結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

いよいよ残酷な真実が、一部ではありますが明らかとなります。なお、今作では友奈や東郷だけでなく、勇者部員全員がその場で真実を知る形となります。


27:供物 〜満開から散華へ〜

 

「俺は『源道』。かつて、神樹館小学校で体育教諭を勤め、同時に、君達6人のサポートを担当していた者だ」

 

延長戦と称されたお役目を終えた直後に、友奈達の前に姿を現した、1人の屈強な男性。大赦の関係者だと明かしてくれたが、それ以上に彼らが気になったのは、初対面であるはずの遊月、東郷、巧、銀、昴、園子の6人と、面識があるような口ぶりであった事。加えて6人が2年前以前の記憶を失っている事に関与しているとあっては、到底無視できる話ではない。

 

「源道、先生……?」

「讃州中学では聞いた事のない名だな……。となると、やはり外部の……」

「あの……。神樹館小学校って何ですか? どうして神樹様の名前が学校名に?」

「き、聞いた事あります。大赦の上層部に属する一族か、神樹様からお役目を授かった子供だけが通う事のできる小学校があるって……。僕も夏凜ちゃんも、そこへは遠くて通ってはいませんでしたけど……」

「それにその口ぶりからして、遊月達は昔、神樹館小学校に通ってたって事ですか?」

 

兎角の質問に対し、無言で頷く源道。その事実を知って驚いたのは他でもない、6人の当事者達だった。

初めて会った時から、違和感はあった。しかしそれが、失われた記憶とここまで関与していたなどとは、想像出来なかったのだ。

 

「……失礼だが、君達の名前も教えてくれないだろうか。素性が分からないままでは、話が進まないかもしれないからな」

 

源道の頼みを聞き、真っ先に答えたのは友奈だった。

 

「あ、はい! さ、讃州中学2年、結城 友奈です!」

「友奈とは幼馴染みの、久利生 兎角です」

「日村 冬弥ッス!」

「浜田 藤四郎だ。知ってるかもしれないが、この地区の代表を担当している。それから補佐役の……」

「犬吠埼 風です。こっちが妹の樹」

『よろしくです』

「三好 夏凜よ」

「い、一ノ瀬 真琴です!」

 

友奈から順に、兎角、冬弥、藤四郎、風、樹、夏凜、真琴が自己紹介を始め、最後に話題の中心になるであろう6人が自己紹介をする。

 

「東郷 美森、です」

「乃木さん家の園子で〜す」

「三ノ輪 銀です!」

「大谷 巧だ」

「神奈月 昴と申します」

「……俺は、小川 遊月です」

 

遊月ら6人の紹介の際、神妙な顔つきになる源道だが、すぐに気を取り直し、1人ひとりの名をしっかり覚える。

 

「それで、その……。あなたは、僕達が記憶の一部を失くしている事について、何かご存知なのですか?」

「……あぁ、知っている」

『!』

「だがその事を語る前に、話しておかなければならない事もある。それを踏まえた上で、君達に関わる話もさせてもらう」

 

そうして、夕陽が地平線に沈もうとする中、源道の口から重大な事項が語られようとするが、その前に、こんな質問が。

 

「その前に、確認しておきたい事がある。君達は、システムの切り札である『満開』を行使した事は?」

「! はい、しました!」

「うんうん。わーって咲いて、わーって強くなるやつをね〜」

「俺も、だ」

「私以外の全員は、使っているわ……」

 

夏凜が少し沈んだ口調で、自分以外の面々が満開を行使した事を伝えた。そうか、と一言呟き、一度目を閉じた源道は、覚悟を決めたような顔つきを兎角達に見せた。

 

「咲き誇った花は、その後どうなると思うかね?」

「へっ? 何スか急に?」

「どうなるって……。種を遺して枯れるぐらいしか思いつかないが……」

 

源道からの問いに困惑する面々だが、その意図は次の言葉で明らかとなった。

 

「これから話す事は、アプリの説明テキストには記されていないものだ。満開を行使した後、使用者に対して『散華』と呼ばれる、隠された機能が自動的に発動するように組み込まれているのだよ」

「散、華……」

「花(華)が、散るって事か」

「それ以外ですと、若くして戦死する事を遠回しにそう呼びますよね……」

「けど、それがあたしらと何の関係が……」

 

銀が首を傾げながらそう呟いた直後、隣にいた園子がハッとなって、口元に手を当てる。

 

「やっぱり、そうだったんだ〜……」

「園子?」

「察しが良いな、園子君。君の想像通りだ。満開を行使した後、君達は体のどこかが、今なお不自由になっている筈だ」

 

