『周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから!』

 

 

それは、樹が歌のテストにおいて、勇気の源となった、皆からの寄せ書き。

そしてそれは、将来の夢へと大きく前へ、一歩踏み出すキッカケを作ってくれた、大切な宝物。

何故この寄せ書きを、この場で見せたのか。その理由は、樹が懐からペンを取り出して、何かを書き足した事にあった。友奈達も気になって、風の周りに集まり始める。

書き終えた所で、樹は寄せ書きを風に手渡して見せた。皆も覗き込む。

 

「樹……」

 

声を震わせながら、今一度妹に顔を向ける。その表情は力強く、凛々しさを感じさせた。そして再び、寄せ書きに目を向ける。空欄があった箇所に、樹の文字でこう書かれていた。

 

『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当によかったよ』(by樹)

 

「樹の言う通りッスよ! おいらも、みんなと一緒に頑張れて、幸せッスよ!」

「そうですよ風先輩! 私も同じ気持ちです。だから、勇者部を作らなければなんて、言わないでください」

「私も、同じ心情です……!」

 

冬也、友奈に続いて、東郷を初めとした、先代勇者達も、次々と風に声をかける。

 

「2年前、離れ離れになった俺達が、こうしてまた巡り会えたのは、間違いなく、勇者部を作ってくれた、風先輩のお陰です。感謝しても仕切れませんよ」

「色々あったけどさ! あたしらの為に頑張ってくれてる姿、結構憧れてるんだ! だからもう、こっからは全部1人で抱え込むのはナシな!」

「銀がそれを言うか……? まぁ、ここにいる俺達は何一つ恨んじゃいない。それだけは分かってくれると幸いだな」

「ふーみん先輩、私達、これからもず〜っと、ズッ友だからね〜」

「みんなで力を合わせれば、これから先も、きっと大丈夫ですよ!」

 

各々のエールを受け、全身が震えだす風。そんな彼女を、目の前の武神はその背中に手をやり、優しく包み込むように、自分の体に寄せる。

 

「辛い時は、溜め込むよりも、全部出した方が良い時もある。だから今は、自分に正直になって、全部さらけ出してみればいい。今度はみんなで、その辛さを強さに変えていけば、それで充分だ」

 

その言葉が引き金となったのか、再び嗚咽が大きくなり、寄せ書きを握る手に力が入る。それを見て、藤四郎が正面から、胸元に彼女の顔を埋めるように抱きしめるのに対し、樹と冬也が両端から、その2人を包み込む。

 

「……う……! ぅあ、うっ……! うぁ……あ! うっ……! ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

溢れ出る感情が、声となり涙となり、瀬戸大橋記念公園の一角に響き渡る。その間、藤四郎は元より、樹も冬也も、涙を流す事なく、時折頷きながら、その震える体を抱きしめ続けた。周りにいた兎角達も、何も語る事なく、ただジッと、その光景を目に焼き付け続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……余談だが、その日の夜、風が見た夢は、部室でマイクを片手に、部員達の前で心底楽しそうに『祈りの歌』を歌い上げる、妹の生き生きとした様子だったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、夕日は地平線に沈み、街灯が灯り始める時間帯だった。ようやく嗚咽も治まりつつあり、落ち着きを取り戻し始める風の姿があった。

 

「……ゴメンね、みんな。迷惑、かけちゃって……。みんなの事を考えると、自分でも、歯止めがきかなくて……」

「風。ゴメンはナシって約束だったでしょ」

「そ、そうね。ありがとう、夏凜」

「わ、私は別にお礼を言われるほどの事なんて……!」

 

プイッとそっぽを向く夏凜。その様子に苦笑しつつも、表情を険しくする風。

 

「……みんな、ありがとう。でも私、やっぱり大赦の事を、簡単には許せない……! みんなを騙していた事実は変わらない……! それだけは、譲れない……!」

 

拳を固める風に寄り添うように、その腕に抱きつく樹。

 

「遊月君。これから、どうするの……?」

「……」

 

その傍らで、東郷と遊月が、今後の事について話し合う。目をうっすらと閉じて、考え込んだ後、意を決したように、彼は自分の考えを皆に聞こえるように告げた。

 

「……全てを知る人達に、会いに行こう」

「?」

「全てって、どういう……」

「俺達は、あまりにもこの世界の仕組みについて、何も知らなさすぎる。だから、必要な情報を得て、そして知るべきなんだ。俺達には、その全てを知る必要があるんだ」

 

そう言って、懐から紙を取り出した。とある人物の電話番号が書かれたメモ用紙だ。それを見て、巧はハッとなる。

 

「! まさか……」

「あぁ。あの人は俺達の味方でいてくれるって、約束したからな」

 

そして。

瀬戸大橋から、遠くに見える街の明かりに目線を移して、決意を込めて口にする。

 

「行こう。俺達にとって始まりの場所となった、神樹館小学校へ……!」

 

 




いかがでしたでしょうか?

今作では風先輩にも、季節外れの春が訪れました。皆さん、暖かく見守ってあげてくださいね。

さて、次回からは段々と謎が解き明かされていきます。そして久々にあの人物達が……?


〜次回予告〜


「ここが神樹館小学校……」

「何でここにいんのよ⁉︎」

「君に、会わせたい者達がいる」

「どうして私達が、こんな……!」

「せ、責任取りなさいよね……」

「ノアの箱船……」

「多分、だけどな……」


〜始まりの地と再会と明かされる真実〜


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。