これを聞いた一同の、夏凜以外の面々は思わず、あの決戦以降、機能が停止したままの体の一部に意識を集中させた。感覚は、ない。

 

「それこそが、散華と呼ばれるシステムであり、神の力をふるった、いわば満開の代償……。花が1つ咲けば、1つ散り、2つ咲けば、2つ散る……」

「そんな、バカな……⁉︎」

「そしてその対価として、勇者も武神も、決して死ぬ事はなくなる」

「し、死なないって……?」

「で、でも死なないなら、それってとても良い事なんじゃないのかな……。ね?」

『……』

 

暗い気分を紛らわせようと、わざと声を高くして皆に問いかける友奈だったが、兎角を初め、皆の表情は優れない。冷たい秋風が、その場にいた面々の肌を撫でる。

 

「何、でよ……。どうして、あたし達が……⁉︎」

 

そう叫ぶ風の右腕は、誰の目から見ても分かるように、震えている。声の出ない樹は、姉の左手をギュッと握った。

やがて現道は、ポツポツとこう語り始める。

 

「いつの時代も、神に見染められ供物となるのは、無垢なる少年少女達だった……。穢れなき身だからこそ、己の器をより大きくする可能性を秘めているからこそ、大いなる力を宿し、戦う術を持つ事が出来る。……その代償として、体の一部を神樹様に、供物として捧げていく事で、な」

「供物……!」

「それが、勇者システムと、その上位互換である武神システムの全貌だと言うのか……!」

「私達が、供物……」

 

突きつけられた事実を前に、憤る余裕すら、彼らにはない。

 

「俺達大人は、神樹様の力を宿す事は出来ない。故に、君達のような子供に託す事しか出来なかった……。我ながら、情けない話だと痛感している……」

 

その表情からは、友奈達への哀れみなど微塵もなく、自分が代わってやれない事へのやるせなさが滲み出ている。

 

「それじゃあ、私達はこれから、体の機能を失い続けて……!」

 

車椅子に乗って体を震わせる東郷。そんな彼女を気遣うように、友奈がその右手に触れる。

 

「でも、12体のバーテックスは倒したんだから、もう戦わなくても良い筈だよ! だから大丈夫だよ東郷さん!」

 

友奈の言うように、全てのバーテックスを倒した以上、満開を行使する必要もない。つまりは散華も起こらず、これ以上機能が失われる事もなくなるのだ。他の何人かも、その言葉を受けて沈みかけた気持ちを奮い立たせたようだ。

 

「……だと、良いんだがな」

「えっ……?」

 

海の向こうに見える壁に目をやる源道の口調に、疑問を浮かべる真琴だが、すぐに話は切り替わってしまう。

 

「ともあれ、大きな怪我もなく倒したのは、大きな成果なのかもしれない。2年前のあの頃、俺が担当をしていた時は、戦いの度に傷が増えるのは当たり前。酷い時には、命に関わる程の大怪我も目の当たりにした。それがキッカケとなってこのシステムが本格的に導入されたのも、事実だがな……」

 

2年前。

再びそのワードで出てきたのを皮切りに、今度は遊月ら6人から質問をする事に。

 

「……源道先生。あなたはさっき、2年前まで神樹館小学校の体育教諭を勤める傍ら、僕達のサポート役を担っていたと言ってましたよね? それってつまり、僕達は神樹館小学校の生徒であると同時に、……勇者や武神として、以前からバーテックスと戦っていた事がある。そうなんですか?」

「! まさか……!」

 

昴の問いかけに目を見開く藤四郎。源道の反応に注目が集まる中、源道はキッパリと言い切った。

 

「……そうだ。君達6人は、かつて神樹様の神託によって選ばれ、勇者や武神として、バーテックスと戦ってきた。そして俺は、当時小学生だった君達を陰からサポートし、特に武神の監督役として動いていたんだ」

「それって、まさか……!」

「銀達は、私や真琴が選ばれるよりも、ずっと前の……!」

「いわば先代勇者、という事なのか……⁉︎」

 

2年ほど前からの記憶を失くしているという、奇妙な共通点から繋がった、遊月、東郷、巧、銀、昴、園子が先代勇者であったという事実。

半年ほど前、4月半ばに突如として樹海に取り込まれ、未知なる敵と戦い、人々の平和を守る為に決意を固めたあの時に、初めて皆と一緒に勇者や武神の力を宿したとばかり思っていた。それでも違和感なく武器を使いこなせている事や、体が自然に動く事に疑問を感じていた事もあったが、その疑問がたった今、解消された。

体が戦い慣れていたのも、記憶を失った頃に戦っていた時の感覚が、染み込んでいたからだ。

顔を初めて合わせた頃も、心の隅で言いようのないものが引っかかっていた事も、今なら理解できる。彼らの出会いは、讃州中学に通うずっと前に、築かれていたのだ。

そして、そこまで判明したからこそ、湧き上がる疑問も出てくる。

 

「……ここにいる俺達は、共通して記憶をなくしています。他にも個人差はありますが、満開を行使する以前から何らかの障害を患っていました。医者からは全員、事故の影響によるものだと伝えられてきましたが……。それも全部、嘘なんじゃないですか? 本当は……」

「……今のシステムが導入されたのは、2年前の最終決戦。残っていた全てのバーテックスが総じて侵攻した際、そのような事態に対応するべく、実装されたものだ」

「それじゃあ、俺達は……!」

 

珍しく狼狽する巧。続けて東郷も足元に目をやりながら口を開く。

 

「満開を使った結果、散華によって、私の記憶や両足の機能を、供物として、捧げられた……! 遊月君達も同様に……!」

「そんな……!」

「なんてこった……!」

 

愕然としたのは、遊月達だけではなかった。

全ては、偶然の積み重ねなどではなかった。人知れず人類の敵と戦い、そしてその結果、かつての戦友であった頃の記憶を失くし、2年の時を経て、この讃州中学勇者部において、運命的な再会を果たした。

その真実を噛み締めると同時に、ある結論に至ってしまったのもまた事実。

 

「……もう一つだけ、聞かせてください」

「……うむ」

「散華によって失った部分は、ずっと、このままなんですか……? ここにいるみんな、治る可能性は……」

 

再び源道に注目が集まる。対する彼は俯いたまま、ギュッと拳を握りしめていた。その姿勢が何を意味しているのか、一同は理解できてしまう事への恐怖を味わった。

 

「こんなのってアリかよ……」

 

普段は勝ち気な性格の銀も、呆然と呟くばかり。

と、その時。足音が聞こえてきたかと思えば、屋上の扉が開かれ、人影が乱入してきた。白い仮面を付け、斎服を纏った、男か女か分からない容姿だったが、一般人でない事は確かだ。それが複数人、友奈達を取り囲むように、迅速に立ちはだかった。

 

「な、何スか⁉︎」

「これって、大赦の人達……⁉︎」

「まさか、口封じのつもりじゃ……!」

 

夏凜の一言で、警戒を強めた武神達が、一歩前に出る。ピリピリした緊張感が屋上に張り詰める。

 

「この子達に手を出すな! 手を出せばどうなるか、分かっているな!」

 

不意に源道の一喝が響き渡り、振り返って足腰に力を入れる仕草を見た大赦の人間達は、一歩下がった後に、源道に向かってひれ伏した。ようやく鎮静化したのを見て、ため息をつく源道。

 

「2年前の戦い以降、俺は何度も君達に会おうと交渉したが、全て反故されてな。戦いが終わり、サポート役としてのお役目を果たし終えた俺は、そのまま大赦に隔離された。全ては俺が真実を外に生きる皆に語らせないようにする為なのだろう。そうして2年近く経ち、ようやく隙を見て外に出て、こうして君達に会いに来たのさ」

 

今なお大赦の人間達がひれ伏しているのも、戦いが終わって地位が向上した事と関係があるのだろう、と源道は語る。そう語る本人は不服そうな顔をしていたが……。

 

「心配はいらない。君達に手出しするようなら、俺が力ずくで止めてやる。それが、君達に真実をひた隠しにして、戦わせてしまった……、せめてもの、償いだ……!」

 

謝罪するようにそう語る源道。

そんな彼の姿を見て、納得のいかない表情を浮かべたのは、この地区を代表して勇者部を創設し、大赦の命令で友奈達を勧誘した、この少年だった。

 

「こんな事で、俺達が納得できると、思っているのか……! 俺個人の問題ならまだしも、どうしてこいつらまで巻き込まれなきゃならないんだ……!」

「仕方、ないですよ……」

「真琴……⁉︎」

「この世界は、神樹様無しでは成り立ちませんから……。加護を受け続ける為には、その神樹様に選ばれた僕達が、神託通りに何とかするしか、ないんですよ。大赦の皆さんも、それを分かっていて……」

「私も、真琴と同じね。大赦から派遣された側だから、何となく理解しちゃうのよ……」

「そんな事は俺にだって分かっている……! でも、だからって……!」

「……大赦がこの事をひた隠しにしてきた理由、今ならちょっとだけ、分かっちゃうんだ〜」

「園子⁉︎」

 

ここで口を開いたのは、大赦に不信感を抱いていたはずの園子だった。思えば、源道が話している間、介入する事なく、珍しく黙り込んでいた。それがここに来て、自分の意見としてまとまったようだ。

 

「大赦の人達がこのシステムを隠すのは、1つの思いやりでもあるんだよね〜。『知らぬが仏』ってやつだよ〜。そうすれば、わーって咲いて、わーって戦えて、敵をやっつける事に躊躇いもなくなるし、神樹様だって、体を供物とする事で守る事も出来るんだから〜……」

 

……でもね〜。

不意に園子の雰囲気が変わったように感じた昴。

 

「でも、私はそういうの、ちゃんと、言って欲しかったかな〜……」

 

そうして東郷、銀、遊月、巧、そして昴の順に顔を見て、それから源道に向き直る。

 

「分かってたら、きっと、友達ともっともっと、たくさん遊んで……。一生の思い出を、いつでも思い返すぐらいにたくさん作って……。そしたら、危険だって分かってても、もっともっと、頑張れたんじゃないかな〜……」

「!」

 

不意に涙声になったのを聞いた昴が、彼女をそっと抱きしめる。

 

「先生も、その辛さが分かってたから……! だから、伝えたかったんだよね〜……! 大赦にダメだって言われても、私達の事を大切に想ってたから、幸せを願ってたから、覚悟を決めて、ここに来たんだよね……! 今は覚えてないけど、きっと私、すばるん達と一緒にいた時間を、充実してたんだよね〜……!」

「園子君……」

 

久方ぶりに見た、涙ながらに心中を吐露する園子を見て、源道は唇を噛み締めた。そして両膝を地面に付け、そのまま両手も同じように地面につけた。

 

「こんな事で赦されるはずがない事は、俺が1番よく分かっている……! 事情はどうであれ、君達に最後まで真実を伝えられなかったのは、大人である俺達の不甲斐なさが招いた結果だ……! ……あの方が語ったように、俺達は、誰かの命を犠牲にするやり方を今なお続け、人知れず哀しみを作ってしまった……!」

 

そして遂には額を地面に密着させ、悔しさを隠す事なく口に出した。

 

「本当に、すまなかった……! こうなった以上、君達に怒りをぶつけられる覚悟も、殺される覚悟も出来ている……! それが、無力な俺が君達に唯一してやれる事だ……!」

 

高位に立つ源道の土下座を見て、止めようとすると大赦の面々だったが、頭を下げ続ける源道の気迫を前に、前へ出る事が出来ないでいた。

そして友奈達も、源道の行動を前に唖然としており、言葉が出なかった。

 

「先生……」

 

遊月が誰ともなしにそう呟いた、その直後。

 

「ッ! ウゥッ⁉︎」

「遊月、君⁉︎」

 

不意に表情を歪ませた遊月が、片膝をついて、頭を力強く押さえつけ始めた。今までに感じた事のない、激しい頭痛が遊月を締め付ける。

 

「俺、は……!」

「ど、どうしたの遊月君!」

「遊月!」

「アァ……! ア、あぁっ……!」

 

源道が語った内容と、彼の顔が脳裏でぐちゃぐちゃに混ざり合い、それが遊月を苦しませている。あらゆる感情が、頭の中に入り込んでくる感覚がする。汗が滴り落ちて、地面に染みを作る。

 

「……ぁ」

 

約30秒後。呼吸が安定してきた遊月は、顔を上げて、未だに頭を下げ続ける源道に視線を向ける。そしてゆっくりと立ち上がり、源道に足取り重く、歩み寄る。

 

「ゆ、遊月君?」

「お、おいどうした⁉︎」

 

突然近寄った事に戸惑う部員達。その声を背中に受けながら、遊月は源道の左隣に膝をつき、その手に触れた。ゴツゴツした感触が、彼の中で懐かしさを奮い立たせた。

 

「……し、師匠。顔を、上げて、ください」

「⁉︎」

「えっ⁉︎ 師匠⁉︎」

「どういう、事なの……⁉︎」

 

突然、遊月が源道の事を『師匠』と呼んだ事に驚く友奈達。だがそれ以上に驚いたのは、源道だった。

 

「! まさか、記憶が……!」

「まだ、ハッキリとは、しません……。でも、あなたの顔を見てると、少しずつ、分かってきたんです……! 俺にとって、大切な人の一部が、こうして目の前に、会いに来て、くれた事が……! それだけは、分かりました……! でも、ごめんなさい……! 全部思い出そうとしても、頭にモヤがかかって……! 大事な人のはずなのに、全然、思い出せなくて……! ごめんなさい……!」

「晴人……、いや、遊月君……! それ以上自分を責める必要はない……! 君の記憶喪失は、散華によるものではなかった……! それならば仕方のない事なんだ……! これからゆっくりと、思い出してくれれば、それが唯一の救いだ……!」

「師匠……!」

 

上半身を起こした源道が、僅かに記憶を取り戻したであろう遊月の顔を胸元に埋める。足元に水滴が滴り落ちており、遊月の体は震えていた。それを見ていた女子達の目尻に水滴が溜まり始め、男子達も拳を固めている。

 

「思い、出せない……! 私には、先生の事も、遊月君達と過ごしたかもしれない日々も、何も……!」

「東郷、さん……」

 

東郷も涙ながらに、必死に思い出そうとしているが、そのきっかけすら掴めない。その気持ちは、同じく先代勇者として戦ってきた者たちもまた然り。

 

「方法は……! 何とかして、このシステムを変える方法は、無いのかよ⁉︎ こんなの、辛すぎるだけだろ……!」

 

兎角が耐えきれずにそう叫ぶ。が、源道の反応は芳しくなかった。

 

「神樹様の力を宿し、使えるのは勇者と武神だけだ。そして勇者と武神に選ばれるのは、極々一部の少年少女達だけだ。誰もがなりたくてなれるものじゃない。現状、ここにいる君達にしか、扱えない……」

「そんな……」

 

まさに八方塞がりだった。そう言われてしまっては、兎角も黙り込む他ない。

それから5分間、沈黙だけが屋上を支配して、大赦の人達が立ち上がったのを皮切りに、源道も立ち上がる。今回の会合はお開きとなるようだ。

 

「いつでも待っているぞ」

「えっ……」

「心配するな。こうして会った以上、大赦側も君達の存在をあやふやにはしないだろうさ。それにまだ、会わせたい人も、話したい事もあるからな。その気になったら、ここに連絡してくれ」

 

そう言って源道が渡したのは、一枚の紙切れだった。数字が並んでおり、源道の連絡先を示しているようだ。

 

「最後にこれだけは覚えておいてほしい。少なくとも俺は、これからも君達の味方であり続ける。困った時は、いつでも相談してくれたまえ。それが、大人の責務ってやつだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

源道が大赦の人間達に囲まれながら、屋上を立ち去ってからも、しばらくの間、勇者部の面々は部室に戻る事なく、その場に立ち尽くしていた。下の方からは、部活帰りの生徒達の声で賑わっているが、気に留める素振りもない。突如として告げられた真実を前に、気持ちの整理がついていないようだ。

 

「樹……」

 

不安げな表情の樹を慰めようと、しっかり抱きつく風。

 

「……」

 

一方で、誰よりも不安な表情を見せる東郷。そんな彼女を見ていられないのか、深く深呼吸した後、彼女をそっと抱きしめる者がいた。

 

「ゆ、友奈ちゃん?」

「勇者部五箇条! なるべく諦めない!」

 

その言葉を聞いて、皆の注目が友奈に集まる。東郷が再び涙を浮かべ、友奈に抱きついた。

 

「……大丈夫だよ、東郷さん! 私達はずっと、一緒にいるから……!」

「……そうだな。こんな所で諦めてたまるか……! まだ解決策がなくなったわけじゃないしな!」

「あぁ。何とかする方法を、見つけるんだ! 俺達の手で……!」

「遊月君、みんな……!」

 

兎角や遊月に触発される形で、周りにいた藤四郎達も、完全とまではいかないが、前を向き始める。

必ず、元に戻る方法を見つけだす。活路こそ見えてこないが、勇者である自覚を胸に、前へ踏み出す。

されど、彼らの心中は、今の空模様の如く、拭えぬ不安に塗り潰されようとしていた……。

 

 

 




そういえば皆さん、『ゆゆゆい』と『リリフレ』のコラボはいかがでしたか?
ガチャの方は、『リリフレ』では勇者部員は、引き換えで貰える友奈以外手に入れられませんでしたが、『ゆゆゆい』では何とかツキカゲの全メンバーを揃える事が出来ました。


〜次回予告〜


「うどんと女子力は万病に効きますからね!」

「ちょっと危ない感じかも〜……?」

「これからどうなるんスかね……?」

「何も悪い事なんて、してないじゃない……」

「信じられるわけないでしょ!」

「俺は、どうすればいいんだ……?」


〜降り積もる不安〜


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